十二音技法のソースを表示

{{半保護}}
{{単一の出典|date=2019年<span class="ltr">4</span>月}}
{{Portal クラシック音楽}}
'''十二音技法'''（じゅうにおんぎほう、{{lang-en-short|Twelve-tone music}}、{{lang-de-short|Zwölftonmusik}}）は、一般には[[アルノルト・シェーンベルク]]が「五つのピアノ曲」作品<span class="ltr">23</span>で[[1921年]]に完全に体系化した（とされる）[[作曲]]技法であり、'''ドデカフォニー'''（dodecaphony）や音列主義、[[セリエル音楽|セリエリズム]]などとも呼ばれる{{Sfn|木石ら|2018|p=16}}。実際は「[[無調|無調音楽]]」や「[[ノイズミュージック|雑音音楽]]」「[[電子音楽]]」と同様に、同時代に複数の作曲家によって別々に独立して模索されてきた作曲技法である。

==背景==
シェーンベルクは、かねてより[[リヒャルト・ワーグナー|ワーグナー]]や[[クロード・ドビュッシー|ドビュッシー]]、[[リヒャルト・シュトラウス|シュトラウス]]などによってもたらされた和声学上の変化から、調性の概念に対して、「不協和音の解放」と「別の調性の確立」を模索していた{{Sfn|シェーンベルク|2019|p=168-170}}。それらは[[1908年]]12月<span class="ltr">12</span>日に[[ウィーン]]のベーゼンドルファー・ホールでの演奏会で披露された[[弦楽四重奏曲第<span class="ltr">2</span>番 (シェーンベルク)|弦楽四重奏曲第<span class="ltr">2</span>番]]を筆頭に、そうした思想に基づく作品を弟子である[[アントン・ウェーベルン|ウェーベルン]]や[[アルバン・ベルク|ベルク]]らとともに発表した{{Sfn|シェーンベルク|2019|p=168-170}}{{Sfn|沼野|2021|p=5}}。
こうした試行錯誤は約<span class="ltr">12</span>年にも及び、シェーンベルクは「'''相互の関係のみに依存する十二の音による作曲法'''」({{Lang-de-short|Methode des Komponierens mit zwölf nur aufeinander bezogenen Tönen}})と自身が呼称する十二音技法の理論を完成させた{{Sfn|シェーンベルク|2019|p=173-174}}。

==概要==
十二音技法は、西洋音楽の12[[音律]]における[[オクターヴ]]内の<span class="ltr">12</span>の[[音高]]（[[ピッチクラス]]）（[[平均律#十二平均律|平均律]]には限定されない）を均等に使用することにより、[[調]]の束縛を離れようとする技法である{{Sfn|ボッスール|2015|p=44}}。十二音技法による音楽を一般に十二音音楽と呼ぶ。一般に[[無調]]の音楽の一つとされるが、十二音技法を用いることにより一種の調にも似た統一感が得られるので、[[パウル・ヒンデミット]]のように十二音技法を一種の調であると主張する専門家もいる。

この技法の原型は、[[ヨーゼフ・マティアス・ハウアー]]が[[1919年]]に著作で発表した「[[トローペ]]」と呼ばれる音列技法である。その他では[[ロシア]]の{{仮リンク|ニコライ・オブーホフ|en|Nikolai Obukhov|de|Nikolai Borissowitsch Obuchow}}がシェーンベルクより<span class="ltr">5</span>年前（[[1916年]]）に発表したピアノ曲「インヴォカシオン」<span class="ltr">I</span>と<span class="ltr">II</span>で十二音技法の曲を作っている。さらに遡ると、[[アントン・ヴェーベルン|ウェーベルン]]が作曲した作品<span class="ltr">11</span>の「[[チェロとピアノのための<span class="ltr">3</span>つの小品 (ヴェーベルン)|チェロとピアノのための<span class="ltr">3</span>つの小品]]」（[[1914年]]）が原型であるという説もあり、これが現在最有力となっている。

==作曲方法==
以下に挙げるのは最も有名なシェーンベルクが提唱した十二音技法の作曲方法である。

オクターブ内の<span class="ltr">12</span>の音を均等に用いるために、最初にそれらの音を<span class="ltr">1</span>回ずつ使った音列を作る。そのような音列は、12!（＝479,001,600）通り作ることができるが、その全てが同等に使用できるというわけではもちろんなく、音列そのものに工夫を凝らすことが作曲家の仕事の第一である。場合によっては[[アルバン・ベルク|ベルク]]のように、音列に調性的要素を織り込むことも可能である。

ここに一つの音列の例を提示する。

[[ファイル:Example tone row.png|401px|B, Bb, G, C#, Eb, C, D, A, F#, E, Ab, F]]

この音列に基づいて作曲するとするならば、この音列の順で<span class="ltr">12</span>の各音が現れなければならない。そして<span class="ltr">12</span>の音がこの順で全て現れるまではいずれの音も反復して用いてはならない（ただし、シェーンベルクのピアノ作品などでは、一音もしくは二音が反復するケースが見られ、必ずしも厳格ではない）。ただし、[[和音]]として（連続する）いくつかの音を同時に鳴らすこともできる。[[音名]]が同じであったら、どの[[オクターヴ]]の音を選んでもいいし、[[異名同音]]の読み替えも自由である。ただ、ヴェーベルンの後期作品においては、オクターヴによる[[調性]]感を避けるため、ある音名の音がどのオクターヴに現れるかまでもが厳密に管理された。

[[音価 (音楽)|音価]]や[[リズム]]、和音として同時に鳴らす音の組み合わせを様々に変えることで、一つの音列の基本形（後述するような変形方法によって変形されていない元の形）からでも様々な楽想を生み出すことが可能である。最初期の十二音音楽はほぼこの基本形とその移高形（後述）の繰り返しのみで作曲されたが、音楽的多様性をもたらすために、さらに次のような、[[カノン (音楽)|カノン]]や[[フーガ]]などでも見られたのと同様な手法による、音列の派生形が用いられる。これらの基本形や派生形、そしてそれぞれの移高形を重層的に同時進行させることもでき、これにより一つの基本音列から多種多様な楽想を発展させることが可能となる。

=== 音列の変形方法 ===
以下のような方法が使用される。

==== 移高 ====
音列全体が[[音程]]の関係を保持したまま、全体の高さを変える方法を「移高」という。これは、[[移調]]と同じ手法であるが、「調」ではないので「移調」とは呼ばない。

この方法により、音列は<span class="ltr">11</span>通りに変形させることができ、原型も含めて<span class="ltr">12</span>通りになる。

==== 逆行形 ====
音列の始まりと終わりを逆にし、反対側から使用することを、「逆行形」という。逆行形も移高により、<span class="ltr">12</span>通りが生じる。

[[ファイル:Retrograde tone row.png|401px|F, Ab, E, F#, A, D, C, Eb, C#, G, Bb, B]]

==== 反行形 ====
音列を上下を鏡に映したようにして使用することもできる。これを「反行形」という。反行形は、どの音を反転軸にするかによって、作られる音列の音の高さが変わるが、一般には次の例のように、最初の音列の第<span class="ltr">1</span>音を軸にして反行する。これも移高により、<span class="ltr">12</span>通りが生じる。

[[ファイル:Inversion tone row.png|401px|B, C, Eb, A, G, Bb, Ab, C#, E, F#, D, F]]

==== 逆反行形 ====
反行形をさらに逆行させたものである。移高により<span class="ltr">12</span>通り生じる。

[[ファイル:Retrograde inversion tone row.png|401px|F, D, F#, E, C#, Ab, Bb, G, A, Eb, C, B]]

このように、移高、逆行、反行、逆反行を組み合わせると、<span class="ltr">1</span>つの音列から<span class="ltr">48</span>通りの音列が派生することになる。ただし、ヴェーベルンの『[[交響曲 (ヴェーベルン)|交響曲]]』（A-F♯-G-A♭-E-F-H-B-D-D♭-C-E♭）のように、前後<span class="ltr">6</span>音の音程をシンメトリーに配置することで逆行を無くした音列も存在する（逆行させても移高、反行した<span class="ltr">24</span>音列と一致するため）。

なお、これらの派生形を様々に重層的に組み合わせつつも、一つの曲はあくまで<span class="ltr">1</span>つの基本音列によって統一されるのが[[新ウィーン楽派]]の十二音音楽の原則である。

=== 対位法との親和性 ===
音列の変形方法の項でも述べたとおり、十二音技法では、移調、逆行、反行、など[[カノン (音楽)|カノン]]で使用される典型的な技法が重視されている。[[エルンスト・クルシェネク]]は『十二音技法に基づく対位法の研究』（1940年）で十二音技法の[[対位法]]的書法を体系化し、各国の作曲家に愛読された。

しかし、ハウアーは必ずしも対位法との連関がなくても十二音技法は達成できると力説し、このため新ウィーン楽派はハウアーと袂を分かった。

=== 十二音技法以外における半音階の均等な使用例 ===
歴史的には、[[ヨハン・ゼバスティアン・バッハ|バッハ]]の「[[音楽の捧げもの]]」の第<span class="ltr">1</span>曲や[[平均律クラヴィーア曲集]]第一巻のロ短調で十二音全てを使った例が挙げられる。また、[[ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト|モーツァルト]]が[[交響曲第<span class="ltr">40</span>番 (モーツァルト)|交響曲第<span class="ltr">40</span>番]]終楽章で十二音に近いメロディーを提示しているのが有名である他、『[[ドン・ジョヴァンニ]]』にも同様に十二音風のフレーズが現れ、これを<span class="ltr">20</span>世紀後半になって[[ダリウス・ミヨー]]が指摘している。[[フランツ・リスト|リスト]]は『[[ファウスト交響曲]]』で、全てを知り尽くそうとするファウストの欲求を表すために十二音全てを使った主題を用いている。

[[ロマン派音楽|ロマン派]]の後期になると、[[マックス・レーガー]]や[[リヒャルト・シュトラウス]]の作品にも十二音に限りなく近い主題が散見される。後者は交響詩『[[ツァラトゥストラはこう語った (交響詩)|ツァラトゥストラはかく語りき]]』の「科学について」の[[フガート]]でやはり十二音全てを使った主題を用いている。[[グスタフ・マーラー|マーラー]]の未完の[[交響曲第<span class="ltr">10</span>番 (マーラー)|交響曲第<span class="ltr">10</span>番]]のうち唯一の完成楽章であるアダージョでは、半音階の十二音のうち<span class="ltr">11</span>音が組み合わされた複雑な和音が、その楽章のクライマックスにおいて鳴らされる。<span class="ltr">20</span>世紀に入ると、[[バルトーク・ベーラ|バルトーク]]が[[中心軸システム]]によって半音階の十二音全てを均等的に使用することを理論的に確立させた。調性音楽の理論上において事実上[[半音階]]の均等に至ったのは彼の功績といえる。

対位法と全く関わりなく十二音技法を達成している作曲家は、戦前では[[ヨーゼフ・マティアス・ハウアー]]と{{仮リンク|ニコライ・オブーホフ|en|Nikolai Obukhov|de|Nikolai Borissowitsch Obuchow}}が挙げられる。

戦後は[[松平頼則]]、[[ルイージ・ダッラピッコラ|ダッラピッコラ]]、ゲディーニ、[[ロマン・ブラッド|ブラッド]]、[[ゴッフレド・ペトラッシ|ペトラッシ]]、[[イーゴリ・ストラヴィンスキー|ストラヴィンスキー]]、[[バーナード・スティーヴンス|スティーヴンス]]、[[ヴィトルト・ルトスワフスキ|ルトスワフスキ]]などが、自由に十二音を用いる作曲法を個別に展開している。

[[ロマン・ブラッド]]などの作曲家は、クラシックの作曲家が十二音に近いフレーズを偶然発見してしまうことをテーマに作品を書いている。

[[ドミートリイ・ショスタコーヴィチ|ショスタコーヴィチ]]の『[[交響曲第<span class="ltr">15</span>番 (ショスタコーヴィチ)|交響曲第<span class="ltr">15</span>番]]』『[[弦楽四重奏曲第<span class="ltr">15</span>番 (ショスタコーヴィチ)|弦楽四重奏曲第<span class="ltr">15</span>番]]』、[[アルテュール・オネゲル|オネゲル]]の『[[交響曲第<span class="ltr">5</span>番 (オネゲル)|交響曲第<span class="ltr">5</span>番]]』、[[アンリ・デュティユー|デュティユー]]の『メタボール』第<span class="ltr">3</span>楽章には、部分的に十二音を一度ずつ用いるメロディが主題として用いられている。これらは新ウィーン楽派の十二音技法とは異なる使い方であるが、戦後に無調音楽や十二音技法が浸透し、今まで距離を置いてきた作曲家たちが実験的に用いるようになった一例と言える。

== 総音列技法 ==
{{Main|トータル・セリエリズム}}
十二音技法では音高を数列と見なし「音列」を形成したが、これを音高のみならず音価（音の長さ）や音量（強度）あるいは音色にも応用し、音楽における全ての要素を数列化することにより、最初の数列と数式を決めた後は計算によって自動的に音楽作品を生成する作曲法を総音列技法、フランス語で[[セリー・アンテグラル]]と言う。[[オリヴィエ・メシアン]]の「音価と強度のモード」によってその可能性が示唆され、メシアンの生徒である[[ピエール・ブーレーズ]]の「[[構造 (ブーレーズ)|構造]]」第<span class="ltr">1</span>番および第<span class="ltr">2</span>番によって完全に実現された。日本では[[松平頼暁]]（頼則の息子）の「ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための変奏曲」がこの技法により作曲されている。

* パラメーターの技法
#音高：[[ソナタ形式]]の[[主題 (音楽)|主題]]にあたる十二音列を作成する。調性を感じさせてはいけないので隣同士の音程は[[トリトヌス]]（増<span class="ltr">4</span>度や減<span class="ltr">5</span>度）や半音音程（短二度や長七度）を主に並べられる。三度など調性を感じさせる物は原則禁止される。それぞれの音は<span class="ltr">1</span>回しか使えない。実際に曲に使用する場合は調性を感じさせないようにすべて[[跳躍進行]]にする。シェーンベルクの十二音技法は主としてここまでで終わっている。
#音長：[[セリエル音楽]]の場合は<span class="ltr">1</span>から<span class="ltr">12</span>までそれぞれ違った音の長さの違う音符を用意する。ウェーベルン時代は[[トータル・セリエリズム]]にはなっていないが、できるだけ繰り返しの少ない、図形的リズムやコントラスト・リズムで音の長さの秩序化を図る（参照：ウェーベルン作曲の「協奏曲」作品<span class="ltr">24</span>）。
#[[強弱]]：原則として繰り返しを避ける。セリエル音楽の場合は<span class="ltr">1</span>から<span class="ltr">12</span>までそれぞれ違った音の強弱を準備する。例えば（pppp, ppp, pp, p, mp, mf, f, sf, ff, ffz, fff, ffff）等である。ウェーベルン時代も強弱の繰り返しは極力避けるが[[ディミヌエンド]]や[[クレッシェンド]]などの大雑把な強弱法がまだ多い。
#[[音色]]：その都度[[楽器]]を頻繁に替える。<span class="ltr">1</span>回使った楽器は原則<span class="ltr">1</span>つの音列が終わりまで使えない。セリエル音楽の場合は<span class="ltr">1</span>から<span class="ltr">12</span>までそれぞれ違った楽器を準備するのが理想的である。
#[[方向]]：シュトックハウゼンによって付け加え的に提唱された。彼のたくさんの[[スピーカー]]を使った電子音楽などに見る事ができる。

十二音列は旋律ではないので、普通は音<span class="ltr">1</span>つ<span class="ltr">1</span>つが独立する[[音響作曲法]]のさきがけをなす。伴奏部分も十二音列によって初期には作曲されたが、「[[メロディー]]と[[伴奏]]との組み合わせ」と言う繰り返しを避ける為に次第に廃れ、代わって[[対位法]]的な技法（構成法や[[逆行]]・[[反行]]・[[反逆行]]）が多く用いられた。ウェーベルンでは音列と次の音列のつなぎに「[[鏡]]／Spiegel／Ambivalenz」と呼ばれる共有音で良く接続される。更に[[コントラバス]]と[[チェロ]]の[[オクターヴ]]音程奏法や[[オスティナート]]などは古今長らく使われてきたので、[[和声学]]における[[平行五度]]等と同じく「繰り返し」として意図的に厳しく避けられる。

== 自動作曲 ==
{{Main|自動作曲|アルゴリズム作曲法}}
十二音技法や総音列技法は、数式さえ決めればある程度の楽譜の自動生成が可能なため、古くは[[計算尺]]など、現在では[[コンピュータ]]を用いて[[自動作曲]]（作曲補助）が行われる。最終的な調整は人の手が入るとしても、途中の計算過程を自動化させることによって、作曲の労力を軽減させる目的で用いられる。例えば前述の「音列の変形方法」に挙げられた反行や逆行などは、簡単な計算方法によって数学的に求める事が可能である。現在の代表的な自動作曲ソフトウェアとして、フランス国立音響音楽研究所[[IRCAM]]が開発した[[OpenMusic]]が挙げられる。このソフトウェアの説明書に付属するチュートリアルの初歩段階に、十二音技法の音列各種を自動生成する練習課題がある[http://recherche.ircam.fr/equipes/repmus/OpenMusic/Documentation/OMUserDocumentation/DocFiles/Tutorial/tut006/Index.html]。

[[日本]]では[[OnpTank]]制作の[[やぎぱく]]等のソフトウェアがあるが、自動作曲の欠点はあくまでも機械で作曲するために大きな意味での『繰り返し』が生ずることで、十二音技法の本来の意図からは外れてしまう。

ただし自動作曲そのものは、十二音技法や総音列技法だけにとどまらず、様々な様式の作曲手段として用いられる。


== 影響 ==
現在この作曲法そのものは、[[セリエル音楽]]も含めて[[和声]]課題の実施や学習[[フーガ]]と同じく、過去の技法と見なされ実際の音楽に使う人はもはやほとんど見られないが、特に「前衛音楽」と呼ばれていた時代には十二音音楽に賛同する人も反対する人も、現代音楽の議論においては必ず“この作曲法から見て”と議論され書かれるほどの多大な影響力をもっていた語法であった。これに匹敵する現代音楽の技法としては「[[電子音楽]]の実習」であると[[オリヴィエ・メシアン]]などの偉大な教育者は口をそろえて指摘していた。

== 問題点 ==
十二音技法は確かに横のラインには整合性が取れているものの、縦のラインに関しては、調性の持つ「終止システム」に対してあまりに貧弱だった{{Efn|シェーンベルク自身もある程度整合性を取ろうと試みてはいたものの、<span class="ltr">12</span>音中<span class="ltr">7</span>音でメロディーを生成し、残りを縦に重ねる…等、縦のラインはかなり感覚的でアバウトなものと言える。}}。

ブーレーズはこの問題に対し、セリーから(特定の響き、進行を制御するための)「ブロック・ソノール」を生成し音列技法の限界を越えようとした。

更に練習に膨大な時間を費やす演奏だけではなくて、一般に常にメロディーとリズムを追い求める聴衆にとっては鑑賞も非常に難しく、また曲全体が同じ音価の音符によって均等に埋められているので曲による違いを見つけにくい、みんな同じ音楽の様に聴こえる難点がダルムシュタットなどで昔から指摘されている。

現在の欧米では和声や対位法・電子音楽の実習の様に音楽学生の現代音楽のための歴史的教育用の自習教材としてのみ受け入れられていて、実際の創作行為に於いては十二音技法そのものは余り用いられていないのが実態である。

== 日本の十二音音楽の享受 ==
日本における第一人者は[[入野義朗]]と言われる。その他、[[柴田南雄]]や[[戸田邦雄]]らも行ったが、[[芸術大学|芸大]]系よりも[[東京大学|東大]]出身者が多く、日本では今も昔もごく少数派とされ、音楽史以外で日本の[[音楽大学]]等で実習を含めて詳しく教えられる事はあまりなく、松平頼暁が登場するまで結果的に[[セリエル音楽]]語法までをきちんと発展・享受できないまま廃れてしまった。しかし[[黛敏郎]]によると、[[橋本國彦]]は戦中、十二音技法の試作を密かに行っていた。また[[信時潔]]は弟子の[[諸井誠]]に膨大なシェーンベルクの楽譜を「風呂敷に包んで貸し与え、諸井はそれを持ち帰って勉強した」という<ref>「日本の作曲<span class="ltr">20</span>世紀」音楽之友社、199p</ref>。

== 十二音技法を用いた主な作曲家と作品 ==
=== 戦前 ===
* [[新ウィーン楽派]]の作曲家たち
** [[アルノルト・シェーンベルク|シェーンベルク]] - 創始者。
** [[アルバン・ベルク|ベルク]]
** [[アントン・ヴェーベルン|ヴェーベルン]]
* [[ハンス・アイスラー|アイスラー]]
* [[ヨーゼフ・マティアス・ハウアー|ハウアー]] - 独自の十二音技法理論である「[[トローペ]]」を考案。
* [[エルンスト・クルシェネク|クルシェネク]]
* [[テオドール・アドルノ|アドルノ]]
* [[ノルベルト・フォン・ハンネンハイム|ハンネンハイム]]
* [[ニコス・スカルコッタス|スカルコッタス]]
* [[ハンス・エーリッヒ・アポステル|アポステル]]
* [[ルネ・レボヴィッツ|レボヴィッツ]] - ブーレーズらに十二音技法を指導。
* [[ファッテイン・ヴァーレン|ヴァーレン]]（[[:en:Fartein Valen]]） - ベルリンに学び、ノルウェーで1920年代初頭に<span class="ltr">12</span>音による作風を確立した。

=== 戦後 ===
* [[ダルムシュタット楽派]]（トータルセリー）の作曲家たち
** [[ルイジ・ノーノ|ノーノ]]
** [[ピエール・ブーレーズ|ブーレーズ]]
** [[カールハインツ・シュトックハウゼン|シュトックハウゼン]]
** [[アンリ・プッスール|プッスール]]
* [[ヴォルフガング・フォルトナー|フォルトナー]]
* [[イーゴリ・ストラヴィンスキー|ストラヴィンスキー]] - この時代に十二音技法を取り入れた。
* [[フランク・マルタン|マルタン]]
* [[スコット・ブラッドリー|ブラッドリー]] - 「[[トムとジェリー]]」など漫画映画の音楽で用いられた。
* [[ハンフリー・サール|サール]] - ヴェーベルンに師事した。
* [[レオポルド・スピンナー|スピンナー]]
* [[バーナード・スティーヴンス|スティーヴンス]]
* [[ルチアーノ・ベリオ|ベリオ]]
* [[ルイージ・ダッラピッコラ|ダッラピッコラ]]
* [[ゴッフレド・ペトラッシ|ペトラッシ]]
* [[アーロン・コープランド|コープランド]] - 後期に一部取り入れた（1962年の<span class="ltr">9</span>月に[[レナード・バーンスタイン]]率いる[[ニューヨーク・フィルハーモニック]]がリンカーン・センター内のフィルハーモニック・ホール〈1973年に「エイヴリー・フィッシャー・ホール」に、2015年に「デイヴィッド・ゲフィン・ホール」に改称〉に本拠地を移した時、それを記念するための委嘱楽曲として「管弦楽のためのコノテーションズ」を作曲した）。

=== 日本 ===
* [[松平頼則]]
* [[入野義朗]]
* [[戸田邦雄]]
* [[柴田南雄]]
* [[諸井誠]]
* [[松平頼暁]] - ここで日本人では初めてトータル・セリーが試みられた。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
===注釈===
{{Reflist|group="注釈"}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}

== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|title=シェーンベルク音楽論選|date=2019年<span class="ltr">9</span>月<span class="ltr">10</span>日|year=2019|publisher=[[ちくま学芸文庫]]|author=アーノルト・シェーンベルク|authorlink=アーノルト・シェーンベルク|translator=上田昭|ref={{SfnRef|シェーンベルク|2019}}}}
* {{Cite book|和書|title=現代音楽を読み解く<span class="ltr">88</span>のキーワード|date=2015年<span class="ltr">9</span>月<span class="ltr">30</span>日|year=2015|publisher=[[音楽之友社]]|author=ジャン＝イヴ・ボッスール|authorlink=ジャン＝イヴ・ボッスール|translator=栗原詩子|ref={{SfnRef|ボッスール|2015}}}}
* {{Cite book|和書|title=はじめての〈脱〉音楽 やさしい現代音楽の作曲法|data=2018年<span class="ltr">4</span>月<span class="ltr">30</span>日|year=2018|publisher=自由現代社|author1=木石岳|author2=川島素晴|authorlink2=川島素晴|ref={{SfnRef|木石ら|2018}}}}
* {{Cite book|和書|title=現代音楽史|data=2021年<span class="ltr">1</span>月<span class="ltr">25</span>日|year=2021|publisher=[[中公新書]]|author=沼野雄司|ref=={{SfnRef|沼野|2021}}}}

{{作曲}}
{{近代音楽と現代音楽}}
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[[Category:作曲]]
[[Category:十二音技法|*]]
[[Category:アルノルト・シェーンベルク]]
[[Category:楽式]]
[[Category:名数12|おんきほう]]