フランク・シーラン
Frank Sheeran | |
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生誕 |
フランシス・ジョセフ・シーラン Francis Joseph Sheeran[2] 1920年10月25日 ペンシルベニア州ダービー |
死没 |
2003年12月14日 (83歳没) ペンシルベニア州ウエストチェスター |
墓地 | ペンシルベニア州イードン、ホーリークロス墓地 |
別名 | アイリッシュマン(The Irishman) |
職業 | 労働組合幹部 |
団体 | 全米トラック運転手組合第326支部 |
刑罰 | 禁錮32年(内13年服役)[1] |
配偶者 |
メアリー・シーラン アイリーン・シーラン |
子供 | 4人 |
所属 | ブファリーノ・ファミリー |
有罪判決 | 恐喝[1] (1980年) |
フランク・シーラン︵Frank Sheeran、本名‥フランシス・ジョセフ・シーラン︵Francis Joseph Sheeran︶、1920年10月25日 - 2003年12月14日︶、通称アイリッシュマン︵The Irishman︶は、マフィアとの繋がりを指摘されたことで知られるアメリカの労働組合の役員。
全米トラック運転手組合 (IBT) の第326支部の支部長という幹部職にあり、同組合にマフィアが介在していた問題の第一人者であった。1980年に暴行を伴う恐喝容疑で有罪判決を受け、32年の刑を宣告され、13年服役した。
2004年に、シーランの告白に基づいた、彼を主人公としたノンフィクション作品﹃I Heard You Paint Houses︵直訳‥私はあなたが家の壁を塗ると聞いた︶﹄がチャールズ・ブラントによって出版された。この中で記述されたジミー・ホッファとジョーイ・ギャロを殺したというシーランの自白の事実性は争われている。2019年、この本を原案とし、監督はマーティン・スコセッシ、主役のシーランをロバート・デ・ニーロが演じた映画﹃アイリッシュマン﹄が公開された。
経歴[編集]
生い立ち[編集]
シーランは、ペンシルベニア州ダービーにて下位の労働者階級である住宅塗装業の父トーマス・フランシス・シーラン・ジュニアとメアリー・アグネス・ハンソンの間に生まれた。父はアイルランド系のカトリック教徒であり、母はスウェーデン人であった[2][3][4]。第二次世界大戦[編集]
1941年8月、シーランは陸軍に入隊し、ミシシッピ州ビロクシの近くで基礎訓練を行った後、憲兵隊に配属された。真珠湾攻撃後は、ジョージア州フォートベニング基地で行われた陸軍空挺部隊の訓練にも志願した。肩を脱臼した後は、﹁サンダーバード﹂や﹁キラー師団﹂として知られる第45歩兵師団に配属された[5][6]。1943年7月14日、シーランは北アフリカへと派兵された。戦闘任務[編集]
シーランは411日間に渡り、戦闘任務に従事した︵平均は約100日間であるため、これはかなり長期である︶[7]。最初の戦闘はイタリア戦線であり、これにはシチリア島攻略︵ハスキー作戦︶やサレルノ上陸作戦︵アヴァランチ作戦︶、アンツィオの戦いを含んでいる。その後もドラグーン作戦[8]やドイツ本国侵攻にも参加した[9]。 概して50日間ほど、私はAWOL︵訳注‥無届け外出者、広い意味で脱走兵︶として過ごし︵正式な休暇はなかった︶、赤ワインを飲み、イタリア人やフランス人、ドイツ人の女を追いかけ回した。しかし、部隊が最前線に戻った時、私は決してAWOLなどではなかった。もし部隊の戦闘中にAWOLであったりすれば、自らの上官が射殺しただろうし、上官は殺ったのがドイツ兵の仕業だと釈明する必要すらなかった。これは敵前逃亡にあたるからだ。 — シーランによる回顧[10]戦争犯罪[編集]
シーランは兵役任務が、後に冷静に人を殺すことに寄与したという。彼は、ハーグ陸戦条約やジュネーブ条約の違反にあたる、ドイツ兵捕虜に対する虐殺や裁判抜きの処刑を幾度も行っていたことを明かした。チャールズ・ブラントは彼らから聞いた違法行為について下記の4種類に分けて説明した。 (一)戦闘中の報復殺人。シーランがブラントに語ったことによると、投降してきたドイツ兵が友人を殺した相手であったならば、﹁彼も地獄に送る﹂という。また、仲間の"GI"︵アメリカ兵のこと︶も同様のことを行っていたところをしばしば目撃したという[8]。 (二)任務中の部隊長からの命令。マフィアとして最初の殺人事件について説明する時に、シーランは次のように思い出しながら語った。﹁上官がドイツ人捕虜数人を列の後ろに連れていき、﹃急いで戻れ﹄と言った時のようだった。すべきことをした﹂[11] (三)ダッハウ強制収容所における看守や収容所の運営に協力していた囚人に対する報復殺人[12]︵ダッハウの虐殺︶。 (四)ドイツ人捕虜の理性的判断を欠落させる試み。シーランの部隊がハルツ山地を行軍中、山腹にて食料を運ぶドイツ国防軍のラマによる輸送隊と遭遇した。狼狽する女性料理人は放置され、その後、シーランは仲間たちと﹁好きな物を食べ漁り、残りは排泄物で汚した﹂という。その後、ドイツ兵にシャベルを渡し、﹁自分の墓を掘る﹂ように命令した。シーランは彼らが抵抗することなく、それを行ったと冗談めかして言い、おそらくシーランとその仲間は相手を精神的に操ることを狙っていた。結局、ドイツ兵は射殺され、自分が掘った穴に埋められた。シーランは﹁自分がすべきことをためらうことはなかった﹂と説明した[9]。退役後[編集]
1945年10月24日、シーランは陸軍を除隊し、後に25歳の誕生日の前日であったと回顧している[12]。その後、アイルランド移民のメアリー・レディと結婚し、メアリアン、ドロレス、ペギーの3人の娘に恵まれたが、1968年に離婚している[13]。その後、シーランはアイリーン・グレイと再婚し、新たに娘コニーが生まれる[14]。マフィアとの関係と全米トラック運転手組合[編集]
兵役後、シーランは食肉配達のトラック運転手となった。1955年にマフィア幹部のラッセル・ブファリーノがトラック修理の手伝いを申し出てきたことを縁に関係を持ち、シーランは彼の配達の仕事も受け持つようになる[15]。さらに、アンジェロ・ブルーノのソルジャー︵マフィアの階級︶であるビル・ディスタニスロアが経営していたペンシルベニア州シャロン・ヒルにあるバーからも仕事を受けていたと伝えられる[16]。 シーランの最初の殺人はデラウェア州のキャデラック・リネンサービスを10,000ドルで破壊することを依頼してきたギャングスターのウィスパーズ・ディトゥリオであった[17]。実はキャデラック・リネンサービスにはブルーノが多額の出資をしており、そうとは知らなかったシーランは、デラウェア州での準備中に発見され、尋問のために連行されてしまった。激怒するブルーノに対し、ブファリーノは説得してシーランを助命させ、代わりに報復としてディトゥリオを殺すよう命じさせた[17]。 1972年4月7日に、Umberto's Clam Houseでジョーイ・ギャロが単独の狙撃犯に暗殺されたが、これもシーランが行った疑いがあった[17][16]。 ブファリーノはシーランを全米トラック運転手組合 (IBT) の長ジミー・ホッファに紹介した。シーランはホッファの親友となり、また私兵としても扱われた。これには、反抗的なIBT組合員やIBTの縄張りを脅かすライバル組合の者の暗殺も含まれている[18][19]。シーランによれば、彼がホッファと最初に話したのは電話であり、ホッファは﹁︵君は︶家にペンキを塗ると聞いた﹂と最初に述べたという︵これは銃撃によって標的の血痕が壁に広がることを暗喩している︶[20]。その後、シーランはデラウェア州ウィルミントンにある第326支部の支部長となった[17]。 1972年、シーランは1967年に第107支部の前で銃撃されて暗殺されたロバート・デジョージの一件で殺人罪で起訴された。しかし、これは裁判進行が早く稚拙であるというシーランの抗議により起訴は取り下げられた。他にも1976年にフィラデルフィアの労働組合員であるフランシス・J.マリノが殺害された件や、デラウェア州ニューキャッスルの酒場にて殺されたフレデリック・ジョン・ガウロンスキーの一件にも関わっていると言われる[21]。晩年[編集]
1980年7月、ニュージャージー州ハッケンサックのユージーン・ボッファ・シニアが管理する派遣事業に関わる容疑で、ほか6人と共に起訴された[22]。同年10月31日にシーランは11人の労働者に対する暴行罪で有罪となった。32年の懲役刑が宣告され、13年服役した[1]。 2003年12月14日、ペンシルベニア州ウエストチェスターの老人ホームにて癌で死亡する[18]。83歳。遺体はペンシルベニア州イードンのホーリークロス墓地に埋葬された[23]。ホッファの死について[編集]
シーランの告白を元としたノンフィクション作品﹃I Heard You Paint Houses︵直訳‥私はあなたが家の壁を塗ると聞いた︶﹄において、著者のチャールズ・ブラントは、シーランがホッファ殺害を告白したと述べている[17]。ブラントの主張によれば、チャッキー・オブライエンが、シーランとホッファ、また仲間のギャングであるサルブリグリオをデトロイトの家に連れて行ったという。オブライエンとブリグリオが車に待機している間、シーランとホッファが家の中に入り、シーランは後ろから後頭部に2発、銃弾を撃ち込んだ。その後、ホッファの遺体は火葬されたと聞いたとシーランは答えたという[24]。 シーランが殺人を行ったと明かしたデトロイトの家[24]で見つかった血痕は、ホッファのDNAと一致しないと判断された[25][26]。 FBIはシーランが事件に関わっていたかの捜査を続けており、最新の科学捜査によって血液と床板の再テストを行っている。2018年11月27日にFOXで放送されたホッファの失踪に関するドキュメンタリー番組では[27][28]、FBIは最新のテスト結果について尋ねられたときに、ノーコメントと答えている[29][30][31]。伝記映画[編集]
マーティン・スコセッシはシーランの人生と彼のホッファ殺害への関与の疑いについて映画とすることに長年興味を抱いていた。そして2019年に彼が監督を務めた﹃アイリッシュマン﹄が公開された。スティーヴン・ザイリアンが脚本兼共同プロデューサー、主役のシーランをロバート・デ・ニーロが演じ、他にホッファをアル・パチーノ、ブファリーノをジョー・ペシが演じる[32][33]。本作は2019年9月27日にニューヨーク映画祭にて世界初公開され、11月1日にリリース、及び11月27日にNetflixにてデジタルストリーミングで配信された[34]。脚注[編集]
(一)^ abcKaplan, Michael (2017年11月19日). “The ‘real’ story of the man who murdered Jimmy Hoffa” (英語). New York Post 2019年11月18日閲覧。
(二)^ abU.S., Social Security Applications and Claims Index, 1936–2007
(三)^ 1940 United States Federal Census
(四)^ English, T.J. (2005). Paddy whacked: the untold story of the Irish American gangster. HarperCollins. p. 438. ISBN 978-0-06-059002-4
(五)^ Brandt (2004), p. 39.
(六)^ “The Day of Battle: The War in Sicily and Italy, 1943–1944 (The Liberation Trilogy)”. www.bookscool.com. p. 17. 2020年1月12日閲覧。
(七)^ Brandt (2004), p. 38.
(八)^ abBrandt (2004), p. 50.
(九)^ abBrandt (2004), p. 51.
(十)^ Brandt (2004), p. 40.
(11)^ Brandt (2004), p. 84.
(12)^ abBrandt (2004), p. 52.
(13)^ Burke, Caroline (2019年11月27日). “Mary Leddy, Frank Sheeran's First Wife: 5 Fast Facts You Need to Know”. 2020年1月12日閲覧。
(14)^ Farrell, Paul (2019年11月27日). “Irene Sheeran, Frank Sheeran's Wife: 5 Fast Facts”. 2020年1月12日閲覧。
(15)^ “Frank Sheeran” (英語). Biography. 2020年1月12日閲覧。
(16)^ ab“Interview: Charles Brandt, author 'I Heard You Paint Houses'”. amp-clickondetroit-com.cdn.ampproject.org. 2020年1月12日閲覧。
(17)^ abcdeBrandt, Charles (2004). "I Heard You Paint Houses": Frank "The Irishman" Sheeran and the Inside Story of the Mafia, the Teamsters, and the Last Ride of Jimmy Hoffa. Hanover, New Hampshire: Steerforth Press. ISBN 978-1-58642-077-2. OCLC 54897800
(18)^ ab“Where is Hoffa?”. 8 HD I-Team. (2006年11月13日)
(19)^ Brandt, Charles. I Heard You Paint Houses
(20)^ “The Lies of "The Irishman"”. Slate (2019年8月7日). 2019年8月7日閲覧。
(21)^ “Tapes Provide Rare Glimpse of Union‐Crime Dealings”. nytimes.com (1979年10月28日). 2020年1月12日閲覧。
(22)^ “Teamster Leader in Delaware Guilty of Labor Racketeering”. nytimes.com (1980年10月31日). 2020年1月12日閲覧。
(23)^ McBride, Jessica (2019年11月27日). “Peggy Sheeran, Frank’s Daughter: 5 Fast Facts You Need to Know”. 2020年1月12日閲覧。
(24)^ ab“Detroit House Searched for Clues in Hoffa Case”. Fox News (2004年6月13日). 2012年6月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年5月30日閲覧。
(25)^ “History Detectives”. 2016年5月11日閲覧。 (transcript)
(26)^ “Police: Blood found in Detroit home did not come from Hoffa”. USA Today. 2020年1月12日閲覧。
(27)^ “Riddle documentary Fox”. 2019年10月18日閲覧。
(28)^ “Riddle: The Search for James R. Hoffa”. Fox News. 2019年1月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年10月18日閲覧。
(29)^ “History Detectives”. 2016年5月11日閲覧。 (transcript|accessdate=2020/01/12)
(30)^ “Police: Blood found in Detroit home did not come from Hoffa”. Associated Press. highbeam.com. オリジナルの2016年9月11日時点におけるアーカイブ。 2017年9月9日閲覧。
(31)^ Karush, Sarah (2005年2月14日). “Police: Blood found in Detroit home did not come from Hoffa”. Associated Press. Detroit Free Press
(32)^ Bell, Breanna (2019年7月31日). “Martin Scorsese's 'The Irishman' Trailer Teams Robert De Niro, Al Pacino and Joe Pesci”. Variety. 2019年7月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年7月31日閲覧。
(33)^ Stolworthy, Jacob (2017年7月13日). “The Irishman: Joe Pesci officially joins Robert De Niro in new Martin Scorsese film making Goodfellas reunion official”. オリジナルの2017年7月14日時点におけるアーカイブ。 2019年8月27日閲覧。
(34)^ Fleming Jr., Mike (2019年8月27日). “Netflix Sets November 1 Theatrical Bow For Martin Scorsese-Directed 'The Irishman:' 27 Day US & UK Rollout Comes Before Pic Streams For Thanksgiving Holiday”. Deadline. 2019年8月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年8月27日閲覧。