通常クリアまでに約10時間かかる﹃スーパーマリオ64﹄をなんと10分でクリアする。約20時間かかる﹃ゼルダの伝説 夢をみる島﹄を5分でエンディングまで辿り着く──。
そんなハイスピードなクリアを目指すゲームプレイはリアルタイムアタック︵RTA︶と呼ばれている。RTAでは、様々なプレイヤーがテクニックやアイデアを駆使してゲームを高速でクリアしてみせる。当然、普通のゲームプレイじゃない。
そんな芸当を一堂に会したイベントが﹁RTA in Japan﹂だ。多くのプレイヤーが会場に集まり、数多くのタイトルでどれだけ早くエンディングまでたどり着けるかを追求するのだ。
ゲームプレイの模様はTwitchで配信され、SNSで拡散され、ゲームメディアが取り上げることで広まっていく。いま、RTAはこれまでとは別のかたちでビデオゲームの魅力を見せるひとつのジャンルとなっており、RTA in Japanはその一大イベントとして注目されている。
8月11日︵木︶から15日︵月︶に﹁RTA in JAPAN Summer 2022﹂の開催を控える中、今回、RTA in Japanを運営するNaka︵@KeynNaka︶さんに、RTAの魅力やイベントの歴史について話を聞いた。
取材・文‥葛西 祝 編集‥Yugaming
目次
●1. 走者や解説が盛り上げる晴れの舞台﹁RTA in Japan﹂
●2. ﹁RTA in Japan﹂はいかにして立ち上げられたのか?
●3. ﹁RTA in Japan﹂以前のRTAシーン
●4. 民主的な合意形成と求道的なやりこみがRTAの魅力
●5. e-Sportsというより学会発表でありオフ会の場
走者や解説が盛り上げる晴れの舞台﹁RTA in Japan﹂
──まずRTAというものについて詳しくうかがえますか?
Naka RTA︵リアルタイムアタック︶というのは和製英語で、英語ではSpeedrunと呼ばれています。
タイムアタックに“リアル”とついている理由は、ゲームの途中でトイレに行ったりするときでも、タイマーを絶対に止めちゃいけないということなんです。
要は時間を可能な限り短縮してゲームをクリアしていくものです。基本的にはほとんどの場合、ゲームをクリアするためならなんでもあり。
Glitch︵編注‥誤動作や異常挙動︶で壁抜けによって普通移動できないところを移動してもいいんです。とはいえ、そういうGlitchの使用を禁じるルールのRTAもあります。
──いろいろなレギュレーションがあるんですね。
Naka ただ、ルールは僕らが決めているわけじゃないんですね。
基本的にプレイヤーが決めます。クリア条件をサブイベントも含めた100%クリアにするかとか、アイテムを全部集めてクリアなど、走る︵プレイヤー︶側が決めています。
──RTA in Japanではどのようにイベントを行なっていますか?
Naka 新型コロナウイルスが広がる前は、夏はオンライン、冬はオフラインと年2回で行っていました。冬の開催地は秋葉原ハンドレッドスクエア倶楽部さんをお借りして開催していました。
イベントは24時間、4~5日間途切れることなく行います。
──RTAの配信の雰囲気はどんな感じでしょうか?
Naka 個人の配信はほとんど淡々としていますよ︵笑︶。自分の配信だと記録が見れないですからね。
ひたすら記録を狙うのでリセットもたくさんあるし、傍から見ると、記録が出る期待感があるから見に行くって人が多いと思いますよ。﹁新記録が出る!﹂って瞬間に立ち会いたいことってあるじゃないですか。
あとはゲームをきっかけにしてその配信者を好きになることもありますし、そのあたりは人の多い配信の方が行きやすいのもあると思います。
オフラインで開催された「RTA in Japan」の模様
﹁RTA in Japan﹂での配信の雰囲気は、走者や解説の方が見どころを言ってくれるので、そこでプレイが成功すると﹁おぉー!﹂といった歓声が聞こえてました。
コロナ禍においては声出しは避けた方がいいので、拍手で対応してほしいとは思います。
──イベントでは参加者のRTAをどのように審査していますか?
Naka イベント内ではプレイヤーをジャッジする審判はいません。
イベント内で記録が出たとしても、例えば﹁Speedrun.com︵外部リンク︶﹂という記録収集サイトがあり、そこに記録の動画を申請して、モデレーターがチェックし、不正していないかを見ていくんです。
──自身のプレイに解説が付き、歓声が上がるというお話をうかがうと、﹁RTA in Japan﹂はプレイヤーにとって晴れの舞台になっていると感じます。
Naka いろいろな話を聞くと晴れ舞台になってるみたいですね。2016年からはじまって大きくなったのもあり、目標にされている方もいらっしゃいます。ありがたいことです。
選ばれた方はイベントに向けて準備をしていただきたいし、選ばれなかった方は、勝ち負けで考えず、また次回があると思って応募してほしいと思います。
﹁RTA in Japan﹂はいかにして立ち上げられたのか?
──先ほど2016年からはじまってというお話がありましたが、そもそも﹁RTA in Japan﹂はどのように発足されたのでしょうか?
Naka もともとは運営の5人の日本人メンバーが、アメリカのRTAイベント﹁Games Done Quick﹂︵GDQ︶に参加したことがきっかけです。﹁GDQみたいなイベントを日本でもやりたい﹂というところからはじまっています。
──公式にも﹁GDQ﹂をモデルとしたことは語られていますよね。運営の皆さんはいつごろから﹁GDQ﹂に触れるようになったのでしょうか?
Naka ﹁GDQ﹂ってチャリティイベントなんですよね。
かつて2011年の東日本大震災の時に、日本向けのチャリティとしてイベントが開催されたこともあるんです。前に運営のみんなと話したときに、それがきっかけだったという話をしたことはありました。
それもあって、﹁GDQ﹂に出てみたいという意識はメンバーにあったと思うんですよ。それから実際に応募して出場して、﹁これを日本でもやろう﹂というかたちになったと思います。
──﹁RTA in Japan﹂の今日までの活動を教えてください。
Naka 第1回目はTwitchの同接︵同時接続︶で最高4000人くらいのイベントでした。イベント主催の“もか”の知人がTwitchスタッフだった縁で、配信環境の整備をその方にやってもらっていました。
基本的に僕らは外に広めるようなことって何もやっていないんですよ。ただ﹁お盆と年末に開催します﹂と告知して、参加者を募集するだけです。
最初の頃は応募も多くなかったですけど、イベントが認知されるとだんだん増えていきました。
──その後も特徴あるRTAがSNSなどで話題になるのを見ましたが、運営していて大きく注目されたな、と感じた時期はありますか?
Naka 2018年か2019年頃ですかね。最初はそこまで注目されたわけじゃなくて、2回目も同接1万いくかいかないかくらいだったんですけど、2019年くらいから同接が3万とかになって、視聴者が急にドッと増えたんです。
──それは運営の皆さんの頑張りもあって?
Naka 僕らもなぜなのかわかってないんですよ。運営に必死だったので︵笑︶。
──イベントが数万人の視聴者を集める発展を遂げたことをどのように見ていますか?
Naka 僕は見てくれている人の力だと思います。誰かが見て、﹁これ面白いよ﹂と言ってくれたことが広まっていったと思うんですよね。
僕らのイベントの方針は、当初からまったく変わっていないんですよ。人を集めたいって理由でやっているわけではないので。
僕らはお金をもらっていないんです。一般社団法人になっていますけど、全員無報酬です。収益は寄付に回して運営しています。
──変な話ですけど、なぜ報酬を受け取らないようにしたんですか?
Naka 基本的に僕らが何かしているわけじゃないので、もらうのはおこがましいと思っています。モデルとした﹁GDQ﹂自体がチャリティイベントですし、それもあるので﹁RTA in Japan﹂もチャリティでやっていこうと。
他のRTAイベントによっては選手に賞金を出すものもありますけど、日本だと景品表示法の問題で難しいですし、要は僕らはRTAを盛り上げたいという方針でやっているんです。
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