お玉牛
お玉牛(おたまうし)は、上方落語の演目のひとつ。堀越村のお玉牛(ほりこしむらのおたまうし)、堀越村(ほりこしむら)とも。
概要
編集あらすじ
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紀州と大和の国境あたりにある堀越村の若い男たちが集まって、京都の奉公先から戻ってきた美女・お玉の噂話をしている。そこへ遅れて現れた通称﹁アババの茂兵衛﹂が﹁玉ちゃんのことは、あきらめてもらおか。俺が﹃うん﹄と言わせたんやさかいな﹂と告げ、ひとつのキセルをふたりで吸い合った、と自慢する。茂兵衛はその後、お玉の襟元に手を差し入れて、﹁この手、奥まで入れさしてもろてええか?﹂とお玉に問い、お玉は﹁あんたにまかせた体じゃもの、どうなと信濃の善光寺︵=どうとでもしなさい、という地口︶……﹂と答えた、と言う。男たちが﹁玉ちゃん、ホンマにそんなこと言うたんか?﹂と叫ぶと、茂兵衛は﹁言うた、思て目ェ覚ましたら、夢や﹂と明かし、男たちを怒らせる。
そこへ、通称﹁小突きの源太﹂が鎌を振り回して踊り、﹁よいよ、よいと、こらこら、うれしィてたまらん﹂と奇妙な歌を歌いながら現れる︵歌舞伎舞踊の﹃色彩間苅豆﹄のパロディ︶。男たちが﹁どないしたんや、そないに浮かれて﹂と訊くと、源太は﹁お前ら、これがうれしィてどないなるかい。玉ちゃんのことは、俺が﹃うん﹄と言わせた﹂と答える。男たちが﹁また夢の話か﹂とあきれていると、源太は﹁俺は今の今、玉ちゃんに会︵お︶うて訊いたったんや。﹃断れば、この鎌で胴ン腹︵どんばら︶にお見舞い申すぞ。うん、と言え!うんか?鎌か?ウンカマか?﹄……玉ちゃん、﹃うん﹄言いよった。﹃こっちおいで﹄言うて竹藪へ連れて行たら、﹃今晩、裏の切り戸開けときますさかい、忍んできてくれたら、うん、言おうやおまへんか﹄やて……﹂と一方的にまくし立て、ふたたび鎌を振って歌いながら去っていく。
その頃、帰宅したお玉は、泣きながら両親に源太の乱暴ぶりについて訴える。父親は大いに怒り、﹁心配すな、わしがなんとかしたる。こうしよう、わしの部屋にお玉寝かせ。お玉の部屋に、こないだ博労︵ばくろう=家畜の仲買︶してきた牛ィ寝かしとけ﹂と母親に命じる。
夜ふけになり、源太が、歌い踊りながらお玉の家にやってくる。源太は切り戸が開いていることを確認し、台所から忍び入る。﹁玉の居間は、台所の次の間。ここから忍んで、おお、そうじゃ、そうじゃ﹂と歌舞伎のような口調になって喜ぶ︵※ここで下座からハメモノが流れる︶。暗闇の中でお玉の部屋にたどり着いた源太は、障子を開けて布団を探り当て、めくって中をまさぐる。﹁玉ちゃん、えらい毛だらけやなあ……ああ、布団の下に毛布着してもうとんねん。……大きい体やなあ。寝肥︵ねぶとり︶かいな?頭どっちや?恥ずかしがってんと、なんとか言いな﹂
源太の手は何かぶらぶらしたものに当たる︵※このとき演者は、まさぐる動作を左手だけで上手側に移動させて演じながら、たたんだ扇子の端を右手でつまんでぶら下げ、それを表現する︶。﹁うれしいなあ、昼と夜で髪を変えて、お下げに結うてくれたあンねん︵※ここで扇子が動き、演者の頭をはたく︶……お下げでどつかんかて︵=殴らなくても︶ええやないかい。何かベチャベチャする……鬢付け︵びんつけ︶やな。さぞええ匂いするやろな、嗅がしてもらおか。……ウーッ、この鬢付け腐ってけつかる。いや、俺の鼻が下衆鼻︵げすばな︶やさかいこんな臭いすんのや﹂源太が触っていたのは牛の尾と肛門であった。
︵※ここで演者が下手側に手を移し、左手に縦に折った手ぬぐいと扇子でV字を作って立てて持ち、右手でその手ぬぐいを触る︶﹁ああ、こっちが頭やな。なるほど一本こうがい。ウニコールの一本こうがいは高いと聞いてるがな。どこの質屋へ持って行ても、50両の値打ちあるで。それだけあったら……︵※扇子のほうに手が当たる︶ほ、ほう。こっちにもあるわ、二本こうがいか。こら100両……ホンマに頭はどこや﹂
角を引っぱられ、揺さぶられた牛は怒り、﹁モオオオ﹂と大きなうなり声を上げる︵※下座のハメモノが止む︶。激しく驚いた源太はお玉の家を飛び出し、兄貴分宅に転がり込む。兄貴分が﹁誰やと思たら、小突きの源太やないかい。今晩﹃お玉とこ行く﹄てえらそうに抜かして、お玉を﹃うん﹄と言わしたか﹂とたずねると、源太は、
﹁いいや。﹃もう﹄と言わしてきた﹂