「坂口安吾」を編集中

{{Infobox 作家
| name = 坂口 安吾<br />（さかぐち あんご）
| image = Ango Sakaguchi (cropped).jpg
| imagesize = 230px
| caption = [[1946年]]12月、[[東京都]][[蒲田区]]安方町の自宅二階にて<br />撮影：[[林忠彦]]
| pseudonym =
| birth_name = 坂口 炳五（さかぐち へいご）
| birth_date = [[1906年]][[<span class="ltr">10</span>月<span class="ltr">20</span>日]]
| birth_place = {{JPN}}・[[新潟県]][[新潟市]]西大畑通<span class="ltr">28</span>番戸（現・[[中央区 (新潟市)|中央区]][[西大畑町]]579番地）
| death_date = {{死亡年月日と没年齢|1906|10|20|1955|2|17}}
| death_place= {{JPN1947}}・[[群馬県]][[桐生市]][[本町 (桐生市)|本町]]2丁目266番地
| resting_place = 新潟県[[新津市]][[大安寺 (新潟市)|大安寺]]（現・新潟市[[秋葉区]]大安寺）
| occupation = [[小説家]]、[[評論家]]
| language = [[日本語]]
| nationality = {{JPN}}
| education = [[学士]]（[[哲学]]）
| alma_mater = [[東洋大学]][[インド哲学|印度哲学]][[倫理学]]科第二科（現・文学部東洋思想文化学科）
| period = [[1931年]] - [[1955年]]
| genre = [[小説]]、[[評論]]、[[随筆]]
| subject = [[笑劇|ファルス]]、行雲流水、大悟徹底<br />絶対の孤独、偉大なる落伍者<br />歴史探訪
| movement = [[無頼派]]、[[新戯作派]]
| notable_works = 『[[風博士]]』（1931年）<br />『[[日本文化私観]]』(1942年)<br />『[[堕落論]]』（1946年）<br />『[[白痴 (坂口安吾)|白痴]]』（1946年）<br />『[[桜の森の満開の下]]』（1947年）<br />『[[二流の人 (小説)|二流の人]]』（1947年）<br />『[[不連続殺人事件]]』（1947年)
| awards = [[探偵作家クラブ賞]]（1948年）<br />[[文藝春秋読者賞]]（1950年）
| debut_works =『木枯の酒倉から』（1931年）
| spouse = [[坂口三千代]]（旧姓・梶）
| partner =
| children = [[坂口綱男]]
| relations = 坂口得太郎（曾祖父）、ミタ（曾祖母）<br />坂口得七（祖父）、ユウ（祖母）<br />吉田久平（母方の祖父）<br />[[坂口仁一郎]]（父）、アサ（母）<br />[[坂口献吉]]（長兄）、千鶴（妹）<br />村山セキ（五姉）、喜久（姪）<br />シウ、ユキ、ヌイ（異母姉）<br />キヌ、アキ（養女姉、六姉）<br />七松、成三（次兄、三兄）<br />上枝、下枝（四兄、七姉）
| influences = [[谷崎潤一郎]]、[[芥川龍之介]]、<br />[[石川啄木]]、[[北原白秋]]、<br />[[佐藤春夫]]、[[正宗白鳥]]、<br />[[葛西善蔵]]、[[有島武郎]]、<br />[[宇野浩二]]、[[牧野信一]]<br />[[オノレ・ド・バルザック|バルザック]]、[[アントン・チェーホフ|チェーホフ]]、<br />[[エドガー・アラン・ポー|ポー]]、[[シャルル・ボードレール|ボードレール]]、<br />[[モリエール]]、[[ヴォルテール]]、<br />[[カロン・ド・ボーマルシェ|ボーマルシェ]]、<br />[[アガサ・クリスティー]]、<br />[[仏教]]、[[説話]]、[[切支丹]]物
| influenced = [[檀一雄]]、[[中上健次]]<br />[[野坂昭如]]、[[町田康]]<br />[[石原慎太郎]]、[[荻野アンナ]]<br />[[野田秀樹]]、[[山本耀司]] <br />[[向井秀徳]]、[[柄谷行人]]<br />[[金達寿]]、[[司馬遼太郎]]<br />[[今村昌平]]、[[高田渡]]<br />[[栗本慎一郎]]、[[半藤一利]]
| signature =
| website =
<!--|footnotes=-->
}}
{{読み仮名_ruby不使用|'''坂口 安吾'''|さかぐち あんご|[[1906年]]〈[[明治]]39年〉[[<span class="ltr">10</span>月<span class="ltr">20</span>日]] - [[1955年]]〈[[昭和]]30年〉[[<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">17</span>日]]}}は、[[日本]]の[[小説家]]、[[評論家]]、[[随筆|随筆家]]。[[本名]]は{{読み仮名_ruby不使用|坂口 炳五|さかぐち へいご}}。

昭和の、[[第二次世界大戦]]前から戦後にかけて活躍した、[[日本の近現代文学史|近現代日本文学]]を代表する小説家の一人である。[[純文学]]のみならず、[[歴史小説]]や[[推理小説]]、文芸や時代風俗から古代史まで広範に材を採る[[随筆]]、[[囲碁]]・[[将棋]]におけるタイトル戦の[[観戦記者|観戦記]]など多彩な活動を通し、[[無頼派]]・[[新戯作派]]と呼ばれる地歩を築いた。

== 人物 ==
[[新潟県]][[新潟市]]出身。[[東洋大学]][[インド哲学|印度哲学]][[倫理学]]科（現・文学部　東洋思想文化学科）卒業。[[学校法人アテネ・フランセ|アテネ・フランセ]]で[[フランス語]]習得。
 
戦前は[[笑劇|ファルス]]的[[ナンセンス文学|ナンセンス]]作品『[[風博士]]』で[[文壇]]に注目され、一時低迷した後、[[日本の降伏|終戦]]直後に発表した『[[堕落論]]』『[[白痴 (坂口安吾)|白痴]]』により時代の寵児となり、[[太宰治]]、[[織田作之助]]、[[石川淳]]らと共に、[[無頼派]]・[[新戯作派]]と呼ばれ地歩を築いた<ref name="okuno">[[奥野健男]]「坂口安吾――人と作品」（文庫版『[[白痴 (坂口安吾)|白痴]]・[[二流の人 (小説)|二流の人]]』[[角川文庫]]、1970年。改版1989年、2008年、2012年）</ref><ref name="album">『新潮日本文学アルバム<span class="ltr">35</span>坂口安吾』（[[新潮社]]、1986年）</ref>。

文学においての新人賞である[[芥川龍之介賞]]の選考委員を第<span class="ltr">21</span>回から第<span class="ltr">31</span>回の間務め、[[松本清張]]や[[辻亮一]]、[[五味康祐]]などの作家を推した。歴史小説では[[黒田孝高|黒田如水]]を主人公とした『[[二流の人 (小説)|二流の人]]』、推理小説では『[[不連続殺人事件]]』が注目された<ref name="okuno"/><ref name="tuduki">[[都筑道夫]]「安吾流探偵術」（『日本探偵小説全集<span class="ltr">10</span>坂口安吾集』[[東京創元社]]、1985年）</ref>。
 
坂口安吾は純文学だけではなく、歴史小説や推理小説、文芸、時代風俗から古代まで広範な歴史における題材を扱った随筆や、[[フランス文学]]の翻訳出版、囲碁・将棋における[[タイトル戦]]の観戦記など、多彩な活動をした。一方で気まぐれに途中で放棄された未完、未発表の作品も多く、小説家としての観点からはけっして「器用な」小説家とはいえないが<ref name="okuno"/>、その作風には独特の不思議な魅力があり、狂気じみた爆発的性格と風が吹き通っている「[[がらんどう]]」のような風格の稀有な作家だといわれている<ref name="okuno"/><ref name="saegusa">[[三枝康高]]「作品解説」（文庫版『白痴・二流の人』角川文庫、1970年。改版1989年、2008年、2012年）</ref><ref name="mishima">[[三島由紀夫]]「内容見本」（『坂口安吾全集』推薦文 [[冬樹社]]、1967年<span class="ltr">11</span>月）。{{Harvnb|三島<span class="ltr">34</span>巻|2003|p=609}}に所収</ref>。
 
晩年に生まれた一人息子の[[坂口綱男]]は[[写真家]]である<ref>[http://www.tsunao.com/ 写真家・坂口綱男T.Sakaguchi Home]</ref>。

== 生涯 ==
=== 生い立ち ===
1906年（明治<span class="ltr">39</span>年）<span class="ltr">10</span>月<span class="ltr">20</span>日、[[新潟県]][[新潟市]]西大畑通<span class="ltr">28</span>番戸（現・[[中央区 (新潟市)|中央区]][[西大畑町]]579番地）に、[[憲政本党]]所属の[[衆議院|衆議院議員]]の父・[[坂口仁一郎]]（当時<span class="ltr">45</span>歳）、母・アサ（当時<span class="ltr">37</span>歳）の五男、<span class="ltr">13</span>人兄妹の<span class="ltr">12</span>番目として難産で生まれる<ref name="album"/><ref name="omina"/>。本名「炳五」（へいご）の由来は、「[[丙午]]」年生まれの「五男」に因んだもの。血液型は<span class="ltr">A</span>型。本籍である新潟県[[中蒲原郡]][[阿賀浦村]]大字[[大安寺 (新潟市)|大安寺]]（現・新潟市[[秋葉区]]大安寺）の坂口家の高祖は、碁所の坂口仙得家の末裔（似た名前の二名の囲碁棋士・[[坂口仙徳]]と[[阪口仙得]]、いずれの末かが不明瞭）という代々の旧家で、「坂口家の[[小判]]を積み上げれば[[五頭山]]の嶺までとどき、[[阿賀野川]]の水が尽きても坂口家の富は尽きぬ」と言われたほどの富豪であり、遠祖・治右衛門（のち甚兵衛）は[[九谷焼]]の陶工であった<ref name="album"/><ref name="nenpukado">「年譜」（文庫版『白痴・二流の人』角川文庫、1970年。改版1989年、2008年、2012年）</ref>。しかし祖父・得七の[[投機]]の失敗により明治以後に没落した。父・仁一郎は政治活動に金銭を注ぎ、炳五の生まれた頃、家は傾きかけていた。邸内の広さは520[[坪]]で、松林の巨木に囲まれた邸宅は母屋と離れを合わせ<span class="ltr">90</span>坪もある寺のような建物で、裏庭の松林を抜けると[[砂丘]]が広がり、[[日本海]]を見渡せた<ref name="album"/><ref name="ishiomo">坂口安吾「石の思ひ」『光』1946年<span class="ltr">11</span>月</ref>。祖父・得七は、炳五誕生の<span class="ltr">10</span>日後、<span class="ltr">79</span>歳で死去した。

父・仁一郎は、「阪口五峰」「七松山人」の[[号 (称号)|号]]で[[漢詩]]集の著書『北越詩話』（1918-1919年）、『舟江雑誌』のある[[漢詩人]]でもあり（[[森春濤]]の門下）、[[市島春城]]（春城）、[[会津八一]]と親交があった。新潟米穀株式会社取引所理事長、[[新潟新聞]]社（現・[[新潟日報社]]）社長なども務め、衆議院議員の[[政治家]]としては、[[大隈重信]]の下で[[護憲運動|憲政擁護]]に尽力し、[[若槻禮次郎]]、[[加藤高明]]、[[犬養毅]]（木堂）、[[尾崎行雄]]（咢堂）らと政友であった<ref name="iwanami">「年譜」（文庫版『[[風と光と二十の私と]]・いずこへ 他十六篇』[[岩波文庫]]、2008年）</ref>。安吾は父について、「三流の政事家であった」としている<ref>[[石川淳]]『諸国畸人伝』（[[筑摩書房]]、1957年、[[中公文庫]]、2014年）</ref>。<span class="ltr">10</span>歳年上の長兄の献吉は、後に新潟日報社やラジオ新潟（現・[[新潟放送]]）の社長などを務めた。母・アサの実家は、新潟県[[中蒲原郡]][[五泉町]]大字五泉（現・[[五泉市]]本町）の大[[地主]]・吉田家であった。吉田一族は皆〈[[ユダヤ人|ユダヤ]]的な鷲鼻〉を持ち、特に母・アサの兄（[[伯父]]）の眼は青く、〈まつたくユダヤの顔で、[[日本民族]]の何物にも似てゐなかつた〉という<ref name="ishiomo"/>。アサは仁一郎の後妻で、傾いた家計を支えるのに苦労していた。炳五は、<span class="ltr">5</span>歳の時に生れた[[妹]]・千鶴に母親を奪われたという思いが強く、気丈でヒステリックな母から愛されなかったという孤独を抱き、見知らぬ街を彷徨うこともあった<ref name="omina">坂口安吾「をみな」（『[[作品 (同人誌)|作品]]』1935年<span class="ltr">12</span>月号に掲載）</ref><ref name="ishiomo"/>。炳五は、自分ばかり憎み叱責する母に対する反抗心を増し、砂丘に寝転んで光と小石の風景を眺めながら、海と空と風の中にふるさとと愛を感じ、その中にふるさとの母を求めていた<ref name="ishiomo"/>。

幼少時の炳五は[[破天荒]]な性格で知られ、ガキ大将として近所の子供を引き連れ、町内や砂丘、[[茱萸]]林、異人池で遊び回り、[[立川文庫]]の『[[猿飛佐助]]』を愛読し[[忍術]]ごっこに興じて忍法を研究していた。炳五の[[従姉妹]]の徳（アサの妹の娘。のちの献吉の妻）によると、ある叔父が「炳五はとてつもなく偉くなるか、とんでもない人間になるか、どちらかだ」と言っていたという<ref name="album"/>{{refnest|group="注釈"|母・アサの兄で、吉田一族の中でもとりわけユダヤ人顔で眼の青い伯父が炳五ににじり寄り、「お前はな、とんでもなく偉くなるかも知れないがな、とんでもなく悪党になるかも知れんぞ、とんでもない悪党に、な」と言った〈薄気味悪さを呪文のやうに覚えてゐる〉と安吾自身も語っている<ref name="ishiomo"/>。}}。小学校での成績は優秀で、ほとんどの科目が<span class="ltr">10</span>点満点だったが、新潟県立新潟中学校（現・[[新潟県立新潟高等学校]]）に入学すると[[近眼]]で[[黒板]]の字が読めなくなり、[[英語 (教科)|英語]]や[[数学 (教科)|数学]]の成績も下がった。家計は遣り繰りがうまくいかずに[[差押え]]を受けていたため、母から眼鏡を買ってもらえず、炳五はその真相が級友に分かるのが恥ずかしく、ほとんど授業に出なくなる。また横暴な上級生への反抗の気持ちも強く学校を休み、放課後の[[柔道]]などの練習だけ通った。ようやく眼鏡も買ってもらうが、炳五の不注意で黒眼鏡を買ってしまい、友人たちが珍しがって引ったくり、いじっているうちに壊れてしまう。授業が面白くなく、野球漫画を描き、海岸の砂丘の松林で寝転がるなどして過ごし、雨の日は学校近くのパン屋の二階で[[歌留多]]（[[小倉百人一首]]）に興じる。この頃、[[谷崎潤一郎]]『ある少年の怖れ』などを読む<ref name="ishiomo"/><ref name="album"/>。またこの頃、新潟市のシンボルであった木造の<span class="ltr">2</span>代目[[萬代橋]]がかけ替えられることが決まり、長い間不思議な悲しみに襲われた<ref>坂口安吾「日本文化私観」（『現代文学』第五巻第三号に掲載）</ref>。

=== 「偉大なる落伍者」への決意 ===
中学<span class="ltr">2</span>年の時に、<span class="ltr">4</span>科目（英語、博物など）で不合格となり[[留年]]したため、[[家庭教師]]をつけられるなどしたが、逃げ回っていた。勉強をしない炳五に[[漢文]]の教師が、「お前なんか炳五という名は勿体ない。自己に暗い奴だから'''アンゴ'''と名のれ」と[[黒板]]に「'''暗吾'''」と書いたとされ、これが「'''安吾'''」の由来とされる<ref name="ishiomo"/><ref name="nenkawade">「坂口安吾略年譜」（『KAWADE夢ムック文藝別冊 坂口安吾―風と光と戦争と』[[河出書房新社]]、2013年）</ref>。[[1922年]]（[[大正]]11年）、反抗的な落伍者への畏敬の念が強く、[[シャルル・ボードレール|ボードレール]]や[[石川啄木]]の影響を受けていた炳五は、試験の際に答案を配られた直後、白紙で提出するなど反抗的態度を取る。この時、「学校の机の蓋の裏側に、'''余は偉大なる落伍者となつていつの日か歴史の中によみがへるであらう'''と、キザなことを彫つてきた」と安吾は自伝小説『いづこへ』に記しているが、実際は柔道部の板戸に彫ったという<ref name="nenpushin">「年譜」（文庫版『[[堕落論]]』[[新潮文庫]]、2000年）</ref>。炳五が再び落第濃厚で、放校されることを危惧した父や兄・献吉が、<span class="ltr">9</span>月に東京の私立豊山中学校（現・[[日本大学豊山中学校・高等学校|日本大学豊山高等学校]]）<span class="ltr">3</span>年に編入させたことがきっかけで、父や長兄夫婦、四兄・上枝と共に[[東京府]][[豊多摩郡]][[戸塚町 (東京府)|戸塚町]][[大字]]諏訪（現・[[西早稲田]]2丁目）の借家に移り住み、[[浅草]]の[[寄席]]にも出かけた<ref name="album"/>。秋頃、仁一郎は[[胃癌]]と診断される<ref name="iwanami"/>。母と離れて暮しはじめ、炳五は世の中の誰よりも母を愛していることをのちに知る<ref name="ishiomo"/>。

文学作品は、兄・献吉の影響もあり早くから読んでおり、私立豊山中学校編入後は同級生の[[山口修三]]、[[沢部辰雄]]の影響で[[宗教]]にも目覚める。[[谷崎潤一郎]]、[[オノレ・ド・バルザック|バルザック]]、[[芥川龍之介]]、[[エドガー・アラン・ポー]]、[[シャルル・ボードレール]]、[[アントン・チェーホフ]]などを愛読した。また、[[詩歌]]では[[石川啄木]]や[[北原白秋]]などを愛読し、[[短歌]]を作っていた。その他にも、[[日本史]]に興味を持ち、『[[講談雑誌]]』を愛読していた。自伝小説『風と光と二十の私と』には、[[ボクシング]]小説「人心収攬術」の翻訳を、友人<span class="ltr">S</span>の名前で雑誌『[[新青年 (日本)|新青年]]』に掲載したとあるが（結局掲載されなかったのか）、その掲載記事は見当たらない。文学に自信が持てず、豊山中学時代は、野球や陸上競技に熱中、[[相撲|角力]]大会に入賞し、<span class="ltr">5</span>年次の[[1924年]]（大正<span class="ltr">13</span>年）に第<span class="ltr">10</span>回全国中等学校陸上競技会（[[全国高等学校総合体育大会陸上競技大会|インターハイ]]の前身）の[[走高跳|ハイジャンプ]]で<span class="ltr">1</span>メートル<span class="ltr">57</span>センチの記録で優勝した<ref name="nenpushin"/><ref name="album"/>。

=== 悟達への想いと求道 ===
[[関東大震災]]のあった[[1923年]]（大正<span class="ltr">12</span>年）<span class="ltr">11</span>月<span class="ltr">2</span>日に父・仁一郎が細胞[[肉腫]]、後[[腹膜]][[腫瘍]]で死去（<span class="ltr">64</span>歳で没）。戸塚を離れ、[[池袋]]などを転々と引っ越し、[[1925年]]（大正<span class="ltr">14</span>年）から兄と[[荏原郡]][[大井町 (東京府)|大井町]]字元芝849（現・[[品川区]][[東大井]]）に転居。本当は山に入って暮らすことを考えていたが、父の財産管理で<span class="ltr">10</span>万円の借金があったことから、<span class="ltr">3</span>月に豊山中学校を卒業後は[[代用教員]]になることを決心し、[[荏原郡]][[世田ヶ谷町]]の荏原尋常高等小学校（現・[[世田谷区立若林小学校|若林小学校]]）に採用され、その分教場（現・[[世田谷区立代沢小学校|代沢小学校]]）の代用教員となり、<span class="ltr">5</span>年生を担当する。分教場主任の家に[[下宿]]し、月給は<span class="ltr">45</span>円であった。生徒への教育方針は「温い心や郷愁の念を心棒に強く生きさせる」ことで<ref name="kazeto">坂口安吾「風と光と二十の私と」（『[[文藝]]』1947年<span class="ltr">1</span>月号に掲載）</ref>、優しいが怖い先生だったという<ref name="nenpushin"/>。

この頃、短歌を書く時の名前を「安吾」と称するようになる。「安吾」とは、心安らかに暮らすことを意味する「'''安居'''」のことである<ref name="album"/>。のちに安吾は、〈僕は荒行で[[悟り]]を開いたから、安吾にした〉と[[鵜殿新]]に語っている<ref>[[鵜殿新]]「わが師友」（『坂口安吾選集第<span class="ltr">8</span>巻』月報、[[創元社]]、1957年）。[[七北数人]]『評伝坂口安吾 魂の事件簿』（[[集英社]]、2002年）</ref>。[[芥川龍之介]]、[[佐藤春夫]]、[[正宗白鳥]]の作品や、[[アントン・チェーホフ|チェホフ]]『退屈な話』など、多くの文学書を愛読する。

卒業した豊山中学校が[[仏教]][[真言宗]]の中学で、在学中から友人らの影響で[[宗教]]に目覚めていた安吾は、ますます求道への想いが強くなり、[[1926年]]（大正<span class="ltr">15</span>年）から仏教の本格研究を志すため代用教員を辞め、<span class="ltr">4</span>月に[[東洋大学]][[インド哲学|印度哲学]][[倫理学]]科第二科（現・東洋思想文化学科）に入学。住いは荏原郡大井町字元芝に戻ったり、四兄・上枝と婆やと共に[[北豊島郡]][[西巣鴨町]]大字池袋（現・[[豊島区]][[西池袋]]）に転居したりした。大学では読書会（原典研究会）を行なうなどした。[[龍樹]]に影響を受け、「意識と時間との関係」「今後の寺院生活に対する私考」を原典研究会刊『[[涅槃]]』に発表する。この頃、[[交通事故]]に遭い、後遺症で[[頭痛]]や[[被害妄想]]が起こりがちになる<ref name="nenpukado"/><ref name="nenpushin"/>。

睡眠時間をわずか<span class="ltr">4</span>時間にし（午後<span class="ltr">10</span>時に寝て午前<span class="ltr">2</span>時に起床）、仏教書や[[哲学]]書を読み漁る猛勉強の生活を<span class="ltr">1</span>年半続けた結果、[[神経衰弱 (精神疾患)|神経衰弱]]に陥る<ref name="nijuichi">坂口安吾「二十一」（『[[現代文学 (雑誌)|現代文學]]』1943年<span class="ltr">9</span>月号に掲載）</ref><ref name="nenpukado"/>。[[1927年]]（昭和<span class="ltr">2</span>年）の芥川龍之介の[[自殺]]がさらに安吾の神経衰弱に拍車をかけ、創作意欲を起こしつつ書けない苦悩の中で、自殺欲や[[発狂]]の予感を感じ<ref>坂口安吾「山口修三宛ての書簡」（昭和<span class="ltr">3</span>年<span class="ltr">4</span>月）</ref>、錯乱症状が悪化して、兄も安吾の病状に気づくようになる<ref name="album"/>。しかし、古今の哲学書や、[[サンスクリット|サンスクリット語]]、[[パーリ語]]、[[チベット語]]など語学学習に熱中することで妄想を克服した<ref name="nijuichi"/>。

=== フランス語と同人『言葉』 ===
大学でサンスクリット語などの辞書を読むために、さらに[[ラテン語]]、[[フランス語]]を学び、[[1928年]]（昭和<span class="ltr">3</span>年）に[[神田三崎町]]の[[学校法人アテネ・フランセ|アテネ・フランセ]]初等科に通い始める<ref name="zengo">坂口安吾「処女作前後の思ひ出」（『[[早稲田文学]]』1946年<span class="ltr">3</span>月号に掲載）</ref>。そこで、フランス語を成績優秀で「賞」をもらうほど習熟し、同校に通う[[長島萃]]、[[江口清]]とも知り合う。当時の安吾は[[詰襟]]服に[[ソフト帽]]を押し潰したようにかぶり、まだ酒も飲まず、講義に欠かさず出席して神経衰弱を治すために勉強に打ち込んでいたと江口清は述懐している<ref name="eguchi">[[江口清]]「若かりし日の坂口安吾」（『[[レイモン・ラディゲ]]と日本の作家たち』[[清水弘文堂]]、1973年）</ref>。安吾は彼らと読書会を開き、[[モリエール]]、[[ヴォルテール]]、[[カロン・ド・ボーマルシェ|ボーマルシェ]]、[[ジョルジュ・デュアメル|デュアメル]] などに惹かれた。当時隆盛であった[[左翼]]文学や[[プロレタリア文学]]には全く魅力を感じず、[[佐藤春夫]]、[[宇野浩二]]、[[葛西善蔵]]、[[有島武郎]]を愛読し、小説家への夢を本格的に固める。この頃に第<span class="ltr">2</span>回『[[改造 (雑誌)|改造]]』懸賞創作に小説を応募するが落選する<ref name="iwanami"/>。翌[[1929年]]（昭和<span class="ltr">4</span>年）、アテネ・フランセ中等科へ進んだ安吾は、校友会に参加し、[[菱山修三]]、[[葛巻義敏]]らとも知り合った<ref name="zengo"/><ref name="nenpushin"/>。<span class="ltr">11</span>月に再び、第<span class="ltr">3</span>回『改造』懸賞創作に応募して落選したとされる<ref name="iwanami"/>。

[[1930年]]（昭和<span class="ltr">5</span>年）<span class="ltr">3</span>月に東洋大学を卒業した安吾は、既成の文学者のようになれない自分に煩悶し、書くべきものの必然性を求めて[[寄席]]や[[レヴュー (演芸)|レビュー]]、[[歌舞伎]]を観たり、音楽（[[エリック・サティ]]など）を聴いたり、有名になりたいという野心と裏腹に[[カフェー]]の支配人になろうともするが、アテネ・フランセ高等科に進み、本格的に[[<span class="ltr">20</span>世紀]][[フランス文学]]を学ぶ。<span class="ltr">5</span>月には荏原郡[[矢口町]]字安方127番地（のちに[[蒲田区]]安方町。現・[[大田区]][[東矢口]]）に新築した家に、兄・献吉夫婦と、前年1929年（昭和<span class="ltr">4</span>年）に妹・千鶴と上京してきた母・アサと移住した。母は、自分の実家から資金援助し安吾を[[フランス]]へ[[留学]]させてやろうと真剣に考えていたが、安吾自身は自信が揺らぎがちで、〈途中で自殺しそうな気配の方を強く感じて〉しまい、留学に踏み切れなかったという<ref>坂口安吾「世に出るまで」（『[[小説新潮]]』1955年<span class="ltr">4</span>月号に掲載）</ref>。<span class="ltr">11</span>月に、アテネ・フランセの友人葛巻義敏、長島萃、江口清、山田吉彦（[[きだみのる]]）らと同人誌『言葉』を創刊<ref name="zengo"/>{{refnest|group="注釈"|『言葉』の同人は、坂口安吾、[[江口清]]、[[葛巻義敏]]、[[若園清太郎]]、[[関義]]、[[本多信]]、[[高橋幸一 (作家)|高橋幸一]]、[[長島萃]]、[[山沢種樹]]、[[野田早苗]]、[[脇田隼夫]]、[[青山清松]]、[[白旗武]]、[[片岡十一]]、[[根本鐘治]]、[[山口修三]]、山田吉彦（[[きだみのる]]）、[[大沢比呂夫]]、[[吉野利雄]]らであった<ref name="nenpukado"/>。}}。創刊号に[[翻訳]]「[[マルセル・プルースト|プルウスト]]に就てのクロッキ」（マリイ・シェイケビッチ）を掲載した。この頃から同人仲間と[[神楽坂]]、[[神田 (千代田区)|神田]]、[[銀座]]、[[新橋 (東京都港区)|新橋]]に飲みに行くようになる<ref name="eguchi"/>。同月<span class="ltr">14</span>日には、兄妹の中で一番好きだった異母姉・ヌイが黒色肉腫のため死去（<span class="ltr">40</span>歳で没）。

=== 新進ファルス作家へ ===
[[1931年]]（昭和<span class="ltr">6</span>年）<span class="ltr">1</span>月に『言葉』第<span class="ltr">2</span>号に、[[ナンセンス文学|ナンセンス]]的な処女小説「木枯の酒倉から」（副題は「聖なる酔つ払ひは神々の魔手に誘惑された話」）を書き、[[島崎藤村]]が褒めているという話を聞いて、小説家としての資質に自信を持つようになる<ref name="eguchi"/>。『言葉』を<span class="ltr">2</span>号で廃刊後、<span class="ltr">5</span>月に『青い馬』と改題して[[岩波書店]]から新創刊し、創刊号に[[クロード・ドビュッシー|ドビュッシー]]風の小説「ふるさとに寄する讃歌」（副題は「夢の総量は空気であつた」）、随筆「ピエロ伝道者」、翻訳「ステファヌ・マラルメ」（[[ポール・ヴァレリー|ヴァレリー]]）、「エリック・サティ」（[[ジャン・コクトー|コクトー]]）を発表した。「エリック・サティ」<ref>『エリック・サティ』新版は[[佐藤朔]]により改訂刊行（深夜叢書社、1977年、新版1990年）</ref>は葛巻義敏との共訳であった<ref name="eguchi"/>。

続いて<span class="ltr">6</span>月、『青い馬』<span class="ltr">2</span>号に[[散文]][[笑劇|ファルス]]とも言うべき「[[風博士]]」を発表。<span class="ltr">3</span>号に、新潟県[[東頸城郡]][[松之山町]]、[[松之山温泉]]を舞台にした「黒谷村」を発表する。この「風博士」を[[牧野信一]]から激賞{{refnest|group="注釈"|牧野信一は『風博士』を、「私は、フアウスタスの演説でも傍聴してゐる見たいな面白さを覚えました。奇体な飄逸味と溢るゝばかりの熱情を持つた化物のやうな[[弁士]]ではありませんか」と賞讃した<ref>[[牧野信一]]「『風博士』」（『文藝春秋]』1931年<span class="ltr">7</span>月号に掲載）</ref>。}}、「黒谷村」も島崎藤村と[[宇野浩二]]にも認められ、一躍新進作家として文壇に注目された。安吾は、〈私は短篇小説をたつた三つ書いただけで一人前の文士になつてしまつた〉と述懐している<ref name="zengo"/>。次いで<span class="ltr">9</span>月に「海の霧」を雑誌『[[文藝春秋 (雑誌)|文藝春秋]]』、<span class="ltr">10</span>月に「霓博士の頽廃」を『[[作品 (同人誌)|作品]]』に発表し、売れっ子作家となり、牧野信一主宰の[[春陽堂書店|春陽堂]]の『[[文科 (雑誌)|文科]]』にも「竹薮の家」を連載した。この作品にも音楽性、映像性が見られる<ref name="album"/>。『文科』同人には、[[小林秀雄 (批評家)|小林秀雄]]、[[河上徹太郎]]、[[井伏鱒二]]らがいた{{refnest|group="注釈"|『文科』の同人は、坂口安吾、[[牧野信一]]、[[坪田譲治 (作家)|坪田譲治]]、[[田畑修一郎]]、[[小林秀雄 (批評家)|小林秀雄]]、[[嘉村礒多]]、[[井伏鱒二]]、[[河上徹太郎]]、[[中島健蔵]]、[[佐藤正彰]]、[[中山省三郎]]らであった<ref name="nenpukado"/>。}}。

[[1932年]]（昭和<span class="ltr">7</span>年）<span class="ltr">3</span>月、『青い馬』は<span class="ltr">5</span>号で廃刊、この最終号には評論「FARCEに就て」を掲載し、〈文学全般にわたつての[[道化]]〉について論じた。<span class="ltr">3</span>月から[[京都]]に<span class="ltr">1</span>か月半ほど滞在し、河上徹太郎の紹介で[[京都大学|京都帝国大学]][[仏文科]]卒業間際の[[大岡昇平]]を訪ねて、[[独文科]]の[[加藤英倫]]、[[安原喜弘]]らと知り合い交遊して帰京。文学上のことで口論となることのあった牧野信一とは徐々に疎遠となる<ref name="album"/>。<span class="ltr">6</span>月、「母」を『東洋・文化』に発表。<span class="ltr">8</span>月、[[青山二郎]]行きつけの[[京橋 (東京都中央区)|京橋]]の酒場「ウヰンザア」にて、加藤の紹介で美人女流作家・[[矢田津世子]]と知り合い交際が始まる。この酒場で[[中原中也]]との交友も始まった。<span class="ltr">12</span>月には[[鎌倉]]で療養中の[[姪]]・村山喜久（姉・セキの娘）を見舞い、詩画集『小菊荘画譜』を喜久の父・村山真雄の弟で[[画家]]の村山政司と共に作り、〈菊は娘の娘也と叔父安吾 世に推して憚らず〉などの健康回復の祈願を書く<ref name="album"/>。

[[1933年]]（昭和<span class="ltr">8</span>年）<span class="ltr">3</span>月に[[田村泰次郎]]、[[井上友一郎]]、[[河田誠一]]、[[菱山修三]]、矢田津世子らと同人誌『櫻』創刊に参加し、[[マニフェスト]]「新しき文学」を掲げ、<span class="ltr">5</span>月から「麓」を連載するが、『櫻』は第<span class="ltr">3</span>号以降の刊行が難しくなり、<span class="ltr">6</span>月に矢田と共に脱退した{{refnest|group="注釈"|『櫻』の同人は、坂口安吾、[[井上友一郎]]、[[田村泰次郎]]、[[菱山修三]]、[[河田誠一]]、[[北原武夫]]、[[大島敬司]]、[[真杉静枝]]、[[高見沢矗江]]（[[小林秀雄 (批評家)|小林秀雄]]の妹）、[[矢田津世子]]らであった<ref name="nenpukado"/>。}}。全集未掲載で存在が知られていなかった短編探偵小説「盗まれた一萬圓」を『東京週報』1933年<span class="ltr">10</span>月<span class="ltr">15</span>日号に掲載していたことが2022年に判明した<ref>[https://www.asahi.com/articles/ASQD56VSZQD2UCVL010.html 坂口安吾 若き日の探偵小説 短編「盗まれた一萬圓」]『[[朝日新聞]]』朝刊2022年<span class="ltr">12</span>月<span class="ltr">6</span>日（社会・総合面）2022年<span class="ltr">12</span>月<span class="ltr">14</span>日閲覧</ref>。<span class="ltr">11</span>月、小説論「[[フョードル・ドストエフスキー|ドストエフスキー]]と[[オノレ・ド・バルザック|バルザック]]」を『行動』に発表。

=== 不安と流転の日々 ===
[[1934年]]（昭和<span class="ltr">9</span>年）<span class="ltr">1</span>月に何度も[[自殺未遂]]を繰り返していた親友・長島萃が[[脳炎]]で[[発狂]]し夭折したことに衝撃を受け、<span class="ltr">2</span>月に「長島の死に就て」を『紀元』に発表。同月には河田誠一（詩人）も急性[[肋膜炎]]で死去した。この<span class="ltr">2</span>人の友人の死は、安吾に生命の不安を与え、生活態度にも影響を及ぼした<ref name="album"/>。安吾は前年に知り合った蒲田新宿の酒場「ボヘミアン」のお安さんと<span class="ltr">3</span>月から半ば[[同棲]]生活に入り、のちに[[大森区]]堤方町555（現・[[大田区]]中央）の十二天アパートに移住。<span class="ltr">5</span>月、「姦淫に寄す」を『行動』に発表。<span class="ltr">9</span>月に[[戯曲]]「麓」（未完）を『[[新潮]]』に発表するが、文学的転機に悩み、夏には[[越前国|越前]]（[[福井県]]北部）など[[北陸]]地方に放浪し、流転の生活を送る<ref name="nenpushin"/>。

[[1935年]]（昭和<span class="ltr">10</span>年）<span class="ltr">4</span>月に「蒼茫夢」、<span class="ltr">5</span>月に随筆「枯淡の風格を排す」を『作品』に発表。[[徳田秋声]]を批判したこの随筆が縁で、[[尾崎士郎]]と知り合う。<span class="ltr">6</span>月に『黒谷村』（「木枯の酒倉から」など<span class="ltr">6</span>編収録）を[[竹村書房]]から刊行し、出版記念会を開く。[[新鹿沢温泉]]に赴き、[[長野県]][[小県郡]]弥津村（現・[[東御市]]）の奈良原鉱泉で一夏を過ごし、<span class="ltr">7</span>月、「金談にからまる詩的要素の神秘性について」を『作品』、<span class="ltr">8</span>月に「逃げたい心」を『文藝春秋』に発表。この小説の主人公の逃走（蒸発）願望は、[[太宰治]]などの同時代作家に共通するものであった<ref name="kawade">「坂口安吾 作品ガイド100」（『KAWADE夢ムック文藝別冊 坂口安吾―風と光と戦争と』河出書房新社、2013年）</ref>。<span class="ltr">12</span>月、母や母性について書いた「をみな」を『作品』に発表。お安さんと別離し、[[蒲田区]]安方町の家へ戻る。

[[1936年]]（昭和<span class="ltr">11</span>年）<span class="ltr">3</span>月、[[本郷 (文京区)|本郷]]の菊富士ホテルで執筆中に[[矢田津世子]]が来訪し再会するが、その後、矢田から絶縁の手紙が来る。このことや同月<span class="ltr">24</span>日に[[牧野信一]]の[[自殺]]に衝撃を受けたことから、<span class="ltr">1</span>月から『[[文學界]]』に連載していた長編「狼園」を中断し、<span class="ltr">5</span>月に牧野への追悼随筆「牧野さんの祭典によせて」を『[[早稲田文学]]』、「牧野さんの死」を『作品』に発表する。<span class="ltr">6</span>月には、<span class="ltr">5</span>年間交際していた恋人・矢田津世子に絶縁の手紙を送った<ref>坂口安吾「[[矢田津世子]]宛ての書簡」（1936年<span class="ltr">6</span>月<span class="ltr">16</span>日付）</ref>。矢田との間には[[肉体関係 (隠語)|肉体関係]]はなく、<span class="ltr">5</span>年目の冬に一度[[接吻]]しただけだという<ref>坂口安吾「二十七」（『新潮』1947年<span class="ltr">3</span>月号に掲載）</ref>。<span class="ltr">11</span>月末から、矢田との恋愛を主題にした長編「[[吹雪物語]]」の執筆に取りかかり、翌[[1937年]]（昭和<span class="ltr">12</span>年）<span class="ltr">2</span>月、[[尾崎士郎]]に見送られて東京を発つ。[[京都府]][[京都市]][[伏見区]]稲荷鳥居前町<span class="ltr">22</span>に下宿し、「吹雪物語」の執筆に専念しながらも絶望に陥り、移った下宿先の上田食堂の二階に[[碁会所]]を開くなど囲碁三昧、飲酒に明け暮らす生活を送る<ref>坂口安吾「古都」（『現代文學』1942年<span class="ltr">1</span>月号に掲載）</ref><ref name="album"/>。

=== 切支丹物との出会い ===
[[1938年]]（昭和<span class="ltr">13</span>年）<span class="ltr">5</span>月に、安吾作品では最も長い700枚の渾身作「吹雪物語」を脱稿して上京し、本郷の菊富士ホテルに滞在。竹村書房から長編『吹雪物語』を<span class="ltr">7</span>月に刊行するが、失敗作と評され失意に陥る。<span class="ltr">6</span>月には可愛がっていた姪の村山喜久が[[松之山町|松之山]]の自宅の池の前で自殺し二重の苦悩の中、執筆に専念し、<span class="ltr">12</span>月に[[三好達治]]の雑誌『文体』に説話体小説「閑山」を発表した。日本の古典文学や昔話に親しみ、[[1939年]]（昭和<span class="ltr">14</span>年）<span class="ltr">2</span>月にも、説話体小説「[[紫大納言]]」を『文体』、<span class="ltr">3</span>月は「木々の精、谷の精」を『文藝』に発表した。同年<span class="ltr">5</span>月、安吾は〈人々のいのちとなるやうな物語〉を書くべく<ref>坂口安吾「かげろふ談義」（『文体』1939年<span class="ltr">1</span>月号に掲載）</ref>、新たな小説の腹案を練るため、[[茨城県]][[取手市|取手町]]の取手病院の離れに住み込むが、何を書いても本当の文学が書けない思いで空漠とした生活を送る<ref>坂口安吾「ぐうたら戦記」（『文化展望』1947年<span class="ltr">1</span>月号に掲載）</ref>。

翌[[1940年]]（昭和<span class="ltr">15</span>年）<span class="ltr">1</span>月には取手の寒さに悲鳴をあげ、[[三好達治]]の誘いで[[小田原市|小田原]][[早川 (小田原市)|早川]]橋付近の亀山別荘という[[結核]]患者のための家に転居する。[[ライナー・マリア・リルケ|リルケ]]の『[[マルテの手記]]』を読み、絶望の必要性を教えられたことと、三好の勧めで『日本切支丹宗門史』など[[切支丹]]物を読み始め、執筆意欲を取り戻し、<span class="ltr">7</span>月に歴史小説「イノチガケ」を『文學界』に発表する。<span class="ltr">12</span>月に上京し、「風人録」を『現代文學』に発表。歴史小説への意欲は同人雑誌の頃の若い時代にも潜在していたが<ref name="eguchi"/>、ここで新たに歴史人物への共感と視野が広まる<ref name="album"/>。

=== 絶対の孤独と「ふるさと」 ===
[[大晦日]]に[[大井広介]]と浅草[[雷門]]で会い、意気投合し『現代文學』同人となる{{refnest|group="注釈"|『現代文學』の同人は、坂口安吾、[[井上友一郎]]、[[豊田三郎]]、[[高木卓]]、[[檀一雄]]、[[野口富士男]]、[[大井広介]]、[[山室静]]、赤木俊（[[荒正人]]）、[[佐々木基一]]、[[北原武夫]]、[[菊岡久利]]、[[南川潤]]、[[宮内寒弥]]、[[平野謙 (評論家)|平野謙]]、[[杉山英樹]]らであった<ref name="nenpukado"/>。}}。翌[[1941年]]（昭和<span class="ltr">16</span>年）<span class="ltr">1</span>月に大井宅で歴史書を耽読し、蒲田区安方町の家に戻る。<span class="ltr">8</span>月に評論「[[文学のふるさと]]」を『現代文學』に発表。[[シャルル・ペロー]]版『[[赤ずきん]]』の残酷な〈救ひ〉のない結末を鑑み、〈生存それ自体が孕んでゐる絶対の孤独〉が〈文学のふるさと〉だと考察し、〈モラルがないといふこと自体がモラル〉というところから文学は出発するのではないかと論じられ<ref name="kawade"/>、自身の孤独な半生を[[思想]]として結晶させている<ref name="album"/>。<span class="ltr">8</span>月、小田原から蒲田区安方町<span class="ltr">94</span>に移り、再び母や兄たちと住むようになったが、小田原の借家は<span class="ltr">9</span>月に暴風雨で流失する。歴史長編小説『[[島原の乱]]』（未完）を構想し、<span class="ltr">10</span>月に『現代文學』に「島原の乱雑記」を発表、<span class="ltr">11</span>月は「ラムネ氏のこと」を『[[都新聞]]』に発表する。同月、石川淳と識る<ref>渡辺喜一郎『石川淳傳説』右文書院、2013年 pp.151-153</ref>。

戦時下の[[1942年]]（昭和<span class="ltr">17</span>年）<span class="ltr">2</span>月、母・アサが<span class="ltr">73</span>歳で死去。<span class="ltr">3</span>月に評論「[[日本文化私観]]」を『現代文學』に発表。<span class="ltr">6</span>月に「[[真珠 (坂口安吾)|真珠]]」を『文藝』に発表。「真珠」は、[[真珠湾攻撃]]に[[特殊潜航艇]]（[[甲標的]]）で参加して戦死した[[九軍神]]を主題にした小説で、彼らの死を目前にしたゆえの透明な明るさと、安吾自身の飲んだくれの無頼の生活を対比させた作品である<ref name="okuno"/>。兄・献吉夫婦が[[新潟市]][[二葉町 (新潟市)|二葉町]]1丁目に転居したため、『島原の乱』の執筆を兼ねて一夏を新潟で過ごす。<span class="ltr">11</span>月に「青春論」を『文學界』に発表。独自の文学観や思想を確立してゆく。[[1943年]]（昭和<span class="ltr">18</span>年）<span class="ltr">9</span>月、最初の自伝小説「二十一」を『現代文學』に発表。<span class="ltr">10</span>月に創作集『真珠』（「古都」「孤独閑談」など所収）を刊行したが、「孤独閑談」の一部の表現が時局に合わないとして再版を禁じられた。この頃、「猿飛佐助」の構想を立てるが中断する。<span class="ltr">12</span>月に『[[日本文化私観]]』を[[文体社]]から刊行。戦時中は作品発表の場が大幅に減り、[[歴史書]]や『[[平家物語]]』を読み漁った。

[[1944年]]（昭和<span class="ltr">19</span>年）<span class="ltr">1</span>月に[[黒田孝高|黒田官兵衛]]を主人公にした歴史小説「黒田如水」（『[[二流の人 (小説)|二流の人]]』の原型）を『現代文學』、<span class="ltr">2</span>月に「鉄砲」を『文藝』に発表。[[徴兵逃れ]]のために[[日本映画社]]の[[嘱託社員|嘱託]]となる。<span class="ltr">3</span>月<span class="ltr">14</span>日に矢田津世子が<span class="ltr">38</span>歳で病死。安吾はしばらく打ちのめされた<ref name="album"/>。[[1945年]]（昭和<span class="ltr">20</span>年）<span class="ltr">4</span>月に[[召集令状]]を受けるが、応召せず、<span class="ltr">6</span>月に、[[記録映画]]『黄河』などの[[脚本]]を書いたが映画化はされなかった。<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">26</span>日に[[東京大空襲]]を受けたが、家は焼け残った。戦災に遭った親戚筋の大野璋五（[[裁判官]]）一家<span class="ltr">4</span>人が坂口家と同居する。終戦後の<span class="ltr">9</span>月に日本映画社を退社。世話になった友人の[[尾崎士郎]]が[[戦争責任]]で追及されることを危惧して奔走する<ref name="album"/>。安吾は尾崎士郎の秘書という名目で[[連合国軍最高司令官総司令部|GHQ]][[戦犯]]事務所に同行して弁護をした<ref name="iwanami"/>。

=== 時代の寵児 ===
[[ファイル:Sakaguchi ango.jpg|thumb|320px|<center>1946年、自宅にて執筆中</center>]]
[[1946年]]（昭和<span class="ltr">21</span>年）になると雑誌が復刊され出し、<span class="ltr">1</span>月に「わが血を追ふ人々」（『島原の乱』構想の一部を独立させたもの）を『近代文學』に発表。<span class="ltr">4</span>月に『新潮』に発表した評論「[[堕落論]]」は、終戦後の暗澹たる世相の中で戦時中の倫理や人間の実相を見つめ直し、〈堕ちきること〉を考察して、[[日本の降伏|敗戦]]に打ちのめされていた日本人に大きな影響を与えた<ref name="okuno"/>。同誌に<span class="ltr">6</span>月に発表した小説「[[白痴 (坂口安吾)|白痴]]」も大きな反響を呼び、この<span class="ltr">2</span>作によって脚光を浴びた安吾は一躍人気作家となる<ref name="okuno"/>。続いて<span class="ltr">7</span>月に「外套と青空」を『[[中央公論]]』、<span class="ltr">9</span>月に「女体」を『文藝春秋』、「欲望について」を『[[人間 (雑誌)|人間]]』、「我鬼」（のち『[[二流の人 (小説)|二流の人]]』に挿入）を『社会』を発表。「女体」は、[[夏目漱石]]の作品を〈全然肉体を生活してゐない〉とし、〈一組の[[夫婦]]の心のつながりを、心と肉体とその当然あるべき姿に於て歩ませる〉という主題の作品である<ref name="kawade"/>。<span class="ltr">10</span>月に自伝小説「いづこへ」を『[[新小説]]』、「魔の退屈」を『太平』、「[[デカダン派|デカダン文学]]論」を『新潮』、「[[戦争と一人の女]]」を『新生』に発表。<span class="ltr">11</span>月に自伝小説「石の思ひ」を発表。<span class="ltr">12</span>月に「続戦争と一人の女」を『サロン』に発表し、旺盛な活動を見せる。この頃、[[太宰治]]や[[織田作之助]]と座談会で面識をもつ。写真家[[林忠彦]]と酒場「ルパン」で知り合い「[[焼酎#粕取り焼酎とカストリ|カストリ]]を飲む会」を通じ交友し、<span class="ltr">12</span>月に安方町の自宅の二階の紙屑だらけの仕事場で撮られた写真も後に有名になった。<span class="ltr">2</span>年間ほど掃除をしていない部屋を見て、林忠彦は「これだ！」と叫んだという<ref name="album"/>。同月には[[文藝春秋社]]『座談』で[[阿部定]]と対談する<ref name="abesada">「[[阿部定]]×坂口安吾 ぢや強く生きてください」（『KAWADE夢ムック文藝別冊 坂口安吾―風と光と戦争と』河出書房新社、2013年）</ref>。

=== 多忙な人気作家へ ===
[[1947年]]（昭和<span class="ltr">22</span>年）<span class="ltr">1</span>月、独特の歴史観による歴史小説「道鏡」を『改造』に発表。[[道鏡]]と[[孝謙天皇]]の恋の道程を描き、戦前の史観では悪逆非道とされていた人物を取り上げた安吾らしい作品としてセンセーショナルに迎えられたが、内容はむしろ女帝としての孝謙天皇を描いたものだった。同月には、「恋をしに行く」（「女体」の続編）を『新潮』、「私は海を抱きしめてゐたい」を『[[婦人画報]]』、[[徳川家康]]を題材にした歴史小説「家康」を『新世代』、自伝小説「[[風と光と二十の私と]]」を『文藝』に発表。<span class="ltr">20</span>代の青春期の精神遍歴を描いた小説は、<span class="ltr">3</span>月の「二十七歳」もあり、それに続く連作的な「三十歳」（翌年<span class="ltr">5</span>月発表）では当時新進女流作家であった[[矢田津世子]]との恋愛について描かれ、安吾自身も年代記の眼目としている。人気作家となった安吾は、太宰治、織田作之助、石川淳らとともに「[[新戯作派]]」「[[無頼派]]」と呼ばれて、時代の寵児となり注目される反面、「痴情作家」とレッテルを貼られることもあった<ref name="album"/>。<span class="ltr">2</span>月、随筆「[[特攻隊に捧ぐ]]」を『ホープ』に寄稿したが、[[連合国軍最高司令官総司令部|GHQ]]の[[検閲]]で全文削除となり未発表作となる。同月には初の新聞連載小説「花妖」を、[[岡本太郎]]の挿絵で『[[東京新聞]]』に連載開始するが、新聞小説としては型破りであったために読者の評判は悪く連載中断となってしまい、<span class="ltr">5</span>月で未完となった。<span class="ltr">6</span>月には虚無の極北、絶対の[[孤独]]を凝視した「[[桜の森の満開の下]]」を『肉体』、自伝小説「暗い青春」を『潮流』、評論「[[教祖の文学]]」を『新潮』、ファルス的な連作「金銭無情」「失恋難」「夜の王様」「王様失脚」（のちに長編『金銭無情』）を『別冊文藝春秋』他各誌に発表するなど旺盛な活動を見せた。作品の反響は大きく執筆のペースは大幅に増え、次々と作品を発表し、[[ヒロポン]]を服用しながら<span class="ltr">4</span>日間一睡もしないこともあった。安吾には強気の反面、神経の弱い面が多分にあったという<ref name="eguchi"/>。<span class="ltr">9</span>月からは[[推理小説]]「[[不連続殺人事件]]」を雑誌『[[日本小説]]』に連載し始める（挿絵は[[高野三三男]]）。作中に登場する巨勢博士は短編「選挙殺人事件」（1953年）、「正午の殺人」（1953年）でも活躍させている。安吾は少年時代から推理小説、探偵小説を愛好し、[[推理作家]]としては[[アガサ・クリスティ]]を最高の作家として挙げ、[[横溝正史]]も好んでいる<ref name="tantei">「私の探偵小説」（『[[宝石 (雑誌)|宝石]]』1947年<span class="ltr">6</span>月号に掲載）</ref><ref>坂口安吾「推理小説論」（『新潮』1950年<span class="ltr">4</span>月号に掲載）</ref>。飲みに行くこともままならなかった戦争中には、[[平野謙 (評論家)|平野謙]]、[[荒正人]]、[[檀一雄]]、[[埴谷雄高]]らと[[大井広介]]邸に集まり、犯人あての[[ゲーム]]に興じていたが、推理に一番熱心であったが一番当らなかったという<ref name="kosuke">[[大井広介]]「犯人あてと坂口安吾」（『日本探偵小説全集<span class="ltr">10</span>坂口安吾集』[[東京創元社]]、1985年）</ref><ref name="tuduki"/>。大井広介は、「彼（安吾）の推理は不可思議な飛躍をする」ことが多かったと回想している<ref name="kosuke"/>。安吾は推理小説を、[[パズル]]の魅力やゲームとして楽しむ理知的な娯楽と捉えているが<ref>坂口安吾「探偵小説とは」（『明暗』1948年<span class="ltr">2</span>月号に掲載）</ref>、それを成立させるためには、「作家的、文学的、洞察と造型力」が必須であり、「いやしくも犯罪を扱う以上、何をおいても、第一に人間性についてその秘奥を見つめ」ていなければならないと語り<ref name="kiru">坂口安吾「探偵小説を截る」（『黒猫』1948年<span class="ltr">7</span>月号に掲載）</ref>。[[トリック]]が先にありきで後から登場人物を当てはめたような、「有りうべからざる人間心理をデッチあげ」、「人間性を不当にゆがめている」作品には批判的である<ref name="kiru"/><ref>坂口安吾「推理小説について」（『東京新聞』1947年<span class="ltr">8</span>月<span class="ltr">25</span>日、<span class="ltr">26</span>日号に掲載）</ref>{{refnest|group="注釈"|安吾は、「現下の探偵小説界は、洋の東西を問わず、実はアベコベに、[[公理]]や算式がないことを利用して、勝手なデタラメをかき、クダラヌ不合理をデッチあげて、同じ穴の[[狸]]が、馴れ合って、埒もないものをヤンヤと云っているだけなのである」と批判している<ref name="kiru"/>。}}。<span class="ltr">10</span>月に「[[青鬼の褌を洗う女]]」を『愛と美』（『[[週刊朝日]]』<span class="ltr">25</span>周年記念号）に発表するが、この作品のモデルと自称する[[坂口三千代|梶三千代]]とは、<span class="ltr">3</span>月に新宿の酒場チトセで知り合い、毎週水曜日に[[秘書]]として手伝いをしてもらうようになり、<span class="ltr">9</span>月から結婚生活に入った（正式な[[婚姻届]]はのちの1953年<span class="ltr">8</span>月<span class="ltr">24</span>日）<ref name="kurakura">[[坂口三千代]]『[[クラクラ日記]]』（[[文藝春秋]]、1967年）</ref><ref name="album"/>。なお、安吾自身は「青鬼の褌を洗う女」について、〈特別のモデルといふやうなものはない。書かれた事実を部分的に背負つてゐる数人の男女はゐるけれども、あの[[宿命]]を歩いてゐる女は、あの作品の上にだけしか実在しない〉としている<ref>坂口安吾「わが思想の息吹」（『文藝時代』1948年<span class="ltr">3</span>月号に掲載）</ref>。

=== ヒロポン・アドルム中毒 ===
1948年（昭和<span class="ltr">23</span>年）<span class="ltr">1</span>月に『[[二流の人 (小説)|二流の人]]』（九州書房）を刊行。「淪落の青春」（未完）を『ろまねすく』に発表。[[伊藤整]]や[[太宰治]]、[[林房雄]]らのいる『ろまねすく』は前年<span class="ltr">8</span>月に同人となった{{refnest|group="注釈"|『ろまねすく』の同人は、坂口安吾、[[辰野隆]]、[[伊藤整]]、[[太宰治]]、[[林房雄]]、[[田村泰次郎]]、[[清水昆]]、[[寒川光太郎]]らがいた<ref name="nenkawade"/>。}}。<span class="ltr">2</span>月に『金銭無情』を[[文藝春秋新社]]から刊行する。この頃から[[ヒロポン]]に加え、[[シクロバルビタール|アドルム]]を服用するようになり、ちょうど太宰治の自殺した<span class="ltr">6</span>月頃から、[[鬱病]]的精神状態に陥る。これを克服するために、短編やエッセイの仕事は断り、長編「にっぽん物語」（のち『火』）の連載執筆に没頭する。しかし不規則な生活の中でアドルム、ヒロポン、[[ゼドリン]]を大量に服用したため、病状は更に悪化し、[[幻聴]]、[[幻覚|幻視]]も生じるようになる。<span class="ltr">12</span>月、執筆取材のために[[京都]]へ行くが発熱し旅館に病臥する状態だった。翌[[1949年]]（昭和<span class="ltr">24</span>年）<span class="ltr">1</span>月に戻った後にはアドルム中毒で狂乱状態、幻視、神経衰弱となり、夫人や友人達の手により<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">23</span>日に [[東京大学医学部附属病院]][[神経科]]に入院した<ref name="album"/>。<span class="ltr">3</span>月に「にっぽん物語―スキヤキから一つの歴史がはじまる」を発表（続きは<span class="ltr">5</span>月-7月まで）。<span class="ltr">4</span>月に薬品中毒症状と鬱病は治まり、「僕はもう治っている」を『[[読売新聞]]』に発表。「にっぽん物語」の完成を目指し、置手紙を残して外出先から電話をかけて病院を自主退院する。<span class="ltr">6</span>月には「精神病覚え書」を『文藝春秋』に発表。<span class="ltr">8</span>月に推理小説「[[復員殺人事件]]」を『座談』に連載開始し、本格推理小説で新境地を拓くが、載誌が廃刊となったため翌年<span class="ltr">3</span>月に第<span class="ltr">19</span>章までで中絶となる<ref name="kaidai8">「解題」（『坂口安吾全集<span class="ltr">8</span>』筑摩書房、1998年）</ref>。未完となった「復員殺人事件」はその展開を惜しまれ、他の探偵小説を書く暇があるのなら、これを完結させるべきだったと大井広介はのちに安吾に苦言を呈している<ref name="tuduki"/>。生活のために執筆を再開するが、軽く使用した薬物のために病気が再発し発狂状態となる。やむなく夫人とともに[[静岡県]][[伊東市]]に転地療養し、[[温泉]]治療でなんとか健康を取り戻し、<span class="ltr">11</span>月に伊東市岡区広野1-601の借家に移転し、犬を飼い始める。なお、この1949年（昭和<span class="ltr">24</span>年）から1954年（昭和<span class="ltr">29</span>年）まで<span class="ltr">5</span>年間、[[芥川龍之介賞|芥川賞]]選考委員を勤め、[[五味康祐]]『喪神』、[[松本清張]]『[[或る「小倉日記」伝]]』<ref name="mainichi">{{Cite web|和書|title=絵ばなし：昭和傑作列伝 松本清張『或る「小倉日記」伝』 鴎外を追う 孤独を埋める|url=https://mainichi.jp/articles/20190825/ddp/014/040/003000c|website=毎日新聞|accessdate=2021-09-12|date=2019-08-25}}</ref>を強く推すなど新風を吹き込んだ。

=== 巷談師の自覚と珍騒動 ===
[[1950年]]（昭和<span class="ltr">25</span>年）<span class="ltr">1</span>月には、ファルス的小説「[[肝臓先生]]」を『[[文學界]]』に発表。続いて戯作者精神を発揮した社会時評「[[安吾巷談]]」を『[[文藝春秋 (雑誌)|月刊 文藝春秋]]』で発表し、文藝春秋読者賞を受賞するが、この頃、再び睡眠薬を服用し、中毒症状の発作を起こした。<span class="ltr">5</span>月から「街はふるさと」を『[[読売新聞]]』に連載し、執筆のため度々上京して[[文京区]][[小石川]]林町のモミジ旅館に宿泊した<ref name="album"/>。<span class="ltr">8</span>月に「巷談師」を『別冊文藝春秋』に発表。<span class="ltr">10</span>月からは探偵小説「[[明治開化 安吾捕物帖]]」を『[[小説新潮]]』に連載。この作品は、探偵・結城新十郎が[[勝海舟]]との談話を交えながらシリーズで解決役となる。安吾は、短編の推理の理想的な形式として日本流の[[シャーロック・ホームズシリーズ]]を書こうとし、日本では[[岡本綺堂]]『[[半七捕物帳]]』のような成功作があるということで「捕物帳」になった<ref name="tuduki"/>。同月には[[石坂洋次郎]]、[[林房雄]]らとの合作によるラジオ小説『[[天明太郎]]』を宝文館で刊行した。翌[[1951年]]（昭和<span class="ltr">26</span>年）<span class="ltr">3</span>月から歴史考察を記した「[[安吾新日本地理]]」を『文藝春秋』にて連載開始。古代王朝に関する大胆な仮説（[[蘇我氏|蘇我]]天皇説）も提唱した鋭い感性からくる歴史観は、その後の作家（[[松本清張]]、[[黒岩重吾]]など）が古代史を論ずる際の嚆矢となった。

[[ファイル:Observing writers at the 1st Chatterley trial.jpg|thumb|230px|[[チャタレー事件|チャタレー裁判]]を傍聴する坂口安吾（最前列右から<span class="ltr">2</span>人目）、1952年<span class="ltr">1</span>月<span class="ltr">18</span>日]]
安吾は流行作家としての収入があっても全て使い切ってしまい、<span class="ltr">5</span>月に[[税金]]滞納により家財や蔵書、原稿料も差し押さえとなる。[[国税庁]]に腹を立てた安吾は<span class="ltr">6</span>月に、「差押エラレ日記」、「[[負ケラレマセン勝ツマデハ]]」を『[[中央公論]]』に書き、税金不払い闘争を行なった。夏から[[岐阜県]]北部の[[飛騨国|飛騨]]・[[高山市|高山]]地方を旅行し、日本古代への新たな興味を抱く。一方、この頃から[[競輪]]場に通い出し、[[伊東温泉競輪場|伊東競輪]]のあるレースの着順判定（写真判定）に不正があったのではないかと調査、当時の運営団体である静岡県[[JKA|自転車振興会]]を[[検察庁]]に告訴するという伊東競輪不正告訴事件を<span class="ltr">9</span>月に起こす。監督官庁である[[通商産業省]]は「坂口氏の思い違いである」として断定する<ref>「坂口氏の思い違い」『朝日新聞』昭和<span class="ltr">26</span>年<span class="ltr">9</span>月<span class="ltr">22</span>日<span class="ltr">3</span>面</ref>が、<span class="ltr">11</span>月にはこれについて書いた「光を覆うものなし」を『新潮』に発表し、その中で再度写真のすり替えによる不正を主張したが、<span class="ltr">12</span>月に嫌疑不十分で不起訴となった。この時代の競輪は、[[チンピラ]]や[[ヤクザ]]の巣窟だったという<ref name="inui"/>。

この競輪告訴事件の泥沼化により疲れ果て、アドルムを多量に服用し伊東市から離れて、[[被害妄想]]から[[大井広介]]邸など転々と居場所を変えることになり、妻・三千代の実家や[[石神井]]の[[檀一雄]]宅に居候する。檀一雄の家に身を寄せていた頃、安吾は「[[カレーライス|ライスカレー]]を百人前頼んでこい」と妻に言いつけ、三千代夫人は仕方なく、近所の食堂や[[蕎麦屋]]（「ほかり食堂」と「辰巳軒」）に頼み、庭に次々と出前が積み上げられていくという「ライスカレー百人前事件」を引き起こす<ref name="kurakura"/><ref name="inui">[[戌井昭人]]「安吾は、どうしてライスカレーを百人前頼んだのか」（『KAWADE夢ムック文藝別冊 坂口安吾―風と光と戦争と』河出書房新社、2013年）</ref>{{refnest|group="注釈"|[[戌井昭人]]は、ヤクザ者に命を狙われ、追われていると思っていた安吾が、自分側の味方の仲間には、相当数の人間がいるんだというハッタリをかますために、100人前もライスカレーを頼んだのではないかと推察している<ref name="inui"/>。}}。檀一雄はその時の安吾について、「云い出したら金輪際にひかぬから」と語っている<ref>[[檀一雄]]『小説坂口安吾』（[[東洋出版]]、1969年）</ref><ref name="inui"/>。その後安吾は、[[1952年]]（昭和<span class="ltr">27</span>年）<span class="ltr">2</span>月末、『現代文學』同人だった[[南川潤]]の紹介で[[群馬県]][[桐生市]]本町<span class="ltr">2</span>丁目266番地の書上又左衛門邸の離れに身を隠す。この頃、この地で[[古墳]]巡りや[[ゴルフ]]を始めた<ref name="album"/>。小説の執筆は激減するが、同年<span class="ltr">1</span>月からは歴史人物譚「安吾史譚」を『[[オール讀物]]』に連載し、[[評論家]]として活躍、巷談師を自称する。同月には、[[チャタレー事件|チャタレー裁判]]を林房雄らと共に傍聴し、「チャタレイ傍聴記」を『読売新聞』に載せた。<span class="ltr">6</span>月に「[[夜長姫と耳男]]」、<span class="ltr">9</span>月に戯曲「輸血」を『新潮』に発表。<span class="ltr">10</span>月からは歴史小説「[[織田信長|信長]]」を新聞『[[新大阪 (新聞)|新大阪]]』に覆面作家として連載。連載と並行して作者名を当てる懸賞募集も行われ、応募総数2784通のうち正解は1299名だった。

=== 歴史探訪と途絶 ===
[[1953年]]（昭和<span class="ltr">28</span>年）<span class="ltr">1</span>月、「屋根裏の犯人」を『[[キング (雑誌)|キング]]』に発表。<span class="ltr">4</span>月ころから[[鬱病]]が再発し、アドルム、[[ブロバリン]]の大量服用で錯乱状態となったことで、南川潤とも絶縁する。<span class="ltr">8</span>月に、文藝春秋新社の企画で、安吾が[[上杉謙信]]で、[[檀一雄]]が[[武田信玄]]という想定で[[川中島の戦い|川中島決戦]]を再現するため[[長野県|信州]]に旅行するが、ここで暴れて[[松本警察署]]の[[留置場]]に入れられ、釈放された<span class="ltr">8</span>月<span class="ltr">6</span>日の朝、長男（[[坂口綱男|綱男]]）の誕生を知る。薬物の発作が治まると、子供の親だという自覚が芽生え、生活が変化する。[[1954年]]（昭和<span class="ltr">29</span>年）<span class="ltr">1</span>月、子供が出来たために、財産が無いことを案じた「人の子の親となりて」を『[[キング (雑誌)|キング]]』に発表。<span class="ltr">50</span>歳近くで初めての子ができたことに惑いながらも、子供の成長の伴い愛情を深め、貯金をしようかという気になり始め、また子にはパパ、ママと呼ばせる<ref>坂口安吾「砂をかむ」（『風報』1955年<span class="ltr">3</span>月号に掲載）</ref>。

同年<span class="ltr">8</span>月、歴史小説「真書[[太閤記]]」を『知性』に連載開始。「信長」と対をなし、[[豊臣秀吉]]（[[太閤]]）を描いた作品である（未完）。<span class="ltr">10</span>月に[[法要]]のため、初めて妻と息子を連れて新潟に帰省し、幼少時代の地を歩く。<span class="ltr">11</span>月に行きつけの浅草の[[お好み焼き]]店「染太郎」で、知人たちと食事をし、トイレに立つ時に熱い[[鉄板]]に手をついてしまうという「染太郎[[火傷]]未遂事件」を起こす<ref name="butaji">[[坂口綱男]]『安吾と三千代と四十の豚児と』（集英社、1999年）</ref>。ジュっと音がして焼けた安吾の手のひらを、すばやく[[氷]]で冷やして手当をしてくれた店の女主人に感謝した安吾は、「テッパンに手をつきてヤケドせざりき男もあり」という[[色紙]]を贈った<ref name="butaji"/>。<span class="ltr">12</span>月には、「安吾日本風土記」の構想のために[[九州]]の[[宮崎県]]に赴き、[[高千穂神社]]を訪れた<ref name="album"/>。『中央公論』編集長・笹原金次郎によれば、安吾は[[庶民]]の声を綴ろうと、「日本全国歩こう。地方を廻って、古老から話を訊くんだ。日本人の、全く新しい歴史を書きたいんだ」と意欲を持って、「安吾日本風土記」に臨んでいたとされる<ref name="album"/>。

[[1955年]]（昭和<span class="ltr">30</span>年）<span class="ltr">1</span>月、歴史小説「狂人遺書」（「真書太閤記」の後継をなす作品）を『中央公論』、<span class="ltr">2</span>月に推理小説「能面の秘密」を『小説新潮』に発表。「安吾日本風土記――高千穂に冬雨ふれり」を『中央公論』に発表して連載開始し、[[富山県]]や新潟県、さらに[[高知県]]へ取材した。<span class="ltr">3</span>月号には「安吾日本風土記――富山の薬と越後の毒消し」を発表。[[<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">15</span>日]]夜に桐生市の自宅へ戻り、[[<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">17</span>日|17日]]早朝に、「舌がもつれる」と言いながら突然痙攣を起こし倒れ、<span class="ltr">7</span>時<span class="ltr">55</span>分に[[脳出血]]により死去<ref name="album"/>。{{没年齢|1906|10|20|1955|2|17}}。

葬儀は<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">21</span>日に[[青山斎場]]で行われ、[[尾崎士郎]]、[[川端康成]]や[[佐藤春夫]]、[[青野季吉]]らが弔辞を読む。川端康成は、「'''すぐれた作家はすべて最初の人であり、最後の人である。坂口安吾氏の文学は、坂口氏があってつくられ、坂口氏がなくて語れない'''」とその死を悼んだ<ref name="album"/>。安吾は生前、葬式は退屈で不要だから「バカ騒ぎを一晩やりなさい。あとは誰かと恋をしてたのしく生きて下さい。遺産はみんな差しあげます。お墓なんか、いりません。」「告別式の盛儀などを考えるのは、生き方の貧困のあらわれにすぎず、貧困な虚礼にすぎないのだろう。」と語っており<ref>[https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42838_27737.html 坂口安吾 私の葬式]（[[青空文庫]]）</ref>、墓は故郷の新潟県[[新津市]][[大安寺 (新潟市)|大安寺]]（現・新潟市[[秋葉区]]大安寺）の坂口家墓所に葬られたが、墓には安吾の名や[[戒名]]は一切印されていない。

小説としての[[絶筆]]は「狂人遺書」となった。没後にエッセイとして<span class="ltr">3</span>月に「諦めている子供たち」が『[[暮しの手帖]]』、「砂をかむ」が『風報』、<span class="ltr">4</span>月に「育児」が『[[婦人公論]]』、「青い絨毯」が『中央公論』、「世に出るまで」が『小説新潮』に掲載される。「狂人遺書」について安吾は生前、〈誰にもわかってもらえなかった秀吉の哀しさと、バカバカしいほどの野心とを書くんだよ〉と言い、<span class="ltr">53</span>歳の高齢となって初の子供（[[豊臣鶴松|鶴松]]）ができた晩年の豊臣秀吉に自己を投影して、長男・[[坂口綱男|綱男]]への気持ちを表現すると同時に、大きな執筆意欲を示していた<ref name="eguchi"/>。

=== 死後 ===
[[1957年]]（昭和<span class="ltr">32</span>年）、新潟市寄居浜の[[新潟縣護國神社|護国神社]][[境内]]に「'''ふるさとは語ることなし'''」の詩碑が建立された<ref name="album"/>。また毎年<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">17</span>日は「'''安吾忌'''」が催されている。

未完成であった推理小説「樹のごときもの歩く」が、1957年（昭和<span class="ltr">32</span>年）<span class="ltr">8</span>月から<span class="ltr">11</span>月まで<span class="ltr">4</span>回『[[宝石 (雑誌)|宝石]]』で連載された<ref name="sougen">[[中島河太郎]]「坂口安吾年譜」（『日本探偵小説全集<span class="ltr">10</span>坂口安吾集』東京創元社、1985年）</ref>。これは、掲載雑誌廃刊のために第<span class="ltr">19</span>章までで未完のままであった推理小説「復員殺人事件」（1949年<span class="ltr">8</span>月-1950年<span class="ltr">3</span>月）を「樹のごときもの歩く」と改題して'''再掲載'''したものであり<ref name="kaidai8"/>、その後を同年<span class="ltr">12</span>月から[[高木彬光]]が続きを書き継いで、翌1958年（昭和<span class="ltr">33</span>年）<span class="ltr">4</span>月に完結させた<ref name="sougen"/><ref name="kaidai8"/><ref name="gonda">[[権田萬治]]「解説」（文庫版『復員殺人事件』角川文庫、1977年。再版1978年）</ref>。高木が書き継いだ新稿の後半部は第<span class="ltr">20</span>章から第<span class="ltr">30</span>章となる<ref name="kaidai8"/>。高木は安吾夫人から、犯人のことや事件解決の決め手などの「安吾の意図」を聞いていたという<ref name="gonda"/>。しかし結果的には、「解決編」（最終回の第<span class="ltr">28</span>章から第<span class="ltr">30</span>章<ref name="kaidai8"/>）は安吾の遺志どおりには展開されてはいないとされている<ref name="gonda"/>。

== 評価 ==
[[柄谷行人]]は解説「坂口安吾とフロイト」において、安吾が自らの[[鬱病]]の原因を「自我の理想的な構成、その激烈な祈念に対する現実の[[アンバランス|アムバランス]]」（「精神病覚え書」）と自己分析していたことに触れた上で、その「自我の理想的な構成、その激烈な祈念」という反復強迫に、[[フロイト]]の言う「[[死の欲動]]」があると分析している<ref name=”karatani”>[[柄谷行人]]「坂口安吾とフロイト」（{{Harvnb|新潮文庫|2000|pp=283-302}}）</ref>。また同時に柄谷は、日本の近代文学の「[[第一次戦後派作家|第一次戦後派]]」や「[[第三の新人]]」といった戦後の作家や、[[太宰治]]とは隔たる安吾の特異な面を見ながら、「何が彼を近代文学＝[[ロマン主義]]的な一般性から隔てているのか」の答えとして、安吾には、「[[理性]]と[[感情]]」（[[意識]]と[[無意識]]）、「[[現実原則]]と[[快感原則]]」といったわかりやすい二元論とは異質な「死の欲動」があり、その反復強迫にたえず追い詰められていた作家だとしている<ref name=”karatani”/>。

そして柄谷は、安吾が[[文壇]]に注目された時期に掲げていた[[ファルス]]（全的に人間存在を肯定<ref>「FARCE に就て」（青い馬 第<span class="ltr">5</span>号、1932年<span class="ltr">3</span>月）</ref>）ではない、いわゆる近代小説的な、意識による抑圧の理論の「まともな長編小説」を書こうとして鬱病を再発させ、その長編「吹雪物語」の完成後、鬱病を回復させた時期に執筆した「イノチガケ」という作品（[[キリスト教]]がいかに日本に到来し広がったかを政治的背景の中で示した作品）に着目し、その中の、幕府が考案した穴つるしの刑によって[[殉教]]が繰り返される光景の「無味乾燥な書き方」や、その「滑稽な」処刑により[[切支丹]]の死の尊厳を封じることができたと書いている随筆「文学と国民生活」を関連させつつ、その滑稽さが「死の欲動」を抑制したと解析している<ref name=”karatani”/>。そのため、その「イノチガケ」（ある意味でファルスの反復）以後の安吾は、初期にファルスを唱えながらもなお抱いていた「近代小説の形態へのこだわり」を捨て去り、多彩なジャンル（「[[日本文化私観]]」のようなエッセイや「織田信長」などの歴史小説）に及ぶ重要な執筆活動を広げ、その活動を通して安吾の中で「近代小説を優位におくハイアラーキー（[[位階]]）」が消失したとして、柄谷は以下のように安吾の作品総体を評価している<ref name=”karatani”/>。
{{Quotation|彼はもはやファルスを唱えない。が、その作品総体がファルス的なのである。その結果として、近代的小説を中心として見る戦後の文学史家において、安吾は二流の作家と見なされてきた。実際、彼の作品では、エッセイが小説的で、小説がエッセイ的である。どんな作家にもあるような(いかにもロマン主義的な長編小説といった)代表作というべきものがない{{refnest|group="注釈"|柄谷は、「彼の作品では、エッセイが小説的で、小説がエッセイ的である」と述べているため、この場合の「どんな作家にもあるような代表作」は、近代的小説を中心として見る戦後の文学史における小説らしい小説であり、柄谷が言うところの、「近代小説の形態」をなしている小説（エッセイ的でないもの）を含意している。}}。しかし、安吾が今もわれわれを惹きつけるのは、まさにそのためである。安吾の作品を一冊にまとめるとき、このようなジャンル的区別を否定すべきである。そして、それこそが安吾のいう「全的肯定」にほかならない。|柄谷行人「坂口安吾とフロイト」<ref name=”karatani”/>。}}

また、[[奥野健男]]の論考によると、坂口安吾は多彩な活動をする一方で、気まぐれに放棄された未完作、未発表作も多く、その烈しい精神の振幅の個性を全的に表現しうる方法論を模索しながらも十全に開花させた純文学においての[[長編小説]]は書かれることは無かったが<ref name="okuno"/>{{refnest|group="注釈"|その意味で、奥野は、「坂口安吾は、ついに十全の自己表現の場を見いだしえなかった、永遠に未完成、未熟な悲劇の小説家といえよう」と述べている<ref name="okuno"/>。}}、いわゆる文壇の巨匠や名人と言われるような器用な作家の作品からは得られない特異な魅力のある作家として、広くジャンルを越えて他の多くの作家、創作者からも親しまれている傾向があり<ref name="okuno"/><ref>『KAWADE夢ムック文藝別冊 坂口安吾―風と光と戦争と』（河出書房新社、2013年）</ref>、奥野はその安吾の魅力を、他の小説家からは求めることができない「不思議な人間的魅力にあふれている」「ある時は人間の魂の底まで揺がすようなすさまじい感動を、ある時は澄みきった切ないかなしみに似た憧れを与えてくれる」と評しつつ、「坂口安吾の作品の中に、未来の文学へのさまざまな貴重な実験や発想や方法、そして全人的なヴァイタリティをぼくたちは見いだすことができる」としている<ref name="okuno"/>。また、文学作品だけではなく、その[[歴史小説]]や[[推理小説]]も評価され愛好されている<ref name="tuduki"/>。

無頼派、新戯作派であり、坂口安吾との交流も多かった[[檀一雄]]は安吾の特異な作家性について以下のように評している<ref name="dan">[[檀一雄]]「作品解説」（{{Harvnb|角川文庫|1996|pp=261-266}}）</ref>。{{Quotation|安定した全ての気質の解体。道義、人情の解体これらは、いつも過激なまでの生活万般の解体にまで及んでいた。その臂力の雄偉さ。その思考の斬新さ。まことに前人未到のものであり、私にはいつも鬼神のワザに思われたものである。私の生涯のできごとで、この人との邂逅ほど、重大なことはほかにない。おびただしい精神の贈与を、乱雑に、また惜しげも無くドカドカとばら撒き与える人であった。|檀一雄「作品解説『堕落論』」}}

[[磯田光一]]は坂口安吾が執筆した作品群を並べ、安吾という作家、また文章への評価としてこう総括している<ref name="isota">[[磯田光一]]「坂口安吾 人と作品」（{{Harvnb|角川文庫|1996|pp=255-261}}）</ref>。{{Quotation|安吾は優れた作家であると同時に、一流のエッセイストであった。彼はエッセイにおいても、ある時は志を語り、またある時は、ゆったりした余裕と現実洞察力をもって、世のさまざまな事象について語っている。安吾の書き残した作品群が、世の人生案内ふうの本とは根本的に異なっていることに気づくためには、事によったら読者の年齢と成熟とを必要とするかもしれない。しかし、一流の文学というものは、おおかたそういう性格のものなのである。|磯田光一「坂口安吾 人と作品」}}

[[七北数人]]は、安吾の「風と光と二十の私と」を始めとする自伝的小説群を解説しながら、「無頼派と呼ばれるにふさわしい[[デカダン]]な行状を含みながらも、これほど真面目に生きた人は稀ではないかと思わせられる」として以下のように安吾の作品を評価している<ref name="nana">[[七北数人]]「解説」（{{Harvnb|風と光|2008|pp=391-402}}）</ref>。
{{Quotation|（安吾は）いつでも人生いかに生くべきかを真剣に考え、求道の念が強すぎて時にくずおれそうになる弱い心も隠さずさらけ出す。文章のはしばしに滲む悲しみは、青春の純粋な魂を失わずにいる人にだけ沁みとおっていく清水のようなものかもしれない。|七北数人「解説――風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇」<ref name="nana"/>}}

[[柄谷行人]]は『[[週刊読書人]]』3211号に掲載された自らの著作である坂口安吾論の刊行インタビューの中で、[[無頼派]]について「「無頼」という言葉は、一般に考えられているようなものではなく、「頼るべきところのないこと」（『[[広辞苑]]』）です。つまり、それは他人に頼らないことです。その意味では、いわゆる[[ヤクザ]]は無頼とはほど遠い。組織に依存し親分に従い、他人にたかるのだから。その意味で、安吾はヤクザではなく、まさに「無頼」だった。太宰はそうではない。「無頼」であれば、そもそも[[共産党]]に入党しないし、転向もしない。彼は頼りっぱなしの人だった。自殺するときまで、他人に頼っている。そういうものを「無頼」とはいいません。言語の本来の意味では、「無頼派」は安吾だけだったと思います。最初に読んだときから、自分には安吾が性に合っていた。」と評している。
 
また、坂口安吾の作家生活は約<span class="ltr">24</span>年間（1931年-1955年）であるが、戦後<span class="ltr">10</span>年間の後半生（[[文壇]]的成功、恋愛、酒と遊び、狂気、長編小説の失敗、社会的事件、死）と、戦前<span class="ltr">14</span>年間の前半生の経過が非常に似ていることが指摘されている<ref name="ogawa">[[小川徹 (映画評論家)|小川徹]]「坂口安吾」（文藝 1967年<span class="ltr">7</span>月号に掲載）</ref>。[[小川徹 (映画評論家)|小川徹]]は、安吾が自身の前半生を戦後の後半生に対応させて、同じ人間が生まれ変わり、「解放された人間」として同じ経過のコースをもう一度生きてみようとしたのではないかと考察している<ref name="ogawa"/>。

そして、前段の節でも記述したように、安吾の葬儀の際には[[川端康成]]が、安吾の個性的な文学について触れ、「すぐれた作家はすべて最初の人であり、最後の人である。坂口安吾氏の文学は、坂口氏があってつくられ、坂口氏がなくて語れない」と述べた<ref name="album"/>。

また、作家同士の交流が多かった無頼派、新戯作派の中でも特に坂口安吾と深い交流があった[[石川淳]]は自らの随筆『安吾のいる風景』の中で「安吾はよく書き、よく褒めた。褒めるのは自分の書いたものに決まっている。それはもっと、もっとと、自分を先のほうへせきたてる調子のようにもきこえた」と、創作時における安吾の印象を述べている。<br />さらに、[[石川淳]]は『この巨大なるもの』と題した以下のような評を安吾の全集に寄せている。
{{Quotation|一たび堰を切つた安吾全集は奔流だうだうと諸君のたましひに鳴りひびく。高貴なるもの、通俗なるもの、深くしづもるもの、派手にみだれるものを併せて、文學の精髓はすべて混沌としてここにある。全巻至るところに安吾がゐて、大いに笑ひ大いに慨く。|石川淳「この巨大なるもの――『定本　坂口安吾全集』」}}

作家の[[佐藤春夫]]は「文学の本筋をゆく」の中で、「坂口安吾の文学はいささか奇矯で反俗的なところはあつても、文学としては少しも病的なものではなく、高邁な精神をひそめたすぐれたものと思ふ。その点、太宰治のどこまでも頽廃的でいぶしのかかつたセンチメンタルなものよりわたくしは坂口の文学の方が文学の本筋だと思つてゐる」とした上で以下のように評している<ref name="satoh">[[佐藤春夫]]「文学の本筋をゆく――坂口安吾選集」（『読売新聞』夕刊 1956年<span class="ltr">8</span>月<span class="ltr">1</span>日号）</ref>。
{{Quotation|坂口は世俗的などんな先入観念にも煩はされるところなくぢかに人間を見た。そのため人間の心理は彼は可なり深く知るところである。それ故、彼の文学は、創作とばかりは限らず、雑感随筆のたぐいまで、その囚はれないものの見方、濶達な人がらがよく出てゐて、おもしろい。太宰のものが現代青年のものであるのに対比して坂口の文学は将来のおとなの文学だとも思へる。<br />わたくしは素直に人智の進歩発達を信じて年来、文学の常識も年々に健全な発達を遂げてゐると見てゐるものであるが、一般の読者が太宰の文学に堪能してこれを卒業したころになつて、坂口文学の真価がもう一度見直され、やがて正常に理解され愛読されるものとなるのを疑はない。|佐藤春夫「文学の本筋をゆく――坂口安吾選集」<ref name="satoh"/>}}
 
終戦直後の成功によって[[無頼派]]（新戯作派）と呼ばれた坂口安吾だが、その戦前からの[[笑劇|ファルス]]的作品や、歴史小説までも含めた諸作品に貫かれているのは、「壮大な虚構精神」であり、[[私小説]]的な自伝小説には、自己否定と独特な「求道的態度」が脈打っていると[[三枝康高]]は解説し<ref name="saegusa"/>、それらの作品には、安吾の狂気じみた「爆発的性格」と「[[がらんどう|ガランドウ]]にも似た風格」が介在していると評している<ref name="saegusa"/>。
 
この「ガランドウ」という言葉は、小田原に安吾を招き共に生活をしたこともある[[三好達治]]が安吾を評して、「かれは堂々たる建築だけれども、中へはいってみると、畳が敷かれていない感じだ」と言った評を受け、安吾自身が笑ってしまい、自分のことを、「まったくお寺の本堂のような大きなガランドウに、一枚の[[ござ|ウスベリ]]も見当たらない。大切な一時間一時間を、ただなんとなく迎へ入れて送りだしてゐる。実の乏しい毎日であり、一生である。土足のままスッとはいりこまれて、そのままズッと出ていかれても、文句のいいやうもない。どこにもくぎりのないのだ。ここにて[[下駄]]をぬぐべしといふやうな制札が、まつたくどこにもないのである」と述べたことから来ている<ref>[[三好達治]]「若き日の安吾君」（『路傍の秋』筑摩書房、1958年）</ref><ref name="saegusa"/>。
 
[[三島由紀夫]]も安吾を「敬愛する作家」として以下の言葉を選集に寄せている<ref name="mishima2">三島由紀夫「私の敬愛する作家」（『坂口安吾選集』内容見本 東京創元社、1956年<span class="ltr">6</span>月）。{{Harvnb|三島<span class="ltr">29</span>巻|2003|p=225}}に所収</ref>。
{{Quotation|私は坂口安吾氏に、たうたう一度もお目にかかる機会を得なかつたが、その仕事にはいつも敬愛の念を寄せてゐた。戦後の一時期に在つて、混乱を以て混乱を表現するといふ方法を、氏は作品の上にも、生き方の上にも貫ぬいた。氏はニセモノの静安に断じて欺かれなかつた。言葉の真の意味においてイローニッシュな作家だつた。氏が時代との間に結んだ関係は冷徹なものであつて、ジャーナリズムにおける氏の一時期の狂熱的人気などに目をおほはれて、この点を見のがしてはならない。|三島由紀夫「私の敬愛する作家」<ref name="mishima2"/>}}
 
そして、「[[太宰治]]がもてはやされて、坂口安吾が忘れられるとは、石が浮んで、木の葉が沈むやうなものだ」として、三島は安吾について以下のようにも評している<ref name="mishima"/>。
{{Quotation|坂口安吾は、何もかも洞察してゐた。底の底まで見透かしてゐたから、明るくて、決してメソメソせず、生活は生活で、立派に狂的だつた。坂口安吾の文学を読むと、私はいつもトンネルを感じる。なぜだらう。余計なものがなく、ガランとしてゐて、空つ風が吹きとほつて、しかもそれが一方から一方への単純な通路であることは明白で、向う側には、夢のやうに明るい丸い遠景の光りが浮かんでゐる。この人は、未来を怖れもせず、愛しもしなかつた。未来まで、この人はトンネルのやうな体ごと、スポンと抜けてゐたからだ。太宰が甘口の酒とすれば、坂口は[[ジン (蒸留酒)|ジン]]だ。[[ウォッカ]]だ。純粋な[[アルコール|アルコホル]]分はこちらのはうにあるのである。| 三島由紀夫「内容見本」（『坂口安吾全集』）<ref name="mishima"/>}}

== 趣味嗜好 ==
=== 囲碁・将棋好き ===
坂口安吾は[[推理小説]]以外に、[[将棋]]や[[囲碁]]も好んでおり、特に囲碁は強く、1937年（昭和<span class="ltr">12</span>年）の京都府滞在時には[[碁会所]]席主として生活していたほどであったが、その後に[[塩入逸造]]三段に五子で勝ったこともある<ref>坂口安吾「私の碁」（『囲碁春秋』1948年<span class="ltr">12</span>月号に掲載）</ref>。

囲碁の[[呉清源]]の[[岩本薫]]との十番碁の第一局、将棋の[[木村義雄 (棋士)|木村義雄]]が[[塚田正夫]]に名人を奪われた第<span class="ltr">6</span>期名人戦の最終局（第七局）、木村と[[升田幸三]]との三番勝負の第一局、木村が塚田から名人を奪回した第<span class="ltr">8</span>期名人戦の最終局（第五局）、それぞれの[[観戦記者|観戦記]]を執筆していて、評価が高い。「勝負の鬼」として十年間不敗だった木村義雄が、1947年（昭和<span class="ltr">22</span>年）の第<span class="ltr">6</span>期[[名人戦 (将棋)|名人戦]]で、勝負師根性を捨てたため塚田正夫にて敗北した時の、木村を厳しく批判した『散る日本』は名作として名高く、1950年に第一期[[九段戦]]に勝利した[[大山康晴]]を主人公にした小説『九段』もある。

また、[[王将戦]]で升田幸三が木村義雄との香落ち番の対局を拒否した[[陣屋事件]]についても、事の詳細を記した随筆『升田幸三の陣屋事件について』が安吾の死後に見つかった<ref group="注釈">初出は『坂口安吾全集<span class="ltr">15</span>』（筑摩書房 1999年） ISBN 4-480-71045-0</ref><ref>[[青空文庫]]でも参照が可能である。http://shogikifu.web.fc2.com/essay/essay021.html</ref>。この中で安吾は、升田の処分を決める棋士総会を傍聴したと記している。この随筆は、関係者の間で証言が食い違うことの多かった陣屋事件における、貴重な考証資料の一つとして注目を浴びた。

=== 食生活 ===
[[アンコウ]]を共食いと言い好んで食べた<ref name="ango">'''坂口安吾'''『明日は天気になれ』</ref>。

=== 政治的立場 ===
旧来の[[封建主義]]（[[天皇制]]等）<ref>https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/card42891.html 青空文庫『天皇小論』参照</ref>と共に[[共産主義]]や[[日本共産党]]、[[日本社会党]]に対しても批判的立場をとり<ref>https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/card42891.html 青空文庫『坂口流の将棋観』参照</ref>、「[[マルクス・レーニン主義|マルクスレーニン]]筋金入りの集団発狂あれば、一方に[[皇居]]前で[[拍手]]をうつ集団発狂あり、左右から集団発狂にはさまれては、もはや日本は助からないという感じ」と記している<ref>坂口安吾「安吾の新日本地理 安吾・[[伊勢神宮]]にゆく」（『文藝春秋』第二九巻第四号に掲載）</ref>。[[ソ連]]や[[日本共産党]]をたびたび批判する一方で[[中国共産党]]を高く評価しており、「本家[[ソ連|ソビエット]]の共産主義政府が壊滅しても、[[中国共産党|中共]]だけは栄えるかも知れない」ことを予言した<ref>https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/card45898.html 青空文庫『戦後合格者』参照（『新潮』第四八巻第三号に掲載）</ref>。
{{quotation|…完全なる無内容、それに加うるにいたずらなる喧嘩ずき、まるで人間の文化以前の欠点だけを集成して見せつけられているようであった。<br />
　彼らのやった仕事の総量は、事毎に牙をむいて吠えたがる野犬の行跡に酷似しているが、人間のなすべき事には全く似たところがない。「なすべき」というのは、知識と責任を背景にしたところの、という意で、政党と政党員には当然必要とすべき条件をさすのである。<br />
　彼らのやった仕事の主なるものはと云えば、ナホトカからスクラムをくんで祖国へ敵前上陸の筋金入りの人達をたきつけて益々をこねさせたり、坐りこませたりすることである。尤もこれに対しては、かくの如くに教育して敵前上陸せしめた[[ソビエト連邦共産党|海の彼方の本店]]を咎めることが先でなければならないが、本店の押しつける無法な仕打を修正して受け入れるだけの識見がない無能な三太夫ぶりというものは、どこの国の共産党にくらべてもこれ以下のものは見当らない。この三太夫は[[ヨシフ・スターリン|本店の殿様]]の手打になるのをビクビクしているだけである。<br />
　彼らが行った政策の唯一のことは、他に対する不協力ということである。反対のための反対。[[教条主義|漸進的なるものに対する拒否]]。同じことでも[[前衛党|自分が主導してやるのでなければイヤ]]だという[[全体主義]]であるが、それも[[共産主義における左翼小児病|単に否定し反対するだけの破壊的な方策]]によって全体主義の性格を誇示したにすぎないのである。<br />
…共産党の全てが、共産主義というものが、みんなこのように無内容で、品性下劣なわけではないだろう。日本共産党というものの悲しむべき特性であるらしい。しかし、ナホトカで[[民主運動 (日本)|特殊教育]]をうけ筋金を入れてもらって祖国へ敵前上陸する新特攻隊を見ると、共産党の本家も、その品性の低さ貧しさに於て日本支店の本店たるにふさわしく、人間の良識が求めているものには逆行的であるようだ。|「戦後合格者」}}
「豊かな国のオコボレに縋る方が、現実を救う最短距離」として戦後の日米関係にも肯定的で<ref>https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/card43150.html 青空文庫『インテリの感傷』参照</ref>、反[[再軍備]]の持論として『[[もう軍備はいらない]]』を執筆している。

=== 芸術観 ===
[[シュルレアリスム]]に関しては批判的であった<ref>青空文庫『安吾巷談「教祖展覧会」』参照 https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/card43182.html </ref>一方で『[[日本文化私観]]』等では、[[機能主義 (建築)|機能]]的、[[新即物主義|即物]]的、[[モダニズム]]的嗜好がうかがえる。

{{Quotation|　ある春先、半島の尖端の港町へ旅行にでかけた。その小さな入江の中に、わが帝国の無敵駆逐艦が休んでいた。それは小さな、何か謙虚な感じをさせる軍艦であったけれども一見したばかりで、その美しさは僕の魂をゆりうごかした。僕は浜辺に休み、水にうかぶ黒い謙虚な鉄塊を飽かず眺めつづけ、そうして、小菅刑務所とドライアイスの工場と軍艦と、この三つのものを一にして、その美しさの正体を思いだしていたのであった。<br>　この三つのものが、なぜ、かくも美しいか。ここには、美しくするために加工した美しさが、一切ない。美というものの立場から附加えた一本の柱も鋼鉄もなく、美しくないという理由によって取去った一本の柱も鋼鉄もない。ただ必要なもののみが、必要な場所に置かれた。そうして、不要なる物はすべて除かれ、必要のみが要求する独自の形が出来上っているのである。それは、それ自身に似る外には、他の何物にも似ていない形である。必要によって柱は遠慮なく歪められ、鋼鉄はデコボコに張りめぐらされ、レールは突然頭上から飛出してくる。すべては、ただ、必要ということだ。そのほかのどのような旧来の観念も、この必要のやむべからざる生成をはばむ力とは成り得なかった。そうして、ここに、何物にも似ない三つのものが出来上ったのである。<br>　僕の仕事である文学が、全く、それと同じことだ。美しく見せるための一行があってもならぬ。美は、特に美を意識して成された所からは生れてこない。どうしても書かねばならぬこと、書く必要のあること、ただ、そのやむべからざる必要にのみ応じて、書きつくされなければならぬ。ただ「必要」であり、一も二も百も、終始一貫ただ「必要」のみ。そうして、この「やむべからざる実質」がもとめた所の独自の形態が、美を生むのだ。実質からの要求を外れ、美的とか詩的という立場に立って一本の柱を立てても、それは、もう、たわいもない細工物になってしまう。これが、散文の精神であり、小説の真骨頂である。そうして、同時に、あらゆる芸術の大道なのだ。<br>　問題は、汝の書こうとしたことが、真に必要なことであるか、ということだ。汝の生命と引換えにしても、それを表現せずにはやみがたいところの汝自らの宝石であるか、どうか、ということだ。そうして、それが、その要求に応じて、汝の独自なる手により、不要なる物を取去り、真に適切に表現されているかどうか、ということだ。|『日本文化私観<ref>https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/card42625.html 青空文庫『日本文化私観』参照</ref>』}}

=== 道徳観 ===
『デカダン文学論』（1946年）では、[[道徳]]観が綴られている。
{{Quotation|　私は世のいわゆる健全なる美徳、清貧だの倹約の精神だの、困苦欠乏に耐える美徳だの、謙譲の美徳などというものはみんな嫌いで、美徳ではなく、悪徳だと思っている。（……）<br />
　美しいもの、楽しいことを愛すのは人間の自然であり、ゼイタクや豪奢を愛し、成金は俗悪な大邸宅をつくって大いに成金趣味を発揮するが、それが万人の本性であって、毫も軽蔑すべきところはない。そして人間は、美しいもの、楽しいこと、ゼイタクを愛するように、正しいことをも愛するのである。人間が正しいもの、正義を愛す、ということは、同時にそれが美しいもの楽しいものゼイタクを愛し、男が美女を愛し、女が美男を愛することなどと並立して存する故に意味があるので、悪いことをも欲する心と並び存する故に意味があるので、人間の倫理の根元はここにあるのだ、と私は思う。（……）<br />
　人間が好むものを欲しもとめ、男が好きな女を口説くことは自然であり、当然ではないか。それに対してイエスとノーのハッキリした自覚があればそれで良い。この自覚が確立せられず、自分の好悪、イエスとノーもハッキリ言えないような子供の育て方の不健全さというものは言語道断だ。（……）<br />
　私はデカダンス自体を文学の目的とするものではない。私はただ人間、そして人間性というものの必然の生き方をもとめ、自我自らを欺くことなく生きたい、というだけである。私が憎むのは「健全なる」現実の贋道徳で、そこから誠実なる堕落を怖れないことが必要であり、人間自体の偽らざる欲求に復帰することが必要だというだけである。人間は諸々の欲望と共に正義への欲望がある。私はそれを信じ得るだけで、その欲望の必然的な展開に就ては全く予測することができない。（……）<br />
　私は風景の中で安息したいとは思わない。又、安息し得ない人間である。私はただ人間を愛す。私を愛す。私の愛するものを愛す。徹頭徹尾、愛す。そして、私は私自身を発見しなければならないように、私の愛するものを発見しなければならないので、私は堕ちつづけ、そして、私は書きつづけるであろう。神よ。わが青春を愛する心の死に至るまで衰えざらんことを。|『デカダン文学論』<br />（「新潮　第四三巻第一〇号」1946（昭和<span class="ltr">21</span>）年<span class="ltr">10</span>月<span class="ltr">1</span>日）}}

== 主要作品 ==
=== 推理小説 ===
{{div col|small=yes}}
==== 巨勢博士 ====
* [[不連続殺人事件]]（1947年） - 長編
*復員殺人事件（第<span class="ltr">19</span>章までで未完、1949年）
*選挙殺人事件（1953年）
*正午の殺人（1953年）
==== 結城新十郎 ====
* [[明治開化 安吾捕物帖]]（上下）
==== ノンシリーズ ====
*投手殺人事件（1950年）
*孤立殺人事件
*屋根裏の犯人（1953年）
*南京虫殺人事件（1953年）
*山の神殺人（1953年）
*影のない犯人（1953年）
*心霊殺人事件（1954年） - 中編
*能面の秘密（1955年）
==== 海外翻案 ====
*組立殺人事件（1951年） - ロイ・ヴィカース作品<ref>『坂口安吾全集』（全<span class="ltr">17</span>冊、筑摩書房、1998-1999年）ほか</ref>
{{div col end}}

=== 歴史小説 ===
{{div col|small=yes}}
*黒田如水（『[[二流の人 (小説)|二流の人]]』の原型）
*島原の乱雑記
*道鏡
*[[徳川家康|家康]]　
* [[二流の人 (小説)|二流の人]]
*織田信長（未完）
*信長
*梟雄
*真書太閤記
{{div col end}}

=== その他小説・自伝 ===
{{div col|small=yes}}
*木枯の酒倉から
*ふるさとに寄する讃歌
* [[風博士]]
* [[黒谷村]]
*海の霧
*霓博士の頽廃
*竹藪の家
*蝉――あるミザントロープの話
*母
*Pierre Philosophale
*村のひと騒ぎ
*傲慢な眼
*小さな部屋
*麓（未完）
*姦淫に寄す
*蒼茫夢
*金談にからまる詩的要素の神秘性に就て
*逃げたい心
*をみな
*狼園
*母を殺した少年（吹雪物語の一部）
*老嫗面
*南風譜―牧野信一へ―
* [[吹雪物語]]
*閑山
* [[紫大納言]]
*木々の精、谷の精
*篠笹の陰の顔
* [[イノチガケ]]
*風人録
*波子
* [[真珠 (坂口安吾)|真珠]]
*二十一
*鉄砲
*露の答
*わが血を追ふ人々
* [[白痴 (坂口安吾)|白痴]]
*外套と青空
*女体
*いづこへ
* [[戦争と一人の女]]
*石の思ひ
*続戦争と一人の女
*恋をしに行く
*私は海を抱きしめてゐたい
*ぐうたら戦記
* [[風と光と二十の私と]]
*母の上京
*花妖
*二十七歳
*花火
* [[桜の森の満開の下]]
*暗い青春
*金銭無情
*オモチャ箱
* [[青鬼の褌を洗う女]]
*ジロリの女――ゴロー三船とマゴコロの手記
*アンゴウ
*三十歳
*にっぽん物語（のちの『火』）
* [[天明太郎]]
* [[肝臓先生]]
*水鳥亭由来（のち「水鳥亭」と改題）
*街はふるさと
*九段
*女忍者使ひ
* [[夜長姫と耳男]]
*吝嗇神の宿（『人生オペラ リレー小説』第<span class="ltr">2</span>回）
*握つた手
*女剣士
*保久呂天皇
*花咲ける石
*裏切り
*狂人遺書
*花咲ける石
*青い絨毯
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=== 戯曲 ===
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*麓（未完）
*輸血
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=== 評論・随筆 ===
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*今後の寺院生活に対する私考
* [[FARCEに就いて]]
*新らしき文学
*ドストエフスキーとバルザック
*長島の死に就て
*悲願に就て
*枯淡の風格を排す
*文学の一形式
*牧野さんの祭典によせて
*牧野さんの死
*かげろふ談義
*日本の山と文学
*文字と速力と文学
*作家論について
* [[文学のふるさと]]
*ラムネ氏のこと
*古都
*たゞの文学
* [[日本文化私観]]
*居酒屋の聖人
*青春論
*文学と国民生活
*伝統の無産者
*咢堂小論
*芸術地に堕つ
*地方文化の確立について
*処女作前後の思ひ出
*尾崎士郎氏へ（私信に代へて）
* [[堕落論]]
* [[魔の退屈]]
*肉体自体が思考する
* [[続堕落論]]
*デカダン文学論
*戯作者文学論
* [[特攻隊に捧ぐ]]
*私は誰？
*恋愛論
*大阪の反逆
*わが戦争に対処せる工夫の数々
* [[教祖の文学]]
*散る日本
*推理小説について
*不良少年とキリスト
*太宰治情死考
*志賀直哉に文学の問題はない
*戦争論
*ヨーロッパ的性格、ニッポン的性格
*哀れなトンマ先生
*僕はもう治つてゐる
*精神病覚え書
*勝負師
*行雲流水
* [[安吾巷談]]
*百万人の文学
*推理小説論
*わが人生観
*巷談師
* [[安吾新日本地図]]
* [[負ケラレマセン勝ツマデハ]]
*飛騨・高山の抹殺―安吾の新日本地図・中部の巻
*飛騨の顔
*歴史探偵方法論
*光を覆ふものなし―競輪不正事件
*安吾行状記
* [[安吾史譚]]
*道鏡童子―安吾史譚・その二
* [[もう軍備はいらない]]
*人の子の親となりて
*坂口安吾下田外史
*武者ぶるい論
* [[安吾新日本風土記]]
*砂をかむ
*世に出るまで
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== 著作本一覧 ==
=== 単行本 ===
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*『黒谷村』竹村書房 1935年<span class="ltr">6</span>月
**「木枯しの酒倉から」「ふるさとに寄する讃歌」「[[風博士]]」「黒谷村」「竹薮の家」「蝉」収録
*『吹雪物語』竹村書房 1938年<span class="ltr">7</span>月（改訂版は、新体社 1947年<span class="ltr">7</span>月）
*『炉辺夜話集』スタイル社 1941年<span class="ltr">4</span>月
**「閑山」「紫大納言」「勉強記」「盗まれた手紙の話」「イノチガケ」収録
*『[[真珠 (坂口安吾)|真珠]]』大観堂 1943年<span class="ltr">10</span>月
**「母」「古都」「孤独閑談」「木々の精、風の精」「風人録」「波子」「真珠」収録
*『日本文化私観』文体社 1943年<span class="ltr">12</span>月
**「青春論」など<span class="ltr">6</span>編収録
*『[[二流の人 (小説)|二流の人]]』九州書房 1947年<span class="ltr">2</span>月
*『逃げたい心』銀座出版社 1947年<span class="ltr">4</span>月
**「海の霧」「蝉」「小さな部屋」「麓」「姦淫に寄す」「淫者山へ乗りこむ」「逃げたい心」「禅僧」「篠笹の陰の顔」収録
*『白痴』[[中央公論社]] 1947年<span class="ltr">5</span>月
**「風博士」「孤独閑談」「外套と青空」「閑山」「紫大納言」「勉強記」「盗まれた手紙の話」「[[白痴 (坂口安吾)|白痴]]」「二十一」収録
*『いづこへ』真光社 1947年<span class="ltr">5</span>月
**「石の思ひ」など<span class="ltr">9</span>編収録
*『堕落論』銀座出版社 1947年<span class="ltr">6</span>月
**「日本文化私観」「青春論」「[[堕落論]]」「続堕落論」「デカダン文学論」「戯作者文学論」「FARCEに就て」「文学のふるさと」「萼堂小論」「文芸時評」「風俗時評」「長島の死に就て」収録
*『吹雪物語』（改訂版）新体社 1947年<span class="ltr">7</span>月
*『いのちがけ』[[春陽堂]] 1947年<span class="ltr">7</span>月
**「黒谷村」「竹薮の家」「木々の精、風の精」「イノチガケ」「風人録」「波子」収録
*『道鏡』八雲書店 1947年<span class="ltr">10</span>月
**「木枯しの酒倉から」「霓博士の廃頽」「蒼茫夢」「金談にからまる詩的要素の神秘性に就いて」「をみな」「土の中からの話」収録
*『欲望について』[[白桃書房]] 1947年<span class="ltr">11</span>月
**「大阪の反逆」など<span class="ltr">20</span>編収録
*『外套と青空』地平社 1947年<span class="ltr">12</span>月
**「風博士」「禅僧」収録
*『青鬼の褌を洗う女』山根書店 1947年<span class="ltr">12</span>月
**「散る日本」など<span class="ltr">4</span>編収録
*『二流の人』（改訂版）思索社 1948年<span class="ltr">1</span>月
*『風博士』山河書院 1948年<span class="ltr">1</span>月
**「木枯しの酒倉から」「風博士」「閑山」「勉強記」「盗まれた手紙の話」「土の中からの話」「[[桜の森の満開の下]]」収録
*『金銭無情』[[文藝春秋新社]] 1948年<span class="ltr">2</span>月
**「金銭無情」「出家物語」併録
*『吹雪物語』（改訂版）山根書店 1948年<span class="ltr">2</span>月
*『教祖の文学』草野書房 1948年<span class="ltr">4</span>月
*『風と光と二十の私と』日本書林 1948年<span class="ltr">10</span>月
**「黒谷村」「孤独閑談」「古都」収録
*『竹薮の家』文藝春秋新社 1948年<span class="ltr">11</span>月
*『ジロリの女』秋田書店 1948年<span class="ltr">12</span>月
**「無毛談」など<span class="ltr">5</span>編収録
*『[[不連続殺人事件]]』イブニングスター社 1948年<span class="ltr">12</span>月
**※ 第<span class="ltr">2</span>回[[探偵作家クラブ賞]]受賞。
*『不良少年とキリスト』[[新潮社]] 1949年<span class="ltr">1</span>月
**「戦争論」など<span class="ltr">11</span>編収録
*『不連続殺人事件』岩谷書店 1949年<span class="ltr">9</span>月
*『堕落論』（改訂豪華版）銀座出版社 1949年<span class="ltr">12</span>月
*『勝負師』作品社 1950年<span class="ltr">1</span>月
**「精神病覚書き」「日月様」「勝負師」「行雲流水」「わが精神の周囲」「小さな山羊の記録」「退歩主義者」収録
*『火 第一部』[[大日本雄弁会講談社]]1950年<span class="ltr">5</span>月
*『現代忍術伝』大日本雄弁会講談社1950年<span class="ltr">9</span>月
**「現代忍術伝」「投手殺人事件」併録
*『[[天明太郎]]』（[[林房雄]]らと合作。[[日本放送協会]]編）[[宝文館]] 1950年<span class="ltr">10</span>月
*『安吾巷談』文藝春秋新社 1950年<span class="ltr">12</span>月
**※ [[文藝春秋読者賞]]を受賞。
*『街はふるさと』[[新潮社]] 1950年<span class="ltr">12</span>月
*『明治開化 安吾捕物帖』日本出版協同 1953年<span class="ltr">4</span>月（第一巻）、1953年<span class="ltr">5</span>月（第二巻）、1954年<span class="ltr">1</span>月（第三巻）
*『信長』筑摩書房 1953年<span class="ltr">5</span>月
*『夜長姫と耳男』大日本雄弁会講談社1953年<span class="ltr">12</span>月
**「[[夜長姫と耳男]]」「梟雄」「水鳥亭」など<span class="ltr">7</span>編収録
*『狂人遺書』[[中央公論社]] 1955年<span class="ltr">3</span>月
*『保久呂天皇』大日本雄弁会講談社 1955年<span class="ltr">3</span>月
*『明日は天気になれ』[[池田書店]] 1955年<span class="ltr">4</span>月
*『わが人生観』筑摩書房 1955年<span class="ltr">5</span>月
*『投手殺人事件』東方社 1955年<span class="ltr">5</span>月
*『精神病覚え書』ダヴィッド社 1955年<span class="ltr">5</span>月
*『安吾人生案内』春歩堂 1955年<span class="ltr">6</span>月
*『安吾史譚』春歩堂 1955年<span class="ltr">7</span>月
*『花妖』池田書店 1955年<span class="ltr">8</span>月
*『二流の人』大日本雄弁会講談社 1955年<span class="ltr">8</span>月
*『安吾捕物帖』（全<span class="ltr">4</span>巻）春歩堂 1955年<span class="ltr">9</span>月-12月
*『残酷な遊戯・花妖』[[春陽堂書店]]　2021年<span class="ltr">2</span>月 - 2020年<span class="ltr">11</span>月に古書店で発見された未発表原稿の作品（「花妖」と類似）を収録。
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=== 選集・全集 ===
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*『坂口安吾選集』（全<span class="ltr">9</span>巻）銀座出版社 1947年<span class="ltr">12</span>月-1948年<span class="ltr">8</span>月
**解説：[[福田恆存]]
*『坂口安吾選集』（全<span class="ltr">8</span>巻）創元社 1956年<span class="ltr">7</span>月-1957年<span class="ltr">6</span>月
**解説：[[檀一雄]]
*『定本坂口安吾全集』（全<span class="ltr">13</span>巻）[[冬樹社]] 1967年<span class="ltr">11</span>月-1971年<span class="ltr">12</span>月
**解説：[[奥野健男]]。解題：[[関井光男]]
*『坂口安吾評論全集』（全<span class="ltr">7</span>巻）冬樹社 1971年<span class="ltr">12</span>月-1972年<span class="ltr">3</span>月
**解説：関井光男
*『坂口安吾選集』（全<span class="ltr">12</span>巻）講談社 1982年<span class="ltr">2</span>月-1983年<span class="ltr">2</span>月
**解説：[[野坂昭如]]。解題：関井光男
*『坂口安吾全集』（全<span class="ltr">18</span>巻）[[筑摩書房]]〈[[ちくま文庫]]〉1989年-1991年
*『坂口安吾全集』（全<span class="ltr">17</span>巻＋別巻）筑摩書房 1998年-2000年、※別巻2012年<span class="ltr">12</span>月
*『坂口安吾歴史小説コレクション』（全<span class="ltr">3</span>巻）春陽堂書店 2018年
**解説：[[七北数人]]
*『坂口安吾エンタメコレクション』（全<span class="ltr">3</span>巻）春陽堂書店 2019年
**解説：七北数人
* {{Cite book|和書 |author=坂口安吾 |title=「[[新しい戦前]]」の時代、やっぱり安吾でしょ 坂口安吾傑作選 |publisher=本の泉社 |date=2023-03-25 |isbn=978-4780722369 }}
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=== 文庫新版 ===
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* [[新潮文庫]]『白痴』1949年<span class="ltr">10</span>月、改版1997年、2011年
**新版『堕落論』2000年、『不連続殺人事件』2018年、『不良少年とキリスト』2019年
<!-- *筑摩新書『信長』1955年<span class="ltr">3</span>月
*現代新書『堕落論』1955年<span class="ltr">4</span>月
*河出新書『真書太閤記』1955年<span class="ltr">4</span>月 古くて絶版 -->
* [[角川文庫]]『堕落論』『不連続殺人事件』、『明治開化安吾捕物帖』正・続、各・改版2006年ほか
**『道鏡・狂人遺書』『暗い青春・魔の退屈』『ふるさとに寄する讃歌』『外套と青空』『ジロリの女』『夜長姫と耳男』『散る日本』『安吾巷談』『安吾史譚』『安吾新日本地理』『白痴・二流の人』『能面の秘密』『復員殺人事件』『私の探偵小説』
<!-- * [[旺文社文庫]]『信長』1974年 
* [[富士見書房]]・時代小説文庫『織田信長』『道鏡・家康』『明治開化安吾捕物帖』1987年-->
* [[創元推理文庫]]『日本探偵小説全集<span class="ltr">10</span>　坂口安吾集』1985年
* [[河出文庫]]『安吾史譚』1989年
**『心霊殺人事件　安吾全推理短篇』『復員殺人事件』2019年
**『安吾新日本地理』『安吾新日本風土記』『日本論』
* [[講談社文芸文庫]]『桜の森の満開の下』1989年、ほか<span class="ltr">9</span>冊
<!-- * [[集英社文庫]]『堕落論』1990年
*人物文庫『勝海舟捕物帖』2006年。「明治開化安吾捕物帖」を改題
* [[宝島社文庫]]『信長』2008年 -->
* [[ちくま文庫]]『坂口安吾　[[ちくま日本文学]]』2008年
* [[岩波文庫]]『堕落論・日本文化私観 他二十二篇』2008年
**『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』『風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇』
* [[実業之日本社文庫]]『堕落論・特攻隊に捧ぐ』2013年
*土曜文庫『真書太閤記』、『信長』、『安吾史譚』2017年。オンデマンド出版
* [[中公文庫]]『勝負師 将棋・囲碁作品集』2018年
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=== 文庫漫画版 ===
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*バラエティ・アートワークス企画・画『堕落論・白痴　[[まんがで読破]]』[[イースト・プレス]]、2007年
* [[萩原玲二]]画『桜の森の満開の下』[[ホーム社]]（[[一ツ橋グループ|集英社]]漫画文庫）、2010年
* [[近藤ようこ]]画『夜長姫と耳男』『桜の森の満開の下』[[岩波現代文庫]]、2017年
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== 家族・親族 ==
;曾祖父・坂口得太郎
:[[享和]]3年（1803年）生 – [[天保]]10年（1839年）没<ref name="nenpu">[http://www.ango-museum.jp/info/archives/ar_biography_01.html 坂口安吾年譜・詳細版 前史] 2018年<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">12</span>日閲覧。</ref>

;曾祖母・ミタ
:[[文化 (元号)|文化]]9年（1812年）生 – 1875年（明治<span class="ltr">8</span>年）没<ref name="nenpu"/>

;祖父・坂口得七（村長）
:[[文政]]10年（1827年）<span class="ltr">3</span>月<span class="ltr">11</span>日生 – 1906年（明治<span class="ltr">39</span>年）<span class="ltr">10</span>月<span class="ltr">30</span>日没
::坂口得太郎の長男。新潟県[[中蒲原郡]][[阿賀浦村]]大字[[大安寺 (新潟市)|大安寺]]（現・新潟市[[秋葉区]]大安寺）の村長を務める。[[投機]]失敗で、明治以降に没落する。安吾誕生の<span class="ltr">10</span>日後に[[松之山町|松之山]]で発病し死去<ref name="album"/><ref group="注釈"> その少し前に[[瀬波温泉]]から仁一郎宛に手紙を出していたため、[[岩船郡]]瀬波村大字浜新田字青山519番地（現・[[村上市]]浜新田）で死去したという説もある。</ref>。
::坂口家は代々の旧家。高祖は江戸時代の囲碁棋士の[[阪口仙得]]家の末裔という説もある。新潟での遠祖は坂口治右衛門（のち甚兵衛）。治右衛門は、元は[[肥前国|肥前]][[唐津藩|唐津]]の[[陶工]]で、のちに[[加賀国|加賀]]の[[大聖寺]]へ移り[[九谷焼]]の陶工となり、多くの従者を伴って[[越後]][[越後長岡藩|長岡]]から大安寺に移住したという。そして大安寺の地で、「甚兵衛」「津右衛門」の二家に分れ、津右衛門が「友伯」「津右衛門」の二家に分れた。坂口得七は、「友伯」の四代目にあたる<ref name="album"/>。

;祖母・ユウ
:[[天保]]5年（1834年）生 – 1897年（明治<span class="ltr">30</span>年）没

;父・[[坂口仁一郎]]（衆議院議員、漢詩人）
:[[安政]]6年<span class="ltr">1</span>月<span class="ltr">2</span>日生（1859年<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">4</span>日） – 1923年（[[大正]]12年）<span class="ltr">11</span>月<span class="ltr">2</span>日没
::坂口得七の長男。[[聖籠村]]諏訪山の[[大野耻堂]]の[[漢学]]塾・絆己楼に学び、数え年の<span class="ltr">15</span>歳の時に、玉井ハマ（[[万延]]元年<span class="ltr">3</span>月<span class="ltr">12</span>日生）と結婚。東京に上京したが新潟に戻り、新潟米商会所（新潟米穀株式会社取引所）で働く。ハマとの間に三女を儲ける。
::[[憲政本党]]所属の[[衆議院議員]]として県会議長を務める。新潟米穀株式会社取引所理事長。[[新潟新聞]]社（現・[[新潟日報社]]）社長を歴任。[[森春濤]]社中の[[漢詩人]]としての号は、「阪口五峰」「七松山人」。細胞[[肉腫]]、後[[腹膜]][[腫瘍]]により<span class="ltr">64</span>歳で死去。

;母・アサ
:1869年（明治<span class="ltr">2</span>年）<span class="ltr">1</span>月<span class="ltr">21</span>日生 - 1942年（[[昭和]]17年）<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">16</span>日没
::旧姓・吉田アサ。新潟県[[中蒲原郡]][[五泉町]]大字五泉（現・[[五泉市]]本町）の弁護士で県会議員・[[吉田久平]]［[[天保]]5年（1834年）<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">18</span>日生 - 1901年（明治<span class="ltr">34</span>年）<span class="ltr">3</span>月<span class="ltr">20</span>日没<ref name="nenpu"/>］の次女。吉田家は大[[地主]]の素封家で、高祖は[[藤原鎌足]]の末裔にあたる。父・吉田久平は[[弁護士]]で、坂口仁一郎と政治活動を共にしていた。
::坂口仁一郎の先妻・ハマの没後、1891年（明治<span class="ltr">24</span>年）<span class="ltr">9</span>月<span class="ltr">19</span>日に後妻として<span class="ltr">22</span>歳で仁一郎に嫁ぎ、五男四女を儲ける。家門を重んじ、一子（[[妾]]腹の子）・キヌを養女にする。

;長兄・[[坂口献吉]]（ラジオ局社長）
:1895年（明治<span class="ltr">28</span>年）<span class="ltr">8</span>月<span class="ltr">3</span>日生 – 1966年（昭和<span class="ltr">41</span>年）<span class="ltr">8</span>月<span class="ltr">13</span>日没
::坂口仁一郎とアサの長男。<span class="ltr">13</span>人姉弟の<span class="ltr">6</span>番目。上に姉<span class="ltr">5</span>人（養女・キヌを含め）がいる。安吾とは<span class="ltr">10</span>歳離れている。絵が得意で、安吾の勉強部屋や父親の肖像画を描いている<ref name="album"/>。
::[[早稲田大学政治経済学部]]在学中の1915年（大正<span class="ltr">4</span>年）に[[結核]]となり、<span class="ltr">5</span>年間ほど[[神奈川県]][[茅ヶ崎市]]の[[南湖院]]や、小田原の伝肇寺で療養生活し、大学を一時休学する。この時期に[[油絵]]を描いたり、[[北原白秋]]を訪ねる。
::1922年（大正<span class="ltr">11</span>年）<span class="ltr">6</span>月<span class="ltr">19</span>日に、五泉町の吉田徳（[[従姉妹]]）と結婚。徳（1901年<span class="ltr">12</span>月<span class="ltr">17</span>日‐1983年<span class="ltr">1</span>月<span class="ltr">30</span>日）は、母・アサの[[姪]]（妹・マサの娘）。
::1924年（大正<span class="ltr">13</span>年）に早稲田大学を卒業後、[[北越銀行|長岡銀行]]東京支店に入行。翌年、[[横浜市]][[鶴見区 (横浜市)|鶴見区]]の日英醸造株式会社に転職。新潟日報社、ラジオ新潟（現・[[新潟放送]]）社長。父・仁一郎の追悼録漢詩集『五峰遺稿』と『五峰余影』をそれぞれ、1925年（大正<span class="ltr">14</span>年）<span class="ltr">10</span>月、1929年（昭和<span class="ltr">4</span>年）<span class="ltr">11</span>月に編集刊行している。

;五姉・セキ
:1893年（明治<span class="ltr">26</span>年） - 1984年（昭和<span class="ltr">59</span>年）没
::坂口仁一郎とアサの長女。<span class="ltr">13</span>人姉弟の<span class="ltr">5</span>番目。献吉のすぐ上の姉。
::父・仁一郎の妹（叔母）が明治<span class="ltr">24</span>年に新潟県[[東頸城郡]][[松之山町]]の村山政策に嫁ぎ、その間に出来た長男・村山真男と明治<span class="ltr">43</span>年に結婚し、娘・喜久を儲ける。

;姪・村山喜久
:1918年（大正<span class="ltr">7</span>年）<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">3</span>日生 - 1938年（昭和<span class="ltr">13</span>年）<span class="ltr">6</span>月<span class="ltr">29</span>日没
::五姉・セキの娘。嵐の夜に松之山の自宅の池の前で、<span class="ltr">20</span>歳で[[自殺]]。安吾は、喜久を愛しんでいた。

;六姉・アキ
:1897年（明治<span class="ltr">30</span>年） - 1967年（昭和<span class="ltr">42</span>年）没
::坂口仁一郎とアサの次女。<span class="ltr">13</span>人姉弟の<span class="ltr">7</span>番目。1919年（大正<span class="ltr">8</span>年）<span class="ltr">12</span>月に越後川口の古田島和太郎に嫁ぐ。

;次兄・七松（夭折）
:1900年（明治<span class="ltr">33</span>年） - 1907年（明治<span class="ltr">40</span>年）<span class="ltr">9</span>月<span class="ltr">17</span>日没
::坂口仁一郎とアサの次男。<span class="ltr">13</span>人姉弟の<span class="ltr">8</span>番目。<span class="ltr">7</span>歳で夭折。

;三兄・成三（夭折）
:1902年（明治<span class="ltr">35</span>年） - 1904年（明治<span class="ltr">37</span>年）没
::坂口仁一郎とアサの三男。<span class="ltr">13</span>人姉弟の<span class="ltr">9</span>番目。<span class="ltr">2</span>歳で夭折。

;四兄・上枝（双子）
:1903年（明治<span class="ltr">36</span>年） - 1976年（昭和<span class="ltr">51</span>年）没
::坂口仁一郎とアサの四男。<span class="ltr">13</span>人姉弟の<span class="ltr">10</span>番目。上枝（ほづえ）と読む。
::[[癇癪]]持ちの炳五（安吾）が[[出刃庖丁]]をふりあげて、この<span class="ltr">3</span>つ違いの兄を追い回したことがあった<ref name="ishiomo"/>。1922年（大正<span class="ltr">11</span>年）に[[早稲田大学]][[理工学部]]機械工学科に入学。卒業後、[[小石川]]の[[東京計器]]製作所にエンジニアとして入社。1932年（昭和<span class="ltr">7</span>年）に<span class="ltr">12</span>月に、[[山形県]][[東置賜郡]][[赤湯町]]（現・[[南陽市]]）の須藤雪子と結婚。

;七姉・下枝（双子）
:1903年（明治<span class="ltr">36</span>年） - 1984年（昭和<span class="ltr">59</span>年）没
::坂口仁一郎とアサの三女。<span class="ltr">13</span>人姉弟の<span class="ltr">11</span>番目。しづえと読む。上枝とは[[双子]]の兄妹。1910年（明治<span class="ltr">43</span>年）<span class="ltr">12</span>月、<span class="ltr">6</span>歳で[[中魚沼郡]][[上野村 (新潟県)|上野村]]（現・[[十日町市]]上野）の星名佐藤治（定太郎）の養女になる（1922年に協議離縁）。下枝は生まれて間もない頃から[[乳母]]とともに星名家に同居。1927年（昭和<span class="ltr">2</span>年）<span class="ltr">1</span>月に[[熊本県]][[下益城郡]]海東村（現・小川町）出身の和田成章に嫁ぐ。

;妹・千鶴
:1911年（明治<span class="ltr">44</span>年）<span class="ltr">3</span>月<span class="ltr">27</span>日生 - 1967年（昭和<span class="ltr">42</span>年）没
::坂口仁一郎とアサの四女。<span class="ltr">13</span>人兄妹の<span class="ltr">13</span>人目。
::1929年（昭和<span class="ltr">4</span>年）に母・アサと共に上京し、安吾と献吉夫婦らと同居する。

;長姉・シウ（異母姉）
:1876年（明治<span class="ltr">9</span>年） - 1946年（昭和<span class="ltr">21</span>年）没
::坂口仁一郎とハマ（先妻）の長女。<span class="ltr">13</span>人姉弟の<span class="ltr">1</span>番目。献吉と安吾にとり、腹違いの姉にあたる。1896年（明治<span class="ltr">29</span>年）<span class="ltr">2</span>月に[[北蒲原郡]][[越岡村]]（現・[[新潟市]][[北区 (新潟市)|北区]]岡方）の曽我直太郎に嫁ぐ。炳五（安吾）とは同居せず。
::1920年（大正<span class="ltr">9</span>年）<span class="ltr">10</span>月に、[[姑]][[毒殺]]未遂疑惑が発覚する。

;次姉・ユキ（異母姉）
:1888年（明治<span class="ltr">21</span>年） - 1935年（昭和<span class="ltr">10</span>年）没
::坂口仁一郎とハマ（先妻）の次女。<span class="ltr">13</span>人姉弟の<span class="ltr">2</span>番目。献吉と安吾にとり、腹違いの姉にあたる。1896年（明治<span class="ltr">29</span>年）<span class="ltr">1</span>月に北蒲原郡[[長浦村 (新潟県)|長浦村]][[上土地亀]]（現・北区上土地亀）の新保巽に嫁ぐ。炳五（安吾）とは同居せず。
::1920年（大正<span class="ltr">9</span>年）<span class="ltr">10</span>月に、姉・シウの姑毒殺未遂疑惑が発覚した際に、[[モルヒネ]]を調達した疑いで新津警察署の取り調べを受ける。

;三姉・ヌイ（異母姉）
:1889年（明治<span class="ltr">21</span>年） - 1930年（昭和<span class="ltr">5</span>年）没
::坂口仁一郎とハマ（先妻）の三女。<span class="ltr">13</span>人姉弟の<span class="ltr">3</span>番目。献吉と安吾にとり、腹違いの姉にあたる。安吾より<span class="ltr">18</span>歳上。1908年（明治<span class="ltr">41</span>年）<span class="ltr">12</span>月に[[岩船郡]][[山辺里村]]（現・[[村上市]]山辺里）の小田喜一郎に嫁ぐ。娘・綾子を儲ける。黒色肉腫のため<span class="ltr">40</span>歳で死去。娘・綾子は、1930年（昭和<span class="ltr">5</span>年）に[[女子美術大学|女子美術専門学校]]に入学し、毎週土日に[[荏原郡]]の坂口家に遊びに寄る。
::安吾は兄妹の中で、この異母姉・ヌイが「私の悲しさのたつた一人の理解者だつた」だったと語っている<ref name="omina"/>。

;四姉・キヌ（養女）
:1891年（明治<span class="ltr">24</span>年） - 1984年（昭和<span class="ltr">59</span>年）没
::坂口仁一郎と[[芸妓]]・五泉キチとの間の長女。
::実母は[[古町 (新潟市)|古町]]の芸妓をしていた。1916年（大正<span class="ltr">5</span>年）に仁一郎とアサの養女となるが、それ以前から坂口家に同居。1917年（大正<span class="ltr">6</span>年）<span class="ltr">11</span>月に新潟市の[[歯科医]]・行形行三郎に嫁ぐ。

;妻・[[坂口三千代]]
:1923年（大正<span class="ltr">12</span>年）<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">7</span>日生 – 1994年（平成<span class="ltr">6</span>年）<span class="ltr">11</span>月<span class="ltr">2</span>日没
::旧姓は梶三千代。父親は梶仙治。実家は[[向島 (墨田区)|向島]]の[[料亭]]。1947年（昭和<span class="ltr">22</span>年）<span class="ltr">9</span>月、<span class="ltr">24</span>歳の時に坂口安吾と結婚生活に入る。安吾の死後、銀座に文壇バー「クラクラ」を開店。

;長男・[[坂口綱男]]（写真家）
:1953年（昭和<span class="ltr">28</span>年）<span class="ltr">8</span>月<span class="ltr">6</span>日生 - 
::[[群馬県]][[桐生市]]本町で出生。<span class="ltr">8</span>月<span class="ltr">17</span>日に、「チャック世に現れ [[鉄腕アトム|アトム]]また世に現ろとも[[ロープ|綱]]の用の絶ゆることなかるべし 汝一本の綱たらば足らむ　綱なるはまた巨力を要す　父　綱男君」と命名書が書かれた。
::1978年（昭和<span class="ltr">53</span>年）からフリー[[カメラマン]]として活動。

== 略年譜 ==
* [[1906年]]（[[明治]]39年） - [[新潟県]][[新潟市]]西大畑通<span class="ltr">28</span>番戸（現・[[中央区 (新潟市)|中央区]][[西大畑町]]579番地）で誕生。
* [[1911年]]（明治<span class="ltr">44</span>年） - 5歳。西堀幼稚園に入園。
* [[1913年]]（[[大正]]2年） - 7歳。新潟[[尋常高等小学校]]入学。
* [[1918年]]（大正<span class="ltr">7</span>年） - 12歳。新潟尋常高等小学校卒業。
* [[1919年]]（大正<span class="ltr">8</span>年） - 13歳。県立新潟中学校（現・[[新潟県立新潟高等学校|県立新潟高校]]）入学。
* [[1921年]]（大正<span class="ltr">10</span>年） - 15歳。英語、博物などが不合格となり、落第する。
* [[1922年]]（大正<span class="ltr">11</span>年） - 16歳。再落第の惧れがあり、県立新潟中学校から[[東京府]]の私立豊山中学校（現・[[日本大学豊山中学校・高等学校|日本大学豊山高等学校]]）に編入。父と長兄・献吉と共に東京府[[豊多摩郡]][[戸塚町 (東京府)|戸塚町]]大字諏訪（現・西早稲田<span class="ltr">2</span>丁目）に移住。
* [[1923年]]（大正<span class="ltr">12</span>年） - 17歳。父・[[坂口仁一郎|仁一郎]]が細胞[[肉腫]]のため自宅で死去（<span class="ltr">64</span>歳で没）。兄と池袋などを転々とする。
* [[1924年]]（大正<span class="ltr">13</span>年） - 18歳。第<span class="ltr">10</span>回全国中等学校陸上競技会（[[全国高等学校総合体育大会陸上競技大会|インターハイ]]の前身）の[[走高跳|ハイジャンプ]]で<span class="ltr">1</span>メートル<span class="ltr">57</span>センチの記録で優勝。
* [[1925年]]（大正<span class="ltr">14</span>年） - 19歳。私立豊山中学校卒業。[[荏原郡]][[世田ヶ谷町]]の荏原尋常高等小学校（現・[[世田谷区立若林小学校|若林小学校]]）の分教場（現・代沢小学校）の代用教員となる。
* [[1926年]]（大正<span class="ltr">15</span>年） - 20歳。代用教員を辞し、[[東洋大学]][[インド哲学|印度哲学]][[倫理学]]科第二科入学。睡眠<span class="ltr">4</span>時間の生活を<span class="ltr">1</span>年半続ける。
* [[1928年]]（[[昭和]]3年） - 22歳。[[アテネ・フランセ]]初等科入学。[[フランス語]]を学び、[[モリエール]]、[[ヴォルテール]]、[[カロン・ド・ボーマルシェ|ボーマルシェ]]などを愛読した。小説家への夢を本格的に固める。
* [[1930年]]（昭和<span class="ltr">5</span>年）- 24歳。東洋大学卒業。卒業生は<span class="ltr">16</span>人だった。アテネ・フランセの中等科から高等科に進む。荏原郡[[大井町 (東京府)|大井町]]字元芝（現・[[品川区]][[東大井]]）の借家から同郡[[矢口町]]字安方127番地（現・[[大田区]][[東矢口]]）に新築した家に、兄・献吉夫婦と母・アサと転居。アテネ・フランセの友人たちと同人雑誌『言葉』創刊。
* [[1931年]]（昭和<span class="ltr">6</span>年）- 25歳。『言葉』<span class="ltr">2</span>号に処女作「木枯の酒倉から」発表。後継誌『青い馬』に「ふるさとに寄する讃歌」「[[風博士]]」「黒谷村」など発表。[[牧野信一]]の主宰雑誌『文科』同人となる。
* [[1932年]]（昭和<span class="ltr">7</span>年）- 26歳。酒場「ウヰンザア」で[[矢田津世子]]と知り合い、交際が始まる。この酒場では、[[中原中也]]とも知り合っている。ウヰンザアの女給・坂本睦子と肉体関係を持つ。
* [[1933年]]（昭和<span class="ltr">8</span>年）- 27歳。[[田村泰次郎]]、矢田津世子らと同人誌『櫻』を創刊。
* [[1934年]]（昭和<span class="ltr">9</span>年）- 28歳。酒場ボヘミアンのマダム・お安と同棲し、[[大森区]]堤方町（現・大田区中央）の十二天アパートに移る。<span class="ltr">8</span>月に[[越前国|越前]]、[[北陸]]地方を放浪。
* [[1935年]]（昭和<span class="ltr">10</span>年）- 29歳。処女小説集『黒谷村』出版。[[新鹿沢温泉]]に赴き、[[長野県]][[小県郡]]弥津村（現・[[東御市]]）の奈良原鉱泉で一夏を過す。お安と別かれ、[[蒲田区]]安方町の家へ戻る。
* [[1936年]]（昭和<span class="ltr">11</span>年）- 30歳。<span class="ltr">1</span>月から「狼園」を『[[文學界]]』に連載するが、<span class="ltr">3</span>月に[[牧野信一]]の自殺に衝撃を受けて連載を中絶。<span class="ltr">6</span>月に矢田津世子に絶交の手紙を送り、長編小説の構想を始め、<span class="ltr">11</span>月に「吹雪物語」の執筆を開始。
* [[1937年]]（昭和<span class="ltr">12</span>年）- 31歳。京都府京都市伏見区で「吹雪物語」に専念するが、間借り先で碁会所を開き、[[囲碁]]や飲酒に興じる。
* [[1938年]]（昭和<span class="ltr">13</span>年）- 32歳。帰京して[[本郷 (文京区)|本郷]]の菊富士ホテルに滞在。[[松之山町|松之山]]にいる[[姪]]・村山喜久（<span class="ltr">20</span>歳）が自殺。『吹雪物語』が刊行されるが、失敗作と見なされる。失意の中、日本の古典文学や昔話を読み、<span class="ltr">12</span>月に「閑山」を雑誌『文体』に発表。
* [[1939年]]（昭和<span class="ltr">14</span>年）- 33歳 - 「[[紫大納言]]」を『文体』に発表。[[茨城県]][[取手市|取手町]]の取手病院の離れに住み込み、新たな小説の腹案を練る。
* [[1940年]]（昭和<span class="ltr">15</span>年）- 34歳。[[三好達治]]に誘われ、[[小田原市|小田原]][[早川 (小田原市)|早川]]橋付近の亀山別荘に移り住み、[[切支丹]]物を読む。7-9月に[[歴史小説]]「イノチガケ」を『[[文学界]]』に発表。<span class="ltr">12</span>月に「風人録」を同人誌『現代文學』に発表。[[大井広介]]と親しくなり、『現代文學』同人となる。
* [[1941年]]（昭和<span class="ltr">16</span>年）- 35歳。<span class="ltr">8</span>月に「[[文学のふるさと]]」を『現代文學』に発表。
* [[1942年]]（昭和<span class="ltr">17</span>年）- 36歳。<span class="ltr">2</span>月に母・アサ死去（<span class="ltr">73</span>歳で没）。<span class="ltr">3</span>月に「[[日本文化私観]]」を『現代文學』に発表。
* [[1943年]]（昭和<span class="ltr">18</span>年）- 37歳。[[日本文学報国会]]『辻小説集』に「伝統の無産者」寄稿（『知性』<span class="ltr">5</span>月号）。<span class="ltr">12</span>月にエッセイ集『[[日本文化私観]]』を[[文体社]]より刊行。
* [[1944年]]（昭和<span class="ltr">19</span>年）- 38歳。<span class="ltr">1</span>月に「黒田如水」を『現代文學』に、<span class="ltr">2</span>月に「鉄砲」を『[[文藝]]』に発表。[[徴兵逃れ]]の目的で[[日本映画社]]の嘱託社員になる。
* [[1945年]]（昭和<span class="ltr">20</span>年）- 39歳。<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">26</span>日に[[東京大空襲]]に遭うが、家は焼け残る。<span class="ltr">3</span>月に[[矢田津世子]]が死去（<span class="ltr">36</span>歳で没）。
* [[1946年]]（昭和<span class="ltr">21</span>年）- 40歳。<span class="ltr">4</span>月に「[[堕落論]]」、<span class="ltr">6</span>月に「[[白痴 (坂口安吾)|白痴]]」を『[[新潮]]』に発表。<span class="ltr">10</span>月に「[[戦争と一人の女]]」を『新生』に発表。<span class="ltr">12</span>月に[[文藝春秋社]]『座談』で[[阿部定]]と対談。
* [[1947年]]（昭和<span class="ltr">22</span>年）- 41歳。<span class="ltr">1</span>月、「[[風と光と二十の私と]]」を『文藝』に、「戯作者文学論」を『近代文学』に発表。<span class="ltr">4</span>月に[[坂口三千代|梶三千代]]と新宿の酒場チトセで知り合い、<span class="ltr">9</span>月に結婚。<span class="ltr">6</span>月に「[[桜の森の満開の下]]」を『肉体』に発表。<span class="ltr">7</span>月から「[[不連続殺人事件]]」を『日本小説』に連載開始。<span class="ltr">10</span>月に「[[青鬼の褌を洗う女]]」を『愛と美』（『週刊朝日』<span class="ltr">25</span>周年記念号）に発表。
* [[1948年]]（昭和<span class="ltr">23</span>年）- 42歳。『るまねすく』の同人となる。『[[二流の人 (小説)|二流の人]]』（「黒田如水」の発展）、『風と光と二十の私と』、『不連続殺人事件』を刊行。『不連続殺人事件』は翌年第<span class="ltr">2</span>回[[探偵作家クラブ賞]]受賞。
* [[1949年]]（昭和<span class="ltr">24</span>年）- 43歳。[[睡眠薬]]アドルム中毒により[[東京大学医学部附属病院]][[神経科]]に入院。<span class="ltr">8</span>月から『座談』に「復員殺人事件」の連載を始めるが翌年雑誌廃刊のため中絶（翌年<span class="ltr">3</span>月まで）。[[静岡県]][[伊東温泉]]で転地療養するため、伊東市岡区広野に移住。
* [[1950年]]（昭和<span class="ltr">25</span>年）- 44歳。「安吾巷談」を『[[文藝春秋 (雑誌)|文藝春秋]]』に連載し、翌年[[文藝春秋読者賞]]を受賞。<span class="ltr">10</span>月から「[[明治開化 安吾捕物帖]]」を『[[小説新潮]]』に連載。
* [[1951年]]（昭和<span class="ltr">26</span>年）- 45歳。「安吾新日本地理」のため全国を旅行し、<span class="ltr">3</span>月から『文藝春秋』に連載。[[税金]]滞納や[[伊東温泉競輪場|伊東競輪]]不正告訴事件で世間を騒がす。被害妄想から友人宅や妻の実家を転々とし身を潜める。
* [[1952年]]（昭和<span class="ltr">27</span>年）- 46歳。「安吾史譚」を『オール読物』に連載開始。[[南川潤]]の紹介で[[群馬県]][[桐生市]]本町の書上邸の離れに移住。<span class="ltr">6</span>月に「[[夜長姫と耳男]]」を『新潮』に発表。
* [[1953年]]（昭和<span class="ltr">28</span>年）- 47歳。[[長野県]]に取材旅行中、アドルムと酒で酔い暴れて、[[松本市]]の[[留置場]]に入る。釈放された<span class="ltr">8</span>月<span class="ltr">6</span>日に長男・[[坂口綱男|綱男]]が誕生。
* [[1954年]]（昭和<span class="ltr">29</span>年）- 48歳。<span class="ltr">8</span>月から「真書太閤記」を『知性』に連載開始。<span class="ltr">10</span>月に初めて家族そろって[[新潟市]]に帰省する。「安吾新日本風土記」の構想を得て、<span class="ltr">12</span>月に九州・宮崎県日向に赴く。
* [[1955年]]（昭和<span class="ltr">30</span>年）- 49歳。「安吾新日本風土記」を『[[中央公論]]』に連載開始。[[富山県]]、[[新潟県]]、[[高知県]]を取材し、<span class="ltr">2</span>月<span class="ltr">15</span>日に桐生市の自宅に戻り、<span class="ltr">17</span>日の朝、突如[[脳内出血]]のため永眠。<span class="ltr">48</span>歳で没した。

== 映画化作品 ==
{| class="wikitable"
|-
!公開年月日<span class="ltr">!</span>タイトル<span class="ltr">!</span>監督<span class="ltr">!</span>主演<span class="ltr">!</span>製作<span class="ltr">!</span>配給
|-
|[[1951年]][[<span class="ltr">4</span>月<span class="ltr">27</span>日]]
|[[天明太郎]]
|[[池田忠雄 (脚本家)|池田忠雄]]
|[[佐野周二]]
|[[松竹大船撮影所]]
|[[松竹]]
|-
|[[1958年]][[<span class="ltr">1</span>月<span class="ltr">9</span>日]]
|[[負ケラレマセン勝ツマデハ]]
|[[豊田四郎]]
|[[森繁久彌]]
|[[東京映画]]
|[[東宝]]
|-
|[[1975年]][[<span class="ltr">5</span>月<span class="ltr">31</span>日]]
|[[桜の森の満開の下]]
|[[篠田正浩]]
|[[若山富三郎]]
|[[芸苑社]]
|東宝
|-
|[[1977年]][[<span class="ltr">3</span>月<span class="ltr">15</span>日]]
|[[不連続殺人事件]]
|[[曾根中生]]
|[[瑳川哲朗]]
|[[タツミキカク]] / [[日本アート・シアター・ギルド|ATG]]
|ATG
|-
|[[1998年]][[<span class="ltr">10</span>月<span class="ltr">17</span>日]]
|[[カンゾー先生]]
|[[今村昌平]]
|[[柄本明]]
|<small>[[今村プロダクション]] / [[東映]] / [[東北新社]] / [[角川書店]]</small>
|東映
|-
|[[1999年]][[<span class="ltr">11</span>月<span class="ltr">13</span>日]]
|[[白痴 (1999年の映画)|白痴]]
|[[手塚眞]]
|[[浅野忠信]]
|[[手塚プロダクション]]
|松竹
|-
|[[2011年]][[<span class="ltr">11</span>月<span class="ltr">19</span>日]]
|[[UN-GO|UN-GO episode:0 因果論]]
|[[水島精二]]
|[[勝地涼]]
|[[ボンズ (アニメ制作会社)|ボンズ]]
|東宝
|-
|[[2012年]][[<span class="ltr">9</span>月<span class="ltr">29</span>日]]
|[[BUNGO〜ささやかな欲望〜]]<br />告白する紳士たち「握った手」<br /><small>※オムニバスの一篇。</small>
|[[山下敦弘]]
|[[山田孝之]]
|[[ボイスアンドハート]]
|[[角川映画]]
|-
|[[2013年]][[<span class="ltr">4</span>月<span class="ltr">27</span>日]]
|[[戦争と一人の女]]
|[[井上淳一]]
|[[江口のりこ]]
|[[戦争と一人の女製作運動体]]
|<small>ドッグシュガームービーズ</small>
|}

== 評伝・研究・関連文献==
{{div col|small=yes}}
* 坂口献吉編『五峰余影』[[新潟新聞]]社 1929年<span class="ltr">11</span>月
* [[石川淳]]『諸国畸人伝』[[筑摩書房]] 1957年、[[中公文庫]] 新版2014年 - 父・[[坂口仁一郎]]（阪口五峯）についての評伝
** 石川淳『安吾のいる風景』- 追悼文。新版は「石川淳評論選」[[菅野昭正]]編、ちくま文庫 2006年
* [[江口清]]『晩年の坂口安吾』作家社 1964年<span class="ltr">1</span>月
* [[坂口守二]]『治右衛門とその末裔』[[新潟日報]]事業社 1966年<span class="ltr">6</span>月
* [[坂口三千代]]『クラクラ日記』[[文藝春秋]] 1967年<span class="ltr">3</span>月、[[ちくま文庫]] 1989年<span class="ltr">10</span>月 - 序文・石川淳
** 坂口三千代『安吾追想』冬樹社 1981年<span class="ltr">2</span>月
* [[檀一雄]]『太宰と安吾』虎見書房 1968年<span class="ltr">7</span>月、バジリコ、2003年、[[角川ソフィア文庫]] 2016年
** 檀一雄『小説坂口安吾』東洋出版 1969年<span class="ltr">10</span>月、沖積舎「全集 第<span class="ltr">7</span>巻」1992年
* [[庄司肇]]『坂口安吾』南北社 1968年<span class="ltr">8</span>月
* [[林忠彦]]『カストリ時代』[[朝日ソノラマ]] 1970年。以下は各、安吾の仕事場の写真を収録。
**『文士の時代』朝日新聞社（元版の大判） 1986年。[[朝日文庫]] 1988年。中公文庫（改訂版）2014年
** 新版『文士と小説のふるさと』ピエ・ブックス 2007年
**『日本の写真家<span class="ltr">25</span>　林忠彦』[[岩波書店]] 1998年
* [[奥野健男]]『坂口安吾』文藝春秋 1972年<span class="ltr">9</span>月、文春文庫、1996年
* [[森安理文]]『偉大なる落伍者―坂口安吾』[[社会思想社]]：[[現代教養文庫]] 1972年<span class="ltr">9</span>月
* [[兵藤正之助]]『坂口安吾論』[[冬樹社]] 1972年<span class="ltr">12</span>月
* [[関井光男]]『坂口安吾研究』（<span class="ltr">I</span>・<span class="ltr">II</span>）冬樹社 1972年<span class="ltr">12</span>月-1973年<span class="ltr">5</span>月
* 森安理文・[[高野良和]]『坂口安吾研究』[[南窓社]] 1973年<span class="ltr">6</span>月
* [[佐藤文寿]]『坂口安吾―その生と死』[[春秋社]] 1974年<span class="ltr">4</span>月
* 兵藤正之助『坂口安吾』[[講談社現代新書]] 1976年<span class="ltr">1</span>月
* 日本近代文学会新潟支部会『坂口安吾』[[野島出版]] 1976年<span class="ltr">4</span>月
* 関井光男『坂口安吾の世界』[[冬樹社]] 1976年<span class="ltr">4</span>月
* [[若園清太郎]]『わが坂口安吾』昭和出版 1976年<span class="ltr">6</span>月
* [[杉森久英]]『小説 坂口安吾』[[河出書房新社]] 1978年<span class="ltr">9</span>月、[[河出文庫]] 1984年
*『文芸読本　坂口安吾』河出書房新社 1978年、新装版1984年
* [[神谷忠孝]]編『坂口安吾 鑑賞日本現代文学<span class="ltr">22</span>』[[角川書店]] 1981年<span class="ltr">1</span>月
* [[矢島道弘]]『相反する情念―坂口安吾の世界』[[近代文芸社]] 1983年<span class="ltr">3</span>月
* [[久保田芳太郎]]・矢島道弘『坂口安吾研究講座』（<span class="ltr">I</span>・<span class="ltr">II</span>）[[三弥井書店]] 1984年<span class="ltr">7</span>月-1985年<span class="ltr">11</span>月
* [[浅子逸男]]『坂口安吾私論―虚空に舞う花 新鋭研究叢書<span class="ltr">7</span>』[[有精堂]] 1985年<span class="ltr">5</span>月
* [[小川弘幸]]『蘇る坂口安吾』神田印刷株式会社企画室 1986年<span class="ltr">2</span>月
* [[村上護]]『安吾風来記―ファルスの求道者』[[新書館]] 1986年<span class="ltr">3</span>月
*『坂口安吾　新潮日本文学アルバム<span class="ltr">35</span>』[[新潮社]] 1986年<span class="ltr">6</span>月
* [[野原一夫]]『人間 坂口安吾』新潮社 1991年、[[学陽書房]] 人物文庫 1996年
* [[柄谷行人]]『坂口安吾と中上健次』[[太田出版]] 1996年、講談社文芸文庫 2006年
** 柄谷行人『坂口安吾論』インスクリプト 2017年
* [[坂口綱男]]『安吾と三千代と四十の豚児と』[[集英社]] 1999年
** 坂口綱男『安吾のいる風景』 [[春陽堂書店]] 2006年。フォトエッセイ
* [[七北数人]]『評伝坂口安吾 魂の事件簿』集英社 2002年
*『坂口安吾論集』（全<span class="ltr">3</span>巻）[[ゆまに書房]] 2002年、2004年、2007年
* [[出口裕弘]]『坂口安吾－百歳の異端児』新潮社 2006年
* [[相馬正一]]『坂口安吾－戦後を駆け抜けた男』[[人文書館]] 2006年
*『[[ユリイカ (雑誌)|ユリイカ 詩と批評]] 特集 太宰治・坂口安吾』[[青土社]] 2008年<span class="ltr">8</span>月号
* [[半藤一利]]『坂口安吾と太平洋戦争』[[PHP研究所]] 2009年。『安吾さんの太平洋戦争』[[PHP文庫]] 2013年
* [[西部邁]]・[[佐高信]]「坂口安吾『堕落論』」『西部邁と佐高信の快著快読』[[光文社]] 2012年。191-227頁
*『[[KAWADE夢ムック]] 文藝別冊 総特集　坂口安吾―風と光と戦争と』河出書房新社 2013年
* [[佐々木中]]『戦争と一人の作家　坂口安吾論』河出書房新社 2016年
* [[藤沢周]]編『安吾のことば　「正直に生き抜く」ためのヒント』集英社新書 2016年
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== 派生関連本 ==
* [[いしかわじゅん]]『ちゃんどら』[[双葉社]] 1983年 - 風博士という人物が登場する
* [[荻野アンナ]]『アイ・ラブ安吾』[[朝日新聞社]] 1992年／朝日文庫、1995年
* [[春原千秋]]『将棋を愛した文豪たち』メディカルカルチュア社 1994年 - 将棋愛好家の精神科医が、やはり将棋を愛した作家に関して書いた本。坂口安吾の章では、安吾が東大病院に入院していた当時、著者自身もその医局にいて、直接対面した事が記されている（残念ながら具体的なことは著者の記憶に残っていないし、その当時安吾が将棋観戦記を書いていたことも知らなかったので、将棋に関する話を聴けなかった）。
* [[長尾剛]]『坂口安吾・人生ギリギリの言葉』PHP研究所 2009年。対談形式で作品名言集を引き出す。
* [[杉山直樹 (文芸作家)|杉山直樹]]『血をわたる』[[自由国民社]]　2011年 ISBN 978-4-426-10888-5
* [[野崎六助]]『安吾探偵控』(2003年、[[東京創元社]]、創元クライム・クラブ) - 昭和<span class="ltr">12</span>年、<span class="ltr">Y</span>女との破局の痛手を抱えて、京都の食堂の二階に下宿しながら執筆活動を続ける安吾を探偵役にした[[ミステリー]]。続編に、『イノチガケ　安吾探偵控』（2005年）、『オモチャ箱　安吾探偵控』（2007年）がある(共に、東京創元社、創元クライム・クラブ)。
* [[山田正紀]]『弥勒戦争』[[早川書房]] 1976年 - 焼跡の酒場で自身の経験による恋愛論などを語る安吾が登場する。
* [[手塚治虫]]『[[鉄腕アトム]]』 - 「風船爆弾」という話に、坂口安吾をもじった大福安古なる人物が登場する。

== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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== 参考文献 ==
* {{Citation|和書|author=坂口安吾|date=1998-09|title=坂口安吾全集08|publisher=[[筑摩書房]]|isbn=978-4480710383|ref={{Harvid|全集08|1998}}}}
* {{Citation|和書|author=坂口安吾|date=1985-10|title=日本探偵小説全集<span class="ltr">10</span>坂口安吾集|publisher=[[創元推理文庫]]|isbn=978-4488400101|ref={{Harvid|探偵10|1985}}}}
* {{Citation|和書|author=坂口安吾|date=2000-05|title=[[堕落論]]|publisher=[[新潮文庫]]|isbn=978-4101024028|ref={{Harvid|新潮文庫|2000}}}}
* {{Citation|和書|author=坂口安吾|date=1996|title=堕落論|publisher=[[角川文庫]]|isbn=978-4041100202|ref={{Harvid|角川文庫|1996}}}}
* {{Citation|和書|author=坂口安吾|date=2012-01|title=[[白痴 (坂口安吾)|白痴]]・[[二流の人 (小説)|二流の人]]|edition=改|publisher=角川文庫|isbn=978-4041100011|ref={{Harvid|白痴・二流の人|2012}}}} -初版は1970年<span class="ltr">3</span>月
* {{Citation|和書|author=坂口安吾|date=1978-|title=[[復員殺人事件]]|edition=再|publisher=角川文庫|id={{NCID|BN02493345}}|ref={{Harvid|復員|1978}}}} -初版は1977年<span class="ltr">10</span>月
* {{Citation|和書|author=坂口安吾|date=2008-11|title=[[風と光と二十の私と]]・いずこへ 他十六篇|publisher=[[岩波文庫]]|isbn=978-4003118238|ref={{Harvid|風と光|2008}}}}
* {{Citation|和書|author=[[江口清]]|date=1973-04|title=レイモン・ラディゲと日本の作家たち|publisher=清水[[弘文堂]]|id={{NCID|BN03853639}}|ref={{Harvid|江口|1973}}}}
* {{Citation|和書|author=坂口綱男|date=1999-02|title=安吾と三千代と四十の豚児と|publisher=[[集英社]]|isbn= 978-4087743845|ref={{Harvid|豚児|1999}}}}
* {{Citation|和書|editor=[[関井光男]]|date=1986-06|title=新潮日本文学アルバム<span class="ltr">35</span>坂口安吾|publisher=[[新潮社]]|isbn=978-4106206351|ref={{Harvid|アルバム|1986}}}}
* {{Citation|和書|date=2013-09|title=[[文藝]]別冊 坂口安吾―風と光と戦争と|series=KAWADE夢ムック|publisher=[[河出書房新社]]|isbn=978-4309978116|ref={{Harvid|夢ムック|2013}}}}
* {{Citation|和書|author=[[三島由紀夫]]|date=2003-04|title=決定版 三島由紀夫全集<span class="ltr">29</span>巻 評論4|publisher=新潮社|isbn=978-4106425691|ref={{Harvid|三島<span class="ltr">29</span>巻|2003}}}}
* {{Citation|和書|author=三島由紀夫|date=2003-09|title=決定版 三島由紀夫全集<span class="ltr">34</span>巻 評論9|publisher=新潮社|isbn=978-4106425745|ref={{Harvid|三島<span class="ltr">34</span>巻|2003}}}}
* Ed. James Dorsey and Doug Slaymaker, with translations by James Dorsey, ''Literary Mischief: Sakaguchi Ango, Culture, and the War''. Lantham, MD: Lexington Books, 2010. 六つの学術論文 (Doug Slaymaker, James Dorsey, Ogino Anna, Karatani Kojin, and Robert Steen), 四つの注釈付きの英訳 "A Personal View of Japanese Culture" (「日本文化私観」, 1942), "Pearls" (「真珠」, 1942), and "Discourse on Decadence" (「堕落論」parts 1 and 2, 1946).

== 関連項目 ==
* [[安吾賞]]
* [[新十郎捕物帖・快刀乱麻]]
* [[UN-GO]]
* [[ヒロポン]]

== 外部リンク ==
* {{青空文庫著作者|1095|坂口 安吾}}
* [http://www.ango-museum.jp/ 坂口安吾デジタルミュージアム]
* [http://www.city.niigata.lg.jp/kanko/bunka/yukari/kazenoyakata/ 「安吾　風の館」]　[[新潟市]]
* [http://u2kobo.in.coocan.jp/kobo_ango.htm 坂口安吾専門ページ【安吾的】] - 游邑工房
* [https://www.city.niigata.lg.jp/info/bunka/niigata-ango/index.html ニイガタ安吾賞]
* {{Kotobank}}

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[[Category:坂口安吾|*]]
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[[Category:東洋大学出身の人物]]
[[Category:新潟市出身の人物]]
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[[Category:1955年没]]