日本大百科全書(ニッポニカ) 「コマーシャル・ソング」の意味・わかりやすい解説
コマーシャル・ソング
こまーしゃるそんぐ
commercial song
広告、宣伝の目的をもってつくられた詩歌であり、コマーシャル・メッセージをメロディにのせて歌にしたものをさす和製英語。略してCMソングあるいはコマソンという。また、シンギング・コマーシャルsinging commercial、ジングルjingleなどともいう。歌詞のなかに、企業名、商品名や銘柄名、スローガンなどを組み入れて、印象づけるCM表現法の一つである。なお、歌詞のなかに、商品名などを組み込まないCMのことを、イメージ・ソングあるいはイメージCM、イメージ広告などと称する。
﹇伊藤誠二﹈
CMソングの形態
CMソングの変遷
日本におけるコマーシャル・ソング第一号は、民間放送ラジオ発足︵1951︶直後の小西六写真工業︵のちのコニカ︶の﹃ボクはアマチュア・カメラマン﹄︵三木鶏郎(とりろう)作詞︶とされている。
民間放送でラジオとテレビが出そろいCMが始まった1950年代には、同時にCMソングというジャンル︵分野︶も確立されている。この時期の特徴は、商品や企業名をはっきり打ち出すために、繰り返しを多用する長い歌が中心であった。﹁ワ、ワ、ワー、ワが三つ﹂︵ミツワ石鹸(せっけん)、1954︶、﹁明るいナショナル﹂︵松下電器産業、1956︶、﹁ジンジン仁丹﹂︵森下仁丹、1957︶などが、その代表例である。1960年代に入ると、競合商品の品質格差がなくなり、そのため﹁目だとう、印象づけよう﹂という点が強調され、他方では﹁モーレツ時代﹂へ突入するという環境下で、﹁伊東に行くならハトヤ﹂︵ハトヤホテル、1961︶、﹁大きいことはいいことだ﹂︵森永製菓、1967︶、﹁オー、モーレツ!﹂︵丸善石油、1969︶などのCMソングが登場した。
ところが、1970年代になると、モーレツ社会に異議を申し立て、人間らしさを取り戻そうというフォーク調が支持され、﹁のんびり行こうよ﹂︵モービル石油、1971︶、﹁モーレツからビューティフルへ﹂︵富士ゼロックス、1970︶、﹁どういうわけか、キリンです﹂︵キリンビール、1970︶といったCMソングが注目される。また、キャンペーン・ソングを中心に流行歌として発展し、﹃君のひとみは10000ボルト﹄︵資生堂、1978︶など、CMソングが流行歌の主流をなした年もある。一般的に、1960年代後半から退潮の気配をみせていたCMソングにかわって、1970年代にはイメージ・ソングが重視されるようになり、外国人タレントや文化人を起用したCMが増えている。とりわけ1970年代後半は、おもしろ志向、エンターテインメント︵娯楽︶志向が目だち、野坂昭如(あきゆき)︵作家︶が﹁ソ、ソ、ソクラテス﹂と歌って踊ったサントリー・ゴールド︵サントリー、1976︶、高見山大五郎︵力士︶があざやかなタップ・ダンスを披露したトランザム︵松下電器産業、1977︶などは、ミュージック路線といえる。
1980年代においても、時代の変化とともに社会の動きを反映し、CMそのものが多様化し続けていることに変わりはない。1980年代後半バブル景気が再燃するなかで、CMソングは再度脚光を浴びるようになる。冬の定番ソングとして茶の間をにぎわせた﹁クリスマス・イブ/聖なる夜﹂︵JR東海クリスマスエクスプレス・シリーズ、1988~92︶、バブル景気只中で働くビジネスマンの応援歌として支持を集めた﹁勇気のしるし/24時間戦エマスカ﹂︵三共のリゲイン、1989~90︶などが注目された。だが、1990年代に入り、バブル経済がはじけ不安定な社会環境が続くなかで、商品や企業は自らの優位性を主張したり、顧客説得に力点を置くかたちのCMが主流となっていく。そのような状況にありながら、1990年代には﹁金鳥ゴン﹂︵大日本除虫菊、1991︶、﹁勉強しまっせ﹂︵サカイ引越センター、1995︶、﹁Sunny Day Sunday﹂︵大塚製薬のポカリスエット、1999︶、2000年代に入ってからは﹁NEO UNIVERSE﹂︵資生堂のピエヌ、2000︶、﹁愛のうた﹂︵任天堂のゲームソフト・ピクミン、2001︶、﹁お金は大事だよ♪﹂︵アメリカンファミリー生命保険会社=アフラック、2003︶、﹁思いがかさなるその前に・・・﹂︵トヨタ自動車のカローラフィールダー、2004︶、﹁and I love you﹂︵日清食品のカップヌードル、2005︶など多様なCMソングが現れている。CMソングは、これからも時代によって表現の手法は変わっても、人々の生活に溶け込み、ときに国民的支持を得るほどのイメージの共通体験を提供していくだろう。
﹇伊藤誠二﹈
﹃藤本倫夫他著﹃コマソン繁昌記﹄︵1977・日本工業新聞社︶﹄▽﹃広告批評編﹃広告大入門﹄︵1992・マドラ出版︶﹄▽﹃電通出版事業部編・刊﹃広告景気年表﹄︵2001︶﹄▽﹃小川博司・小田原敏・粟谷佳司・小泉恭子・葉口英子・増田聡著﹃メディア時代の広告と音楽――変容するCMと音楽化社会﹄︵2005・新曜社︶﹄
[参照項目] |