二十世紀初頭、貴族階級の落日を告げるヨーロッパ情勢を背景に、ひとつの肉体にふたつの精神を宿す異色の双子が波瀾︵はらん︶万丈の半生を回想した﹃バルタザールの遍歴﹄で、佐藤亜紀がデビューを果たした一九九一年の衝撃は今も忘れられません。小説に求められる魅力のすべてを持ち合わせた、世界文学クラスの才能の出現に度肝を抜かれ、欣喜雀躍︵きんきじゃくやく︶したのを、つい昨日のように思い出すことができます。 それから幾星霜、発表作すべてが傑作であるにもかかわらず、佐藤氏が日本の出版界においてその才能に見合った扱いを受けているかといえば、否。トヨザキは無念でなりません。 近年でいえば…。中世と近代、野蛮と文明、迷信と理性、地主制度と資本主義。さまざまな対立項を吸血鬼譚︵たん︶を生かした物語の中に織りこみながら、誰もが誰かの血を吸い上げている世界の無残さを浮かび上がらせた﹃吸血鬼﹄︵二〇一六年︶は、語りのテク
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