安全
許容できないリスクがない状態
概説
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1971年、イザヤ・ベンダサンは著書﹃日本人とユダヤ人﹄の冒頭章﹁安全と自由と水のコスト﹂の中で、﹁日本人は安全と水は無料で手に入ると思い込んでいる﹂という、駐日イスラエル公使館︵伝聞当時︶のある書記官の言葉を紹介した[3]。
この冒頭章について、向殿政男は、﹁ユダヤ人は大切な自分の生命を守るためならば高額な費用を払ってでもホテルに居住したりするのに対して、日本人はこれまで安全は自然と守られているもの、又は 誰かが守ってくれるものと考えていたので、
安全を意識もせず、民族ごとに大きな違いがある、ということにも気づいていなかった日本人に初めて強烈な衝撃を与えた。﹂[4]と、紹介している。歴史的・地政学的・宗教的・文化的に異なっている民族間では、安全についての意識が異なっており、それは国ごとの 安全に関連する法律・規制、技術や商習慣、合意形成プロセスの違いとなって現れている[4]。
科学技術における﹁安全﹂の定義は国語辞典での定義と異なっており、時代と共に変化もしている。1950年前半から1980年後半まで、安全性の研究は、信頼性の研究の一部であった[5]。1970年代、世界各地でプラントの重大事故が発生した。1976年に発生したイタリアのセベソ事故をきっかけとして、当時の欧州委員会︵EC、後の欧州連合(EU)︶が1982年にセベソ指令(欧州指令)として、欧州統一の安全規格を策定した[6]。1990年、国際基本安全規格第1版︵ISO/IEC GUIDE 51:1990[7]︶が策定され﹃﹁品質は安全の同義語ではなく、品質規格と安全規格のそれぞれの役割を混同すべきではない。﹂﹁絶対安全は存在しない。﹂﹄[8]と宣言した。そして、安全とは﹁受容できないリスクがないこと﹂[7]と定義された。その後、1999年に、ISO/IEC GUIDE 51:1999が発行されたが、安全の定義に変更はなかった[9]。2014年、ISO/IEC GUIDE 51:2014で﹁許容できないリスクがないこと﹂[1][2]と定義が改定された。しかしながら、日本では現在においても、﹃消費者の多くは、安全といえば一切危険は存在しないという絶対安全を考えている人が多く、リスクの概念や消費者責任の意識に乏しく、ただ騒いだり不安になったりするだけの傾向もある。特に報道機関も含めて、過剰対応としか思えない例もある﹄[4]と向殿政男は書いている。→#﹁安全﹂の用法や定義
安全を扱う学問には安全学や安全工学がある。→#学問
「安全」の用法や定義
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安全の用法や定義は、領域ごとに定義の仕方が異なっている。
各国ごとの個別の歴史・地理などを踏まえるとどのように考えられるようになっているか
また、最近世界でどのように整合化が進みつつあるのか
、ひとつひとつ見てゆく。
国語辞書での用法説明
とりあえず、国語辞書︵定義宣言や意見表明をするのではなく、基本的に、当該言語圏である言葉が使われてきた実際の歴史や、現状で一般の人々の間で頻度の高い使用法︵言葉の用法︶は実際はどのようなものなのか学問的に説明する役割・任務があるとされている書物︶の説明を見てみる。
●︵大辞泉︶﹁危険がなく安心なこと。傷病などの生命にかかわる心配、物の盗難・破損などの心配のないこと。﹂としている[10]。
●︵広辞苑︶
●﹁安らかで危険のないこと。平穏無事。[11]﹂
●﹁物事が損傷したり、危害を受けたりするおそれのないこと。[11]﹂
文部科学省 科学技術・学術審議会 ︵第12回︶配付資料(2004)
﹁人とその共同体への損傷、ならびに人、組織、公共の所有物に損害がないと客観的に判断されることである。ここでいう所有物には無形のものも含む。﹂
[12]
技術界の国際的定義
一般社団法人 電子情報通信学会によれば、﹃1950年代前半にアメリカ軍を中心にして信頼性の研究が開始され、1980年代後半になり信頼性研究から安全性研究が独立するようになった。﹄[5]
1990年、国際基本安全規格第1版︵ISO/IEC GUIDE 51:1990︶が発行され、安全(safety)とは﹁受容できないリスクがないこと︵freedom from unacceptable risk.︶﹂[13]と国際的定義がなされた。
2014年、国際基本安全規格 ︵ISO/IEC GUIDE 51:2014︶で定義が改定され、安全とは﹁許容できないリスクがないこと(freedom from risk which is not tolerable NOTE For the purposes of this Guide, the terms "acceptable risk" and "tolerable risk" are considered to be synonymous.)﹂としている
[1][2]。また、同規格では﹁許容可能なリスク(tolerable risk)﹂は、﹁level of risk which is accepted
in a given context based on the current values of society ︵その時代の社会の価値観に基づき、特定の︵所与の︶コンテキストにおいて受け入れられている水準のリスク︶﹂と定義している。また、リスク︵risk︶は﹁危害の発生確率及びその危害の程度の組合せ﹂。危害 (harm) は、﹁人の受ける身体的傷害若しくは健康傷害,又は財産若しくは環境の受ける害﹂と定義している。
- 労働管理での定義
学問
編集リスクマネジメント
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安全︵許容できないリスクがない︶を実現するためには、以下のステップを繰り返す必要がある[1][2][18][19]。
(一)リスク対象の定義
(二)リスクの見積もり
︵上記2つを﹁リスク分析﹂という。︶
(三)リスクの評価
︵上記3つを﹁リスクアセスメント﹂という。︶
「リスクアセスメント」も参照
- (リスクアセスメントとリスク対応を合わせて、リスクマネジメントという。)
「リスクマネジメント」も参照
リスクの特定手法およびリスク分析手法には、トップダウン手法とボトムアップ手法がある。﹁モノづくり﹂の安全分野において、トップダウン手法としては、一般的なFTA (フォルトツリー解析) や、原子力分野で使われているETA (事象の木解析、イベントツリー解析) などがある。ボトムアップ手法としては、FMEA(故障モード影響解析)などがある。
「リスク分析」も参照
リスクの許容判定方法では、一般には影響の大きさと、影響の頻度から求める。
影響の大きさとしては人を基準にして多数死傷〜軽症、頻度としては隕石で死ぬ頻度から、交通事故ぐらいまでで考える。対象分野によっては、回避性などを考慮する場合がある。
リスク対応では、そのリスクが許容できない場合はリスクを許容できるまで低減・回避させる。低減方法には、本質安全と機能安全などがある。
「機能安全」も参照
安全文化
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安全文化[20]
(あんぜんぶんか、英:safety culture)の概念は、﹃国際原子力機関︵IAEA︶の国際原子力安全諮問グループ︵INSAG︶が、旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故に関しとりまとめた﹁チェルノブイリ事故の事故後検討会議の概要報告書﹂︵INSAG-1、1986︶において取り上げられ、その後国際的な場で広く議論されるようになった﹄
[21]。
日本の現場で頻繁に用いられている緑十字。日本での安全のシンボル。
日本人が現場で好んで掲示する﹁安全第一﹂のサイン。日本の文化の ひとつであり、安全性の向上に貢献してきた。
日本国内における安全文化と、欧米での安全文化は異なる、と言われている。日本では﹁人の努力﹂や﹁メンテナンス﹂、﹁改善﹂によって安全を担保しようとするのに対し、欧米では﹁人はミスする﹂﹁機械は壊れる﹂という前提に立って安全を考える[4]。
日本の安全文化は﹁性善説﹂で、欧米の安全文化は﹁性悪説﹂と見なすことができる
[22]。
日本では発生件数を減らすという点を重視しており、欧米では重大災害が起こらないという点を重視している[4]。
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/7d/Flag_of_safety.svg/220px-Flag_of_safety.svg.png)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/f5/Japanese_Safety_First.png/220px-Japanese_Safety_First.png)
安全基準
編集安全に関連した技術用語
編集機械や道具の安全が保てる負荷の範囲を安全率と呼ぶ。
様々な領域での安全
編集交通と安全
編集労働や仕事と安全
編集安全衛生、
食と安全
編集「食の安全」も参照
他
編集類似の概念
編集反対の概念
編集法律での安全
編集保安
編集詳細は「保安」を参照
脚注
編集注釈
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(一)^ フランス語のsécuritéの第一義は日本語の﹁安全﹂とほぼ同じ意味である。Situation dans laquelle quelqu'un, quelque chose n'est exposé à aucun danger, à aucun risque, en particulier d'agression physique, d'accidents, de vol, de détérioration http://www.larousse.fr/dictionnaires/francais/s%C3%A9curit%C3%A9/71792?q=s%C3%A9curit%C3%A9#70996 ある人やあるものがいかなる危険やリスクにもさらされていないことであり、特に物理的な侵害や事故や窃盗や劣化などにさらされていない状態のこと。︵安全を守ること、とはしていない。保安ではない。︶フランス語のsécuritéは﹁保安﹂という意味ではない。
出典
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(一)^ abcdISO/IEC GUIDE 51:2014
(二)^ abcd向殿政男﹁ISO/IECガイド51‥2014 改訂について﹂2014
(三)^ イザヤ・ベンダサン著﹃日本人とユダヤ人﹄
(四)^ abcde向殿政男﹁日本と欧米の安全・リスクの基本的な考え方について、標準化と品質管理 Vol.61 No.12﹂ 2008
(五)^ ab一般社団社団法人 電気情報通信学会 Fundamentals Review Vol.1, No.2 安全性研究会 解説論文
(六)^ http://tech.jemima.or.jp/doc/func_safety_201311.pdf JEMIMA 機能安全規格の技術解説
(七)^ abISO/IEC GUIDE 51:1990
(八)^ ﹁機械安全/機能安全実用マニュアル 付録ISO/IECガイド51﹂日刊工業新聞2001
(九)^ ISO/IEC GUIDE 51:1999
(十)^ 大辞泉 ︻安全︼
(11)^ ab広辞苑第六版﹁安全﹂
(12)^ https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/anzen/houkoku/04042302/1242079.htm 文部科学省﹁安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会報告書 第2章 安全・安心な社会の概念 2004
(13)^ ISO/IEC GUIDE 51:1990
(14)^ ISO/CD 45001:2014
(15)^ http://fukuoka-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/fukuoka-roudoukyoku/6anzen/anzen11.pdf 福岡労働局﹁絶対安全はあり得ません!﹂
(16)^ 日本学術会議、安全に関する緊急特別委員会﹁安全学の構築に向けて﹂︵平成12年2月28日︶[1]
(17)^ “Positive Peace Report 2022 – Systems Presentation”. 2022年6月15日閲覧。
(18)^ JIS Z 8051‥2004(ISO/IEC Guide 51‥1999)﹁安全側面﹂
(19)^ JIS Q 31000 ﹁リスクマネジメント―原則及び指針﹂
(20)^ ﹁安全文化―その本質と実践 (JSQC選書)﹂、日本品質管理学会
(21)^ http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/hakusyo/hakusyo17/pdf/gaiyou01hen.pdf 第1編 安全文化の醸成 - 原子力規制委員会
(22)^ https://xtech.nikkei.com/dm/article/COLUMN/20060710/118990/?P=2&rt=nocnt ものづくりの﹁順序﹂と﹁日本性善説・欧米性悪説﹂論、日経テクノロジー
(23)^ http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/003/pdf/003_002.pdf 工学システムの安全設計思想について、総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 第3回会合 参考資料1
参考文献
編集- ISO/IEC GUIDE 51:2014
- IEC GUIDE 104
- 「日本の安全文化―安心できる安全を目指して(安全学入門)」、研成社
- 「技術者倫理とリスクマネジメント -事故はどうして防げなかったのか?」、オーム社
- 「安全文化―その本質と実践(JSQC選書)」、日本品質管理学会
関連項目
編集- 「安全」を含む記事名一覧
- リスク・危険
- リスクアセスメント
- リスク分析
- 機能安全
- 食品安全基本法
- 労働安全衛生法
- 公安
- 生活安全部
- 安心 - 麻生太郎の「安全・安心」というフレーズの伝播により、並列されて使われるようになった。
- 長期使用製品安全点検制度
- 長期使用製品安全表示制度
- 自動車の安全技術