ブックマーク / www.webchikuma.jp (3)
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蓮實重彥さんの連載時評﹁些事にこだわり﹂第15回を﹁ちくま﹂9月号より転載します。延々とつづく渋谷駅周辺の再開発。東横線の地下化はじめ誰も便利になったとは思っていないはずの一連の大工事は都市再開発法によると﹁公共の福祉に寄与することを目的とする﹂そうなのだが、本当に? との疑問についてお話しさせていただきます。 避けようもない暑い日ざしを顔一面に受けとめながら、タワーレコードの渋谷店で購入した海外の雑誌を手にしてスクランブル交差点にさしかかると、すんでの所で信号が赤となってしまう。階段を降りて地下の通路に向かう方法もあるにはあったが、年齢故の足元のおぼつかなさから灼熱の地上に立ったまま青信号を待つことにしていると、いきなり、かたわらから、女性の声がフランス語で響いてくる。ふと視線を向けると、﹁そう、シブーヤは素晴らしい﹂と﹁ウ﹂の部分をアクセントで強調しながら、スマホを顎のあたりにあてた外
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﹁ブラウン神父﹂シリーズで知られる作家G.K.チェスタトン。彼はまた数々の評伝を書きました。なかでも﹃聖トマス・アクィナス﹄は中世最大の人物の核心を見事に掬い上げ、専門家から高い評価を得た作品です。ここに﹁はしがき﹂を転載いたします。どうぞご一読くださいませ。 今よりももっと世に知られて然るべきひとりの偉大な歴史的人物の一般向けの概説書――それが偽らぬ本書の狙いである。もし本書が聖トマス・アクィナスに関してほとんど聞いたこともないような読者を導いて、彼についてのさらに優れた書物へと誘う働きをすることになれば、本書の目的は達せられるであろう。この必然の制約から生じる結果については、最初からご斟酌をお願いしておかねばなるまい。 第一に、この物語は、主として、聖トマスと同じ教派に属する人、つまりカトリック信徒ではなくて、孔子やマホメットに対して私が持っているのと同じような興味を彼に対してたぶん持
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5月4日、厚生労働省が新型コロナウィルスを想定した﹁新しい生活様式﹂を公表しました。感染対策のために、﹁手洗いや消毒﹂﹁咳エチケットの徹底﹂といった対策を日常生活に取り入れることだけでなく、会話や食事、働き方など様々な領域における行動について指針を示しています。 この﹁新しい生活様式﹂という言葉から、戦時下に提唱された﹁新生活体制﹂を想起するという大塚英志さんに、エッセイを寄せていただきました。 テレビの向こう側で滔々と説かれるコロナ下の﹁新しい生活様式﹂なる語の響きにどうにも不快な既視感がある。それは政治が人々の生活や日常という私権に介入することの不快さだけではない。近衛新体制で提唱された﹁新生活体制﹂を想起させるからだ。 かつて日本が戦時下、近衛文麿が大政翼賛会を組織し、第二次近衛内閣で﹁新体制運動﹂を開始。その﹁新体制﹂は、経済、産業のみならず、教育、文化、そして何より﹁日常﹂に及ん
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