ブックマーク / www.gentosha.jp (2)
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先日、店に歌人の岡野大嗣さんがやってきた。彼を描いた、帽子を目深くかぶり、肩幅の広いコートを着込んだイラストを見たことがあったが、ほんとうにそのままの姿で現れたので、そのことがなんだかうれしかった。 通過待ちであいてるドアの向こうから冬の工事の音がきれいだ ︵岡野大嗣﹃たやすみなさい﹄書肆侃侃房︶ 岡野さんの地元・大阪に行ったとき、JR環状線の新今宮駅で乗り換えをした。高架になっている駅からは、地面を掘削している何台かのショベルカーが見えたのだが、朝の澄んだ光に照らされたその光景は、もう二度と訪れることのない、かけがえのない瞬間のように思えた。心がじんとふるえたが、周りにいた多くの電車待ちの人に、そのことは伝わることがないだろう。まだ秋の日のことで、聞こえてくる音はなにもなく、遠くにショベルカーが動いている姿だけが見えた。 今年は岡野さんに限らず、関西の人に会う機会が多かったように思う。ト
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昨年末、画家のnakabanさんとの共著﹃ことばの生まれる景色﹄を、ナナロク社から出版した。この本の制作には著者である二人のほかにも、担当編集者、デザイナー、校正者、出版社の社長など多くの人が関わったが、ある日、そのなかでも自分が一番年上だということに気がついた。そう思うと、わたしたちの世代だけでも納得のいく本が作れてしまうのだという嬉しさと、急に重石︵おもし︶がとれたような、軽いとまどいを感じた。 わたしがある書店チェーンに入社し、本を売る仕事をはじめたのは1997年4月のこと。既にそのころから、本が売れなくなったと言われてはいたが、周りの雰囲気はまだのんびりとしたもので、最初に配属された100坪ほどの店には、社員が7人もいた。 多くの会社がそうだと思うのだが、昔の会社には﹁おじさん﹂が多かった。﹁おじさん﹂の多くはむやみに威張り散らし、勤務時間中でも、平気で姿を消した。彼らは何かを教え
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