デジタル大辞泉
「パピルス」の意味・読み・例文・類語
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パピルス
(一)〘 名詞 〙 ( [ラテン語] papyrus )
(二)① カヤツリグサ科の多年草。ヨーロッパ南部・熱帯アフリカ・北アフリカ・中近東の湿地に野生し、日本へは明治二八年︵一八九五︶に渡来した。観葉植物として温室で栽培される。稈は太く三稜形で、高さ二メートル内外になる。葉は退化して鞘となる。頂部に細長い線形葉状の総苞を三~一〇個傘状に群生する。小穂は淡栗色で多数密生する。花期は秋。三、四千年以前ナイル河畔に生い茂っていたと伝えられ、稈を圧搾して丈夫な繊維をとり、紙を製した。かみがやつり。紙葦(かみい)。
(三)② 古代エジプトで使用された書写材料。①の髄の細長い薄片を縦横にあわせ、圧搾し日光で乾燥させたもの。今の紙に当るものとして、字や絵を書くのに用いた。パピルス紙。
(一)[初出の実例]﹁紙の沿革を語るとき、人は必ずパピルスと獣皮紙とに言及するを常とする﹂(出典‥零の発見︵1939︶︿吉田洋一﹀二三)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
パピルス
papyrus
Cyperus papyrus L.
温室に栽植されるカヤツリグサ科の大型の水草で,古代エジプトでこれを使って世界最古の紙が作られた。カミガヤツリともいう。太い根茎に沿って,高さ2mにも達する茎が立ち並び,葉はすべて無葉身の鞘︵さや︶に退化して,茎の根元にある。直径40cmにもなる大型の花序には,細長い枝が無数に束のようにつき,その先に,薄茶色の小穂が少数個つく。北アフリカや中部アフリカの沼や河畔に大群落をつくって生える。古代エジプトではナイル川流域のパピルスの茎を採り,皮をはいで白い髄を細く裂き,その維管束を縦横に並べて重しをかけて乾燥し,さらにこすって滑らかにしたパピルス紙を作り,当時の地中海地方の唯一の筆写材料とした。エジプトは,国の大部分が砂漠で木に乏しいため,パピルスの茎は紙作り以外に,繊維から布地を作ったり,また茎をたくさん束ねて,ちょうどチチカカ湖のトトラ・ボートのような小舟を作った。
パピルスは美しい姿をしているため,それに類似した形のシュロガヤツリC.alternifolius L.︵カラカサガヤツリ︶,C.diffusus Vahlや,より小型のカヤツリグサ類のオオミズハナビC.pulcher Poir.,ヒメカミガヤツリC.prolifer Lam.などは,園芸家のいわゆるシペラス類として,温室内の観賞植物になっている。第2次大戦後,沖縄に帰化したメリケンガヤツリC.evagrostis Vahlは熱帯アメリカ産のパピルスに似た大型カヤツリグサである。
執筆者‥小山 鐵夫
象徴,伝承
紙の原料であるパピルスは英知の象徴であり,古代エジプトでは大気の神アメンの標章であった。これが茂るナイル下流地域では,ワニの危害を防ぐ力があると信じられ,イシスは殺された夫オシリスを探してナイル川にこぎ出たとき,パピルスの舟を使ったので,ワニに襲われなかったという。この信仰は聖書伝説にも持ちこまれ,幼いモーセがパピルスの籠に入れられて護られたという話︵︽出エジプト記︾2‥3︶にもなっている。なお,パピルスの形を模した石柱は︿パピルス柱﹀と呼ばれ,エジプトの神殿にしばしば用いられている。また紙を意味する英語paper,フランス語papierなどは,このパピルスに由来する。
→紙
執筆者‥荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
パピルス
古代エジプトで量産され,エジプトおよびギリシャ,ローマ圏において主流であった記録媒体,またその原材料となった植物の名.葦に似るパピルス草︵カミガヤツリ︶は,当時ナイル川下流部の水辺の湿地に繁茂し,また栽培され,種々の日用品の材料になった.記録媒体としてのパピルスは,この草の茎の髄をリボン状に割いて貼り並べ,圧搾し,乾燥させて作った.筆記には葦ペンとインクを用いた.通常は数十cm角のシートを帯状に継ぎ合わせ,巻子本とした.折り曲げると弱いため,冊子体は例が少ない.4世紀頃から,高価だがより強靱な獣皮紙に交代し,紙のヨーロッパへの伝来とともにその役割を終えた.
出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報
パピルス
カミガヤツリとも。アフリカ北部〜中部原産のカヤツリグサ科の大型の多年草。河畔や沼地にはえ,しばしば大群落をつくる。高さ2m以上になり,茎は緑色で太く,鈍い3稜がある。古代エジプトから筆写材料として用いられ,紙が普及する8―9世紀まで盛んに栽培された。姿も美しく,現在では日本でも観賞用として温室内で栽培されている。筆写材料としてのパピルスは,茎の中の髄をとり出して縦に裂いて縦横に編み,重しをかけて乾燥したもの。エジプトでは第1王朝︵前31世紀︶から後10世紀まで使用され,パピルス文書は古代エジプト学の貴重な資料となっている。またプトレマイオス朝,ローマ帝国,ビザンティン帝国時代にはギリシア文字で書かれたパピルス文書があり,ヘレニズム世界の研究に役立っている。なお,近縁のマダガスカル原産のシュロガヤツリも観葉植物として利用される。花序の基部につく包葉がパピルスでは小さくて目だたないのに対し,こちらは葉状で大きい。
→関連項目紙|カヤツリグサ|図書館|パピルス柱|ビュブロス|船|本
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
パピルス
papyrus
ナイル川河畔に繁茂するパピルス草(カヤツリグサ)の茎でつくられた古代エジプトの紙の一種
パピルス文書は前2500年ごろからすでに知られ,ヘレニズム時代までエジプトだけでなく西アジアや地中海沿岸各地で盛んに使用された。古いエジプト語のパピルス文書の多くはピラミッドなどから出土した。現在,パピルス文書とは,主としてギリシア語・ラテン語の文書をさし,前4世紀末から約1000年間,エジプトでおもにギリシア・ローマ人により記録された貴重な文献である。
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
パピルス
papyrus
パピルス草(かやつり草),それでつくった紙,およびパピルス書巻。エジプトのデルタ地方に産した草本科植物で,建築材料,敷物,籠,綱,帆など用途が多く,古代下エジプト王国の紋章となる。その繊維から優秀な紙がつくられ,前2500年頃から使用された。古代エジプト滅亡後もギリシア語,ラテン語,アラビア語などが記された。現在シチリアに産する。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
世界大百科事典(旧版)内のパピルスの言及
【きば(牙)】より
…ゾウの上顎の切歯はきわめて長大で3m以上,マンモスでは4.5mにも達するが,その用途はあまりはっきりしない。バビルサの雄の犬歯は上下とも細長く,上の1対は吻の皮膚を貫いて上に伸び,先端が後下方に曲がっていて,武器としては役だちそうもない。長さ2.8mにも達するイッカクの雄の左側のきばも同様に用途不明である。…
※「パピルス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」