﹁技術者の先輩たちは、みんな韓国や中国のメーカーに行っちゃった﹂
一方で、韓国や中国の電子機器メーカーは、いつの間にか、最新の技術を詰め込んだ機器を次々に商品化し、グローバルマーケットでビジネスを展開するようになりました。
巷には、強くなる中国元を背景に、高い技術を誇る日本企業が買収されるのではないかといった意見もあります。
さて、あなたがもし、グローバルマーケットで躍進中のアジアの企業の経営者で、且つ、日本企業の高い技術力を、日本企業がキャッシュフローに変換するより遥かに効率的にキャッシュフローに変換できる戦略を持っていたとしたら、どうしますか?
欲しい技術を持つ日本企業を、数十億、数百億、場合によっては数千億も支払って買収しますか? それとも、その技術を持っている日本企業の優秀な技術者・・・おそらく年収1000万円前後・・・を、﹁今の5倍払うからうちに来ないか﹂と引き抜きますか?
僕だったら、後者を選びます。 なぜなら、技術を生み出し、発展させ、継承する唯一の媒体は、企業ではなく﹁人﹂だと思うからです。
企業買収によって手に入れることが出来るのは、人ではなく、ざまざまな権利に他なりません。 特許権、商標など。
しかしそれらの権利は、人が何もしなければ、時間経過と共に価値が減少していきます。 インフレ時にキャッシュを持っていることが、時間経過による実質資産の目減りであることと同じように、技術もまた、日々ブラッシュアップをしつづけなければ、その価値が目減りする場合が多いわけです。 したがって、企業という﹁箱﹂を手に入れたところで、投資額に見合ったキャッシュフローが得られることはあまりない。 僕はそう思います。
﹁発明に対する対価﹂についての議論において、発明の対価は﹃一般的に﹄○億円程度が妥当だ、などと、馬鹿げた意見があります。 発明・・・つまり今までなかった技術や方法なのですから、それに﹁一般的な価格﹂などありえないわけです。
優秀な経営者の報酬がいくらであるかといった議論があります。 上場企業の経営者の報酬を﹁当該企業の株主に公開すること﹂は当然だとしても、その額がいかほどなら妥当であるかについては、当該企業の株主が決めればよいことであって、利害関係者で無い方々がどうのこうの言うことではないと思います。
アップルでは、﹁音﹂だけを朝から晩まで考え、高額の報酬を得ている従業員が居たりします。
﹁価値に応じた価格を支払う﹂・・・当たり前のことですよね。 しかし、多くの日本企業の場合、どこか﹁結果平等﹂を求めているように思います。
単なる事務職の方・・・その仕事に価値が無いとは思いませんけれど・・・と、その企業の商品力に大きく貢献している技術者の給与の差が、わずか数倍の範囲であること。 これじゃ、やってられないですよね。
政治は、貧困を防止することに興味があるようです。 それはそれで価値のあることだと思いますが、そもそもの経済の︵一人辺りの︶大きさが確保されなければ、貧困対策などできはしません。 経済の大きさを維持したり、成長させたりするのは、実は本の一握りの優秀な﹁人﹂に依存しています。 彼らに対して、﹁それなりの報酬﹂を支払うことを認めなければ、貧困さえ防ぐことは出来ないのではないでしょうか。
大切なのは、﹁人﹂なのであって、﹁箱﹂じゃない。と僕は思います。
2010年7月8日 板倉雄一郎