花咲か爺
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花咲か爺(はなさかじじい)は、日本の民話の一つ。「花咲かじいさん」ともいう。
解説
心優しい老夫婦と欲深い隣人夫婦が、不思議な力を持った犬をきっかけに前者は幸福に後者は不幸になるという内容。日本では室町時代末期から江戸時代初期にかけて成立した勧善懲悪の話。朝鮮半島や中国にも似た話がある。江戸時代の赤本のタイトルは﹃枯木に花咲かせ爺﹄、燕石雑志では﹃花咲翁﹄になっている[1][2]。
あらすじ(地方などによりバリエーションあり)
心優しい老夫婦が、川で一匹の白い仔犬を拾いわが子同然にかわいがって育てる。
あるとき犬は畑の土を掘りながら﹁ここ掘れワンワン﹂と鳴き始める。驚いた老人が鍬で畑を掘ったところ、金貨︵大判・小判︶が掘り出される。老夫婦は喜んで、近所にも振る舞い物をする。
それをねたんだ隣人夫婦は、無理やり犬を連れ去り、財宝を探させようと虐待する。しかし犬が指し示した場所から出てきたのは、期待はずれのガラクタ︵ゲテモノ・妖怪・欠けた瀬戸物︶だった。隣人夫婦は犬を鍬で殴り殺し、飼い主夫婦にも悪態をついた。
わが子同然の犬を失って悲嘆にくれる夫婦は、死んだ犬を引き取り、庭に墓を作って埋める。そして雨風から犬の墓を守るため、傍らに木を植えた。
植えられた木は、短い年月で大木に成長する。やがて夢に犬が現れて、その木を伐り倒して臼を作るように助言する。夫婦が助言どおりに臼を作り、それで餅を搗くと、財宝があふれ出た。
再び隣人夫婦は難癖をつけて臼を借り受けるが、出てくるのは汚物ばかりだった。激怒した隣人夫婦は、斧で臼を打ち割り、薪にして燃やしてしまう。
夫婦は灰を返してもらって大事に供養しようとするが、再び犬が夢に出てきて桜の枯れ木に灰を撒いてほしいと頼む。その言葉に従ったところ花が満開になり、たまたま通りがかった大名が感動し、老人をほめて褒美を与えた。このときのセリフは﹁枯れ木に花を咲かせましょう﹂である。
やはり隣人夫婦がまねをするが、花が咲くどころか大名の目に灰が入る。悪辣な隣人は無礼をとがめられて罰を受ける。
唱歌
唱歌︵童謡︶﹁花咲爺﹂は1901年︵明治34年︶に出版された﹃幼年唱歌 初編 下巻﹄に収録。作詞・石原和三郎、作曲・田村虎蔵。
全6番の歌詞は一連の内容をなぞっており、犬の名前はポチとしているが犬の名前は本来はない。この唱歌の替え歌を広島東洋カープの応援団が得点が入った際に歌う﹁喜びの歌﹂︵俗称・宮島さん︶として現在も使用中である。
1973年にフジテレビ系列で放送された﹃ワンサくん﹄︵関西テレビ制作︶の第6話﹁ここ掘れワンワンワンサくん﹂で、﹁メガネ﹂︵声‥永井一郎︶が先祖の話をする時の劇中歌︵歌・編曲‥宮川泰︶の一部に、この唱歌が使われた。なおこの劇中歌は、同作第21話﹁ワンサくんのミュージカル特集﹂でも流された。
解釈
五大御伽噺のひとつとして江戸時代の赤本等に載せられ広く民間に普及した昔話で隣の爺型と呼ばれる昔話のパターン。
この話の花を咲かせるモチーフは中世末以降、千手観音の信仰を背景として民間に普及した﹁枯れ木に花を﹂のたとえの形象化であると言われる。それ以前の型は灰をまいて雁を取る﹁雁取り爺﹂にあり、雁取り爺は東北で﹁犬コムカシ﹂と呼ばれ川上から流れてきた木の根っこから生まれた犬が狩猟で獲物をもたらすという異常誕生の﹁小さき子﹂のモチーフを有し、﹁花咲爺﹂の祖型であると民俗学者・柳田國男は指摘している。
また中国の﹃狗耕田故事﹄の犬が畑を耕す話との対比からこの話の背後に犬と農耕の重要な関係が見て取れる。
参考文献
- 昔話・伝説小事典 野村純一他 編著 みずうみ書房刊 200頁 ISBN 4838031084。