先日のKDDIがETWSを広告配信に使っていたという問題、﹁ETWSには﹃その他﹄として地震津波以外の情報を伝えるようにできている﹂﹁商業配信に使ってもいいらしい﹂と言う意見をたくさんいただきました。
まず、種別について。種別︵WarningType︶として、以下の5つが定められています。
0地震
1津波
2地震と津波
3テスト
4その他
地震、津波はいいですね。テストも、システムのテスト用と言う意味で問題ありません。問題は﹁その他﹂。この﹁その他﹂なら、広告にでもなんにでも使っていいはず、と言う考え方。残念ながらこれは間違いです。この種別での﹁その他﹂は﹁その他︵の警報︶﹂を意味しています︵正確には、﹁その他︵other︶の場合は、警報内容はすべて警報本文中に記載してあるものとする﹂と言う規定となっています︶。つまり、﹁その他﹂は、地震、津波以外の何らかの天災や人災を緊急警報として通知したい場合に使うことが想定されています。たとえば集中豪雨やテロ・戦争などです。世界のどこで使われるか分からないiPhoneが、﹁その他︵の警報︶﹂を受け取ったら、それがどんな災害なのか判別不可能である以上、ユーザにその警報を知らせて内容からの判別を促す、という実装は間違いとは言えません。
また、これとは別に、警報音を鳴らすか、強制表示するか、と言うことを示すフラグもあり、これが強制指示でなければ表示してしまったiPhoneの実装が間違いではないか、と言う話にもなるかもしれませんが、これも違います。
警報を鳴らすかどうかのフラグは、
0指示なし
1鳴動せよ
表示を強制するかどうかのフラグは、
0指示なし
1表示せよ
いずれも、0が指示された場合は、﹁どちらでもよい﹂なのです。となれば、﹁その他︵の警報︶﹂であり、天災・人災の恐れのあるメッセージを受け取ってしまった以上は、ユーザの安全のために表示する、と言う仕様であるほうが、グローバル端末として自然ですし、少なくともiPhoneの実装は間違いではありません。
一方、﹁商業利用を禁じない﹂と標準文書に書いてあるからKDDIの仕様は適正だ、と言う意見も見ますが︵山ほどたくさん︶、これも標準の読み間違い。その一文はいわゆる﹁Stage1﹂と言う文書群のひとつに書いてあります。Stage1は標準動作を定めるものではなく、標準を定める前提条件の取りまとめです。簡単に言えば、標準を作るときはここに書いてあることに従わないとだめよ、と言う条件集。Stage1に﹁禁ずる﹂と書いてあった場合は、誰かが提案したとしても﹁Stage1に禁止って書いてあるだろ﹂で議論はおしまい、提案書はゴミ箱行き、そういう意味を持つのがStage1です。つまり、ここに書いてある意味は、﹁ETWSが商業利用可能となるような拡張の提案があったとしても、それをStage1を理由に拒否することは無いですよ﹂と言う意味です。
そして、ETWSは確かにそのように作られています。WarningTypeに100以上もの予約領域があり、この予約領域のいずれかをたとえば﹁広告﹂や﹁メルマガ﹂と言う様に定義可能になっています。しかし重要なのは、現状は定義されていないと言うことです。機器の実際の実装の参照となるのは、実際に出来上がった仕様である﹁Stage3﹂です。そのStage3には、上に書いた通り、5通りの警報種別しか定義されていません。
KDDIは、もし広告配信に使いたいのであれば、WarningTypeに﹁広告﹂と言う種別を追加するという標準提案をし合意を得なければならなかったのです。これを怠った上で、勝手に﹁Other﹂とは﹁その他の用途すべてだ﹂と読み間違い、さらには国内だけで﹁Otherのときは警報じゃないので無視してね﹂なんて密室合意でことを進めるやり方は国際標準の基本理念からは程遠い所にあります。
わざわざStage1に﹁商業利用するための拡張は禁止しませんよ﹂と書いてあるんだから、拡張のための提案をすればよかっただけの話なんですよ。ただそれをやらずに勝手に別の用途に使っていたことが今回の問題の根っこです。なんというか、お粗末な話で、いかにも国際動向・国際コンセンサスを軽視する日本企業らしいなぁ、とは思ったのですが。
と言うことで、グローバル端末に標準外の実装制限を課すのではなく、標準から読めるあらゆる動作を想定したシステムの使い方をすべきで、それで目的を達成できないのであれば標準をきちんと定義してから使うべき、と言うのが私の考えです。でわ。
[追記]2012年10月に﹁5つ以外は緊急じゃないから表示しないでね﹂とか後付でちゃんと標準提案して記載しましたよなんて某所で某氏が言ってるらしいですが、いくらなんでも﹁ならOK﹂はないよ・・・Release9のStage3 functional freezeは2009年でっせ・・・。3GPPのReleaseとかStageとかFreezeって概念を知らない人はこんな弁明でころっとだまされちゃうんでしょうけど・・・。端末の動作規定を決める﹁Stage3﹂が﹁機能面で確定﹂するのが﹁Stage3 functional freeze﹂、それ以降は、バグ修正以外の動作の規定の追加は禁止。なぜなら、その時点で端末を作り始めた人が後の改定で動作不良を起こす恐れがあるから。﹁IDによる動作を追加する﹂なんて完全に新機能扱いです(標準の世界では)。だから、件の﹁追記﹂ももちろんRelease9に遡上適用されるようなものじゃありません。っていうかあの件ってKDDIが完全に標準手続きを無視して強引に押し込んだ話を仕方ないなぁってドコモ・SBMが嫌々受け入れたっていう話なのに、どうしてドコモがあんなにKDDIを擁護するのかよくわからん・・・。
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