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蛙茶番︵かわずちゃばん︶は、古典落語の演目の一つ。素人芝居︵しろうとしばい︶、舞台番︵ぶたいばん︶とも。
江戸時代から明治にかけての町人に広まった、素人芝居ブームを題材にした噺。同じ題材の﹃吐血﹄を前半部に演じ、演題を﹃五段目﹄とする演者もいる[1]。
サゲにいたる展開︵後述︶のために戦時中は禁演落語として自粛対象となった。
主な演者に4代目橘家圓喬、談洲楼燕枝、3代目三遊亭金馬、10代目桂文治などがいる。
あらすじ[編集]
ある商店で、店内に舞台をしつらえ、店員や出入りの商人で﹃天竺徳兵衛韓噺﹄の﹁忍術譲りの場﹂を演じることになり、くじ引きで配役を決めた。当日になり、巨大なガマガエル役の伊勢屋の若旦那が、仮病を使って休んでしまった。そのため芝居の幕を上げることができず、舞台の頭取︵一切を取り仕切る役︶を任じている番頭は困り果てる。番頭は丁稚の定吉を代役に仕立てることにするが、安くない駄賃と休暇を要求され、泣く泣く了承する。
番頭は、舞台番︵舞台袖で客の騒ぎをしずめる役︶を担当するはずの建具屋・半次︵半公︶がいつまで待ってもやって来ないことに気づく。定吉が迎えに行くと、半公は怒っており、﹁役をやらせてもらえると思ったら裏方だったので面白くなく、さらに店の旦那に﹃いつか化物芝居の座頭をやるなら頼む﹄とまで言われた﹂と定吉にこぼす。
一旦引き返した定吉の報告を聞いた番頭は、﹁半公が岡惚れしている小間物屋の娘・みい坊の名を使って半次を釣れ。﹃素人役者なんかより、半ちゃんの粋な舞台番を観たいわ﹄と言っていた、と半公に吹き込め﹂とアドバイスする。
うまくだまされた半公は、自分をより粋に見せようと、祭の時に仕立てた真っ赤なちりめんのふんどしを急いで質屋から請け出し、湯屋へ向かった。﹁おやじ、油っ紙はねぇかな?ふんどしを包んで、頭に結わいつけて湯に入︵へ︶えるんだ﹂﹁それじゃ川越えだ。大事なら番台で預かりますよ﹂﹁後ろの神棚にでも上げといて……﹂﹁馬鹿言っちゃいけねえ﹂
半公が湯に入っていると、定吉が駆け込んできて、早く店の舞台に来るように﹁早く来ないとみいちゃんが帰っちまう﹂と、再度嘘を言って急かす。これを聞くなりあわてた半公は湯から飛び出し、体も拭かず、急いで着物を着て駆け出す。
店へと向かう途中、出入り先の鳶頭︵カシラ︶に出会った半公は着物のスソをまくり、﹁いい物だろう?﹂と自慢をする。カシラは﹁確かにすごい﹂とうなる。﹁どっしり目方︵重量感︶があるんだ。物がいいから、丈が長︵な︶げえんだ。女子供を驚かそうと思ってよ﹂﹁なるほど。気が小せえ奴が見たら目ぇ回すぜ﹂﹁くわえて引っ張ってみてくれよ、チリチリっていい音が……﹂﹁冗談言うな!!﹂
半公が自慢しているつもりになっているふんどしは、そのとき湯屋の番台に置かれたままであった。
半公が店へ入り、ようやく幕が開く。舞台袖から見渡してもみい坊の姿が見えないので、半公は不審に思うが、ふんどしを見せれば発見できるだろう、と考えて、誰も騒いでいないのに﹁静かに静かに﹂と番を務めつつ、着物のスソをまくる。
半公の異様な姿に気づいた酔狂な観客が﹁ようよう、半公、日本一!大道具!﹂と大向う︵掛け声︶をかけたので、調子に乗った半公は客席の方に乗り出していく。
この間に芝居は、大盗賊の徳兵衛が、赤松満祐の幽霊から忍術の極意を伝授される、という見せ場に入る。ここで大どろ︵太鼓︶が鳴り、ガマの登場になるはずが、ガマ役の定吉が舞台袖から舞台へ向かおうとしない。
番頭が﹁おいおい、定吉!早く出なきゃだめだよ﹂と声をかけると、定吉は﹁いいえ、ガマは出られません﹂と答える。﹁なんでだ?﹂﹁あすこで、青大将が狙ってます﹂
バリエーション[編集]
●当演目をはじめ、素人芝居にまつわる話のマクラに振られる小咄に次のようなものがある。
仮名手本忠臣蔵の五段目、通称﹁鉄砲渡しの場﹂をやろうとして配役を話し合うと、人気の早野勘平役に集中してしまう。もめにもめて、らちが明かないので、頭取役は志願者全員に勘平役を振ってしまった。幕が開くと勘平が30人ばかり。驚いた客が﹁あれは何です?﹂﹁ああ、さしずめカンペイ式︵観兵式︶でしょう﹂︵6代目三遊亭圓生など︶。
- ^ 『吐血』は歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』のうち、五段目を演じる町人の話である。