ヘッケ指標
原文と比べた結果、この記事には多数の︵または内容の大部分に影響ある︶誤訳があることが判明しています。情報の利用には注意してください。 |
イデールを使う定義
編集
ヘッケ指標は、数体や大域函数体のイデアル類群の乗法的指標(Multiplicative character)である。ヘッケ指標は、射影的写像をもつ合成を経由して、主イデール(principal idele)の指標に一意に対応する。
この定義は指標の定義に依存している。指標の定義は書籍の筆者により少し異なっている。0 を含まない複素数︵﹁準指標とも言う︶への準同型として定義されるかもしれないし、C の単位円の群(unit circle in C)︵﹁ユニタリ性﹂︶であるかもしれない。任意のイデール類群の準指標は、一意的にユニタリ指標にノルムの実数べきをかけた値として書くことができ、2つの定義にさほどの大きな差異はない。
ヘッケ指標 χ の導手(conductor)は、χ が mod m のヘッケ指標となる最大イデアルのmのことである。ここにmod m のヘッケ指標 χ とは、全ての v-adic な成分が 1 + m Ov にあるような有限なイデール群の上の指標と考えたとき、χ が自明な場合を言う。
イデアルを使う定義
編集
ヘッケに遡ると、ヘッケ指標の元来の定義は、分数イデアル上の指標を使っていた。数体Kに対し、m = mfm∞ を、有限部分としてはKのイデアルmf を持ち、無限部分としてはKの実数の座(place)の﹁形式的な﹂積として持つ K-モジュラス(modulus)とする。Im でKの分数イデアルの群を素イデアルmf を表し、Pm で主分数イデアル (a) の部分群を表す。ここにaは、その因子の多重度に応じて、各々のmの座で1に近く。mf の中の各々の有限の座vに対し、ordv(a - 1) は、少なくともmf の中のvの成分と同じ大きさであり、aはm∞ への各々の実埋め込みの下では正である。modulus m を持つヘッケ指標は、Im から 0 でない複素数への群準同型であり、Pm の中のイデアル (a) に対し、その値は、Kのすべてのアルキメデス的完備化の乗法群の積から 0 でない複素数への連続写像のaでの値に等しい。アルキメデス的完備化の乗法群上では、この準同型の各々の局所成分は、同じ実数成分を持っている。︵ここに、K上の様々なアルキメデス的な座に対応する埋め込みを使い、Kのアルキメデス的完備化の積の中へaを埋め込む。︶このようにして、ヘッケ指標は modulo m とする射類群(ray class group)上で定義される。ここの射類群とは商Im/Pm である。
厳密に言うと、ヘッケは、総実な生成子を持つような場合の主イデアルの振る舞いについての基本的な事項を作った。従って、上の定義について、彼は全ての実数の座が現れるモジュラスを持つ仕事をしたのみであった。無限部分m∞ は、現在では無限タイプの考え方に含まれている。
2つの定義の間の関係
編集
イデアルでの定義はイデール的な定義よりも非常に複雑で、ヘッケの定義したことの動機は、︵ヘッケのL-函数と呼ばれる︶L-函数の構成にあった。[1] ヘッケのL-函数はディリクレのL-函数の考えを、有理数から他の代数体へ拡張したものである。ヘッケ指標 χ に対し、ヘッケ指標のL-函数は、次のディリクレ級数として定義される。
の和は、ヘッケ指標のモジュラスmと素な整数イデアルを渡る。記号 N(I) はイデアルノルム(ideal norm)を意味する。部分群Pm 上のヘッケ指標の振る舞いを統制する共通の実数部の条件は、ディリクレ級数がある適切な半平面の領域で絶対収束することを意味している。ヘッケはこれらのL-函数が全複素平面へ有理型接続を持ち、指標が自明であるときには s = 1 でオーダー1である極を持ち、それ以外では解析的であることを証明した。原始ヘッケ指標︵原始ディリクレ指標に同じ方法である modulus に相対的に定義された︶に対し、ヘッケは、これらのL-函数が指標の L-函数の函数等式を満たし、L-函数の複素共役指標であることを示した。
主イデアル上の座と、無限での座を含む全ての例外有限集合の上で1である単円の上への写像を取ることで、イデール類群の指標 ψ を考える。すると、ψ はイデアル群IS の指標 χ を生成し、イデアル群はS上に入らない素イデアル上の自由アーベル群となる。[2]Sに入らない各々の素イデアル pの統一された元 π を取り、各々の pを、p の中では π であり、そうでない場合は1であるようなイデールのクラスへ写すことにより、IS からイデアル類への写像 Π を定義することができる。χ を Π と ψ の合成とすると、χ はイデアル群上の指標としてうまく定義できる。[3]
逆の方向では、IS の許容(admissible)指標 χ が与えられると、一意にイデール類群 ψ が対応する。[4] ここの許容とは、集合Sを基礎とする modulus mが存在し、指標 χ が 1 mod mであるイデアル上で1となることを言う。[5]
指標が大きいということは、指標が有限オーダーのタイプではないことを意味する無限タイプであるということである。有限オーダーのヘッケ指標は、ある意味で、すべて類体論により考慮されていて、それらの L-函数はアルティンのL-函数によりアルティン相互法則として示されている。しかし、ガウス体(Gaussian field)と同じくらい単純な体でさえ、重要な方法で有限のオーダーを超えたヘッケ指標を持っている︵以下の例を参照︶。後日の虚数乗法論の発達では、大きな指標の固有な座の存在が、代数多様体の、︵ひいては、モチーフの︶重要なクラスのハッセ・ヴェイユのL-函数を提供することになることを示していた。
特別の場合
編集例
編集- 有理数体に対し、イデール類群は正の実数なす乗法群と p 進整数環の単数群全てとの積に同型である。ヘッケ指標は絶対値のべきとディリクレ指標の積となる。
- 導手 1 のガウス整数のヘッケ指標 χ は次の形となる。
- s を虚数で n を整数として、イデアル (a) の生成子を a とする。ガウス整数環の単数は i のべきなので、指数が 4 の倍数である事から指標がイデアルの上で定義される。
テイトの論文
編集
L(s,χ) の函数等式のヘッケによるもともとの証明は、明らかにテータ函数を使った。ジョン・テイト(John Tate)の1950年のプリンストンの博士論文は、指導教官のエミール・アルティン(Emil Artin)の元で書かれ、ポントリャーギン双対を系統的に適用し、特殊函数を使う必要性をなくした。同様な理論が独立に岩澤健吉(Kenkichi Iwasawa)よっても開発されていて、1950年のICMの彼のトークの主題となった。後日、ヴェイユ(Weil)によるブルバキ・セミナー(Bourbaki seminar)での再定式化 Weil 1966 では、テイトの証明のある部分は、シュワルツ超函数により表現されるのではないかということであった。与えられた χ によるイデールの作用の下に変換されるKのアデール環の上の︵シュヴァルツ・ブリュアのテスト函数の︶超函数は、次元1となる。
代数的ヘッケ指標
編集
代数的ヘッケ指標(algebraic Hecke character)とは、ヘッケ指標のうちで像がある代数体にふくまれるものをいう。代数的ヘッケ指標は、ヴェイユにより1947年にタイプA0 の名前で導入された。その指標は、類体論や虚数乗法論の中に現れる。[6]
たとえばEを代数体F上定義された楕円曲線で虚二次体Kによる虚数乗法を持つものとする。SをKの素点のうちEが悪い還元をもつ素点と無限素点をすべて集めた集合とする。このときKの代数的ヘッケ指標 χ が存在し、pをSに属さない素点とすると値 χ(p) がフロベニウス自己準同型の固有多項式の根であるという性質を持っている。このことから、Eのハッセ・ヴェイユのゼータ函数は、χ とその共役の2つのL函数の積であることがわかる。[7]
脚注
編集
●座 k, K, L を体で、k ⊂ K、fがKから L ∪ {∞} への写像で、1/∞=0、1/0=∞ を満たすとする。また、f(ab) = f(a)f(b) と f(a+b) = f(a) + f(b) が成立するとき、k上でfが同型写像のとき、fをk上の座(place)と言う。このとき、代数体では、Kの R={x|f(x)≠∞} は付値環であり、極大イデアルmを通して、k上の座の同型類とk上の付値の同型類とが、1‥1に対応する。また、函数体では、一般には基礎体上の座が無限個存在する。座という用語は、英語版では、en:place (mathematics)に存在するが、日本語版には対応する用語が見当たらないので脚注化した.
参考文献
編集- Cassels, J.W.S.; Fröhlich, Albrecht, eds (1967). Algebraic Number Theory. Academic Press. Zbl 0153.07403
- Heilbronn, H. (1967). “VIII. Zeta-functions and L-functions”. In Cassels, J.W.S.; Fröhlich, Albrecht. Algebraic Number Theory. Academic Press. pp. 204–230
- Husemöller, Dale H. (1987). Elliptic curves. Graduate Texts in Mathematics. 111. With an appendix by Ruth Lawrence. Springer-Verlag. ISBN 0-387-96371-5. Zbl 0605.14032
- Husemöller, Dale (2002). Elliptic curves. Graduate Texts in Mathematics. 111 (second ed.). Springer-Verlag. doi:10.1007/b97292. ISBN 0-387-95490-2. Zbl 1040.11043
- W. Narkiewicz (1990). Elementary and analytic theory of algebraic numbers (2nd ed.). Springer-Verlag/Polish Scientific Publishers PWN. pp. 334–343. ISBN 3-540-51250-0. Zbl 0717.11045
- Neukirch, Jürgen (1999), Algebraic Number Theory, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften, 322, Berlin: Springer-Verlag, ISBN 978-3-540-65399-8, Zbl 0956.11021, MR1697859
- J. Tate, Fourier analysis in number fields and Hecke's zeta functions (Tate's 1950 thesis), reprinted in Algebraic Number Theory edd J. W. S. Cassels, A. Fröhlich (1967) pp. 305–347. Zbl 1179.11041
- Tate, J.T. (1967). “VII. Global class field theory”. In Cassels, J.W.S.; Fröhlich, Albrecht. Algebraic Number Theory. Academic Press. pp. 162–203. Zbl 1179.11041
- Weil, André (1966), Functions Zetas et Distributions, 312, Séminaire Bourbaki