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ローレンツ変換︵ローレンツへんかん、英: Lorentz transformation︶は、2つの慣性系の間の座標︵時間座標と空間座標︶を結びつける線形変換で、電磁気学と古典力学間の矛盾を回避するために、アイルランドのジョセフ・ラーモア︵1897年︶とオランダのヘンドリック・ローレンツ︵1899年、1904年︶により提案された。
アルベルト・アインシュタインが特殊相対性理論︵1905年︶を構築したときには、慣性系間に許される変換公式として、理論の基礎を形成した。特殊相対性理論では全ての慣性系は同等なので、物理法則はローレンツ変換に対して不変な形、すなわち同じ変換性をもつ量の間のテンソル方程式として与えられなければならない。このことをローレンツ不変性︵共変性︶をもつという。
幾何学的には、ミンコフスキー空間における2点間の世界間隔を不変に保つような、原点を中心にした回転変換を表す︵ミンコフスキー空間でみたローレンツ変換節参照︶。
ローレンツ変換は、マイケルソン・モーリーの実験結果を矛盾なく説明する手段として提案された。ローレンツは、時間の流れや光速度はすべての基準座標系において同一と考えたため、﹁大きな速度で動く座標系では、2点間の距離︵物体の長さ︶は縮む﹂というローレンツ収縮を示した(ローレンツ・フィッツジェラルド収縮仮説)。しかし、ローレンツ収縮は実験結果と矛盾した。後に、アインシュタインは、光速度の不変性と物理法則の相対性︵﹁物理法則はあらゆる慣性系間で同一である﹂︶の2つを原理として、特殊相対性理論を築いた。そこでは、ローレンツ変換からの帰結として、時間の進み方が観測者によって異なることが示された。
ガリレイ変換は、等速運動をする慣性系間の座標変換であり、ニュートンの運動方程式は不変な形で変化するが、マクスウェルの方程式では満足されない古典的な座標変換である。ローレンツ変換は、マクスウェル方程式を不変な形で変換する。また慣性系の動く速度 vが、光速度 cに比べて十分小さい場合︵v/c → 0 と見なせる場合︶を考えると、ローレンツ変換はガリレイ変換を再現する。したがって、非相対論的な極限でガリレイ不変性が成立しているという事実もローレンツ変換で説明できる。
ローレンツ変換のうち、空間と時間が関与する方向への変換をローレンツブースト (英: Lorentz boost) と呼ぶ。特殊相対論が導く、我々の直感に反する事柄のほとんどは、このローレンツブーストからの帰結である。一方で、空間同士が関与する変換はただの空間回転である。
物理的導入[編集]
ローレンツ変換は、ある慣性系 Sにおける空間および時間座標︵あるいは任意の 4元ベクトル︶を、x-軸に沿ったSに対する相対速度 vで移動する別の慣性系 S′ へ変換する際に使用される群作用である。原点 (0, 0, 0, 0) を共有する、S における時空座標 (t, x, y, z) と S′ における時空座標 (t′, x′, y′, z′) で記述される事象の座標系は、以下のローレンツ変換によって関連づけられる。
上式で
はローレンツ因子と呼ばれ、c は真空中の光速度を表す。
行列での表現[編集]
上の4つの方程式は、行列を用いて表現できる。
あるいは、以下のようにも記述できる。
最初の式は、v/c → 0 となる極限において、ガリレイ変換に帰着することを容易に理解できる点で、第2の式は、相対論における基本的な不変量である時空間隔 ds2= (cdt)2 − dx2 − dy2 − dz2 が保存されることを容易に理解できる点で、それぞれ優れている。
ミンコフスキー空間でみたローレンツ変換[編集]
また、パラメータ θ を用いて、
とすると
虚時間 w= i ct を用いれば、
行列を用いれば、それぞれ
と表すことができる。この表現を用いると、ローレンツ変換がミンコフスキー空間上での虚数角 iθ の回転に相当することが容易に理解できる。
この表式では速度の合成が容易になる。慣性系 Sにおいて、速度 uで x-軸方向に等速運動している物体は、慣性系 S′ における速度 u′ は、
とすると、
で表される。
相対速度 vの方向が 慣性系 Sの x-軸方向と一致する場合にのみ、上の方程式は適用される。v の方向が Sの x-軸と一致しない場合には、ローレンツ変換の一般解を求めるよりも、v の方向が Sの x-軸と一致するように慣性系の回転を行うほうが、一般に容易である。
空間ベクトルの分解[編集]
任意の方向へのローレンツブーストに際しては、空間ベクトル xを速度 vと平行な垂直成分に
と分解すると都合が良い。v 方向の成分
のみが、ローレンツ因子 γ による変形を受ける。
上の方程式は、行列を用いて以下のように表現できる。
ここで、vT は vの転置行列、I は3次単位行列である。
上で注記したように、この変換は2つの系で原点が共有されることを要求する。この制約を緩和する形で、ローレンツ変換に時空の平行移動を加えた変換はポアンカレ変換と呼ばれる。
より一般的な定義[編集]
なお、ローレンツ変換は﹁光速度一定﹂の帰結である﹁世界間隔の不変性﹂を満たす変換として、より一般的に定義される。ここで、時空を記述する 4元ベクトル x=(ct , x, y, z) に対し、
を満たす任意の 4×4 行列 Λ によって与えられる変換
がローレンツ変換となる。但し、T は転置行列を表し、g は
で与えられる時空の計量テンソルを表すものとする。
このように定義された行列 Λ の全体は、ローレンツ群として知られる群 SO(3,1) を構成する。
厳密に言うと、このように定義したローレンツ変換はミンコフスキー空間での回転だけでなく、空間反転に相当するパリティ変換 P、時間反転 Tを含む。これらの変換は連続的なローレンツ変換とは別個に扱われる場合が多い。例えば実際の物理は連続的なローレンツ変換に対しては不変だが、パリティ対称性の破れ、CP対称性の破れ︵CPT定理より Tの破れと同義︶は実験で観測されている。この点を明確にしたい場合、連続的な回転のみの部分を本義ローレンツ変換と呼ぶことがある。
一般的ローレンツ変換[編集]
より一般的に、ローレンツ変換は世界間隔を不変に保つ線形変換として定義される。こうして定義されるローレンツ変換は、ミンコフスキー時空における内積に対する対称性として捉えることができる。
まず、ミンコフスキー時空におけるローレンツ変換 Λ は
すなわち
を満たす線形変換として定義される。但し、g =(gμν) は、g =diag(1, −1, −1, −1) で与えられる計量テンソルであり、重複する添え字に対してはアインシュタインの縮約に従って和をとるものとする。また、添え字の上げ下げは計量テンソルによって、
で、与えられるものとする。
こうして定義されるローレンツ変換は、時空の二点 x=(x0, x1, x2, x3)、y =(y0, y1, y2, x3)のローレンツ内積
を不変に保つ。
この性質から、特に時空の計量
はローレンツ変換の下、不変となる。
すなわち、世界間隔は不変に保たれる。
ローレンツ変換の分類[編集]
ローレンツ変換全体のなす集合 Lは、行列式と00成分 Λ00 によって分類される。ローレンツ変換 Λ において、その行列式 det(Λ) は ±1 の値をとる。一方、00成分は Λ00 ≥1 または Λ00 ≤−1 を満たす。ローレンツ変換の全体 Lの中で、行列式の値と00成分の符号が等しい2つのローレンツ変換は、連続的に移り変わることができる連結な成分となる。一方、これらが異なる2つのローレンツ変換は連続的に移り変わることができない非連結な成分となる。従って、L は行列式の値並びに00成分の符号によって、次の4つの連結な部分集合に分類される。
この分類において、Λ00 ≥1 を満たすものを順時間的︵orthochrous︶、Λ00 ≤−1 を満たすものを反順時間的︵anti-orthochrous︶、det(Λ )=1を満たすものを固有︵proper︶、det(Λ )=−1 を満たすものを非固有︵improper︶と呼ぶ。
ローレンツ変換の中で、特別なものとして、
で定義される恒等変換 I、空間反転︵パリティ変換︶ P、時間反転 T、空間時間反転 PTが存在する。
L↑+, L↑−,
L↓−, L↓+ はそれぞれ、恒等変換 I、空間反転 P、時間反転 T、空間時間反転 PTを含む。
これらの変換により、L↑+, L↑−, L↓+, L↓− は次のように結び付けられる。
慣性系 Sと慣性系 S′ の座標格子を重ねて図示すると、ローレンツ変換とガリレイ変換の違いがイメージできる。ガリレイ変換では時刻が等しい点からなる直線︵同時刻線︶は両慣性系で一致するが、ローレンツ変換では異なる慣性系の同時刻線は互いに傾いている。これはローレンツ変換では、慣性系 Sでは同時に起きた事象が慣性系 S′ では異なる時刻に起きていることを意味する。これを同時性の崩れという。
相対論的解釈[編集]
ローレンツ収縮
アインシュタインの解釈によれば、観測者に対して運動する物体は縮んで観測される。
例として、x-軸方向に長さを持つ物体が、観測者 A︵xyzw-座標系︶に対して x-軸正方向に速度 vで等速直線運動する場合を考える (w = ct)。この物体と共に運動する観測者 B︵x′y′z′w′-座標系︶にはこの物体の長さが lで観測されるとする(w′ = ct′)。これはすなわち、観測者 Bにとって同時刻に観測したときに、物体の端と端の x′-座標の値の差が lであることを示す。
t′ = 0 のとき、物体の片端が x′ = 0、もう一方の端が x′ = lにあるとする。このとき、物体の軌跡は {(x′, w′) | 0 ≤ x′ ≤ l} となり、右図薄青部である。ここで、
とおくと、x′ = γ(x − βw) であるため、
となる。すなわち、t = 0 のとき、片端は x= 0 に、もう片端は
にあるので、観測者 Aにとってこの物体の長さは
となることが分かる︵なお、観測者 Aにとって (x, w) = (0, l) となる点は、右図点線である双曲線 x2− w2= lと x-軸の交点であることからもローレンツ収縮の影響がわかる︶。
関連項目[編集]