長く着られる飽きのこないお気に入りのコートに似合うのは、未来のクラシックになりうる繰り返し読んでも古びない小説だ。アウターの大きなポケットは読みかけの文庫本の定位置になり、もう行き場に困ることもない。記憶に残る1冊とスタンダードとなる1着。時間の重みを感じさせる“未来のカノン”に、豊﨑由美さんの選書を通して出合う。#本とコート、未来のカノン ﹃天使・雲雀﹄ 佐藤亜紀 第一次世界大戦の約10年前から1928年にかけてのヨーロッパを、他者の頭の中に入り、動かすことができる︽感覚︾を具えた間諜たちが跋扈。﹃天使﹄と﹃雲雀﹄は、オーストリア=ハンガリー帝国の終焉とハプスブルク家の斜陽を、史実と虚構を巧みに織りまぜた筆致で描くインテリジェンス︵知性/諜報︶歴史小説だ。主人公ジェルジュをはじめとする登場人物すべてが魅力的な上、︽感覚︾という異能を言語化する表現が見事。エスピオナージュ小説の不穏と、歴史
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