#2 #3 始まりは、がんを﹁治療する﹂ための研究ではなかった? 2009年5月、米国メリーランド州ベセスダ。ワシントンD.C.のすぐ北西に隣接するその町に、アメリカ最大の医学研究機関、米国国立衛生研究所︵NIH‥National Institutes of Health︶はある。そのNIHの主任研究員、小林久隆の実験室で奇妙な現象が起きていた。 ――がん細胞がぷちぷち壊れていく。 当時、小林が取り組んでいたのは﹁がんの分子イメージング﹂である。 医学における︿イメージング﹀とは人体内部の構造などを解析、診断するために画像化すること。﹁がんの分子イメージング﹂とは、つまりがんを可視化する研究だ。がんを﹁治療する﹂ための研究ではない。ましてやがん細胞を破壊するなどということが目的ではない。 がん細胞の表面には他の正常細胞にはないタンパク質が多数、分布している。がん細胞を移植されたマウスの体組