証拠(しょうこ、英語: Evidence)とは、ある命題の真偽や存否を判断するための事物である。

法律用語としての証拠

編集

法律用語

編集

法律用語としての証拠は、証拠方法証拠資料証拠原因という3つの異なった意味を含んでいる。

証拠方法

編集

事実を認識するための資料をもたらす有形物であり、裁判官による証拠調べの対象となる人や物そのものをいい、日常用語として目の前に出せる物としての「証拠」という用語法に近い意味を持つ。

証拠資料

編集

事実を認識するための資料であり、裁判官が証拠調べにより証拠方法から得た内容をいい、証人の証言や書証の記載内容のことを指す。

証拠原因

編集

証拠資料のうち裁判官が心証形成に採用したものをいい、当事者の立証活動は、自己に有利な証拠原因をできる限り多く裁判官に提供することを目的として行われることになる(刑事訴訟に関する用例であるが、「証拠不十分により処分保留のまま釈放」といった新聞でよく見かける表現は、この証拠原因の意味で「証拠」を用いていることになる。)。

証拠能力と証明力

編集

調

調

性質による分類

編集

証拠の性質によって、次のような分類がある。

人的証拠と物的証拠

編集
証拠方法が人(証人鑑定人)であるものを人的証拠、物(書証物)であるものを物的証拠という。

供述証拠と非供述証拠

編集
人の供述(ある事実について言葉で述べること)を内容とする証拠を供述証拠、そうでない証拠を非供述証拠という。

機能による分類

編集


実質証拠

編集
次の直接証拠と間接証拠を併せて実質証拠という。
直接証拠
編集
主要事実を直接的に証明する証拠を、直接証拠という。例えば、民事訴訟において、契約書や、契約を締結した旨の当事者本人の供述は、契約の存在についての直接証拠となる。また、刑事訴訟において、被害者・目撃者の犯行目撃証言や、被告人の自白は、犯行の事実についての直接証拠に当たる。
直接証拠が信用できるものであれば、その要証事実は認定できることになる。
間接証拠(情況証拠)
編集
間接事実(主要事実を推認させる事実)を証明する証拠を、間接証拠(情況証拠・状況証拠)という。例えば、刑事訴訟において、被告人を犯行時刻前後に犯行現場付近で目撃したという証言や、動機の存在を示す証拠は、その証拠それ自体が直接要証事実を物語っているわけではないが、「被告人は犯行時刻前後に犯行現場付近にいた」、「被告人には動機があった」といった間接事実から、被告人がその犯行を行ったという要証事実を推認する根拠となるから、間接証拠となる。間接証拠は状況証拠とも呼ばれるが、状況証拠という語は間接事実を指す語として使われる場合もあるなど、多義的に用いられるため注意を要する。
補助証拠
編集
補助事実(実質証拠の証明力(信用性)に関する事実)を証明する証拠を、補助証拠という。

民事訴訟における証拠

編集

証拠の位置付け

編集

[1]179

調24731020調


証拠の種類

編集

調

書証

編集

調調

220225226

調調

[1]

検証

編集

調調

232223232226

証人尋問

編集

調調190206



205124

当事者尋問(本人尋問)

編集
当事者(原告・被告)本人及びそれに代わって訴訟を追行する法定代理人(代表者)を取り調べる証拠調べを当事者尋問といい、証人尋問と同様の方法で行われる(民事訴訟法207条~211条)。これによって得られる証拠資料は、当事者本人・代表者の供述である。
当事者本人は、偽証罪の対象とならない点などで証人と異なる。

鑑定

編集
鑑定人を取り調べる証拠調べを鑑定といい、特別の学識経験を有する鑑定人に、書面又は口頭で、専門的知識や意見を述べさせることによって行われる(民事訴訟法215条1項)。これによって得られる証拠資料を、鑑定意見という。裁判所はこれに拘束はされない。

調査嘱託

編集
裁判所は、官庁・公署等の団体に対し、必要な調査を嘱託することができる(民事訴訟法186条)。この調査嘱託の結果も証拠資料となる。

刑事訴訟における証拠

編集

証拠の位置付け

編集

317調調




証拠の種類

編集

刑事訴訟法上、証拠方法として、証拠書類、証拠物、人証(証人、鑑定人)があり、それぞれ証拠調べの方法が定められている。

証拠書類の取調べ

編集
証拠書類の取調べは、朗読による(刑事訴訟法305条)。ただし、裁判長は、相当と認めるときは、朗読に代えて、要旨の告知を行わせることができる(刑事訴訟規則203条の2)。現在、刑事訴訟の実務では多くが要旨の告知によって行われている。

証拠物の取調べ

編集
証拠物の取調べは、証拠物を示すこと(展示)によって行われる(刑事訴訟法306条)。

証人尋問

編集
証人を取り調べる証拠調べが、証人尋問である(刑事訴訟法304条)。

鑑定人尋問

編集
鑑定人が口頭で鑑定結果を報告することを鑑定人尋問という。鑑定人尋問については、証人尋問の規定が準用される(刑事訴訟法171条)。

被告人質問

編集
被告人は黙秘権を有するが(刑事訴訟法311条1項)、任意に供述したときは、その供述は、被告人に有利・不利を問わず証拠資料となる。

証拠能力の制限

編集





(1)

(2)

(3)






自然的関連性

編集


自白法則

編集



3823191

38331923

伝聞証拠禁止の原則

編集
被告人の反対尋問権(憲法37条2項)の保障及び実体的真実発見のため、伝聞証拠も排斥される。
すなわち、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることは、原則としてできない(刑事訴訟法320条1項)。

違法収集証拠排除法則

編集
以上のように明文の規定があるもののほか、違法に収集された証拠物の証拠能力を否定するのが判例・通説である(違法収集証拠排除法則)。

行政事件訴訟における証拠

編集





2
  1. 電波法令に基づく総務大臣の処分についての審査請求に対する裁決に係る電波監理審議会の事実認定について当該裁決に対する取消しの訴えの場合(同法99条)
  2. 鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律に基づく裁定委員会の裁定に対する訴訟の場合(同法52条)

科学における証拠

編集

人工知能の力によって、ElicitやConsensusでは通常質の高い証拠とされるメタ分析も簡単に閲覧できるようになったが、メタ分析の仕組みを理解せずに結論を受け入れるのは危険である[2]。大規模なオンライン授業によって、世界の一流大学の授業にアクセスできるようになった現代では、証拠が不足していたり、確かでなかったりする場合には、専門家の意見が厳密な学術誌の体系的な見方で推奨されることもある[3]

注釈

編集
  1. ^ 公知の事実と職務上顕著な事実(例えば、同じ裁判所で行われた決定等)があるとされる。

出典

編集
  1. ^ 裁判所「裁判例情報」 URL: https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/995/088995_hanrei.pdf
  2. ^ Ahn, EunJin; Kang, Hyun (2018-04-02). “Introduction to systematic review and meta-analysis” (英語). Korean Journal of Anesthesiology 71 (2): 103–112. doi:10.4097/kjae.2018.71.2.103. ISSN 2005-6419. PMC PMC5903119. PMID 29619782. http://ekja.org/journal/view.php?doi=10.4097/kjae.2018.71.2.103. 
  3. ^ Heitkamp, Darel E.; Albin, Matthias M.; Chung, Jonathan H.; Crabtree, Traves P.; Iannettoni, Mark D.; Johnson, Geoffrey B.; Jokerst, Clinton; McComb, Barbara L. et al. (2015-05). “ACR Appropriateness Criteria® Acute Respiratory Illness in Immunocompromised Patients” (英語). Journal of Thoracic Imaging 30 (3): W2–W5. doi:10.1097/RTI.0000000000000153. ISSN 0883-5993. https://journals.lww.com/00005382-201505000-00009. 

関連項目

編集

外部リンク

編集