改訂新版 世界大百科事典 「アフリカ大地溝帯」の意味・わかりやすい解説
アフリカ大地溝帯 (アフリカだいちこうたい)
African Great Rift Valley
アフリカ大地溝帯と生物
現在の大地溝帯は陸上動物が全く越えることのできない障壁となっていて,進化の過程でも大きな役割を果たしたのではないかと思わせるものがある。しかし,大地溝帯を分布の境界にするものが多少あるものの,これが原因となって種分化が起こったという明確な証拠は乏しい。むしろ最近では大地溝帯は南北への分布拡大の通路となったという説が有力である。 大地溝帯の内部をみたとき,生物学上重要なのは,その水系における水生動物の適応放散で,なかでも,ティラピアなどを含むカワスズメ科魚類︵シクリッド︶の爆発的な種分化は魚類学上の驚異とされている。現在,この仲間はアフリカ,中南米,南アジアから700種余り知られているが,その約8割までがアフリカ大地溝帯域に集中している。その中心となるビクトリア湖,タンガニーカ湖,マラウィ湖では,そこに住む全魚種の60~75%にあたる170,134,200種が確認され,今後調査が進めばその数はさらに増加するものと予想されている。これらのうち,97~98%までが一つの湖だけに生息する固有種endemic speciesである。このことは,大部分の種がそれぞれの湖内で独立に進化したことを表している。これらの湖が,水位の変動を繰り返しながらも,世界の湖の中では例外的に長期間安定していたこと,しかもその期間中,各湖が他の水系から完全に孤立していたことが,このグループの爆発的な種分化の一因になったと考えられている。 執筆者‥柳沢 康信出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報