「嘘も百回言えば本当になる」と言ったのは誰なのか?
※注意 今回の記事にオチはありません。
ネット上でよく﹁嘘も百回言えば本当になる﹂という慣用句を目にします。 これはしばしばナチスの宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルスの言葉として伝えられています。﹁宣伝の天才﹂ことゲッベルスの言葉とすると説得力がありますね。 ところが、これについて調べていて、こんなページを発見しました。
ネット上でよく﹁嘘も百回言えば本当になる﹂という慣用句を目にします。 これはしばしばナチスの宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルスの言葉として伝えられています。﹁宣伝の天才﹂ことゲッベルスの言葉とすると説得力がありますね。 ところが、これについて調べていて、こんなページを発見しました。
﹃ゲッベルスは﹁嘘も100回言えば本当になる﹂と言った﹄というのは嘘と言うべきだ。この引用自体が﹁100回﹂の繰り返しで信じられるようになった﹁嘘﹂だった。何とも皮肉なことだ。
というわけで、嘘なんだそうです。
この方によれば、これが元ネタだとか。 ︻ドイツ語︼︵オリジナル︶ Wenn man eine große Lüge erzählt und sie oft genug wiederholt, dann werden die Leute sie am Ende glauben. Man kann die Lüge so lange behaupten, wie es dem Staat gelingt, die Menschen von den politischen, wirtschaftlichen und militärischen Konsequenzen der Lüge abzuschirmen. Deshalb ist es von lebenswichtiger Bedeutung für den Staat, seine gesamte Macht für die Unterdrückung abweichender Meinungen einzusetzen. Die Wahrheit ist der Todfeind der Lüge, und daher ist die Wahrheit der größte Feind des Staates.
︻英訳︼︵Google翻訳︶ If you tell a lie big enough and repeated often, then people will believe it at the end. You can claim a lie as long as it manages the state to shield people from the political, economic and military consequences of the lie. It is therefore of vital importance to use for the state, its entire power for the suppression of dissent. The truth is the mortal enemy of the lie, and therefore the truth is the greatest enemy of the state.
︻和訳︼︵英文からの中村訳︶ もしあなたが十分に大きな嘘を頻繁に繰り返せば、人々は最後にはその嘘を信じるだろう。嘘によって生じる政治的、経済的、軍事的な結果から人々を保護する国家を維持している限り、あなたは嘘を使える。よって、国家のために全ての力を反対意見の抑圧に用いることは極めて重要だ。真実は嘘の不倶戴天の敵であり、したがって、真実は国家の最大の敵だ。
しかし、この記事を書いた方も、﹁100回﹂という言葉をいつ・誰が・どこで最初に用いたのかについては不明としています。
というわけで、続きを調べて記事にしようと思ったら色々複雑なことがわかり、上記の﹁元ネタ﹂についても怪しくなってきてよくわかなんなくなった、というのが今回の内容です。
さて、まずは﹁嘘も百回~﹂の元ネタ探しです。 実は、この言葉はネット以前から様々な場所で使われていた有名なもので、用例は20世紀に遡ることができます。 ナチスのゲッペルスではないが、﹁ウソも百回いえばほんとうになる﹂のだ。かれらがくり返したれ流す﹁従軍慰安婦の強制連行はなかった。
(むすぶ: 自治・ひと・くらし, 第 28 巻、第 1~12 号 66ページ 1997年)
情報相のゲッペルスが「嘘も百べんつけば真実になる」とうそぶき、人を偽瞞、愚弄しつくし、実際その戦略・戦術は一時的に成功をおさめるものの
(三越物語: 劇的百貨店その危機と再生 93ページ 1988年)
まさにナチス宣伝相ゲッペルスが豪語した﹁ウソも百回くり返せば本当になる。これは事実だ。しかし、より重要なことは、このウソをさらに千回くり返せば、大衆は、もうそれがウソでも本当でもどちらでもよくなる﹂という宣伝理論を地でいったキャンペーンだといえる。
(月刊総評, 第 1~6 号 71ページ 1977年)
﹃月間総評﹄で引用されているバージョンに色々なものが付け足されているのが気になります。そう、﹁嘘も百回~﹂も御多分に漏れず様々なバージョン違いが存在するのです。(ちなみにどうでもいいですが、ゲッペルスではなく、ゲッベルスです。)
﹃総評﹄と同じパターン。
ナチス宣伝相のゲッペルスは、﹁ウソを百回くり返せば本当になる。これは事実だ。しかし、より重要なことは、このウソをさらに千回くり返せば、大衆はもう、それがウソても本当でも、どちらでもよくなる﹂と豪語しています。
(部落解放, 第 105~112 号 120ページ 1977年)
「1000回」バージョン。
ナチのゲッベルスの「ウソも一〇〇〇回言えば本当になる」と同じ役割を今のマスコミの状況が作っている。
(本多勝一集, 第 24 巻 130ページ 1998年)
発言者が異なる文献もあります。独裁者ヒトラーはかつて「ウソも百回言うと本当になる」といった。現代のファシスト朴正熙もヒトラーのこの"訓示"から学ぶべき点が多いと見える。
(月刊朝鮮資料, 第 15 巻、第 7~12 号 68ページ 1975年)「嘘も百回繰り返せば真実になる」というレーニンの言葉に従って、彼らはしつこく私の運動に対して虚為の宣伝を繰り返しました。
(為に生きる: 文鮮明師講演集 83ページ 1976年)
「ウソも百遍繰り返せば真実になる」
と、私は池田の口から何度聞かされたかわからない。この男は本気でそう信じているから始末が悪いのである。
(元側近の暴露本『池田大作の素顔』藤原行正著 講談社1989年4月出版 42ページより)「嘘も百遍つけばホン卜になると、坪内は豪語してるそうですな」。冷笑するように、佐世保重工業の従業員の一人が言った。
(坪内経営残酷物語: 再建の神様 . 坪内寿夫の驚くべきもうひとつの顔 78ページ 1984年)そういえばネット上では﹁嘘も百回~﹂は韓国の諺だという話もたまに見かけますが、上記の文鮮明の発言から想像したのでしょうか(たぶん違いますね、はい)。
このように、数十年にわたって数多く引用されてきた﹁嘘も百回~﹂ですが、これだけあるにも関わらず直接のソースを参照している資料が見つかりません。確かにこれがゲッベルスの発言だという説は怪しそうです。
では、いつからこの言葉が使われるようになったのでしょうか。 世の中にはGoogle Booksという便利なものがありまして、世界中の書籍を検索することができるようになっています(というか、ここまでの引用は大体これで調べたものです)。 Google Booksで調べた中で﹁嘘も百回~﹂が登場する最も古い文献は1967年の岡部史郎﹃行政管理﹄でした。﹁一犬、虚に吠ゆれば、万犬実を伝う﹂という東洋のことわざがあるが、ナチス・ドイツの宣伝相ゲッペルスは、﹁うそでも、百べんくりかえせば、国民は、これを信ずる﹂と豪語していたといわれる。(行政管理 410ページ 1967年)
というわけで、少なくとも﹁嘘も百回~﹂がゲッベルスの言葉だという説は1960年代から存在したことになります。 (※実は、以前検索した時に1950年代の雑誌がヒットしたのですが、今回記事を書くにあたって調べなおしたところ出なくなっていました。見つけた人がいましたらコメントお願いします。) いよいよ頭が混乱してきながら適当に色々なワードで検索したところ、さらに驚愕の事実を発見しました。北條清一﹃思想戰と國際秘密結社﹄より。 じ嘘を扠對論なしで三べん云へば、噓が厲實になる﹂1とあります。
Google Booksの引用が非常に断片的なのと読み取りが不正確なので正確な内容がわかりませんが、なんとなく﹁嘘も百回~﹂に似ている気がします。 さて、この本が発行されたのは昭和17年。﹃行政管理﹄より20年以上も遡れてしまいました。それよりも何よりも、昭和17年というのは日本がバリバリ戦時中で、ナチス・ドイツと同盟関係にあった時代です。 とすると、﹁嘘も百回言えば本当になる﹂というマイナスな言葉をゲッベルスの発言として取り上げるのは考えにくいですが、やはり原著を図書館かどこかで入手しない事には… と思ったら、本著の内容を要約しているページを発見しました。インターネットすごいです。例えば、﹁思想戦と国際秘密結社﹂︵昭和17年、北条清一編著︶によれば、 世界金融支配を次のように分析しています。
・人間を心理的に唯物化、機械化せしめる金融支配の仕組み ・少数で多数を支配する魔術として、ユダヤ︵筆者注‥アシュケナージユダヤ︶ 一流の政治、経済、社会全般にわたる理論と組織を案出 ・これを定説化するために、言論機関を独占して盛んに宣伝。彼らの標語は ﹁同じウソを反論なしで三ぺん言えば、ウソが真実になる﹂ ・自由主義も、資本主義、共産主義も人を隷属させるために彼らが作った虚構であり、 自然の人間性を喪失させる。 具体的には、彼ら傘下の中央銀行を各国に設立し、国家から奪った通貨発行権で紙幣を印刷し、 利子付きで政府に貸し出す。
巧に戦争をしかけ、国家が中央銀行に莫大な借金を背負い、やがて国家破綻させる。 そして、国家が無くなったあと、税金という形で国民から収奪した膨大な資金で 彼らの支配する﹁ワンワールドオーダー︵世界統一政府︶﹂という、 未来永劫続く彼らのための千年王国を樹立する...
ここから、原著の該当箇所は﹁同じ嘘を反対論なしで三べん云えば、嘘が事実になる﹂だと考えられます。また﹁彼ら﹂とは﹁国際秘密結社﹂﹁ユダヤ﹂のことと推測できます。つまり﹃思想戦~﹄の中では﹁嘘も百回(三回)~﹂は﹁ユダヤ人﹂の言葉として掲載されています。ゲッベルスが元ネタなわけがありませんね。
というわけで、少なくとも﹁嘘も百回言えば本当になる﹂がゲッベルスの言葉ではないことは確実に言えそうです。ナチスにマイナスなことが言えない戦前から存在した言葉なのですから。 とはいえ、﹁嘘も百回~﹂の元ネタが﹃思想戦と国際秘密結社﹄なのかどうかは微妙だと思います。なんとなく日本語に元々ありそうな言葉なので、さらに文献をさかのぼれば真相に近づけそうなのですが、戦前の本まで出てきてしまった以上これ以上はネットで調べられる範囲を超えていると思うのでとりあえずここで終わりにしようと思います。
ちなみに、同時代の文献でこのようなものも発見しました。 ﹃隱すといふこと、噓が宣傳の一番惡い方法である﹄と事ある毎に述べてドイツ宣傳相ゲッベルスは、宣傳は正しきものを正しく傳へることだといつたが、觀光直傳の術策とが國際観光會の仕事だと思ひます。(岩永裕吉君 831ページ 1941年)
・﹁海外版﹂について
冒頭で紹介したブログには、﹁嘘も百回~﹂の﹁元ネタ﹂として、ドイツ語の文章が載っていました。今度はこれについて調べます。 ブログでは、この文章がトリーア大学の社会学者、ベルント・ハン教授が2007年にCultura21というウェブマガジンに著わした論文(エッセイ?)"Medienmacht – wie und zu wessen Nutzen unser Bewusstsein gemacht wird"(pdf)から取られたものだとしています。実際に読んでみると、確かに冒頭に件の文章が掲げられていました。ところが、ハン教授はこの言葉について出典を明らかにしていません。 仕方がないのでGoogleで一部を切り取って調べてみましたが、期間指定で検索しても2007年以前に同じ言葉を引用したページが見つかりませんでした。対象をpdfにしてみたり、Google Scholarを使ってみたりしましたがやはりヒットせず、Google Booksで検索したところ"Eduard war ein kleines Schaf: … oder wie ich lernte zu denken ..."という2014年の小説がヒットしただけでした。 一方、英語の方は"If you tell a lie big enough and keep repeating it, people will eventually come to believe it."で検索すると大量にヒットします。中には2002年のページもありました。また、Google Booksでは1999年のものも見つかります。遡れる限りでは1983年の米国議会の議事録が最古でした。 もしかしてハン教授、英語の文章をドイツ語に訳しただけなんじゃ…。
と、ここで"If you tell a lie big enough..."の検索結果に興味深いものを発見しました。ズバリ﹁ゲッベルスは言ってない(Goebbels Didn’t Say It)﹂という直球なタイトルのページです。 このページはカルヴァンカレッジのランドール・バイトワーク名誉教授らが作成したもののようで、バイトワーク名誉教授によれば、ある時、自身のメールにゲッベルスの言葉として"If you tell a lie big enough..."の出典を問われ、そんな言葉は聞いたこともないのでネットで調べてみたところ、50万以上のウェブページで同様の文章が出典なしで引用され続けていることを知ったのだそうです。そして、こう結論しています。Goebbels wouldn’t have said that in public. He always maintained that propaganda had to be truthful. That doesn't mean he didn’t lie, but it would be a pretty poor propagandist who publicly proclaimed that he was going to lie. I know of no evidence that he actually said it. I haven’t read everything Goebbels wrote, but I have been through a lot of it.
ゲッベルスは公にはそんなことは言っていないだろう。彼は常にプロパガンダは真実でなければならないと説明していた。それで彼が嘘をつかなかったことにはならないが、自分は嘘をつくと公言した下手糞な扇動者になってしまうだろう。私は彼が本当にそう言ったという証拠はないと思う。ゲッベルスの著作を全部読んだわけではないが、私は彼の酸いも甘いも知っているのだ。
という訳で、ナチスの研究者も"If you tell a lie big enough..."はゲッベルスの言葉ではないだろうと言っています(そういえばさっきの文献にも﹁噓が宣傳の一番惡い方法である﹂と書いてありましたね)。
ゲッベルスが言ったんじゃないとしたら、誰がそんなこと言ったのさ?ということで、こういう時はWikipediaに頼ってみます。Wikipediaの姉妹プロジェクトにWikiquoteという、著名人の語録を集積するものがあります。英語版Wikiquoteで"Joseph Goebbels"を調べてみました。すると… Misattributed If you repeat a lie often enough, people will believe it, and you will even come to believe it yourself. Attributed to Goebbels in Publications Relating to Various Aspects of Communism (1946), by United States Congress, House Committee on Un-American Activities, Issues 1-15, p. 19, no reliable source has been located, and this is probably simply a further variation of the Big Lie idea
人違い If you repeat a lie often enough, people will believe it, and you will even come to believe it yourself. 下院非米活動委員会による1946年の出版物"Publications Relating to Various Aspects of Communism (1946)"でゲッベルスのものとしている、信頼できるソースは見つかっておらず、おそらく﹁大きな嘘﹂のさらに別のバリエーションであろう。※﹁大きな嘘﹂とは、﹁我が闘争﹂の中にある﹁大衆は小さな嘘より、大きな嘘の犠牲になりやすい﹂という言葉。
なんと、1946年の本が出てきてしまいました。で、"Publications Relating to Various Aspects of Communism"で調べてみると、全文掲載しているサイトを発見。インターネット素晴らしいです。 早速19ページを検索してみると、確かに書いてありました。Communism moves in on us at our weakest point.They blow up the great lie of colinialism and charges of imperialism.You know Goebbels said that if you repeat a lie often enough, people will bilieve it, and you will even come to bilieve it yourself.
共産主義は私たちの弱みに付け入ります。彼らは植民地主義と帝国主義の大嘘を吹聴します。ゲッベルスも﹁もしあなたが嘘を十分頻繁に繰り返せば、人々はそれを信じ、あなた自身でもそれを信じるようになるだろう﹂と言っているでしょう。
下院非米活動委員会といえばマッカーシズムで有名な機関です。この書籍もおそらくは反共プロパガンダの為のものかと思われます。出典も示されていません。やはりソースとしては怪しいところです。 しかし、なら下院非米活動委員会が"If you tell a lie big enough..."の元ネタなのかと言えば、それもちょっと微妙です。文頭が"You know"で始まっているので、もっと前から人口に膾炙した言葉であった可能性があります。あれ、なんかデジャヴが…
ところで、"If you tell a lie big enough..."が1946年から存在する言葉なのはわかったのですが、"Publications Relating to Various Aspects of Communism"には後半部分がありません。後半というのは、冒頭のブログでいうところの﹁嘘によって生じる政治的、経済的、軍事的な結果から人々を保護する国家を維持している限り…﹂の部分です。"Goebbels Didn’t Say It"では、"The lie can be maintained only for such time as the State can shield the people from the political, economic and or military consequences of the lie. It thus becomes vitally important for the State to use all of its powers to repress dissent, for the truth is the mortal enemy of the lie, and thus by extension, the truth is the greatest enemy of the State."としています。 例によってGoogle Booksで調べてみたところ、20世紀中の文献からは同様の文章は発見できませんでした。"Publications Relating to Various Aspects of Communism"にもありません。ということは、前半部と後半部は元々別物であった可能性が高いと考えられます。 で、Googleで日付をさかのぼって調べてみたところ、2003年のページにゲッベルスの言葉として後半部だけ載っているのを発見しました。 じゃあそれが元ネタなのかというと…もう疲れたんでやめていいっすか?(放棄)
・要するに
・ゲッベルスの言葉ではない ・"If you tell a lie big enough and keep repeating it, people will eventually come to believe it."の和訳でもたぶんない ・"If you tell a lie big enough and keep repeating it, people will eventually come to believe it."もゲッベルスの言葉ではない ・由来はわかんない
以上です。この辺に超詳しくて超暇な人はだれか続きを調べてください。 おわりスポンサーサイト
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コメント
お疲れさまでした
﹁嘘も百回﹂を引用するに当たり、たいへん参考になりました。というか、引用後に見たので、速やかに﹁ゲッペルスの〜﹂は取り消します。ありがとうございました。密かに、完全版を期待しています︵笑︶
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