aikoは常に﹁あたしとあなた﹂のことを歌う。そしてaikoを聴くとき、私は男でありながら﹁あたし﹂になっている。この話は何度か書いた。私のなかに住む背の低い女をaikoが引きずりだしてきたという話である。aikoの音楽の前では、私は平気で性別を飛び越えて、﹁俺はaikoだ﹂と断言してしまえる。﹁俺とはaikoの別名だったのだ﹂と言ってしまえる。 それはまあ、いいだろう︵社会的にはよくないが︶。 さて、私は男として生きている。つまりaikoの曲を﹁あなた﹂の立場で聴くことも可能だということだ。しかし、﹁あなた﹂の立場でaikoの曲を聴くことは怖い。 怖さのひとつは、いわゆる﹁女の計算の怖さ﹂なんだが、これは今回の主題ではない。それでもいちおう具体例をあげておくと、 愛しい人よ くるくると表情を変えながら あたしの手のひらの上にいてね ﹃恋人同士﹄ あなたが悲しくなった時 見計らって逢いに行