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[[#|]][[]][[]]It takes all the running you can do, to keep in the same place.[[]][[]]

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[[File:Alice queen2.jpg|thumb|200px|[[ジョン・テニエル]]の挿し絵]] 



== 軍拡競争 ==

== 軍拡競争 ==

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二つ目は、ある種の遺伝子は別の遺伝子とペアを形成することで有利さを発揮することがあるが、有性生殖は遺伝子の混ぜ合わせ作業なので、そのような有利な遺伝子のペアが出現する可能性を増加させる。ただしその組み合わせは一代限りで、次の[[世代#生物学|世代]]には失われてしまう。またどちらの説も有利な遺伝子だけでなく、不利な遺伝子を集める効果もあり、単純に利点と見なすことはできない。

二つ目は、ある種の遺伝子は別の遺伝子とペアを形成することで有利さを発揮することがあるが、有性生殖は遺伝子の混ぜ合わせ作業なので、そのような有利な遺伝子のペアが出現する可能性を増加させる。ただしその組み合わせは一代限りで、次の[[世代#生物学|世代]]には失われてしまう。またどちらの説も有利な遺伝子だけでなく、不利な遺伝子を集める効果もあり、単純に利点と見なすことはできない。



第三に、多様な遺伝子のセットを持つ子孫を作り出すことは子孫の適応力を高めることができる。しかし安定した[[環境]]では遺伝的多様性が必ずしも高い[[適応|適応度]]をもたらすとは限らない。仮に、遠い子孫にとっては(環境の激変などで)遺伝的多様性が有利になるとしても、短期的な利益がないのならそのような[[形質]]は進化しないはずである。


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=== 有性生殖における赤の女王 ===

=== 有性生殖における赤の女王 ===

[[ウィリアム・ドナルド・ハミルトン|W.D.ハミルトン]]は1980年から90年にかけて、M・ズック、I・イーシェル、J・シーゲル、[[ロバート・アクセルロッド|R・アクセルロッド]]らと共に、遺伝的多様性が適応や進化の速度を向上させるという従来の説を[[群選択|種の利益論法]]だと批判し、多くの生物で遺伝的多型が保持されているのは多型を支持するような[[自然選択|選択圧]]が常に働いているためで、その選択圧をもたらす者は寄生者であると主張した。種やその他の集団レベルにおける進化を認めてきた古典的な理論とは対照的に、赤の女王効果は遺伝子レベルでの有性生殖の利点を説明することが可能である。

[[ウィリアム・ドナルド・ハミルトン|W.D.ハミルトン]]は1980年から90年にかけて、M・ズック、I・イーシェル、J・シーゲル、[[ロバート・アクセルロッド|R・アクセルロッド]]らと共に、遺伝的多様性が適応や進化の速度を向上させるという従来の説を[[群選択|種の利益論法]]だと批判し、多くの生物で遺伝的多型が保持されているのは多型を支持するような[[自然選択|選択圧]]が常に働いているためで、その選択圧をもたらす者は寄生者であると主張した。種やその他の集団レベルにおける進化を認めてきた古典的な理論とは対照的に、赤の女王効果は遺伝子レベルでの有性生殖の利点を説明することが可能である。



サイエンスライターの[[マット・リドレー]]は、1995年の著書『赤の女王』の中で、[[有性生殖]]の適応的な利点についてのこれらの議論をまとめ、ヴァン・ヴェーレンから借用した「赤の女王」の名を当てた。有性生殖の有利さは、常に変化するような環境に棲む生物で発揮される。有性生殖する生物にそのような環境の変化をもたらす者は寄生者([[寄生虫]]、[[ウイルス]]、[[細菌]]など)と考えられる。寄生者と[[宿主]]の間での恒常的な軍拡競争において、この具体例が確認できる。一般に寄生者はその[[寿命]]の短さにより、より速く進化する。そのような寄生者の進化は、宿主に対する攻撃方法の多様化を招く(つまり、宿主にとって環境が変化する)。このような場合、有性生殖による[[組み替え]]で常に遺伝子を混ぜ合わせ短期間で集団の遺伝的多様性を増加させ続けることは、寄生者の大規模な侵略を止める効果を果たすと考えられる。実際、[[ボトルネック効果]]などによって[[遺伝的多様性]]が失われた個体群は[[感染症]]に弱いことがわかっている。通常[[分裂]](無性生殖の一つ)を行う生物([[ゾウリムシ]]や[[大腸菌]]など)でも環境によっては[[接合 (生物)|接合]](有性生殖の一つ)によって遺伝子を混ぜ合わせることは可能である。すなわち寄生者との間で周期的な軍拡競争を行っている生物では、性が寄生者に対する抵抗性を維持するための仕組みであると考えられる。赤の女王仮説は性の起源を説明する理論ではなく、性が維持されるメリットの一つを説明する理論である。

サイエンスライターの[[マット・リドレー]]は、1995年の著書『赤の女王』の中で、[[有性生殖]]の適応的な利点についてのこれらの議論をまとめ、ヴァン・ヴェーレンから借用した「赤の女王」の名を当てた。有性生殖の有利さは、常に変化するような環境に棲む生物で発揮される。有性生殖する生物にそのような環境の変化をもたらす者は寄生者([[寄生虫]]、[[ウイルス]]、[[細菌]]など)と考えられる。寄生者と[[宿主]]の間での恒常的な軍拡競争において、この具体例が確認できる。一般に寄生者はその[[寿命]]の短さにより、より速く進化する。そのような寄生者の進化は、宿主に対する攻撃方法の多様化を招く(つまり、宿主にとって環境が変化する)。このような場合、有性生殖による[[組み替え]]で常に遺伝子を混ぜ合わせ短期間で集団の遺伝的多様性を増加させ続けることは、寄生者の大規模な侵略を止める効果を果たすと考えられる。実際、[[ボトルネック効果]]などによって[[遺伝的多様性]]が失われた個体群は[[感染症]]に弱いことがわかっている。通常[[分裂 (生物学)|分裂]](無性生殖の一つ)を行う生物([[ゾウリムシ]]や[[大腸菌]]など)でも環境によっては[[接合 (生物)|接合]](有性生殖の一つ)によって遺伝子を混ぜ合わせることは可能である。すなわち寄生者との間で周期的な軍拡競争を行っている生物では、性が寄生者に対する抵抗性を維持するための仕組みであると考えられる。赤の女王仮説は性の起源を説明する理論ではなく、性が維持されるメリットの一つを説明する理論である。



ただし、よく見逃されるが、この理論は「性(遺伝子の定期的な交換)」の存在はよく説明しているものの、雌雄の存在は説明していないことに注意を払う必要がある。上記の性の2倍のコスト、つまり繁殖に限定的な関与しかない「雄」の存在を説明するものではない。ちなみに、雌雄別が主流となっている生物群は動物のみであり、他の生物群では[[雌雄同体]](同一個体が大小2種類の[[配偶子]]をつくる)ないしは性差がない(配偶子の大きさがほとんど変わらない)が主流である。


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== 参考文献 ==

*マット・リドレー 『赤の女王』 翔泳社 <翔泳選書>、{{ISBN2|4-88135-146-X|978-4-88135-146-8}}。

*Geerat J. Vermeij 『Evolution and Escalation: An Ecological History of Life』 Princeton University Press, Princeton, N. J.

{{ISBN2| 0-69108-446-7| 978-069108-446-6}}


== 関連文献 ==

*Leigh Van Valen. "A new evolutionary law" 1973. Evolutionary Theory, 1:1-30.

*Hamilton, W. D. "Sex versus non-sex versus parasites" 1980. Oikos 35,282-290.

*Hamilton, W. D. et al. "Sexual reproduction as an adaptation to resist parasites" 1990. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS) 87:3566-3573.



== 関連項目 ==

== 関連項目 ==

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*[[生存競争]]

*[[生存競争]]

*[[性淘汰]]

*[[性淘汰]]

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*[[進化的軍拡競走]]

*[[進化的軍拡競走]]

*[[鏡の国のアリス]]

*[[鏡の国のアリス]]

*[[不思議の国のアリス関連一覧]]


== 参考文献 ==

*マット・リドレー 『赤の女王』 翔泳社、ISBN 4-88135-146-X


== 関連文献 ==

*Hamilton, W. D. "Sex versus non-sex versus parasites" 1980. Oikos 35,282-290.

*Hamilton, W. D. et al. "Sexual reproduction as an adaptation to resist parasites" 1990. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS) 87:3566-3573.


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[[Category:進化生物学]]

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[[Category:不思議の国のアリス]]

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: Red Queen's Hypothesis21973

It takes all the running you can do, to keep in the same place.

 

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1973調1973

Heylighen, 2000

Vermeij, 1987

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W.D.198090MIJR

1995宿寿宿宿

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   <>ISBN 4-88135-146-X, 978-4-88135-146-8

Geerat J. Vermeij Evolution and Escalation: An Ecological History of Life Princeton University Press, Princeton, N. J.

ISBN 0-69108-446-7, 978-069108-446-6

関連文献[編集]

  • Leigh Van Valen. "A new evolutionary law" 1973. Evolutionary Theory, 1:1-30.
  • Hamilton, W. D. "Sex versus non-sex versus parasites" 1980. Oikos 35,282-290.
  • Hamilton, W. D. et al. "Sexual reproduction as an adaptation to resist parasites" 1990. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS) 87:3566-3573.

関連項目[編集]