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Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
オーストラリアの最低賃金が更に上昇、ニューヨークよりも高額に
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7月から新会計年度となるオーストラリアでは、年度が変わる前までに新年度から施行される様々な法令や規則等の変更や改正が発表される。
その中でも、とくに注目を集めるのが﹁最低賃金﹂の改正だ。
今年も6月3日に、フェアワーク・コミッション︵公正労働法の下に設置された公正な労働を裁定する独立機関︶から、2024年7月からは昨年度より3.75%アップの﹃24.10豪ドル︵約2,510円︶﹄とすることが発表された。︵参照︶
-- AWU - Australian Workers' Union (@AWUnion) June 3, 2024
これは、英国の最低賃金11.44ポンド︵約2,287円︶や米ニューヨーク州の15米ドル︵約2,360円︶よりも高く、同じニューヨーク州の中でも生活費が高いことから最低賃金も高くなっているニューヨーク市の16米ドル︵約2,516円︶とほぼ同額になったという。︵参照︶
ここ数年、最低賃金の高さで世界1、2位を争ってきたオーストラリアだが、さらにその最低ラインが引き上げられたことになる。当然ながら、所得水準も経済協力開発機構︵OECD︶加盟主要国の中でトップクラスだ。これは円安とは関係ない。︵参照︶
The Fair Work Commission has announced a 3.75% increase to the National Minimum Wage and all modern award rates on pay this morning, which will take effect for workers on July 1.
#AWU #AWUnion #ausunions #auspol #unionsaus pic.twitter.com/MBL4sAbeVF
24.10豪ドルは、全国標準の最低賃金
最低賃金と一口に言うが、この24.10豪ドルは、あくまでもオーストラリア全土における標準的な最低賃金として定められたものであり、この額を下回ってはいけないというものだ。 しかもこの額は、正規雇用やパートタイムのように保険や年金、有給などの社会保障が付く雇用形態で平日の一般的なオフィス・アワーに働く場合であり、そういった社会保障がないカジュアルワーク︵日本でいう単発のアルバイトや派遣などの雇用形態に近い︶の場合は、雇用主はこの金額の25%増しで支払わなければならない。 また、オーストラリアでは、業界や職種ごとに最低賃金が定められており、ほとんどの職種でこれよりも高い設定になっている。︵参照︶ 例えば、ファーストフード店勤務の場合、今年度︵6月まで︶は、正規雇用またはパートタイムが24.73豪ドル、カジュアルでは30.91豪ドルであったので、新年度となる7月からは、この額の3.75%増しとなるはずだ。︵参照︶ これらに加え、一般的なオフィス・アワー時間外や休日勤務等の割増賃金も設定されている。概ね125~175%となっているが、これもまた、業種によって細かく設定されており、例えば小売業︵パン製造従業員を除く︶のカジュアル勤務の場合、土曜日に勤務した場合は175%、日曜日200%、祝祭日250%などとなっている。︵参照︶ また、雇用主は、スーパーアニュエーションと呼ばれる強制加入の私的年金積立のために、すべての従業員に対して、11.5%︵6月までは11%︶を給料に上乗せして支払う必要がある。︵参照︶人件費が重くのしかかり、閉店に追い込まれる店も...
賃金が上がるのは労働者にとっては大歓迎かもしれないが、このように人件費がどんどん膨らむ状況は、雇用主にとっては相当頭の痛い問題に違いない。 ブリスベンの人気バー&レストラン﹁ザ・マトリアーク﹂は、コロナ禍に大打撃を受けたものの、パンデミック終了後には投資を再開できると踏んでいたそうだが、経済状況は悪化の一途をたどり、そこへさらに追い打ちをかけるような今回の賃上げで、店を閉めることを決意したという。 同店のシェフ兼共同オーナーであるマシュー・デワクト氏は、閉店を決めた理由のひとつに、膨れ上がる莫大な人件費を挙げる。 デワクト氏は、﹁最低賃金は︵時給︶24ドルかもしれないが、土曜日なら、カジュアルで働いてテーブルにコーヒーを運ぶスタッフに40ドル払わなければならない﹂と言い、同店の人件費の割合は、経費の35%を占めると嘆く。︵参照︶ 賃金が高く稼げると、日本からも大勢の若者たちがワーキングホリデーでやってくるようになったオーストラリアだが、賃金高がすべての物価に反映され、物価高にも歯止めがかからない状態になってきている。﹁ザ・マトリアーク﹂のように、人件費が重くのしかかって閉店する店舗や事業が増えれば、結果的に失業者も増えることになる。実際、失業率は上昇中だ。︵参照︶ こうなってくると生活はどんどん苦しくなり、経済が回らなくなってしまうのではないかと、私をはじめ、今、オーストラリアで暮らす人の多くが、暗雲たる気持ちになっているのではないだろうか。︿了﹀![](https://f.img-newsweekjapan.jp/worldvoice/hirano/assets_c/2020/11/author-thumb-120x120-222331.jpg)
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
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