サクサク読めて、アプリ限定の機能も多数!
トップへ戻る
都知事選
brevis.exblog.jp
モダンPM技法の三本柱の一つである、EVMS(Earned Value Management System)について、しばらく解説してきた。EVMSでは、横軸にプロジェクト開始からの日付、縦軸に金額をとったグラフをよく用いる(理屈の上では、別に金額に限る訳ではなく、成果物の数量を表す単位、たとえば床面積m2とか設計図面数でもいいのだが、現実には金額を使うことが多い)。そしてこのグラフの上に、計画線PV・実績線AC・出来高EVの3本の線を描いていく。 EVMSでは、スケジュール差異SV(=EV-PC)と、コスト差異CV(=EV-AC)を主要なKPIとして見ていく。両方とも、プラスならば良好、マイナスならば問題を表す。つまり、グラフで言えば出来高EVのカーブが、計画線PVや実績線ACのカーブよりも上に来ているかを、まず注目する訳だ。 そして一般に、プロジェクトという活動は、最初はゆっくり立ち上
「データは新しい石油だ」とか「データ・ドリブン経営」といった言葉を近年、耳にするようになった。データの重要性を長年力説してきたシステム・アナリストとしては、大変心強いことだ。しかし(いつものことだが)、『データ』という事がらの内実を充分理解しないまま、ムードで語られている感じが、なくは無い。 拙著『ITって、何?』の冒頭の問答でも書いたことだが、多くの人は情報とデータの区別さえ曖昧なまま、両方の言葉をごっちゃに使っている。元の原稿を書いたのは2002年のことだが、それから20年以上経っても、状況はあまり改善していない。 こういう人たちは、コンピュータの中に記憶されている数字だったら、「データ」だと考える。 だから、サーバの中に多数のファイルがごっちゃに保存されているだけなのに、「わが社には、大量の過去データがある」と考える管理職が出現する。それをAIにかけて学習させれば、素晴らしい予測モデ
前回の記事『モダンPMへの誘い ~ プロジェクト・コントロールの目的とEVMS』 (2024-02-25)では、「コストとスケジュールのコントロールの主要目的とはプロジェクトの着地点予測である」と書いた。つまり、あなたのプロジェクトはいつ終わるのか、完了時点ではトータルでいくらの費用を使うことになるのか、を予測することが眼目だ。その計算では、現時点での出来高EVと、これまで使った実績出費ACとの比率を表す、Cost Performance Index (CPI = EV / AC)などの指標が重要になる訳である。 ところで、ここで1つ重要な問題を考えなければならない。それは費用を認識し、計上するタイミングの問題である。ここを間違えると、出来高と実績を比較したり、CPI等の指標を計算することに、意味がなくなってしまうからだ。 例をあげよう。たとえば、何らかのマシンを、外部の業者から購入する場
前回の記事では、大手メーカーが部品在庫調整を行うことで、部品メーカー等のサプライヤーに対し平準化した安定生産を実現する方が、日本の産業界全体にとって有益であると書いた。そして、従来のいわゆる「JIT納品」による調達方式は、中堅中小のサプライヤーの生産性を阻害し、余計な納期調整にその能力を消耗させている、と批判した。 それでは、この点について、本家トヨタはどう考えているのだろうか。 トヨタ自動車こそ、「ジャスト・イン・タイム(JIT)」の 発明者であり、納入する部品メーカーに対して、時刻指定の納入を義務づけてきたのではないか。その結果、あれほどの利益を生むのであるならば、そのベスト・プラクティスを、他社も見習って採用すべきではないのか。 この点について、本サイトではずっと以前に、「あなたの会社にトヨタ生産方式が向かない五つの理由」 と言う記事を書いた。 また「 中小企業診断協会生産革新フォー
わたしの働くエンジニアリング業界では、「プロジェクト・マネージャー」という職務のほかに、「プロジェクト・コントロール・マネージャー」というポジションを置くことが、国際的な慣習だ。プロマネは普通、PMと略称するので、区別するために、プロジェクト・コントロール・マネージャーはPCMと呼ぶ。もっとも、小規模なプロジェクトや国内案件では、プロマネがPCM職務を兼務することも多い。だが、プロマネとPCMの仕事の内容は、区別している。PCMの仕事は、プロジェクトのコントロールである。 ・・こう書くと、怪訝な思いをする人も多いだろう。というのは、カタカナ英語で言う『マネジメント』も『コントロール』も、日本語に翻訳すると、同じ『管理』になってしまうからだ。プロマネもPCMも、脳内で翻訳すると「プロジェクト管理者」だ。何が違うのか? だが、英語でManageとControlというと、意味もニュアンスもずいぶ
従来の予実管理手法では、PV(予定出費)とAC(実績出費)を単純に比べるだけだった。これは、定常業務に関する予算ならば、十分有効だろう。部門のコピー経費などをおいかける目的には、この手法でも問題はない。 しかしプロジェクトの場合、そうはいかないのだ。プロジェクトという業務の特徴は、「終りがある仕事」である点だからだ。そのため、プロジェクトでは『進捗』という概念が必要になる。部門のコピー経費に、「進捗」を問う人なんていない。だが、プロジェクトは終わるために努力する仕事のため、つねに進捗が問われる。 そして、PVとACを単純に比較するだけでは、コストによる変動と、進捗による変動の、両方の要素が入ってきてしまうため、正しく現状認識ができない問題点があった。コストをうまくコントロールできている状況であれ、進捗が遅れている問題状況であれ、どちらも PV > AC という結果が出てしまう。だから、良い
現代の経営学は、今から100年前、フレデリック・テイラーの「科学的管理法」の実践的研究に始まると言われている。テイラーはBethlehem Steel社の工場の技師長だった当時、銑鉄(ズク=Pig-iron)を運ぶ肉体労働に関し、観察と実験に基づく科学的な方法によって、劇的に生産性を向上させたことで知られる。 彼はまず、この一連の労働を、5つの要素的なタスクに分解する。そして、それぞれに必要とする適切な作業時間を割り出した。さらにSchmidt(仮名)という労働者を選び出し、彼に「ズクを持ち上げろ、歩け、回って休め、歩け、休め」と、ストップウォッチ片手で指示した。それまで、労働者の恣意的判断に任されていた時間の使い方を、細かくコントロールしたのである。 その結果は驚くべきものだった。それまで労働者1人は、1日平均12.5トンしか運べなかった。ところがSchmidtは、なんと47.5トンの銑
前回記事「モダンPMへの誘い 〜 出費が予定を超えなければ大丈夫?」https://brevis.exblog.jp/30726239/ では、Sカーブを使って、プロジェクト状況を判断するときの問題について説明した。Sカーブとは、プロジェクトの時間軸を横に取り、縦軸に出費を描いた線のことである。ふつうは、大文字のSを引き延ばしたような形になるので、こう呼ばれている。 ところで、予定出費の線(Planned Value = PV)の線と、実績出費の線(Actual Cost = AC)の2本を描いて、その大小を比較しても、プロジェクトの状況は「よく分からない」のだ、と前回書いた。なぜなら、実績出費ACのカーブが、予定出費PVのカーブより下に来ても、それだけでは「コストをうまく抑え込んでいる」事を示すのか、あるいは「進捗が遅れていて出費がまだ少ないだけ」かを、判別できないからだ。前者ならば、プ
もう10年以上も前のことになるが、ある大手システム・インテグレーターに呼ばれて、そこの有力なプロジェクト・マネージャーさん達の話を聞いたことがある。プロマネさんの1人は、こんな話を切り出した。 「PDCAサイクル、なんて言ってもさ、それって大体、絵に描いた餅じゃないか。そもそも最初に計画なんか、ふつう立てないだろ? プロジェクトに飛び込んだら、最初はまず、様子を観察するはずだ。顧客やメンバーに話を聞いて、これまで使った費用とかを確認して、状況を理解する。その上で方針を決めて、やるべきことをやっていく。これが現実のサイクルじゃないか。」 その時は、ふーん、と言う気持ちで聞いていたのだが、後になって、この人はいわゆる「OODAループ」の説明をしていたのだと気がついた。PDCAはPlan, Do, Check, Actionの略だが、OODAはObserve, Orient, Decide, A
あなたは、ある化学企業の経営者だ。自社の業容拡大をはかりたいが、日本の国内市場はすでに飽和しているため、海外の新興国に権益を得て、新しく化学プラントを建設することにした。 そして、これはと思う部下をプロマネに任命し、現地に派遣する。しかし、プラントはなかなか完成しない。それどころか、現地のパートナー企業の不満の声も、あなたの元に届いてくる。そこでTV会議で現地のプロマネを呼び出し、話すことにした。では、あなたがまず質問すべき事は何だろうか? ・・これは、わたしが大学などでプロジェクト・マネジメントを教える際に、よく最初に出す問いかけだ。出席者に尋ねると、いろいろな答えが返ってくる。例えば「工事はどこまで進んでいるのか」「資材は十分に足りているのか」「労働者の質はどうか」などなど。
その手紙を見つけたのは、父の執務室の机の中だった。わたし達はその日、遺品を整理するため、亡き父が通っていた本社のオフィスを、初めて訪問していた。机の広い引き出しの奥のほうに、他の文房具などに混じって、小さな封書入りの手紙があった。切手も、宛先住所もない。おそらく職場で人づてに、あるいはもしかしたら直接、渡されたのだろう。 父は機械屋だった。大学で機械工学を学んだが、学生運動に加担していたため、大企業ではなく、創業したばかりの小さな機械メーカーに入った。創立時のメンバーは6、7人ほどだったと聞く。幸い戦後復興と高度成長の追い風もあって、次第に中堅メーカーへと成長していった。まだ50代の若さで病没した時、父はその会社の常務になっていた。 わたしの考え方は、父に非常に影響されている。化学工学を専攻したわたしに、就職するならエンジニアリング会社が良い、と勧めてくれたのも父だ。人が生きていく上では哲
C・N・パーキンソンといえば、かつてベストセラー『パーキンソンの法則』 で、一世を風靡した経営学者だ。元はアカデミックな歴史学者だったが、行政組織の研究に転じ、「役人の数は仕事の量にかかわらず、一定の率で増えていく」と言う法則性を示して有名になった。社会における矛盾を、思いもよらない角度から、機知に富んだ文体で描き、読んでいて非常に面白い。 わが国に紹介された3冊目の本『パーキンソンの成功法則』(原題:In-laws and Outlaws)は、彼が明確に経営論に踏み出す意図をもって、それもアメリカ流の経営学を意識して書いた本だ。とは言え、読んでいると時々、英国風のエピソードが出てきて、いかにもと思ってしまう。 本書は、読者(「君」)を架空の主人公にして、企業で下から上に出世し、上り詰めていくストーリーを骨格に持っている。日本版には「はだかの経営学」とサブタイトルがつけられているが、ウィッ
1985年5月。カリフォルニアにあるアップル本社では、緊急の役員会が開かれていた。その前年、社運をかけて開発し発売した新製品Macintoshの、販売不振による経営悪化の責任を問うて、CEOのJ・スカリーが、創業者であるスティーブ・ジョブズから、経営権限を剥奪する動議を出したのだ。 周知の通りスカリーは元々、ジョブズがペプシコーラからスカウトしてきた経営のプロだ。だが、会社が傾きつつある中、2人の間の確執が強まる。そしてジョブズは、スカリーの中国出張の間にクーデターを起こし、彼を追放しようとした。しかしスカリーはジョブズの計画をつかんで、逆に緊急の役員会を招集し、役員達に彼とジョブズのどちらを選ぶのか、選択を迫った。
拙著「世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書」https://amzn.to/3ZTfx8g にも書いたことだが、自分が海外プロジェクト部門に出たのは、39歳の時だった。それまでは主に国内向け業務の部門におり、半分はIT系の、残り半分は新規分野の事業開発的な仕事をしていた。しかし「このままでは、せっかくエンジニアリング会社にいるのに、本流であるプラント系の海外プロジェクトを知らないままになる」と、自分のキャリアに危機感を抱くようになり、思い切って手を上げ、全く未経験の部門に移ったのだった。翌年は不惑。遅すぎるかもしれないとの不安をいだきつつの決心だった。 移った先では、すぐにプロジェクト・チームに配属された。英国・米国と自社の3社ジョイント・ベンチャーで、ある中東の大型LNGプラント案件の基本設計と見積を行っていた。右も左もわからないど素人が、プロジェクトの真っ只中に放り込まれたのだ
それでは、部長が課長をマネージすることも、ガバナンスなのか? 課長だって、立派なマネジメント職である(ちなみに、わたしの職場では課長職のことを、昔から「マネージャー」と言う職名でよんできた)。 答えから言うと、それは違う。確かにガバナンス的な側面も、少しはある。だが、課長は部長にマネジメントされている。部長の指示には強制力があるからである。強制力を伴う計画・指示と報告・評価のサイクルをマネジメントと呼ぶ。 強制力とは何か。それは簡単に言うと、賞罰の力である。指示に従った場合には、褒賞を与え評価する。従わなかった場合には、罰を加え、あるいはその地位から追放することができる。また、重要な経営資源の運用に関する決裁の権限も持つ。具体的には、特に金銭である。費用の支出には、承認が必要となる。それがマネジメントの強制力だ。 これに対して、取締役会が会社の執行役員や経営者に対して用いる権限は、影響力で
2000年に刊行した拙著『革新的生産スケジューリング入門』 は、ご承知の通り、長らく版元品切れ状態になっています。本書はわたしの初めての単著でもあり、また類書がなかったため、それなりに広く受け入れていただいた、思い入れ深い書籍です。おかげさまで10年以上にわたり売れ続け、今も問い合わせを時折いただいていますが、次第に入手が難しくなってきました。 では生産スケジューリングについて、他にお薦めできる分かりやすい入門書があるかというと、あまり見当たらない状況ではあります。加えて昨今、製造業の方とセミナー等でお話しすると、決まって「計画系に悩んでいます」「スケジューリングをどうにかしたくて」という声を聞くようになりました。
自分のプロフィールに「国内外の製造業及びエネルギー産業向けに、工場作り・生産システム構築の仕事に従事してきた」などと書いているためか、「日本の製造業は、海外に比べて特殊なのですか?」という趣旨の質問をされることが、時々ある。「なぜ日本と海外はこうも違うのでしょうか?」といった聞き方の場合もある。 こうした質問は、日本と海外で同等なはずのものが、なぜか違っていた、との事例とともに、語られることが多い。例えば、同じ企業のグループに属しながら、生産管理系のパッケージソフトを、海外工場ではノンカスタマイズでスムーズに導入できたのに、国内工場では苦労したあげく、失敗したという事例。あるいは、国際標準に従ったサプライチェーンの仕組みが、日本国内だけどうしても使えなかった事例。 さらに、国内では立派なプロジェクトマネジメントの実績を持つ会社が、海外に出て行って遂行したら、赤字や納期遅延で痛手を被ったケー
サプライチェーンサイエンス 「サプライチェーンサイエンス」(W・J・ホップ著)刊行のお知らせこの7月に、近代科学社さんからW・J・ホップ著「サプライチェーンサイエンス」 の翻訳書を刊行しました。電子書籍と、紙の本(オンデマンド出版)の両方で販売されます。すでにAmazon, honto等のサイトからも注文可能です。 本書は、慶應義塾大学・管理工学科教授の松川弘明先生(日本経営工学会の前会長でサプライチェーンマネジメントの権威)と、わたしが監訳者となっており、実際の翻訳は、「次世代スマート工場のエンジニアリング研究会」 の技術開発分科会メンバーが担当しました。また出版にあたり、(財)エンジニアリング協会から助力を得たことも付記し、感謝の意を表します。もっともわたし自身は、翻訳にそれほど大きな貢献をしているわけではなく、本来であれば監訳者としては、本書の重要性を早くから見出して、初期の版の仮訳
先日のエントリ「物流は本当に付加価値がない業務なのか」 (2023-06-04)でも書いたことだが、国交省は「高度物流人材」の育成策を講じている。わたし自身も昨年度から、日本ロジスティクスシステム協会の「ストラテジックSCMコース」の講師をお手伝いすることになったので、少しばかり身近に感じる立場である。 ただ、そこにも書いた通り、物流業務はふつう、付加価値を生まない業務として低く見られている。理由は、モノを保管したり需要地に移したりしても、会計上は価値が変わらないことになっているからだ。モノの価値は、その市場価格によって客観的に決まる。産地の米を消費地に移しても、価値が変わるわけではない。むしろ原価が上がるだけ。これが会計学の主流の考え方だ。 これに対して、同じモノでも、需要に近いほうが価値が高い(在庫毀損のリスクが小さい)と考えれば、物流にも付加価値が生じてくる。これがわたしの考え方だが
昨年後半から何回か、スマート工場に関連し、製造実行システムMESに関するレクチャーをしたり、人前でお話しする機会があった。その中でいただいた質問やコメントについて、ここで少しばかり解説を補足させていただこうと思う。 最初の論点はMESとMOMの違いである。私が幹事を務める(財)エンジ協会「次世代スマート工場のエンジニアリング」研究会 では、一昨年、そして昨年と2回にわたって、MESに関するシンポジウムを開催した。そのシンポジウムでは、あえてMESとMOMをあまり区別せず、一括してMESと呼ぶことにした。また、野村総研・経産省に提出した「国内工場におけるMES(製造実行システム)導入動向等調査レポート」 では、MES/MOMという書き方をした。つまり、あえて両者を区別しなかったわけだ。しかしこの2つは同一の概念だろうか? 本当は、両者は違う。MESとMOMは、それぞれ別のグループの人たちが、
次のページ
このページを最初にブックマークしてみませんか?
『タイム・コンサルタントの日誌から』の新着エントリーを見る
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く