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== 軍拡競争 == |
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== 軍拡競争 == |
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生物学的な過程と国家間の[[軍備拡張競争|軍拡競争]]の類似から着想された進化的な軍拡競争という表現は、[[リー・ヴァン・ヴェーレン]]によって初めて発表された︵1973年︶。ヴァン・ヴェーレンは[[生物の分類]]の単位である[[科]]の平均絶滅率を地質学的期間にわたって調査し、そこから得られた[[絶滅]]の法則︵1973年︶を説明するために赤の女王仮説を提案した。
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生物学的な過程と国家間の[[軍備拡張競争|軍拡競争]]の類似から着想された進化的な軍拡競争という表現は、[[リー・ヴァン・ヴェーレン]]によって初めて発表された︵1973年︶。ヴァン・ヴェーレンは[[生物の分類]]の単位である[[科]]の平均絶滅率を地質学的期間にわたって調査し、そこから得られた[[絶滅]]の法則︵1973年︶を説明するために赤の女王仮説を提案した。
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==有性生殖は効率的か == |
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サイエンスライターの[[マット・リドレー]]は、『赤の女王』の中で、多くの種で見られる[[有性生殖]]の適応的な利点について論じた。種やその他の集団レベルにおける進化を認めてきた伝統的な理論とは対照的に、赤の女王効果は遺伝子レベルでの有性生殖の利点を説明することが可能である。寄生者との間で周期的な軍拡競争を行っている生物では、性が寄生者に対する有利さを維持するための仕組みであると考えられる。 |
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サイエンスライターの[[マット・リドレー]]は、『赤の女王』の中で、多くの種で見られる[[有性生殖]]の適応的な利点について論じた。種やその他の集団レベルにおける進化を認めてきた伝統的な理論とは対照的に、赤の女王効果は遺伝子レベルでの有性生殖の利点を説明することが可能である。寄生者との間で周期的な軍拡競争を行っている生物では、性が寄生者に対する有利さを維持するための仕組みであると考えられる。 |
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[[ライオン]]などではオスは自分の子供である若いオスを脅かすポーズをとる(しかし、[[ヒト]]や[[タツノオトシゴ]]、[[ペンギン]]などの例外も存在する)。また、オスとメスはつがうためにお互いを見つける必要があるが、性淘汰によって、生き残るのが難しくなるような特徴を持った個体が好まれることがある(例えば、[[クジャク]]や[[サンコウチョウ]]のオスの尾羽根)。これらの特徴を持った生物において、一見すると有性生殖は非効率的に映る。 |
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[[ライオン]]などではオスは自分の子供である若いオスを脅かすポーズをとる(しかし、[[ヒト]]や[[タツノオトシゴ]]、[[ペンギン]]などの例外も存在する)。また、オスとメスはつがうためにお互いを見つける必要があるが、性淘汰によって、生き残るのが難しくなるような特徴を持った個体が好まれることがある(例えば、[[クジャク]]や[[サンコウチョウ]]のオスの尾羽根)。これらの特徴を持った生物において、一見すると有性生殖は非効率的に映る。 |
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*[[ハンディキャップ理論]] |
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*[[ランナウェイ説]] |
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*[[進化医学]] |
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== 参考文献 == |
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マット・リドレー『赤の女王』翔泳社 ISBN 4-88135-146 |
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マット・リドレー『赤の女王』翔泳社 ISBN 4-88135-146 |
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2007年5月29日 (火) 12:45時点における版
赤の女王仮説︵あかのじょうおうかせつ︶は、進化に関する仮説の一つ。生殖における有性生殖の利点と、競争関係にある種間での軍拡競争という2つの異なる現象に関する説明である。﹁赤の女王競争﹂や﹁赤の女王効果﹂などとも呼ばれる。リー・ヴァン・ヴェーレンによって1973年に提唱された。
﹁赤の女王﹂とはルイス・キャロルの小説﹃鏡の国のアリス﹄に登場する人物で、彼女が作中で発した﹁その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない﹂という台詞から、種・個体・遺伝子が生き残るためには進化し続けなければならないことの比喩として用いられている。
軍拡競争
生物学的な過程と国家間の軍拡競争の類似から着想された進化的な軍拡競争という表現は、リー・ヴァン・ヴェーレンによって初めて発表された︵1973年︶。ヴァン・ヴェーレンは生物の分類の単位である科の平均絶滅率を地質学的期間にわたって調査し、そこから得られた絶滅の法則︵1973年︶を説明するために赤の女王仮説を提案した。
ヴァン・ヴェーレンは、科の生き残る可能性はその経過時間に関係なく、どんな科も絶滅する可能性はランダムであることを発見した。例えば、ある種における改善は、それがどのようなものであってもその種に対する有利な選択を導くので、時間経過に従ってますます多くの有利な適応を身に着けるようになる。それは、ある種における改善が、その種が多くの資源を獲得し、競争関係にある他種との生存競争での生き残りに、有利になることを示唆している。そして同時に、他種との競争で有利であり続けるための唯一の方法は、デザインの継続的な改善だけであることを示している︵Heylighen, 2000︶。
この効果のもっとも明白な一例は、捕食者と被食者の間の軍拡競争である︵例えばVermeij, 1987︶。捕食者はよりよい攻撃方法︵例えば、キツネがより速く走る︶を開発することで、獲物をより多く獲得できる。同時に獲物はよりよい防御方法︵例えば、ウサギが敏感な耳を持つ︶を開発することで、より生き残りやすくなる。生存競争に生き残るためには常に進化し続けることが必要であり、立ち止まるものは絶滅するという点で、赤の女王の台詞の通りなのである。
有性生殖は効率的か
サイエンスライターのマット・リドレーは、﹃赤の女王﹄の中で、多くの種で見られる有性生殖の適応的な利点について論じた。種やその他の集団レベルにおける進化を認めてきた伝統的な理論とは対照的に、赤の女王効果は遺伝子レベルでの有性生殖の利点を説明することが可能である。寄生者との間で周期的な軍拡競争を行っている生物では、性が寄生者に対する有利さを維持するための仕組みであると考えられる。
ライオンなどではオスは自分の子供である若いオスを脅かすポーズをとる︵しかし、ヒトやタツノオトシゴ、ペンギンなどの例外も存在する︶。また、オスとメスはつがうためにお互いを見つける必要があるが、性淘汰によって、生き残るのが難しくなるような特徴を持った個体が好まれることがある︵例えば、クジャクやサンコウチョウのオスの尾羽根︶。これらの特徴を持った生物において、一見すると有性生殖は非効率的に映る。
ほぼすべての脊椎動物が有性生殖を行うという事実は、性が様々な事態に対する適応を増加させることで説明可能となる。これには2つの理由があげられる。1つ目として、ある無性生殖の系列で有利な突然変異が起こったとしても、他の有利な突然変異を持っている可能性のある別の系列との競争に打ち勝つことは難しい。2つ目として、ある種の遺伝子は別の遺伝子とペアを形成することで有利さを発揮するが、有性生殖は遺伝子の混ぜ合わせ作業なので、そのような有利な遺伝子のペアが出現する可能性を増加させる。
有性生殖の有利さは、常に変化するような環境に棲む生物で発揮される。寄生者と宿主の間での恒常的な軍拡競争において、この具体例が確認できる。一般に寄生者はその寿命の短さにより、より速く進化する。そのような寄生者の進化は、宿主に対する攻撃方法の多様化を招く︵つまり、宿主にとっての環境の変化︶。このような場合、有性生殖による防御方法の変化は寄生者に対する有利さを持ち、性の存在を説明するかもしれない。
また、直接子孫を残すことはないが、餌の確保や防衛などの面でオスが間接的に種の保存に貢献している種族も多い。
関連項目
●生存競争
●性淘汰
●ハンディキャップ理論
●ランナウェイ説
●進化医学
参考文献
マット・リドレー﹃赤の女王﹄翔泳社 ISBN 4-88135-146