位相空間がコンパクト︵英: compact, /kəmˈpækt/[1]︶であるとは、後述する所定の性質を満たす﹁性質の良い﹂空間であり、
上の有界閉集合の性質を抽象化したもの。
﹁完閉﹂という訳語もあるが、ほとんど使われていない。
位相空間Xの部分集合Yに対し、YのXにおける閉包がコンパクトであるときYはXで相対コンパクト︵英: relatively compact︶であるという。
なおブルバキなどでは、本項でいうコンパクトを準コンパクト︵英: quasi-compact︶、準コンパクトでハウスドルフの分離公理を満たすものをコンパクトと定義することもある。これは現代でも代数幾何学においては慣習的にそうである。
ボルツァーノ・ワイエルシュトラス性によるコンパクトの定義
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すでに述べたようにコンパクト性には2種類の同値な定義がある。本章ではこの2つの定義のうち、ボルツァーノ・ワイエルシュトラス性による定義について述べる。
本節ではボルツァーノ・ワイエルシュトラス性の定式化に必要な概念である有向点族の概念を導入する。有向点族とは有向集合を添え字とする族である:
定義 (有向集合・有向点族) ― 空でない集合ΛとΛ上の二項関係﹁≤ ﹂の組 (Λ, ≤)が有向集合︵ゆうこうしゅうごう、英: directed set︶であるとは、﹁≤ ﹂が以下の性質を全て満たす事を言う[2]:
●︵反射律︶∀λ∈Λ : λ ≤λ
●︵推移律︶∀λ,μ,ν∈Λ : λ ≤ μ, μ ≤ν ⇒ λ ≤ ν
●Λの任意の二元が上界を持つ。すなわち∀λ,μ∈Λ∃ν∈Λ : λ ≤ ν, μ ≤ν
集合X上の有向点族とは、X上の族(xλ)λ∈Λで添字集合Λが有向集合であるものを指す[2][注3]。有向点族はネット (英: net)、 Moore-Smith 列(英: Moore-Smith sequence[3])、generalized sequence[3]などとも呼ばれる。
なお、有向集合の二項関係﹁≤ ﹂は、反射律と推移律を満たすのものの反対称律は満たす必要がないので、前順序ではあるものの順序の定義は満たしていない。
点列と同様、有向点族に対して収束概念や部分有向点族の概念を定義する事ができる。詳細は有向点族の項目を参照されたい。
有向点族の概念は、点列概念と違い、添字が可算である事も全順序である事も要求しない。この事が有向点族に点列にはない優位性をもたらしており、例えば有向点族の収束の概念を用いれば、閉集合など位相空間の諸概念を特徴づける事ができる事が知られているが、点列の場合はそうではない。なぜなら点列概念は添字が可算である事が原因となり、点列で閉集合を特徴づけるには位相空間の方にも何らかの可算性を要求する必要が生じてしまうからである。詳細は列型空間を参照。
上記の定義は、 上の有界閉集合に関するボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理の結論部分を有向点族に自然に拡張したものである:
定理 (ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理) ―
が有界閉集合であるとき、X上の任意の点列は収束する部分列を持つ。
なお、コンパクトの定義において、元々のボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理と同様、有向点族ではなく点列に対してのみ収束部分列を要求したものを点列コンパクト性と呼ぶが、点列コンパクト性は距離空間においてはコンパクト性と同値(より一般的に擬距離空間でも同値)であるものの、無条件にはこの同値性は成立しない。点列コンパクト性に関する詳細は後述する。
コンパクト性は、有向点族と本質的に同値な概念であるフィルターの収束によっても特徴づけられる。また普遍有向点族やその対応概念である超フィルターを用いても特徴づける事ができる。これまでに述べて特徴づけも含め、こうしたコンパクト性の様々な特徴づけを列挙する
コンパクトな位相空間の部分集合に関し、以下が言える:
- コンパクト空間の部分集合が閉集合ならコンパクトである。
- ハウスドルフの分離公理を満たす位相空間のコンパクト部分集合は閉集合である。
したがってコンパクトかつハウスドルフな位相空間(コンパクトハウスドルフ空間)では部分集合Aが閉集合である事とAがコンパクトである事は同値である。
- コンパクト空間から位相空間への連続写像の像はコンパクト集合である。
- (有限個または無限個の)コンパクト空間の直積はコンパクトである。(チコノフの定理。この定理はZF のもとで選択公理と同値である[5])
- コンパクト空間からハウスドルフ空間への連続な全単射写像は同相写像である。
- コンパクト空間から実数体への連続関数は一様連続である。(ここから連続関数がリーマン可積分であることが言える)
- コンパクトハウスドルフなら正規[6]
X が距離空間であれば、コンパクト性をまた別の方法で特徴づける事ができる。まずは結論となる定理を提示し、それから定理の記述に必要な概念を順に導入する。
定理 (距離空間におけるコンパクト性の特徴づけ[7]) ―
X を距離空間とするとき以下の3つは同値である。
- X はコンパクトである。
- X は全有界かつ完備である。
- X は点列コンパクトである。
距離空間Xが全有界であるとは任意の ε > 0 に対し、X を半径 ε の有限個の開球で被覆する事ができる事を指す:
定義 (全有界性) ―
距離空間Xが全有界︵ぜんゆうかい、英: totally bounded︶もしくはプレコンパクト︵英: precompact︶であるとは任意の ε > 0 に対し、Xの有限部分集合
が存在し、
となる事を指す。︵ここで
は点xのε-近傍
を表す。︶
全有界性は以下のようにも特徴づけられる事が知られている:
定理2 ― 距離空間Xが全有界である必要十分条件は以下を満たす事である:
X上の任意の点列に対しある部分列が存在し、その部分列はコーシー列である[8]。
定義 ―
距離空間 X が完備であるとは X 上のコーシー列は必ず収束する事を指す。
詳細は完備距離空間の項目を参照されたい。
位相空間が点列コンパクトとは、一般の有向集合ではなく点列に対してのみボルツァーノ・ワイエルシュトラス性が保証される事を意味する[注 4]:
定義 ―
位相空間 Xが点列コンパクトであるとは、X 上の任意の点列は収束部分列を持つ事を指す。すなわち X上の任意の点列
に対し適当な部分列
を取れば
は X上のいずれかの点に収束する事を指す。
点列コンパクト性の事を点列に対するボルツァーノ・ワイエルシュトラス性とも言う。
コンパクトと点列コンパクトの同値性は擬距離空間でも成立するが、無条件には成立しない。点列コンパクト性に関する詳細は後述する。
距離空間においてはコンパクト性と「全有界かつ完備」が同値になる事をユークリッド空間に適用すると、以下の系が従う:
系 ― 有限次元のユークリッド空間(あるいはより一般に完備リーマン多様体)の部分集合 A がコンパクトである必要十分条件は A が有界閉集合である事である。
より正確に言うと有限次元のユークリッド空間や完備リーマン多様体の部分集合に対しては、有界性と全有界性が同値であり、完備性と閉集合である事が同値である。これらの事実は簡単に証明できる。
コンパクト性と「全有界かつ完備」が同値になる事は距離空間よりも一般的な一様空間でも成立する:
定理 (一様空間におけるコンパクト性の特徴づけ) ―
X を一様空間とするとき以下の3つは同値である。
- X はコンパクトである。
- X は全有界かつ完備である。
一様空間の定義は当該項目を参照されたい。一様空間における全有界性と完備性は以下のように定義される:
定義・定理 (一様空間における全有界性) ―
を一様空間とし、DをX上の擬距離の集合でDが定める一様構造が
と一致するものとする。
このとき以下の条件は全て同値である。これらの条件の少なくとも1つ︵したがって全て︶を満たすとき、
は全有界(英: totally bounded)もしくはプレコンパクト(英: precompact)であるという[9][10]。
●任意の近縁
に対し、ある有限集合F∈Xが存在し、
である。
●任意の擬距離d∈Dと任意の実数ε>0に対し、Xの有限部分集合Fが存在し、
が成立する。
●X上の任意の有向点族は部分有向点族でコーシーなものを持つ。
定義 (一様空間の完備性) ―
距離空間 X が完備であるとは X 上の任意のコーシー有向点族が少なくとも1つ極限を持つ事をいう。
上で「少なくとも1つ極限を持つ」という言い方をしているのは、 が定める位相構造がハウスドルフでない限り、有向点族の収束の一意性は保証されないからである。
擬距離化可能空間においてコンパクト性は以下のようにも特徴づける事ができる:
定理 (Niemytzki-Tychonovの定理) ― Xを擬距離化可能な位相空間とするこのときXがコンパクトである必要十分条件は、X上の任意の擬距離d(でその擬距離の定める位相がXの位相と一致するもの)に対し、擬距離空間 が完備である事である[11]。
すでに述べたように、有限次元ベクトル空間やより一般に有限次元の完備リーマン多様体の部分集合に対してはコンパクト性は有界閉集合と等しい。一方無限次元の空間の場合は、どのような空間にどのような位相を入れるかにより結論が異なる。
ノルムから位相を入れたベクトル空間(ノルム空間)に対してはリースの補題から直接的に次の事実が従う:
命題 ― もしくは 上のノルム空間Vの閉単位球がコンパクトである必要十分条件はVが有限次元である事である。
この定理を具体例を通して説明すると、例えばℓ2空間
にℓ2ノルム
から定まる距離を入れた空間の閉単位球
はコンパクトではない。
実際、
とすると︵ここでδn,kはクロネッカーのデルタ︶、
for n≠m
であるので、
のいかなる部分列
もコーシー列の条件
を満たしえず、したがって
は収束部分列を持たない為点列コンパクトではなく、よってコンパクトでもない。
ℓ2空間の閉単位球Bがコンパクトにならない原因は、Bは有界であっても全有界ではないからである。実際、
for n≠mであるので、
を満たす正数εに対しては、各
を覆うために一つずつε-球を用いる必要があるので、可算無限個のε-球が必要となり、全有界ではない。
一方、無限次元空間であってもノルムから定まる位相以外の位相に関しては閉単位球がコンパクトになる事もある:
定理 (バナッハ・アラオグルの定理) ― Kを もしくは とする。このときK上のノルム空間Vの双対空間V*に*弱位相を入れると、(Vが無限次元であっても)V*の閉単位球はコンパクトである。
ここでノルム空間Vの双対空間V*はV上のK値連続線形写像全体を関数としての和と定数倍によりベクトル空間とみなしたものであり、*弱位相とはx ∈ Vに対し、
とするとき、μxが全て連続になるV*上の最弱の位相の事である。なおV*は作用素ノルムによりノルム空間とみなせ、上記の定理で言う﹁閉単位球﹂はこのノルムに関する閉単位球の事である。
*弱位相はハウスドルフ性を満たす事が知られており、コンパクトな空間の閉部分集合はコンパクトなので、以下の系が成立する‥
系 ― V*に*弱位相を入れた空間の有界閉集合はコンパクト
なお、Vが再帰的であればV上の弱位相に関しても同様な事が成立する事が知られているが、再帰的でない場合には反例がある事が知られている[12]。
注意しなければならないのは、*弱位相における有界閉集合には内点が無く、有界閉集合上の点は必ず境界点になる事である。これはすなわち、たとえ閉単位球がコンパクトであっても*弱位相をいれたV*が後述する局所コンパクトにはなっていない事を意味する。
本節では位相空間の(有限個または無限個の)直積には2種類の位相が入り、コンパクト空間の無限個の直積に前者の位相を入れた場合はコンパクトになるが、後者の位相を入れた場合はそうなるとは限らない事を見る。
を位相空間の族するとき、 には以下の2種類の位相が入る。
定義 (直積位相、箱型積位相) ―
を位相空間の族とする。このとき、
●全ての射影
を連続にする最弱の位相を直積位相もしくはチコノフ位相という。
●
を開基とする位相を箱型積位相︵英語版︶という[13]。
これら2つの位相は有限個の直積 を考えている場合は同一であるが、無限積を考えた場合には箱型積位相のほうが直積位相よりも強い(弱くない)位相になる。これを見るために直積位相を具体的に書き表すと、以下のようになる事が知られている:
定理 ― 上の定義と同様に記号を定義するとき、
直積位相は
- , 有限個のλを除いて
を開基とする。
Λが無限集合のときは、﹁有限個のλを除いて…﹂という条件が原因で、箱型積位相と差が生じる。例えば
を
の(可算)無限個のコピーとし、
を
の無限個のコピーとするとき、直積
は直積位相に関して
の開集合ではない。実際、前述の﹁有限個を除いて…﹂という条件を満たしておらず、条件をみたすものの和集合としても書けないからである。
コンパクト空間の(有限個または無限個の)直積に直積位相位相を入れたものはコンパクトである:
定理 (チコノフの定理) ― をコンパクトな位相空間の族とする。このとき直積 に直積位相を入れたものはコンパクトである。
なおチコノフの定理は(ZF公理系を仮定した上で)選択公理と同値である事が知られている[14]。
チコノフの定理より例えば
上の単位区間
の無限個のコピー
の直積
に直積位相を入れたものはコンパクトである。
一方
に箱型積位相を入れたものはコンパクトではない。実際、
に対し、ノルムを
と定義すると、箱型積位相はこのノルムから定まる位相と一致する事を簡単に確かめる事ができる。そこで
として無限次元ノルム空間の場合と同様の議論でコンパクトでない事を示せる。
位相空間X のコンパクト化とは Xをコンパクトな位相空間に稠密に埋め込む操作を指す。コンパクトな空間は数学的に取り扱いやすい為、X をそのような空間に埋め込む事で Xの性質を調べやすくする事ができる。コンパクトでない位相空間に一点付け加えるだけでコンパクト化する方法が必ず存在する(アレクサンドロフの一点コンパクト化)他、いくつかのコンパクト化の方法が知られている。実用上は Xの構造を保つなど、X の性質が調べやすくなるコンパクト化の方法を選ぶ必要がある︵例えば Xが多様体であるときにコンパクト化 Kとして多様体になるものを選ぶ等︶。
コンパクト性は位相空間論における重要概念の一つなので、コンパクト性の定義を拡張したり修正したりした概念が複数存在する。本節ではこうした概念を紹介し、それらの関係性を述べる。
可算コンパクト、点列コンパクト、擬コンパクト
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これらの概念は以下のように定義される。点列コンパクトの定義は前の章ですでに述べたがが再掲している:
名称
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名称(英語)
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定義
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可算コンパクト
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countably compact space
|
Xの任意の可算開被覆 は有限部分開被覆 を持つ。ここでXの可算開被覆 とは開被覆で可算集合であるものをいう。
|
点列コンパクト
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sequentially compact space
|
X 上の任意の点列は収束部分列を持つ事を指す。すなわち X 上の任意の点列 に対し適当な部分列 を取れば は X 上のいずれかの点に収束する事を指す。点列コンパクト性の事を点列に対するボルツァーノ・ワイエルシュトラス性とも言う。
|
擬コンパクト
|
pseudocompact
|
Xから実数体への連続関数 f が必ず有界となる
|
これらの概念は以下の関係性を満たす:
定理 ― コンパクト⇒点列コンパクト⇒可算コンパクト⇒擬コンパクト[15]。
擬距離化可能な空間ではこれら4つの概念は同値である:
定理 (擬距離化可能空間における同値性) ― を位相空間とする。
Xが擬距離化可能空間であれば、コンパクト、可算コンパクト、点列コンパクト、擬コンパクトは同値[16]。
Xが擬距離化可能とは限らない場合はこれらは同値とは限らないが、以下のような関係を満たす:
定理 ―
を位相空間とする。
●Xが第一可算公理を満せば、Xの点列コンパクト性と可算コンパクト性は同値[17]。
●Xがパラコンパクト︵後述︶で擬コンパクトならコンパクト[18]。
局所コンパクト、σ-コンパクト、リンデレーフ、パラコンパクト、メタコンパクト
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これらは以下のように定義される:
名称
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名称(英語)
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定義
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局所コンパクト
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locally compact
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Xの任意の点がコンパクトな近傍を持つ事。
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σ-コンパクト(しぐま-)
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σ-compact space
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Xは可算個のコンパクト集合の和集合として書ける
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リンデレーフ
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Lindelöf space
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X の任意の開被覆は可算部分被覆を持つ
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パラコンパクト
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paracompact
|
Xはハウスドルフであり、Xの任意の開被覆は局所有限な細分を持つ[19]。ここで X の被覆 が被覆 の細分(英: refinement)であるとは、 の任意の元Tに対して の元Sが存在してT⊂Sを満たす事を言う[20]。またX の被覆 が局所有限(英: locally finite)であるとは、任意のx ∈ Xに対し、xの近傍Nが存在し、 となる が有限個しかない事を指す[20]。
|
メタコンパクト
|
metacompact
|
X の任意の開被覆はpoint finiteな細分を持つ。ここで被覆 がpoint finiteであるとは任意のx ∈ Xに対し、x ∈ Tとなる が有限個である事を言う[21]。
|
σ-コンパクトの定義に関して留意点を述べる。σ-コンパクトは局所コンパクトと違い、コンパクトな近傍(すなわち内点を持つ集合)である事を要求されていない。これが原因でσ-コンパクトであっても局所コンパクトではない事があり得る。例えば有理数の集合 は一点集合(これはコンパクトである)の可算和で書けるのでσ-コンパクトだが、 の各点のいかなる近傍も距離空間として完備でないのでコンパクトではなく、よって は局所コンパクトではない。
以上の概念は以下の関係性を満たす:
定理 (各種概念の関係性) ―
を位相空間とする。
●Xが第二可算公理を満たせばリンデレーフ[22]
●Xが距離化可能空間であれば、リンデレーフ性と第二可算公理と可分性は同値[23]
●Xがσコンパクトかつ局所コンパクトならパラコンパクトである[24]。
●Xがσ-コンパクトならリンデレーフ空間[25]
●Xが正則リンデレーフ空間であればパラコンパクト[25]
●Xが擬距離化可能ならパラコンパクト[19]
●XがメタコンパクトなT1空間であれば、可算コンパクト性とコンパクト性は同値[26]。
以上で述べた概念の中で重要なものの一つにパラコンパクトがある。本節ではパラコンパクトの性質について述べる。なおパラコンパクトの定義において我々は文献Kellyに従い、ハウスドルフ性を条件として課したが、書籍によってはハウスドルフ性を仮定していないので、注意が必要である。
パラコンパクトに関しては以下のようにも特徴づけられる。なお︵ハウスドルフ性を満たす︶パラコンパクトな空間は必ず正規空間になる事が知られている[19]。
定理 (パラコンパクトの特徴づけ) ― を正則な位相空間とするとき、下記の条件は全て同値である[19][注 6]:
- Xはパラコンパクト
- Xの任意の開被覆は局所有限で開な細分を持つ
- Xの任意の開被覆は局所有限で閉な細分を持つ
ここで細分が開であるとは細分が開被覆になっている事を意味する。同様に細分が閉であるとは細分が被覆になっている事を意味する。上記の定理はパラコンパクトな空間において開被覆が単に局所有限な細分を持つだけでなく、局所有限でしかも開な細分や閉な細分を持つ事を保証している。
コンパクト性は開被覆が、(開な)部分被覆を持つ事を保証しているので、パラコンパクトな空間において開で局所有限な細分が保証される事は、コンパクト性において成り立っている議論をパラコンパクト性に拡張する際に有益である。
パラコンパクトな空間の重要な性質の一つとして、開被覆に従属する1の分割の存在が保証されるというものがある。この事実を述べるためにまず1の分割の定義、およびそれが開被覆と両立する事の定義を述べる:
なお上述の条件1に対する関連概念として関数の台(英: support)
が存在するが、1の分割の定義では関数の台と違い閉包を取っていない事に注意されたい。また条件2において和を取っているが、この和は条件1より各x∈Xに対して有限和である事が保証されているので、族(fα)α∈Aが仮に非可算無限個の元を持っていても和は意味を持つ。
定義 (開被覆に従属する1の分割) ―
を位相空間とし、
をXの開被覆とし、(fα)α∈AをXの1の分割とする。
●任意のα∈Aに対し、あるτ∈Bが存在し、
が成立するとき、(fα)α∈Aは
に従属する(英: subordinate)という[27]。
●A=Bであり、任意のα∈A=Bに対し、
が成立するとき、(fα)α∈Aは
に正確に従属する(英: precisely subordinate)という[27]。
パラコンパクトな空間は開被覆に従属する1の分割で特徴づけられる:
定理 (1の分割によるパラコンパクトの特徴づけ) ―
がハウスドルフ空間であるとき、下記の条件は全て同値である[28][注7]‥
●Xはパラコンパクト
●Xの任意の開被覆
に対し、
に従属する1の分割が存在する。
●Xの任意の開被覆
に対し、
に正確に従属する1の分割が存在する。
(一)^ この部分の議論はコンパクト化の概念を定義する事により、厳密化する事ができる
(二)^ なお、閉多様体という言葉は書籍により意味の違いがあり、コンパクトな多様体を閉多様体と呼ぶものと、コンパクトで縁のない多様体を閉多様体と呼ぶものが有る
(三)^ より厳密に言うと、有向集合(Λ,≤)と、ΛからXへの写像x : Λ→Xの組の事をΛを添字集合とする有向点族と呼ぶ
(四)^ 単に﹁ボルツァーノ・ワイエルシュトラス性﹂といったとき有向点族に対するものを指すのか点列に対するものを指すのかは書籍により異なるので注意が必要である。
(五)^ なお、任意の点列が収束部分列を持つこと︵すなわち点列コンパクトである事︶と集積点を持つ事とは一見同値にみえるが、Xが第一可算公理を満たさない場合は前者のほうが後者よりも一般には強い条件である。Xが第一可算公理を満たしさえすれば、点列
の集積点x∈Xの加算近傍系
に属する各近傍から
の元を一つずつ選ぶことでxに収束する部分列を取れるが︵具体的には
とするとき、
とすれば、部分列
はxに収束する︶、Xが第一可算公理を満たさない場合はこのような手法でxに収束する部分列を作る事ができないからである。
(六)^ #Schechter p.449ではパラコンパクト性質の条件としてハウスドルフではなくそれより弱い﹁preregular﹂を課しているが、この意味でのパラコンパクト性を満たせばハウスドルフになる事が示されているので定義は同値である
(七)^ なお#Schechter p.449.ではハウスドルフではなくそれより弱い﹁preregular﹂(同文献p.439-440参照)をこの定理に課しているが別の注釈ですでに述べたようにパラコンパクトな空間ではpreregularならハウスドルフである
●John L. Kelly (1975/6/27). General Topology. Graduate Texts in Mathematics (27). Springer-Verlag. ISBN 978-0387901251
●Kindle版‥ASIN : B06XGRCCJ3
●翻訳版‥ジョン・L.ケリー 著、児玉之宏 訳﹃位相空間論﹄吉岡書店︿数学叢書﹀、1979年7月1日。ISBN 978-4842701318。
●内田伏一﹃集合と位相﹄裳華房︿数学シリーズ﹀、1986年11月5日。ISBN 978-4785314019。
●Eric Schechter (1997/1/15). Handbook of Analysis and its Foundations. Academic Press. ISBN 978-0126227604
●Stephen Willard﹃General Topology﹄Dover Publications、2004年。ISBN 0-486-43479-6。
●松島与三 (2008). 多様体入門. 数学選書5 (37 ed.). 裳華房. ISBN 978-4-7853-1305-0
●Christopher E. Heil. “Alaoglu's Theorem”. LECTURE NOTES, MATH 6338 (Real Analysis II), Summer 2008. Georgia Institute of Technology. 2021年3月22日閲覧。