デジタル大辞泉
「紙」の意味・読み・例文・類語
か み ︻ 紙 ︼
︽ 字 を 書 く の に 用 い た 竹 の ふ だ を い う ﹁ 簡 ﹂ の 字 音 の 変 化 と い う ︾
1 植 物 な ど の 繊 維 を 絡 み 合 わ せ 、 す き あ げ て 薄 い 膜 状 に 作 り 、 乾 燥 さ せ た も の 。 情 報 の 記 録 や 物 の 包 装 の ほ か 、 さ ま ざ ま な 用 途 に 使 用 。 製 法 に よ り 、 手 す き 紙 ・ 機 械 す き 紙 ・ 加 工 紙 に 分 け ら れ る 。 手 す き 紙 は 、 1 0 5 年 に 中 国 後 漢 の 蔡 ( さ い ) 倫 ( り ん ) が 発 明 し た と さ れ 、 日 本 に は 推 古 天 皇 18 年 ︵ 6 1 0 ︶ に 伝 わ り 、 和 紙 へ と 発 達 。 機 械 す き 紙 は 、 18 世 紀 末 に フ ラ ン ス で 成 功 し 、 パ ル プ を 用 い る 製 造 法 が 発 明 さ れ 、 日 本 に は 明 治 期 に 洋 紙 ・ 板 紙 工 業 が 興 っ た 。 仕 上 げ 寸 法 は J ( ジ ) I ( ス ) S の 規 格 に よ り A 列 と B 列 と が あ る 。 → A 判 → B 判
2 じ ゃ ん け ん で 、 指 を 全 部 開 い て 出 す し ぐ さ 。 ぱ あ 。
3 書 籍 ・ 雑 誌 ・ 新 聞 ・ 文 書 な ど 、 1 を 使 っ て 情 報 を 記 録 し た も の 。 特 に 、 電 子 媒 体 に 対 す る 紙 媒 体 の こ と 。 ﹁ 紙 の 辞 書 ﹂ ﹁ 議 事 録 を 紙 で 管 理 す る ﹂
[ 類 語 ] 和 紙 ・ 洋 紙
出典 小学館 デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
かみ【紙】
(一) 〘 名 詞 〙
(二) ① 植 物 繊 維 を 水 中 で か ら み 合 わ せ 、 薄 く す き あ げ て 乾 燥 し た も の 。 大 別 し て 手 す き 紙 ︵ 和 紙 ︶ 、 機 械 ず き 紙 の 二 種 と す る 。
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ 高 麗 ( こ ま ) の 王 ( き し ) 、 僧 曇 徴 ・ 法 定 を 貢 上 ( た て ま つ ) る 。 曇 徴 は 五 経 を 知 れ り 。 且 ( ま た ) 能 ( よ ) く 彩 色 及 び 紙 ( か み ) 墨 を 作 り 、 并 ( あ は せ ) て 碾 磑 ( み づ う す ) 造 る ﹂ ( 出 典 ‥ 日 本 書 紀 ︵ 7 2 0 ︶ 推 古 一 八 年 三 月 )
(三) ② じ ゃ ん け ん で 、 指 を 全 部 ひ ら く こ と 。 ぱ あ 。
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ ち い り こ ︵ 東 京 の ジ ャ ン ケ ン ︶ で き め 、 ち い り こ さ い よ 。 合 こ で さ い よ 。 と 手 を 振 り 鋏 や 石 や 風 呂 敷 ︵ 東 京 の 児 童 の い ふ 紙 ︶ の 形 を 出 し て 決 め る ﹂ ( 出 典 ‥ 明 治 大 正 見 聞 史 ︵ 1 9 2 6 ︶ ︿ 生 方 敏 郎 ﹀ 憲 法 発 布 と 日 清 戦 争 )
(四) ③ ﹁ か み ば な ︵ 紙 花 ︶ ② ﹂ の 略 。
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ も し へ 紙 を 一 枚 お く ん な ん し ょ ﹂ ( 出 典 ‥ 雑 俳 ・ 川 傍 柳 ︵ 1 7 8 0 ‐ 8 3 ︶ 四 )
(五) ④ 紙 入 れ 、 財 布 の こ と 。
(一) [ 初 出 の 実 例 ] ﹁ 且 つ 其 の 隠 語 、 紙 を 楂 志 と 曰 ひ ︿ 略 ﹀ 按 に 楂 志 と は 、 楂 志 発 沙 夢 ( さ し は さ む ) の 略 。 之 を 懐 抱 に 夾 め ば な り ﹂ ( 出 典 ‥ 江 戸 繁 昌 記 ︵ 1 8 3 2 ‐ 3 6 ︶ 五 )
紙 の 語 誌
① の 手 す き 紙 は 一 〇 五 年 中 国 後 漢 の 蔡 倫 が そ の 製 法 を 大 成 し た と い わ れ る 。 日 本 へ は 高 句 麗 を 経 て 六 一 〇 年 に 製 法 が 伝 え ら れ 、 そ の 後 種 々 改 良 が 施 さ れ て 現 在 の 和 紙 と な り 、 最 も 丈 夫 で 美 術 的 な 紙 と し て 知 ら れ て い る 。 機 械 ず き 紙 は 一 七 九 八 年 フ ラ ン ス 人 が 初 め て 造 る こ と に 成 功 し た が 、 普 通 、 洋 紙 と 板 紙 と に 分 け ら れ る 。 ま た 、 石 油 を 原 料 と す る 紙 酷 似 品 も あ る 。
出典 精選版 日本国語大辞典 精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
紙 かみ paper
植 物 の 繊 維 を 水 に 分 散 さ せ た も の を 、 薄 く 平 ら に 漉 ( す ) き 上 げ て 乾 燥 さ せ た も の 。 植 物 か ら 取 り 出 し た 繊 維 の 集 合 体 で あ る パ ル プ に 水 を 加 え て 強 力 に 攪 拌 ( か く は ん ) す る と 単 繊 維 状 に 離 解 し 、 さ ら に た た い た う え 、 水 を 大 量 に 加 え た 希 釈 液 を 金 網 、 プ ラ ス チ ッ ク の 網 ま た は 簾 ( す だ れ ) な ど で 、 繊 維 が 絡 み 合 っ た 薄 い 膜 状 の 湿 紙 と し て 漉 き 上 げ 、 次 に こ の 湿 紙 の 余 分 な 水 を 絞 り 取 り 、 乾 燥 さ せ る と シ ー ト 状 に な る 。 情 報 の 記 録 、 伝 達 、 お よ び 物 の 包 装 の 三 つ の 大 き な 用 途 に 大 量 に 消 費 さ れ る ほ か 、 非 常 に 多 種 の 用 途 に 供 さ れ る 。 そ の 多 彩 な 用 途 に 対 応 し て 多 種 類 の 紙 が つ く り だ さ れ た が 、 な お 新 た な 用 途 が 広 が り 続 け て い る 。 そ の た め 製 造 に 際 し て 添 加 剤 を 用 い た り 、 製 品 を さ ら に 加 工 し た り し て 、 新 製 品 が 生 み 出 さ れ て い る 。
情 報 の 記 録 や 伝 達 に 用 い ら れ た 、 羊 皮 を も ん で つ く っ た 羊 皮 紙 ︵ パ ー チ メ ン ト p a r c h m e n t ︶ や 、 竹 材 を 薄 く 削 っ て 得 た 竹 片 ︵ 竹 簡 ︶ な ど は 、 前 述 の 定 義 に 該 当 せ ず 、 紙 と は い わ な い 。 し か し 、 技 術 の 進 歩 や 他 業 種 と の 交 流 に よ っ て 多 く の 新 素 材 が 供 給 さ れ る よ う に な っ た 今 日 、 木 材 パ ル プ と 人 造 繊 維 や 合 成 繊 維 、 さ ら に は グ ラ ス フ ァ イ バ ー ︵ ガ ラ ス 繊 維 ︶ と 混 合 抄 紙 ( し ょ う し ) し た 紙 状 の も の や 、 合 成 繊 維 を 紙 状 に 抄 ( す ) い た 合 成 繊 維 紙 な ど も 生 み 出 さ れ た 。 さ ら に 、 合 成 高 分 子 ︵ プ ラ ス チ ッ ク ︶ を 薄 く シ ー ト 状 に 延 ば し 筆 記 や 印 刷 を 可 能 に し た 合 成 紙 な ど 、 紙 に 似 た 新 製 品 が 少 量 ず つ で は あ る が 数 多 く 現 れ て 、 こ れ ら も 広 義 の 紙 と し て 扱 わ れ る 。 ま た 木 材 パ ル プ や 古 紙 の 再 生 パ ル プ で つ く ら れ た 段 ボ ー ル 用 の 板 紙 や 肥 料 袋 、 セ メ ン ト 袋 な ど に 用 い ら れ る 包 装 紙 も 紙 の な か に 含 ま れ る 。 な お 、 日 本 で は 統 計 上 、 こ の よ う に き わ め て 多 種 類 の 紙 の う ち 、 そ の 一 部 を 紙 ︵ 洋 紙 ︶ ・ 板 紙 と し て く く り 、 和 紙 と 大 別 し て い る 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
古 代 か ら 人 類 が 情 報 を 記 録 し て 後 世 に 残 そ う と す る 欲 望 は 大 き く 、 石 を 並 べ た り 、 碑 ( い し ぶ み ) を 建 て た り 、 石 で 記 念 の 塔 な ど を 建 造 し た が 、 人 知 が 進 む に つ れ 、 よ り 多 く の 情 報 を 残 せ る よ う に 、 石 塊 に 比 べ て 薄 い 石 板 や 粘 土 板 を つ く り 、 こ れ に 文 字 を 刻 ん だ り す る こ と を 覚 え た 。
さ ら に 下 っ て は 、 動 植 物 の な か か ら 文 字 の 書 け る 媒 体 を 求 め 、 種 々 の 薄 片 を つ く り だ し た 。 中 国 で は 木 や 竹 を 切 っ て 薄 片 を つ く り 、 ま た 牧 畜 の 盛 ん な 中 近 東 地 域 で は 獣 皮 の 薄 片 ︵ パ ー チ メ ン ト な ど ︶ を つ く っ て 文 字 を 書 く よ う に な り 、 情 報 の 記 録 と 伝 達 と を 可 能 に し た 。
紀 元 前 3 7 0 0 年 ご ろ 、 エ ジ プ ト で は ナ イ ル 川 の 河 岸 に 生 え る パ ピ ル ス p a p y r u s ︵ カ ヤ ツ リ グ サ に 似 た 植 物 。 三 角 形 で 草 丈 1 . 5 ~ 2 . 0 メ ー ト ル に 達 す る ︶ を 用 い て 新 し い 情 報 の 記 録 と 伝 達 の 媒 体 の 発 明 に 成 功 し た 。 パ ピ ル ス の 茎 を 収 穫 し 縦 に 裂 い て 得 た 薄 片 を 縦 横 に 並 べ 、 水 を 加 え て 打 ち た た い て 密 着 さ せ 、 乾 燥 さ せ る と 、 い わ ゆ る パ ピ ル ス が 得 ら れ る が 、 こ れ は 強 度 が 大 き く 、 い ま な お 保 存 さ れ て い る も の が あ る 。 パ ピ ル ス は 英 語 の ペ ー パ ー を は じ め と す る ヨ ー ロ ッ パ 各 国 語 の ﹁ 紙 ﹂ の 語 源 と な っ て い る が 、 前 述 の 定 義 に お け る 紙 で は な い 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
今 日 の 植 物 繊 維 紙 は 、 ﹃ 後 漢 書 ( ご か ん じ ょ ) ﹄ 巻 1 0 8 ﹁ 宦 者 ( か ん じ ゃ ) 列 伝 ﹂ に よ る と 、 中 国 の 後 漢 の 和 帝 の と き の 元 興 1 年 ︵ 1 0 5 ︶ 蔡 倫 ( さ い り ん ) が 樹 皮 、 布 、 魚 網 を 利 用 し 、 今 日 の 紙 の 定 義 に 当 て は ま る 紙 を 発 明 し た と さ れ て い る が 、 前 漢 の 時 代 に は す で に 紙 が 発 明 さ れ て い た と も い わ れ る 。 こ の 時 代 に つ く ら れ た と み ら れ る 紙 が シ ル ク ・ ロ ー ド の 敦 煌 ( と ん こ う ) で 探 検 家 の M ・ A ・ ス タ イ ン に よ っ て 発 見 さ れ た が 、 純 粋 な ぼ ろ か ら つ く ら れ た も の で あ る こ と が 確 認 さ れ て い る 。 こ の よ う に 中 国 に お け る 紙 の 発 明 は 古 く 、 ア サ 、 タ ケ 、 稲 藁 ( い ね わ ら ) 、 ワ タ 、 コ ウ ゾ ︵ 楮 ︶ な ど を 原 料 と し て 多 く の 人 々 に よ っ て 改 良 さ れ た も の と み ら れ て い る 。
紙 の 発 明 は 一 見 素 朴 で 、 原 料 は 麻 布 の ぼ ろ 、 古 い 魚 網 な ど で 、 操 作 も き わ め て 単 純 で あ る が 、 約 2 0 0 0 年 以 上 経 っ た 今 日 で も 、 こ の 手 法 で 熟 練 し た 職 人 が つ く れ ば 、 あ ら ゆ る 紙 の な か で も も っ と も 大 き な 強 度 を も っ た す ぐ れ た 麻 紙 が 得 ら れ る こ と か ら み て も 、 驚 異 的 な 発 明 で あ っ た と い え る 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
古来中国では優れた技術の国外流失にきわめて厳しかったので、世界中で渇望していたにもかかわらず、紙の技術も国外に伝わるのにきわめて長い時間がかかった。紙は植物繊維を原料とするパルプを中間原料としてつくられる。製紙工場は通常パルプの製造設備と一体化し、パルプ技術とともに製紙技術は移転した。植物原料によってパルプの繊維長が異なり、強度も性質も異なるので、国、地域によっては、中国とかなり違ったパルプと紙の製法が必要となり、さまざまなくふうがなされ、新しい紙パルプの技術と知識が加えられていった。19世紀中葉に欧米で木材のパルプが生まれ、その技術は急速に普及し世界中は木材紙の時代となったが、それまでの2000年近くの間、世界でつくられた紙はいずれも非木材紙ということになる。
[御田昭雄 2016年6月20日]
中国で1世紀ごろに発明された製紙技術は国外になかなか流出しなかったが、150年ごろには中国の辺境のトルキスタン地方まで技術の移転が行われていた。アラビア軍が唐軍と中央アジアで戦って唐軍を大破し(751)、トルキスタンの首府サマルカンドは陥落した。捕虜のなかに製紙技術をもつ中国人がいたため、その技術はアラビア人に習得されて移転を始め、順次西に工場が建てられるようになった。793年にアラビア人によってバグダードに建てられた製紙工場は、10世紀にはエジプトのカイロを中心にして多く建てられ、アマ(亜麻)を原料とする製紙が行われた。
11世紀にアフリカ沿岸地方で盛んになった製紙技術は、スペインに侵入したムーア人によってスペインのバレンシア地方に伝えられ、当地に工場が建設(1151)されたのが、ヨーロッパにおける製紙工場の始まりといわれる。イタリア(1276)、フランス(1348)、ドイツ(1390)、イギリス(1494)、オランダ(1586)などに順次製紙工場が建てられたが、ついに1690年に大西洋を渡り、製紙工場はアメリカのフィラデルフィア に建設されるに至った。
欧米に渡った製紙工業は、グーテンベルク の活字の発明による印刷工業の発展に伴う大量の紙の需要に支えられて隆盛を続けたが、技術的にも大きく発展した。オランダでは叩解(こうかい)装置ホレンダーが発明されたため、とくに良質の紙が製造されるようになり、また18世紀の末にフランスのロベールNicolas Louis Robert(1761―1828)が長網抄紙機(ながあみしょうしき)を発明して、紙の大量生産を可能とする糸口をつくったが、パルプの慢性的な不足に長い間悩まされ続けた。
[御田昭雄 2016年6月20日]
一方、中国で発明された製紙技術は、日本には朝鮮を経て推古(すいこ)天皇の代(610)に僧曇徴(どんちょう)によってもたらされたと伝えられる。日本においては紙が神聖視されたせいか、ぼろを原料として使うことを避けたので、製紙技術は原料、助剤および抄紙技術に種々くふうが重ねられ、中国や朝鮮の紙に比べはるかに強靭(きょうじん)かつ優美な、いわゆる和紙が完成された。すなわち、原料としては中国が麻ぼろパルプ主体であったのを、おもにコウゾの皮、一部ではガンピ(雁皮)の皮も用い、これを木灰で蒸煮し、いったん長繊維のパルプにして使用した。また抄紙に際してはトロロアオイやノリウツギからとった粘液ねり を助剤として使用し、流し漉(ず)きの技術を生み出すことにより、コウゾパルプのような長繊維パルプからでも、薄くても均一で、ごみがなく美麗かつきわめてじょうぶな和紙を製造しうるようになった。その後、室町時代の後期から江戸時代の前期にはミツマタ(三椏)からも製紙用パルプが得られるようになって、さらに製造しうる紙の種類と量とは増加した。
[御田昭雄 2016年6月20日]
中 国 で は 衣 服 に 多 く 麻 が 使 わ れ て い た 。 そ し て 麻 ぼ ろ か ら 得 ら れ る 麻 パ ル プ に 中 国 の 製 紙 工 業 は 頼 っ た 。 そ れ に 対 し 、 ヨ ー ロ ッ パ で は 衣 服 と し て 綿 製 品 が 多 く 使 わ れ た の で 、 綿 ぼ ろ か ら 得 ら れ る 綿 パ ル プ に 製 紙 工 業 は 頼 ら ざ る を え な か っ た 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
ヨ ー ロ ッ パ で は 、 原 料 パ ル プ の 供 給 は 紙 の 大 量 需 要 に こ た え ら れ な い 状 態 が 続 い た た め 、 19 世 紀 中 葉 に 、 北 ヨ ー ロ ッ パ お よ び 北 ア メ リ カ で 、 そ の 地 方 の 針 葉 樹 を 原 料 と し て グ ラ イ ン ダ ー を 使 っ て 丸 太 を 機 械 的 に す り つ ぶ す 、 砕 木 法 ︵ GP 法 ︶ が 発 明 さ れ た 。 こ の パ ル プ は 粗 悪 で 、 単 独 で は 抄 紙 が 不 能 な ほ ど で あ っ た が 、 増 量 材 と し て 綿 パ ル プ を 混 ぜ て 紙 の 増 産 が 可 能 と な っ た 。 こ れ に 刺 激 さ れ て 、 綿 パ ル プ を 使 わ な く て も じ ょ う ぶ な 紙 が 漉 け る 木 材 パ ル プ の 製 造 法 が 研 究 さ れ 、 木 材 チ ッ プ か ら じ ょ う ぶ な 木 材 パ ル プ を 化 学 的 に 製 造 す る 方 法 と し て 、 1 8 5 3 年 に ア ル カ リ 法 ︵ AP 法 ︶ 、 1 8 6 7 年 に 亜 硫 酸 法 ︵ SP 法 ︶ 、 さ ら に 1 8 8 5 年 に ク ラ フ ト 法 ︵ KP 法 ︶ が 次 々 と 発 明 さ れ た 。 こ れ ら の 方 法 で 木 材 パ ル プ を 大 量 に 生 産 す る た め に は 、 大 量 の 木 材 と 水 を 使 い 、 大 量 の 排 水 と 排 気 を 出 す こ と に な る の で 、 パ ル プ 工 場 は 木 材 と 水 を 求 め て 僻 地 ( へ き ち ) に 工 場 を つ く り 、 一 方 、 製 紙 工 場 は 消 費 者 の 好 み に あ わ せ て 各 種 の 紙 を 生 産 す る た め 、 従 来 ど お り 消 費 地 の 近 く に 立 地 し た の で 、 パ ル プ 工 場 と 製 紙 工 場 の 分 離 が 始 ま っ た 。
ヨ ー ロ ッ パ で は す で に 叩 解 機 、 抄 紙 機 等 の 製 紙 機 械 の 発 明 が あ り 、 さ ら に 木 材 パ ル プ だ け で 良 質 の 紙 が つ く れ る よ う に な っ た の で 、 安 価 な 紙 の 大 量 生 産 が 可 能 と な っ た 。 こ の よ う に 長 い 間 か か っ て 中 国 か ら 欧 米 に 渡 っ た 非 木 材 パ ル プ と 非 木 材 紙 の 製 造 技 術 は 、 木 材 パ ル プ と 木 材 紙 の 製 造 技 術 に 変 身 、 発 展 し 、 短 い 間 に 世 界 中 に 普 及 し た 。 産 業 と し て も 、 家 内 工 業 的 な 非 木 材 紙 工 業 は 近 代 的 な 基 幹 産 業 と も い え る 洋 紙 ・ 板 紙 を 製 造 す る 紙 パ ル プ 工 業 に 変 貌 ( へ ん ぼ う ) を 遂 げ た 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
明治政府は欧米のあらゆる技術の導入に積極的に努めたが、早い時期に洋紙の製造が、やや遅れて木材パルプの製造が始まり、安価にして優良な紙が大量に供給できるようになった。
日本は国土の面積の約3分の2が山林で、広葉樹林と針葉樹林が約半分ずつを占めていたが、広葉樹材は北ヨーロッパの針葉樹を原料とするパルプ化技術では優れたパルプにはならず、ほとんど薪炭(しんたん)材として使われていた。また針葉樹材は建材、坑木その他の需要が多く、資源として不足するうえに、本土に多いマツの類は樹脂分が多くてパルプ化しにくかった。しかし北海道にはエゾマツ、トドマツなど比較的樹脂の少ない針葉樹が多く、紙パルプ工業はそれらを用いて亜硫酸パルプ と砕木パルプをつくり、これを中間原料として新聞用紙をはじめ各種洋紙・板紙を製造して成長した。その後日本の紙パルプ工業はさらに発展し、北海道の木材資源では足りなくなり、樺太(からふと)(サハリン)、満州(現、中国東北部)に針葉樹を求めて工場を展開した。
[御田昭雄 2016年6月20日]
第 二 次 世 界 大 戦 で 日 本 は 樺 太 と 満 州 の 紙 パ ル プ 工 場 を 失 っ た う え 、 本 土 の 工 場 の 多 く は 戦 災 を 受 け 、 戦 後 2 年 目 に は パ ル プ の 生 産 量 は 20 万 6 0 0 0 ト ン に 、 紙 の 生 産 量 は 21 万 ト ン に ま で 減 少 し 、 極 端 に 紙 が 不 足 し た ︵ 1 人 当 り 年 間 消 費 量 3 キ ロ グ ラ ム 以 下 ︶ 。 そ の こ ろ 海 外 の パ ル プ 工 業 で は 数 々 の 画 期 的 新 技 術 が 工 業 的 に 成 功 し 、 そ れ が 次 々 と 日 本 に 導 入 さ れ 、 資 源 不 足 に あ え い で い た 日 本 の 製 紙 工 業 は 大 き く 発 展 し た 。 そ の な か で 、 界 面 活 性 剤 に よ る 樹 脂 の 除 去 技 術 は 本 土 の マ ツ 類 の パ ル プ 化 を 容 易 に し た 。 ま た 液 体 サ イ ク ロ ン に よ る 夾 雑 物 ( き ょ う ざ つ ぶ つ ) の 分 離 技 術 は 、 廃 材 な ど の 低 質 の チ ッ プ か ら 得 ら れ た パ ル プ の 精 選 に き わ め て 有 効 で あ っ た 。 し か し 、 も っ と も 大 き か っ た の は 、 ク ラ フ ト パ ル プ に お け る 連 続 蒸 解 ︵ 連 続 的 に 煮 て パ ル プ 化 す る こ と ︶ 技 術 や 多 段 漂 白 技 術 な ど の 画 期 的 な 技 術 改 良 で あ り 、 こ れ に よ っ て 、 良 質 の パ ル プ を 安 く 大 量 生 産 す る こ と が 可 能 と な っ た 。 さ ら に パ ル プ 廃 液 を 濃 縮 ・ 燃 焼 処 理 し 、 蒸 解 薬 品 を 回 収 す る と と も に 、 蒸 気 、 電 力 の エ ネ ル ギ ー も 同 時 に 回 収 で き る よ う に な り 、 パ ル プ の コ ス ト と 排 水 に よ る 公 害 問 題 を 当 時 の 社 会 基 準 の 範 囲 内 に 押 さ え る こ と に 成 功 し た 。
1 9 5 0 年 代 の 前 半 に 、 中 近 東 で 大 量 の 石 油 が 産 出 さ れ る よ う に な っ て エ ネ ル ギ ー 革 命 が お こ り 、 世 界 の 経 済 を 活 性 化 す る と と も に 多 く の 産 業 は 変 貌 を 遂 げ た 。 日 本 で は 山 村 で も 石 油 こ ん ろ を 使 う よ う に な っ た た め に 、 本 土 の 山 林 の 半 分 を 占 め て い た 広 葉 樹 は 薪 炭 材 と し て の 用 途 が な く な り 、 そ の 大 半 が パ ル プ 原 料 に か わ り 、 日 本 の 製 紙 工 業 は 大 い に 発 展 し た 。 ま た そ れ ま で 世 界 中 の ほ と ん ど の パ ル プ 工 場 と 製 紙 工 場 は 別 々 に 立 地 さ れ て い た の が 、 日 本 で は パ ル プ 紙 一 貫 生 産 体 勢 を 目 ざ し て 、 パ ル プ 工 場 は 敷 地 内 に 製 紙 工 場 を 建 設 し 、 大 き な 製 紙 工 場 は 隣 接 地 に パ ル プ 工 場 の 建 設 を 行 っ た 。 そ の た め 大 都 市 の な か に セ ミ ケ ミ カ ル パ ル プ ︵ S C P ︶ の 工 場 が 出 現 し 、 パ ル プ 廃 液 を た れ 流 す と い う 世 界 的 に も ま れ な 事 態 の な か で 日 本 の 紙 パ ル プ 産 業 は 躍 進 を 続 け た 。
日 本 の 紙 パ ル プ 産 業 は 国 内 の 木 材 資 源 に は 恵 ま れ て い な か っ た が 、 1 9 6 4 年 ︵ 昭 和 39 ︶ に は 木 材 チ ッ プ を 海 外 か ら 専 用 船 で 運 ぶ よ う に な り 、 1 億 人 の 消 費 者 と 消 費 地 の な か に 紙 パ ル プ 一 貫 工 場 を も つ と い う 強 み を 生 か し 、 世 界 の 巨 大 企 業 と 競 争 し 、 さ ら に 発 展 し 続 け る か と 期 待 さ れ た 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
資 源 が な い 日 本 は 、 第 二 次 世 界 大 戦 後 さ ら に 疲 弊 し た が 、 生 産 第 一 主 義 で 走 り 続 け 、 い ち 早 く 戦 後 の 復 興 を な し 遂 げ 、 奇 跡 と も い う べ き 繁 栄 を 手 に し た 。 そ の た め 多 く の ひ ず み も た ま り 、 1 9 7 1 年 の 田 子 ノ 浦 事 件 を は じ め 多 く の 公 害 事 件 が お こ っ た 。
パ ル プ 工 業 に お い て 、 化 学 パ ル プ ︵ CP ︶ の 収 率 は 通 常 約 50 % か そ れ 以 下 で あ る の で 、 パ ル プ を 製 造 す る 際 、 パ ル プ と 同 量 か そ れ 以 上 の 木 材 成 分 が パ ル プ 廃 液 を つ く り だ す こ と に な る 。 当 時 ク ラ フ ト 法 以 外 の パ ル プ 工 場 は 濃 縮 燃 焼 処 理 を し て い な か っ た の で 、 廃 液 は 排 水 と な っ て 大 量 に 河 川 や 海 に 流 れ 出 て い た 。 一 方 、 ク ラ フ ト パ ル プ 工 場 で は 硫 化 水 素 や メ チ ル メ ル カ プ タ ン な ど の 悪 臭 物 質 が 発 生 し 、 そ の ま ま 大 気 に 放 散 さ れ て い た 。 ま た 古 紙 を 集 め て 紙 を 再 生 す る 工 場 で は 、 古 紙 に 対 す る 収 率 は 約 3 分 の 2 で 、 そ の 再 生 パ ル プ の 約 半 量 の ス ラ ッ ジ ︵ ご み ︶ が 発 生 し 、 当 時 は こ れ が 捨 て ら れ て い た の で あ る 。
さ ま ざ ま な 公 害 問 題 が 発 生 す る な か で 、 そ れ ま で の 生 活 を 無 視 し た 産 業 推 進 が 批 判 さ れ 、 世 界 が 注 目 す る な か で 人 間 と 生 活 環 境 の 抜 本 的 見 直 し と 、 公 害 処 理 の 研 究 、 開 発 、 さ ら に 法 の 整 備 と 実 施 が 始 ま っ た 。 1 9 7 3 年 当 時 国 内 の 化 学 パ ル プ 生 産 量 6 2 4 万 ト ン の う ち 5 . 8 % を 占 め て い た 製 紙 用 の 亜 硫 酸 パ ル プ の 生 産 量 は 、 現 在 で は 統 計 上 か ら ほ と ん ど 姿 を 消 し 、 ク ラ フ ト パ ル プ が そ れ に と っ て か わ る な ど 、 徹 底 し て 廃 棄 物 の 少 な い 製 法 に 切 り 換 え ら れ 、 短 期 間 に 世 界 中 か ら 称 賛 さ れ る ほ ど の 改 善 の 効 果 が 得 ら れ た 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
さ ら に 1 9 7 3 年 に オ イ ル ・ シ ョ ッ ク が お き 、 石 油 製 品 の 高 騰 に つ れ 、 紙 パ ル プ を 含 む あ ら ゆ る 産 業 は 、 エ ネ ル ギ ー 、 資 源 、 環 境 に つ い て グ ロ ー バ ル な 見 地 で 見 直 さ な け れ ば な ら な い こ と を 知 っ た 。 F A O ︵ 国 連 食 糧 農 業 機 関 ︶ の 統 計 に よ れ ば 、 そ の 年 、 日 本 の パ ル プ 生 産 量 は 1 0 0 9 万 5 0 0 0 ト ン と 初 め て 1 0 0 0 万 ト ン を 超 え 、 紙 の 生 産 量 は 1 5 9 7 万 5 0 0 0 ト ン と 初 め て 1 5 0 0 万 ト ン を 超 え た が 、 い ず れ も 翌 年 か ら 下 降 し た 。 そ し て 日 本 に お い て は 、 も は や エ ネ ル ギ ー 多 消 費 型 の 製 品 の 製 造 お よ び 処 理 法 は 存 続 で き な く な っ た 。 た と え ば 収 率 が き わ め て 高 い が 、 電 力 消 費 量 も き わ め て 大 き い 砕 木 パ ル プ な ど は 、 電 力 も 木 材 も 豊 富 で 安 い カ ナ ダ な ど で 生 産 し 、 さ ら に 現 地 で 紙 に し て 輸 入 す る よ う に 変 わ る な ど 、 国 際 分 業 が 進 ん だ 。 1 9 7 3 年 と 2 0 1 3 年 ︵ 平 成 25 ︶ 時 点 を 比 較 す れ ば 、 ク ラ フ ト パ ル プ は 、 パ ル プ 廃 液 か ら 薬 品 の ほ か 蒸 気 、 電 力 の 形 で エ ネ ル ギ ー を ほ ぼ 完 全 に 自 給 で き る 強 味 を 生 か し 、 そ の 生 産 量 は 5 8 9 万 7 0 0 0 ト ン か ら 8 0 7 万 6 0 0 0 ト ン に 増 加 し 、 全 パ ル プ 生 産 量 に 対 す る 割 合 も 5 8 . 4 % か ら 9 1 . 3 % へ と 圧 倒 的 な も の と な っ た 。 機 械 パ ル プ ︵ MP ︶ は 1 3 7 万 6 0 0 0 ト ン か ら 66 万 6 0 0 0 ト ン に 減 少 し 、 全 パ ル プ 生 産 量 に 対 す る 割 合 は 1 3 . 6 % か ら 7 . 5 % に 減 り 、 ま た セ ミ ケ ミ カ ル パ ル プ は 1 9 8 万 8 0 0 0 ト ン か ら 1 万 9 0 0 0 ト ン に 、 全 パ ル プ の 生 産 量 に 対 す る 割 合 も 1 9 . 6 % か ら 0 . 2 % に 激 減 す る な ど 、 き わ め て 厳 し い 対 応 を 迫 ら れ た こ と が わ か る 。
し か し 紙 パ ル プ 業 界 は 資 源 、 エ ネ ル ギ ー 、 環 境 等 の 諸 問 題 を 克 服 し な が ら 生 産 に 励 み 、 省 エ ネ ル ギ ー 化 で は 、 洋 紙 ・ 板 紙 の エ ネ ル ギ ー 原 単 位 ︵ 製 品 1 ト ン 生 産 す る の に 要 す る エ ネ ル ギ ー 消 費 量 ︶ は 1 9 7 3 年 を 1 0 0 と し て 1 9 8 9 年 に は 57 、 2 0 1 2 年 度 に は 3 5 . 2 に ま で 減 ら す こ と に 成 功 し て い る 。 こ の よ う な 努 力 の 結 果 、 1 9 9 9 年 に は 国 内 の パ ル プ の 生 産 量 は 1 1 0 5 万 6 0 0 0 ト ン と な り 、 紙 の 生 産 量 に 至 っ て は 初 め て 3 1 0 4 万 ト ン と 3 0 0 0 万 ト ン の 大 台 に 乗 っ た 。 こ れ は 第 二 次 世 界 大 戦 直 後 の 1 9 4 6 年 の 約 1 5 0 倍 に 成 長 し た こ と を 示 す と と も に 、 年 間 1 人 当 り の 紙 の 消 費 量 は 2 7 3 キ ロ グ ラ ム と 当 時 の 1 0 0 倍 近 く に 増 え た こ と も 示 し て い る 。 2 0 1 3 年 時 点 で は 、 製 紙 用 パ ル プ の 生 産 量 は 8 7 7 万 4 0 0 0 ト ン 、 紙 ・ 板 紙 の 生 産 量 は 2 6 2 4 万 ト ン と な っ て い る 。
和 紙 の 分 野 で も 、 靭 皮 ( じ ん ぴ ) パ ル プ の ほ か 、 麻 パ ル プ や 木 材 パ ル プ を 用 い 、 ビ ー タ ー や ヤ ン キ ー マ シ ン な ど の 洋 式 抄 紙 装 置 を 利 用 し て 、 い わ ゆ る ﹁ 機 械 抄 き 和 紙 ﹂ を 比 較 的 安 価 に 製 造 し う る よ う に な っ た 。 ま た 和 紙 の 製 造 技 術 も 、 伝 統 の 流 し 漉 き の 技 術 の ほ か に 欧 米 の 溜 ( た ) め 漉 き 技 術 を 加 え 、 手 漉 き で 、 き わ め て 優 美 か つ 高 価 な 工 芸 品 的 な 紙 が 、 少 量 な が ら 生 産 さ れ て い る 。 こ れ ら の 工 芸 的 和 紙 は 、 原 料 と し て 高 価 、 良 品 質 で 長 繊 維 の 非 木 材 パ ル プ を 用 い て お り 、 多 く の 開 発 途 上 国 で 製 造 さ れ て い る 、 タ ケ 、 麦 藁 な ど を 原 料 と す る 粗 悪 ま た は 安 価 な 短 繊 維 の 非 木 材 パ ル プ を 用 い た 洋 紙 ・ 板 紙 と は 大 い に 趣 ( お も む き ) を 異 に し て い る 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
﹁ 紙 の 消 費 量 は 一 国 の 文 化 の バ ロ メ ー タ ー で あ る ﹂ と い わ れ て き た 。 2 0 1 3 年 時 点 の 生 産 量 お よ び 消 費 量 な ど を 調 べ て み る と 、 紙 ・ 板 紙 は 世 界 で 年 間 4 億 0 2 6 1 万 ト ン が 生 産 さ れ て い る 。 こ れ を 世 界 の 人 口 で 割 る と 1 人 当 り の 消 費 量 は 約 5 6 . 5 キ ロ グ ラ ム と な る が 、 実 際 に は 全 消 費 量 4 億 0 3 6 4 万 ト ン の 2 5 . 1 % に あ た る 1 億 0 1 3 6 万 ト ン を 中 国 、 1 7 . 8 % に あ た る 7 1 8 1 万 ト ン を ア メ リ カ 、 6 . 8 % に あ た る 2 7 3 1 万 ト ン を 日 本 が 消 費 し て お り 、 こ の 3 か 国 で 約 50 % を 占 め て い る こ と に な る 。
紙 は 当 初 情 報 の 保 存 と 伝 達 の た め に 発 明 さ れ た が 、 す ぐ れ た 多 く の 性 質 を 有 す る た め 、 そ れ 以 外 の 用 途 も 生 ま れ 、 そ れ に 対 応 し て 数 百 種 類 の 紙 が 生 ま れ た 。 世 界 の 紙 の 生 産 量 が 4 億 ト ン で あ る こ と は 前 述 の と お り で あ る が 、 そ の 4 億 ト ン の 紙 を 生 産 す る の に 直 接 必 要 な 原 料 の パ ル プ 生 産 量 は 2 0 1 3 年 時 点 で 約 1 億 7 9 3 6 万 ト ン に す ぎ な い 。 紙 の 生 産 量 に 比 べ パ ル プ の 生 産 量 が か な り 小 さ い の は 、 抄 紙 の 際 に 添 加 す る 填 料 ( て ん り ょ う ) ︵ 不 透 明 性 を 出 す た め に 使 用 す る 陶 土 な ど ︶ の 分 も あ る が 、 大 部 分 は 資 源 、 環 境 に 対 す る 意 識 の 高 ま り か ら 古 紙 の 回 収 率 が 向 上 し 、 製 紙 に 使 え る パ ル プ が 再 生 で き る よ う に な っ て 、 木 材 が 節 約 さ れ る た め で あ る 。
と く に 日 本 で は 古 紙 の 回 収 率 が 2 0 1 3 年 に 80 % を 超 え 、 再 生 し た パ ル プ を 配 合 し て 各 種 の 紙 の 製 造 に 供 す る な ど 、 高 度 の 再 生 技 術 は 世 界 的 な 注 目 を 浴 び て い る 。 一 方 、 農 産 廃 棄 物 な ど か ら 良 品 質 の 非 木 材 パ ル プ を 製 造 し 、 さ ら に 製 紙 し よ う と す る 研 究 も 各 国 で 行 わ れ て い る 。 な か で も 、 過 酸 化 水 素 に ア ル カ リ を 添 加 し た 溶 液 で 処 理 す る 過 酸 化 水 素 ア ル カ リ 法 ︵ PA 法 ︶ は 、 非 木 材 パ ル プ の 製 法 と し て 大 い に 期 待 さ れ て い る 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
紙 は パ ル プ を 中 間 原 料 と す る 。 紙 は 一 般 に 薄 く 、 パ ル プ は 一 般 に 厚 紙 状 の も の が 取 引 さ れ る 。 木 材 パ ル プ は 数 種 し か な い が 、 こ れ か ら 製 造 さ れ る 紙 は 種 類 が き わ め て 多 く 、 3 0 0 ~ 5 0 0 種 類 に も 分 類 さ れ る ほ ど で あ る 。 薄 い 紙 の な か に は 、 パ ル プ を 構 成 す る 1 本 1 本 の 繊 維 の 太 さ の 約 30 マ イ ク ロ メ ー ト ル よ り も 薄 い も の も あ り 、 板 紙 の な か に は パ ル プ の シ ー ト よ り 厚 く 、 水 に も 容 易 に ぬ れ な い も の も あ る 。 こ の よ う に 性 質 の 異 な る 多 品 種 の 紙 を 数 種 類 の パ ル プ を 原 料 と し て 製 造 可 能 と す る た め 、 叩 解 を は じ め と す る パ ル プ の 加 工 、 異 種 の パ ル プ の 配 合 の ほ か 、 填 料 、 色 料 、 サ イ ズ 剤 な ど 各 種 助 剤 の 配 合 や 、 抄 紙 に 際 し て は 抄 き 合 わ せ 、 さ ら に は 、 い っ た ん で き た 紙 の 塗 工 、 加 工 な ど が 行 わ れ る 。
紙 の 原 料 と な る パ ル プ に は 木 材 パ ル プ と 非 木 材 パ ル プ が あ る が 、 日 本 で は 非 木 材 パ ル プ の 使 用 量 は 1 % 以 下 と き わ め て 少 な く 、 木 材 パ ル プ の 消 費 量 が 圧 倒 的 に 多 い 。 木 材 パ ル プ の 種 類 は 少 な く 、 針 葉 樹 パ ル プ 、 広 葉 樹 パ ル プ 、 さ ら に 製 法 に よ っ て い く つ か に 分 類 さ れ る 。 し か し 木 材 パ ル プ の 原 料 と な る 樹 木 の 種 類 は 多 く 、 種 類 、 樹 齢 、 部 位 に よ っ て 組 成 、 繊 維 長 を 異 に す る が 、 い ず れ も 幹 と 枝 の 木 質 部 を 利 用 す る 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
1 種 ま た は 2 種 以 上 の パ ル プ を 離 解 し て 配 合 し 、 適 宜 に 叩 解 を 行 っ て 繊 維 の 形 状 と コ ロ イ ド 性 と を 変 え 、 さ ら に 填 料 、 サ イ ズ 剤 、 色 料 な ど の 助 剤 を 加 え て 抄 紙 可 能 な 状 態 に し た も の を 完 全 紙 料 と い い 、 こ れ ら の 操 作 を 完 全 紙 料 の 調 製 と い う 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
紙 は パ ル プ が 均 一 に 分 散 さ れ た 懸 濁 液 ( け ん だ く え き ) か ら 抄 か れ な け れ ば な ら な い 。 通 常 、 製 紙 工 場 に 搬 入 さ れ る パ ル プ は 厚 紙 状 な の で 、 初 め に 攪 拌 機 の つ く 水 槽 に 投 入 し 、 単 繊 維 状 態 に な る よ う 分 散 さ せ る 。 こ の 操 作 を 離 解 と い い 、 離 解 専 用 に つ く ら れ た 装 置 を 離 解 機 と い う 。 小 さ な 製 紙 工 場 で は ビ ー タ ー で 離 解 と 叩 解 と を 続 け て 行 う 例 も 多 い 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
パ ル プ は 水 で ぬ ら し て た た く と 、 繊 維 の 構 造 が 壊 れ て も と の 繊 維 体 よ り 細 い 糸 状 体 が で き る 。 こ れ を フ ィ ブ リ ル 化 す る と い い 、 繊 維 の 表 面 積 が 増 え 水 和 ・ 膨 潤 が 進 ん で コ ロ イ ド 性 が 変 わ る 。 こ の 操 作 を 叩 解 と い う 。 離 解 し た パ ル プ を 叩 解 し 、 水 中 か ら フ ィ ブ リ ル 化 し た 繊 維 を 膜 状 物 ︵ 湿 紙 ︶ に し て 抄 き 上 げ る と 、 互 い の 繊 維 の 接 着 面 積 は 増 え る た め 、 ま っ た く 接 着 剤 を 用 い な く て も 、 あ と は 乾 か せ ば 繊 維 間 の 距 離 は し だ い に 近 づ き 、 水 素 結 合 が 急 速 に 増 す た め 、 強 度 の 大 き い 紙 が 得 ら れ る 。
パ ル プ か ら 紙 を 得 る た め に は 、 通 常 、 こ の 叩 解 の 作 業 が 不 可 欠 で あ る 。 叩 解 の 工 程 で は 、 長 す ぎ る 繊 維 は 切 断 し て 短 く そ ろ え 、 太 す ぎ る 繊 維 は 裂 い て 細 く し 、 切 断 し て 、 膨 潤 さ せ 、 一 次 膜 を 除 去 す る ば か り で な く 、 パ ル プ の 懸 濁 液 中 に 残 る 離 解 不 完 全 な 繊 維 束 を 分 散 さ せ る 。 こ れ に よ っ て 、 均 質 で 強 度 の あ る 紙 を 製 造 す る こ と が 可 能 と な る 。 ま た 求 め に 応 じ て 原 料 パ ル プ の 単 繊 維 1 本 の 太 さ よ り も 薄 い 紙 を 抄 造 す る こ と も 可 能 と な る 。
叩 解 に よ り 得 ら れ る 紙 の 強 度 は 、 引 き 裂 き 強 さ 以 外 の 諸 強 度 は 著 し く 増 加 す る 。 た だ し 、 パ ル プ は 叩 解 の 際 に 大 量 の エ ネ ル ギ ー を 必 要 と す る う え 、 保 水 性 が 著 し く 増 加 し 、 抄 紙 の 際 の 水 切 れ が 悪 く な る の で 、 抄 紙 速 度 を 落 と す 必 要 が 生 じ る な ど の 制 約 を 受 け る 。
叩 解 に 用 い る 装 置 を 叩 解 装 置 と い い 、 ビ ー タ ー 、 エ ッ ジ ラ ン ナ ー 、 デ ィ ス ク リ フ ァ イ ナ ー 、 ジ ョ ル ダ ン エ ン ジ ン な ど 機 種 は 多 い が 、 か つ て は ビ ー タ ー が も っ と も 多 く 使 わ れ た 。 ビ ー タ ー は 18 世 紀 オ ラ ン ダ で 発 明 さ れ た た め ホ レ ン ダ ー と も よ ば れ 、 種 々 改 良 さ れ た が 、 こ の 型 の 叩 解 機 は 、 パ ル プ の 叩 解 の ほ か 離 解 の 作 業 に も 使 え 、 さ ら に は サ イ ズ 剤 、 填 料 、 そ の 他 の 助 剤 と の 混 合 に も 使 え る た め 、 日 本 で は 1 9 5 0 年 代 ま で は 主 力 と し て 活 躍 し た 。 回 分 式 ︵ バ ッ チ 式 ︶ で 始 動 に 大 量 の 電 力 を 消 費 す る な ど の 欠 点 が 目 だ つ の で 、 大 型 工 場 で は ビ ー タ ー を 使 わ ず 、 そ の 後 開 発 さ れ た 離 解 機 と デ ィ ス ク リ フ ァ イ ナ ー な ど の 連 続 運 転 が 可 能 な 叩 解 機 を 組 み 合 わ せ て 連 続 化 、 省 力 化 、 省 エ ネ ル ギ ー 化 が 図 ら れ て い る 。 現 在 で も 、 多 品 種 、 少 量 生 産 を 旨 と す る 特 殊 紙 や 機 械 抄 き 和 紙 の 製 造 の 際 に は 、 離 解 か ら 叩 解 、 製 紙 用 助 剤 の 混 合 ま で 完 全 紙 料 の 調 製 の 全 工 程 が 1 台 の 機 械 で こ な せ る の で 、 ビ ー タ ー が 愛 用 さ れ て い る 。
叩 解 機 は 内 側 に 歯 が 植 え ら れ 、 回 転 体 ︵ ロ ー タ ー ︶ が 収 容 し う る 軸 受 を も つ 外 殻 ︵ ケ ー シ ン グ ︶ と 、 外 側 に 歯 が 植 え ら れ て い る ロ ー タ ー と か ら な る 。 離 解 し た パ ル プ の 懸 濁 液 を 入 れ て 叩 解 機 を 回 す こ と に よ り 、 パ ル プ は 叩 解 作 用 を 受 け る 。 パ ル プ の 濃 度 を 下 げ て ケ ー シ ン グ と ロ ー タ ー と の 間 隙 ( か ん げ き ) を 狭 め る と 繊 維 の 切 断 が お こ り や す く な り 、 こ れ を 抄 紙 し た 場 合 水 は け が よ く 、 さ ら さ ら し た 紙 が 得 ら れ る 。 こ の よ う な 叩 解 を 遊 離 状 叩 解 と い う 。 一 方 、 パ ル プ の 懸 濁 液 の 濃 度 を あ げ 、 ケ ー シ ン グ と ロ ー タ ー と の 間 隙 を 広 く す る と 、 パ ル プ の フ ィ ブ リ ル 化 が 進 ん で 保 水 性 が あ が り 、 得 ら れ る 紙 は 諸 強 度 が 大 き く 、 緻 密 ( ち み つ ) か つ 表 面 平 滑 で 、 透 明 度 が 高 く な り や す い 。 こ の よ う な 叩 解 を 粘 状 叩 解 と い う 。
叩 解 工 程 は も っ と も 重 要 な 前 処 理 工 程 で あ る が 、 大 量 の エ ネ ル ギ ー を 必 要 と す る た め 、 省 エ ネ ル ギ ー 叩 解 技 術 の 必 要 性 が 論 じ ら れ る よ う に な っ た 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
紙 は 親 水 性 の セ ル ロ ー ス の 絡 み 合 い で で き て い て 、 多 孔 質 で 液 体 を 吸 収 す る 性 質 を も っ て い る の で 、 イ ン ク な ど で 過 度 に に じ ま な い よ う 、 ま た 表 面 性 を 改 善 す る た め に 耐 水 性 の 薬 品 で 処 理 す る 必 要 が あ る 。 こ の 操 作 を サ イ ジ ン グ s i z i n g と い い 、 用 い る 薬 品 を サ イ ズ 剤 と い う 。 水 な ど の 液 体 を 吸 収 す る た め の 吸 取 紙 や 、 物 を 分 離 し て 純 粋 な も の を 取 り 出 す た め に 用 い る 濾 紙 ( ろ し ) な ど の 特 殊 な 紙 に は 当 然 サ イ ズ は 行 わ な い が 、 通 常 の 紙 に は 種 々 の サ イ ズ が 施 さ れ る 。
サ イ ズ に は 、 抄 紙 に 先 だ っ て 行 う 内 添 サ イ ズ と 、 抄 紙 後 に 行 う 外 面 サ イ ズ と が あ る 。 内 添 サ イ ズ の 代 表 的 な も の と し て 、 微 酸 性 で 行 う ロ ジ ン サ イ ズ が あ る が 、 こ の ほ か に 中 性 で 行 う サ イ ズ も あ る 。
ロ ジ ン サ イ ズ は 松 脂 ( ま つ や に ) と ア ル カ リ で ロ ジ ン せ っ け ん を つ く り 、 定 着 剤 と し て 硫 酸 ア ル ミ ニ ウ ム を 加 え る 。 叩 解 し た パ ル プ は 初 め ロ ジ ン せ っ け ん で 処 理 し 、 さ ら に 硫 酸 ア ル ミ ニ ウ ム を 加 え て 液 を 微 酸 性 に す る こ と に よ っ て 、 繊 維 の 表 面 に 水 に 不 溶 性 の ロ ジ ン の ア ル ミ ニ ウ ム せ っ け ん を 析 出 さ せ て 、 紙 の 親 水 性 と 撥 水 ( は っ す い ) 性 の 調 節 を 可 能 に す る ︵ 酸 性 紙 ︶ 。 効 果 の あ る サ イ ズ が 簡 易 に 行 え る の で 、 ロ ジ ン サ イ ズ は 長 ら く 主 流 の 地 位 に あ っ た が 、 紙 を 構 成 す る セ ル ロ ー ス 繊 維 が 酸 性 に 弱 い た め 、 ロ ジ ン サ イ ズ を 施 し た 図 書 館 な ど の 貴 重 な 蔵 書 が 1 0 0 年 以 上 の 長 い 年 月 の 経 過 に よ り 劣 化 し て ぼ ろ ぼ ろ に な っ て い る こ と が わ か り 、 1 9 8 0 年 代 に 社 会 的 な 問 題 と な っ た 。 そ の た め 、 筆 記 用 紙 お よ び 印 刷 用 紙 な ど 長 期 保 存 を 要 す る 紙 の 製 造 に は ほ と ん ど 中 性 サ イ ズ が 行 わ れ る よ う に な っ た ︵ 中 性 紙 ︶ 。 中 性 サ イ ズ 剤 と し て は 、 ア ル キ ル ケ テ ン ダ イ マ ー お よ び ア ル ケ ニ ル 無 水 コ ハ ク 酸 な ど が 多 く 使 わ れ て い る 。
外 面 サ イ ズ は 紙 の 表 面 に サ イ ズ 剤 を 塗 布 し て に じ み 止 め を 行 う も の で あ る が 、 そ の 使 用 量 は 内 添 サ イ ズ の 数 分 の 1 で す む ほ か に 、 表 面 の 強 度 を 増 す 効 果 や 平 滑 性 と 印 刷 適 性 向 上 に 効 果 が あ る 。 外 面 サ イ ズ 剤 と し て は デ ン プ ン や ア ク リ ル ア ミ ド の 混 合 物 な ど が 多 く 使 わ れ る 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
紙 の 不 透 明 性 と 表 面 平 滑 性 と を 向 上 さ せ る た め 、 多 く の 印 刷 紙 に は 、 屈 折 率 が 高 く 白 色 度 の 高 い 微 粉 を 抄 紙 に 先 だ っ て 填 料 と し て 添 加 す る が 、 一 般 に 填 料 の 添 加 に 伴 っ て 抄 紙 機 の ワ イ ヤ の 摩 耗 が 進 み 、 ま た 紙 力 と サ イ ズ の 効 果 が 低 下 す る 。
L B K P ︵ 広 葉 樹 の 晒 ( さ ら し ) ク ラ フ ト パ ル プ ︶ が 紙 の 主 力 原 料 と な っ て か ら は 、 紙 の 裏 抜 け ︵ 印 刷 文 字 が 紙 の 裏 に 透 け て 見 え る こ と ︶ が 激 し く な り 、 そ れ を 防 ぐ た め 填 料 の 添 加 量 を 増 や す 必 要 に 迫 ら れ た が 、 さ ら に は パ ル プ よ り 安 い 填 料 を 大 量 に 用 い れ ば 、 製 品 の 増 量 と コ ス ト の 引 下 げ も で き る と し て 必 要 以 上 に 使 わ れ る よ う に な っ た 。 し か し 、 必 要 以 上 に 加 え た 填 料 は 図 書 を 重 く し 、 持 ち 運 び を 困 難 に し た り 、 古 紙 か ら パ ル プ を 再 生 す る 際 に 填 料 は 再 生 で き な い の で 、 大 量 の ス ラ ッ ジ が 発 生 し 、 ま た ご み と な っ た 古 紙 を 焼 却 す る と き に 大 量 の 灰 が 発 生 す る の で 嫌 わ れ る こ と も 多 い 。
填 料 と し て 使 用 可 能 な も の は 多 く 、 白 土 ︵ カ オ リ ン ︶ 、 タ ル ク 、 沈 降 性 炭 酸 カ ル シ ウ ム 、 ケ イ 酸 カ ル シ ウ ム 、 酸 化 チ タ ン ︵ チ タ ン ホ ワ イ ト ︶ 、 バ ラ イ タ ︵ 硫 酸 バ リ ウ ム ︶ な ど が あ る 。
白 土 は チ ャ イ ナ ク レ イ と も よ ば れ 、 填 料 と し て も っ と も 代 表 的 な も の で あ る 。 本 来 陶 磁 器 の 原 料 と し て 使 わ れ て い た も の で 、 白 色 度 の 高 い 良 質 の も の は 品 不 足 で 高 価 な た め 、 ほ か の 填 料 が か な り 使 わ れ る よ う に な っ た 。
沈 降 性 炭 酸 カ ル シ ウ ム は 、 筆 記 用 紙 や 印 刷 用 紙 の サ イ ズ が 中 性 サ イ ズ に か わ っ た た め 、 一 般 に 使 わ れ る よ う に な っ た 。 酸 性 サ イ ズ に 用 い れ ば 、 両 者 は 反 応 し て 二 酸 化 炭 素 の 気 泡 を 発 生 し な が ら 硫 酸 カ ル シ ウ ム に 変 わ る た め 使 用 で き な か っ た 。 原 料 の 石 灰 石 は 炭 酸 カ ル シ ウ ム を 主 成 分 と し 、 鉄 、 マ ン ガ ン 、 マ グ ネ シ ウ ム お よ び 珪 酸 ( け い さ ん ) な ど 多 数 の 不 純 物 を 含 む 鉱 物 で 、 日 本 で は 資 源 的 に は き わ め て 豊 富 に 存 在 す る 。 こ れ を 加 工 精 製 す る こ と に よ っ て 純 度 の 高 い 良 質 の 沈 降 性 炭 酸 カ ル シ ウ ム を 安 価 に か つ 容 易 に 製 造 で き る 。
チ タ ン ホ ワ イ ト は 高 価 で あ る が 高 い 屈 折 率 と 白 色 度 を 有 す る の で 、 地 図 用 紙 や 航 空 郵 便 用 の 便 箋 ( び ん せ ん ) の よ う に 薄 く て 白 い 紙 の 製 造 に 利 用 さ れ る 。 ま た バ ラ イ タ は 写 真 の 印 画 紙 の 原 紙 ︵ バ ラ イ タ 紙 ︶ の 製 造 に 用 い ら れ る 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
今 日 製 造 さ れ る 紙 の 多 く に は 、 色 料 が 加 え ら れ て な ん ら か の 着 色 が 施 さ れ て い る 。 色 料 の う ち 顔 料 は 水 に 不 溶 性 で 、 無 機 質 の も の と 有 機 質 の も の と が あ る 。 顔 料 の う ち 群 青 ( ぐ ん じ ょ う ) と 紺 青 ( こ ん じ ょ う ) は 、 か つ て は パ ル プ の 黄 色 味 を 消 し 、 白 い 紙 を 得 る た め に 用 い ら れ た 。 そ の 後 は 高 白 色 度 の パ ル プ が 得 ら れ 、 ま た 蛍 光 染 料 が あ る の で 、 有 色 の も の は 使 わ ず 、 白 い 顔 料 が お も に 塗 工 紙 を つ く る た め の 塗 布 剤 の 主 成 分 と し て 用 い ら れ る 。 顔 料 の 種 類 は 填 料 と ほ ぼ 同 様 、 白 土 、 タ ル ク 、 沈 降 性 炭 酸 カ ル シ ウ ム お よ び チ タ ン ホ ワ イ ト 等 が 使 わ れ る が 、 紙 の 表 面 を よ り 白 く 、 緻 密 に 、 平 滑 に す る た め に 、 填 料 に 使 う も の よ り 白 色 度 が 高 く て 粒 子 が 細 か い 高 品 質 の も の が 用 い ら れ る 。
一 方 、 染 料 は 一 般 に 水 に 可 溶 で 以 下 の よ う に 分 類 さ れ 、 種 類 が 多 い 。 ( 1 ) 塩 基 性 染 料 、 ( 2 ) 直 接 染 料 、 ( 3 ) 酸 性 染 料 、 ( 4 ) 建 染 ( た て ぞ ) め 染 料 、 ( 5 ) 蛍 光 染 料 、 ( 6 ) そ の 他 の 染 料 。 第 二 次 世 界 大 戦 後 、 分 散 染 料 の よ う に 水 に 溶 け ず 界 面 活 性 剤 と と も に 水 に 懸 濁 さ せ て 合 成 繊 維 を 染 色 す る 特 異 な 染 料 も 現 れ た 。 し か し 製 紙 工 業 で 使 わ れ る も の は い ず れ も 繊 維 工 業 、 と く に 木 綿 の 染 色 の た め の も の を 使 っ て お り 、 お も に 塩 基 性 染 料 と 直 接 染 料 で 、 蛍 光 染 料 も 使 う こ と が あ る 。 こ の う ち 塩 基 性 染 料 は 色 は 鮮 や か で 価 格 は 安 い が 、 着 色 し た 紙 を 水 で ぬ ら し た だ け で 染 料 が 溶 け 出 し や す く 、 日 光 に 対 し て 堅 牢 ( け ん ろ う ) で は な い 。 直 接 染 料 は 木 綿 の 染 料 と し て 多 く 用 い ら れ 、 一 般 に 塩 基 性 染 料 に 比 べ て 色 は 地 味 で あ る が 、 着 色 し た 紙 は 水 に よ る 溶 出 が 少 な く 、 パ ル プ を 容 易 に 染 色 す る こ と が で き 、 か つ 日 光 に も 堅 牢 で あ る 。 蛍 光 染 料 は 紫 外 線 ︵ 波 長 3 0 0 ~ 4 0 0 ナ ノ メ ー ト ル 、 1 ナ ノ メ ー ト ル は 10 億 分 の 1 メ ー ト ル ︶ を 吸 収 し 可 視 の 青 紫 光 ︵ 波 長 4 3 0 ~ 4 5 0 ナ ノ メ ー ト ル ︶ を 放 射 す る 染 料 で 、 白 さ の 向 上 を 感 じ さ せ る の に 用 い ら れ る が 、 タ ン グ ス テ ン ラ ン プ の よ う に 紫 外 線 を 出 さ な い 光 の 下 で は 白 く 感 じ ら れ な い 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
多くの助剤が種々の目的で用いられる。そのうち一般的なものはスライムコントロール剤で、そのほか広く用いられているものには紙力増強剤などがあげられる。
[御田昭雄 2016年6月20日]
製紙工場では抄紙の際に大量の水を使い、その大半は回収して循環利用するが、パルプがもち込む微量な可溶性の糖分などが蓄積し、とくに夏期はバクテリアやかびが繁殖して粘着性の泥状物(スライムslime)が発生する。スライムコントロール剤はこのスライムが製品を汚染し品質を損ねるのを防ぐために用いられる。かつては水銀、錫(すず)等を含む有機金属化合物も使われたが、その後毒性の弱い有機窒素硫黄(いおう)系、有機ブロム系化合物が多く使われる。また循環水をオゾン滅菌する試みなども行われている。
[御田昭雄 2016年6月20日]
紙 は 本 来 、 パ ル プ を ぬ ら し て 、 た た い た だ け で 強 度 の あ る 紙 が 得 ら れ て い た 。 し か し か つ て は 考 え ら れ な か っ た ほ ど 原 料 パ ル プ が 低 質 化 し た た め 、 紙 力 増 強 剤 を 加 え な け れ ば な ら な く な っ た 。 資 源 問 題 、 公 害 問 題 、 さ ら に は 地 球 環 境 に 対 す る 社 会 の 関 心 の 高 ま り に 応 じ て 、 古 紙 か ら パ ル プ を 再 生 し て 、 社 会 の 要 求 に あ っ た 性 能 の 紙 を 製 造 す る 必 要 が 生 じ た の で あ る 。 2 0 1 3 年 時 点 で 、 新 聞 用 紙 に 対 す る 古 紙 利 用 率 は 78 % を 超 え て い る 。 板 紙 の 製 造 で は 、 板 紙 の 古 紙 の ほ か に 印 刷 紙 や 包 装 紙 等 の 古 紙 な ど 、 ほ か の 紙 の 製 造 に 適 さ な い 低 質 な 再 生 パ ル プ の 混 合 率 が 93 % を 超 え る に 至 っ た 。 こ の よ う に 粗 末 な 原 料 か ら つ く っ た 板 紙 に 、 重 量 物 を 梱 包 ( こ ん ぽ う ) で き る 段 ボ ー ル 用 の 板 紙 の 性 能 が 求 め ら れ る 状 況 に あ り 、 そ の た め 紙 力 の 増 強 を 可 能 と す る 薬 剤 が 必 要 と な っ た の で あ る 。 紙 力 増 強 剤 に は 乾 燥 紙 力 増 強 剤 と 湿 紙 強 度 増 強 剤 が あ る 。
乾 燥 紙 力 増 強 剤 は 紙 の 軽 量 化 と 高 速 印 刷 と に 耐 え う る よ う に 用 い る も の で 、 ト ウ モ ロ コ シ 、 小 麦 、 タ ピ オ カ 等 の 生 デ ン プ ン お よ び 変 性 デ ン プ ン を 加 工 処 理 し た も の 、 植 物 ガ ム 、 ポ リ ア ク リ ル ア ミ ド 等 が 用 い ら れ る 。 こ れ ら は 、 パ ル プ の セ ル ロ ー ス や ヘ ミ セ ル ロ ー ス の ヒ ド ロ キ シ 基 と 増 強 剤 の 分 子 が も つ ア ミ ノ 基 や ヒ ド ロ キ シ 基 と の 間 で 水 素 結 合 が 生 じ 、 繊 維 間 に 作 用 す る 結 合 数 を 増 加 さ せ る こ と に よ っ て 強 度 が 上 昇 す る の だ と 考 え ら れ て い る 。
湿 紙 強 度 増 強 剤 は 湿 潤 時 に 極 端 に 強 度 が 落 ち る 紙 本 来 の 欠 点 を 補 強 す る も の で 、 エ ポ キ シ 化 ポ リ ア ミ ド ポ リ ア ミ ン 樹 脂 、 尿 素 ホ ル ム ア ル デ ヒ ド 樹 脂 、 ポ リ エ チ レ ン イ ミ ン 等 が 使 わ れ る 。 こ れ ら の 樹 脂 は 完 全 紙 料 を 調 製 す る 際 に パ ル プ の ス ラ リ ー ︵ 懸 濁 液 ︶ に 添 加 し 、 セ ル ロ ー ス 分 子 間 で 形 成 さ れ て い る 耐 水 性 に 乏 し い 水 素 結 合 領 域 を 被 覆 保 護 し た り 、 三 次 元 化 し た 網 目 構 造 を と る こ と に よ っ て 、 繊 維 を 固 定 し て 湿 紙 強 度 を 出 す と と も に 、 乾 燥 強 度 も 増 加 さ せ る も の で あ る 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
今 日 で も 高 級 和 紙 の 一 部 の 製 造 に は 手 漉 き が 行 わ れ て い る が 、 洋 紙 、 板 紙 の す べ て と 大 部 分 の 和 紙 ︵ 機 械 抄 き 和 紙 ︶ は 抄 紙 機 で 抄 造 さ れ る 。 手 漉 き で は 、 パ ル プ の 懸 濁 液 を 簾 ま た は 金 網 ︵ ワ イ ヤ ︶ で 膜 状 に 漉 き 上 げ て 湿 紙 を 得 、 得 ら れ た 紙 を 絞 り 乾 燥 し て 製 品 と す る が 、 機 械 抄 き で は 以 上 三 つ の 工 程 を 連 続 的 か つ 機 械 的 に 行 う 。 抄 紙 機 は 、 ( 1 ) 目 の 細 か い 金 網 ま た は プ ラ ス チ ッ ク の 網 ︵ ワ イ ヤ と よ ぶ ︶ を 無 端 ベ ル ト 状 ま た は 円 筒 状 の 籠 ( か ご ) の 表 に 張 り 付 け て エ ン ド レ ス の ワ イ ヤ に し 、 同 一 方 向 に 高 速 か つ 連 続 的 に 動 か す こ と に よ っ て 網 の 上 で 完 全 紙 料 で あ る パ ル プ の 懸 濁 液 か ら 水 を 漉 ( こ ) し 取 り 、 湿 紙 を 形 成 さ せ る 部 分 、 ( 2 ) 湿 紙 に 含 ま れ る 余 分 の 水 分 を 、 回 転 ロ ー ル の 間 に 挟 ん で 連 続 的 に 絞 る 部 分 、 ( 3 ) 水 を 絞 ら れ 送 ら れ て く る 湿 紙 を さ ら に 回 転 す る 加 熱 ド ラ ム に 巻 き 付 け な が ら 水 分 を 蒸 発 さ せ て 乾 燥 し た 紙 に す る 部 分 、 と か ら な る 装 置 で 、 各 部 分 を ( 1 ) ワ イ ヤ パ ー ト ま た は ウ ェ ッ ト パ ー ト 、 ( 2 ) プ レ ス パ ー ト 、 お よ び ( 3 ) ド ラ イ ヤ ー パ ー ト と よ ぶ 。
抄 紙 機 の 機 種 は 非 常 に 多 い が 、 構 成 す る 三 つ の パ ー ト の う ち 、 と く に ワ イ ヤ パ ー ト と ド ラ イ ヤ ー パ ー ト と の 違 い に そ の 特 徴 が み ら れ 、 ワ イ ヤ パ ー ト の 様 式 の 代 表 的 な も の と し て 、 長 網 抄 紙 機 、 円 網 ( ま る あ み ) 抄 紙 機 、 ツ イ ン ワ イ ヤ 抄 紙 機 が あ り 、 ド ラ イ ヤ ー パ ー ト の 代 表 的 な も の と し て 長 網 抄 紙 機 や 円 網 抄 紙 機 な ど に 用 い ら れ る 多 筒 式 、 ヤ ン キ ー マ シ ン に 用 い ら れ る 単 筒 式 な ど が あ る 。 さ ら に パ ー ト の 組 合 せ を 変 え た り 重 ね た り し た コ ン ビ ネ ー シ ョ ン マ シ ン な ど が あ る 。 な お 、 各 抄 紙 機 の 詳 細 に つ い て は 別 項 ﹁ 抄 紙 機 ﹂ を 参 照 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
紙 の 加 工 仕 上 げ 寸 法 は J I S ( ジ ス ) ︵ 日 本 産 業 規 格 ︶ に よ り 定 め ら れ て い る が 、 こ れ に よ る と A 列 と B 列 と が あ り 、 A 列 0 番 は 8 4 1 ミ リ メ ー ト ル × 1 1 8 9 ミ リ メ ー ト ル ︵ 面 積 は 1 平 方 メ ー ト ル ︶ 、 B 列 0 番 は 1 0 3 0 ミ リ メ ー ト ル × 1 4 5 6 ミ リ メ ー ト ル ︵ 面 積 は 1 . 5 平 方 メ ー ト ル ︶ で あ る 。 い ず れ も 縦 横 比 が 1 ‥ で あ る の で 、 長 辺 を 二 つ に 折 れ ば 番 号 は 1 番 増 え て ︵ た と え ば B 列 1 番 ︶ 面 積 が 半 分 に な る が 、 縦 横 比 は 変 わ ら な い よ う に な っ て い る 。 原 紙 は 化 粧 裁 ち ︵ 書 物 の 製 本 に 際 し て 、 小 口 と 天 地 を き れ い に 断 裁 す る こ と ︶ の 余 裕 を み る の で 、 幾 分 大 き め に で き て い る 。
洋 紙 の 取 引 単 位 は 、 大 口 で は 連 ( れ ん ) ︵ 1 連 は 1 0 0 0 枚 ︶ ま た は キ ロ グ ラ ム 、 小 口 取 引 で は 連 ま た は 枚 を 用 い る 。 板 紙 の 取 引 単 位 は 大 口 で は ト ン 、 小 口 で は 連 ︵ 1 連 は 1 0 0 枚 ︶ を 用 い る 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
筆 記 用 紙 は サ イ ズ の よ く 効 い た 筆 記 性 の よ い 紙 の 総 称 で あ る 。 一 般 に は 長 く 記 録 を 保 存 す る た め 、 上 質 印 刷 用 紙 の 原 料 と 同 様 、 化 学 パ ル プ 1 0 0 % を 用 い て 抄 造 す る 。 し か し メ モ 用 紙 と し て 、 下 級 印 刷 紙 の 原 料 に 相 当 す る 砕 木 パ ル プ を 主 体 と し て 、 化 学 パ ル プ 20 ~ 40 % を つ な ぎ と し て 用 い 、 更 紙 ( ざ ら が み ) も 抄 造 さ れ る 。 用 途 に 応 じ 仕 上 げ や 色 合 い な ど が 異 な る 。 用 途 は 多 く 、 ノ ー ト 用 、 便 箋 用 、 帳 簿 用 、 小 切 手 用 そ の 他 が あ る 。
図 画 用 紙 ︵ 画 用 紙 ︶ は ペ ン 書 き の ほ か 鉛 筆 画 、 水 彩 画 、 ク レ ヨ ン 画 な ど が 可 能 な よ う に 、 表 面 を 粗 面 仕 上 げ し た 厚 手 の 紙 で 、 原 料 と し て は 上 質 紙 に 相 当 す る 化 学 パ ル プ を 用 い 機 械 抄 き で つ く る 。 と く に 高 級 な 紙 は コ ッ ト ン パ ル プ を 配 合 し 、 手 漉 き に よ る も の も あ る 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
印 刷 用 に 製 造 さ れ た 紙 。 紙 の 発 明 の 最 大 の 目 的 が 情 報 の 保 存 お よ び 伝 達 で あ っ た が 、 印 刷 は 今 日 で も 情 報 の 保 存 と 伝 達 の 有 効 な 手 段 で あ る 。 日 本 で 製 造 さ れ る 印 刷 ・ 情 報 用 紙 は 2 0 1 4 年 時 点 で 8 5 0 万 ト ン に 達 し た 。 新 聞 用 紙 の 3 1 3 万 ト ン を 加 え る と 1 1 6 3 万 ト ン で 、 こ れ は 紙 の 生 産 量 1 5 1 2 万 ト ン の 77 % を 占 め 、 洋 紙 の ほ と ん ど は 印 刷 の た め に 製 造 さ れ て い る こ と が わ か る 。 板 紙 を 含 め た す べ て の 紙 の 生 産 量 の 合 計 が 2 6 4 8 万 ト ン で あ る か ら 、 そ の 44 % に あ た り 、 紙 パ ル プ 産 業 に あ っ て 大 き な 割 合 を 占 め て い る 。
印 刷 用 紙 の 原 料 と し て は 、 従 来 は 木 材 の 晒 パ ル プ を 主 原 料 と す る か 、 ま た は こ れ に 砕 木 パ ル プ を 加 え て 主 原 料 と し て い た 。 し か し 、 地 球 環 境 問 題 が 厳 し く な る に し た が っ て 、 そ の 対 策 の た め の 技 術 開 発 が 進 み 、 除 塵 ( じ ょ じ ん ) 、 精 選 、 脱 墨 、 漂 白 等 の 技 術 が 進 歩 し た た め 、 再 生 パ ル プ の 品 質 が 向 上 し 、 印 刷 用 紙 原 料 と し て 使 わ れ る よ う に な っ た 。 か つ て は 古 紙 の 再 生 パ ル プ は 低 品 質 で 板 紙 に し か 使 え な か っ た が 、 2 0 1 4 年 に は 年 間 消 費 さ れ る 古 紙 1 7 0 9 万 ト ン の う ち の 4 0 . 3 % が 印 刷 用 紙 な ど の 紙 の 原 料 と し て 利 用 さ れ 、 と く に 新 聞 用 紙 や 下 級 印 刷 用 紙 な ど に 大 量 に 使 わ れ る よ う に な っ た 。 詳 細 に つ い て は 別 項 目 の ﹁ 印 刷 用 紙 ﹂ を 参 照 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
ラ ミ ネ ー シ ョ ン は 、 上 質 紙 、 ク ラ フ ト 紙 、 板 紙 な ど の 基 盤 の 上 に 、 デ ン プ ン 、 膠 ( に か わ ) 、 C M C ︵ セ ル ロ ー ス 系 の 糊 ( の り ) ︶ な ど 水 溶 性 の 接 着 剤 を 用 い て 、 上 質 紙 、 色 紙 、 コ ー ト 紙 あ る い は フ ィ ル ム や 金 属 箔 ( は く ) を 貼 ( は ) り 合 わ せ て 複 合 素 材 と す る こ と で 、 防 湿 性 、 保 香 性 な ど 紙 に な か っ た 新 し い 機 能 を も っ た 加 工 紙 を 製 造 す る た め の 技 術 で あ る 。 貼 り 合 せ に 用 い る 素 材 の う ち 紙 以 外 の お も な も の は 、 ポ リ エ チ レ ン フ ィ ル ム 、 ポ リ プ ロ ピ レ ン フ ィ ル ム 、 ポ リ エ ス テ ル フ ィ ル ム や 共 重 合 体 フ ィ ル ム な ど 非 常 に 種 類 が 多 く 、 金 属 箔 と し て は お も に ア ル ミ 箔 が 用 い ら れ る 。
加 工 法 と し て は ド ラ イ ラ ミ ネ ー シ ョ ン と 押 し 出 し ラ ミ ネ ー シ ョ ン が あ る 。 ド ラ イ ラ ミ ネ ー シ ョ ン は 通 常 フ ィ ル ム ま た は 箔 に 溶 剤 型 の 接 着 剤 を 溶 か し て 塗 り 、 乾 燥 機 内 で 溶 剤 を 蒸 発 さ せ た 後 、 加 熱 ロ ー ル の 間 に 紙 と と も に 挟 ん で 加 熱 し て 貼 り 合 わ せ る 方 法 で あ る 。 欠 点 と し て は 有 機 溶 剤 を 使 う た め 、 防 火 と 安 全 衛 生 の 設 備 が 必 要 な こ と が あ げ ら れ る 。 押 し 出 し ラ ミ ネ ー シ ョ ン は 溶 融 し た 樹 脂 を 、 冷 え て 固 ま ら な い う ち に 紙 と 連 続 的 に 貼 り 合 わ せ る 方 法 で あ る 。 製 品 の 加 工 紙 は 用 途 が 広 く 、 重 く 吸 湿 性 の あ る 食 糧 、 飼 料 お よ び 肥 料 な ど の 包 装 用 に 、 ま た 軽 く 吸 湿 性 の あ る 食 品 や に お い の 強 い 物 品 の 包 装 用 な ど に も 使 わ れ る 。
金 属 を 紙 に 真 空 蒸 着 さ せ た 加 工 紙 も 広 く 利 用 さ れ て い る 。 真 空 蒸 着 に 用 い ら れ る 金 属 は お も に ア ル ミ ニ ウ ム で あ る が 、 そ の ほ か に 金 、 銀 、 ニ ッ ケ ル 、 カ ド ミ ウ ム な ど が あ り 、 通 常 40 ~ 60 ナ ノ メ ー ト ル 程 度 の き わ め て 薄 い 膜 に 蒸 着 さ れ る 。 製 品 の 加 工 紙 は 装 飾 用 の ほ か 電 子 工 業 用 に も 利 用 さ れ る 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
厚 い 紙 の 総 称 で ボ ー ル 紙 と も よ ば れ る 。 板 紙 の 種 類 は 多 く 、 段 ボ ー ル 原 紙 や 紙 箱 の 原 紙 に 多 く 使 わ れ る 。 日 本 で は 第 二 次 世 界 大 戦 後 、 あ ら ゆ る 資 源 が 不 足 し た が 、 針 葉 樹 材 は と く に 不 足 し 、 木 箱 が で き ず 梱 包 と 輸 送 に 苦 労 し た 。 し か し 板 紙 を 貼 り 合 わ せ た 段 ボ ー ル 箱 が 普 及 し 始 め て 、 包 装 と 輸 送 が 容 易 に な っ た 。 空 き 箱 は 折 り 畳 ん で 回 収 し 、 ま た 箱 と し て 再 利 用 で き る 。 使 え な く な っ た 空 き 箱 は 古 紙 と し て 回 収 し 、 再 生 パ ル プ に し て 板 紙 を 再 生 で き る の で 、 爆 発 的 に 生 産 と 需 要 が 増 え た 。 2 0 1 4 年 に は 板 紙 の 生 産 量 は 年 間 1 1 3 6 万 ト ン に 達 し 、 す べ て の 紙 ︵ 洋 紙 ・ 板 紙 の 合 計 ︶ の 生 産 量 2 6 4 8 万 ト ン の 約 43 % に 達 す る 。 詳 細 に つ い て は 別 項 目 ﹁ 板 紙 ﹂ を 参 照 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
紙 は 土 木 建 築 の 分 野 で も 材 料 と し て さ ま ざ ま な 用 途 で 使 わ れ て い る が 、 特 別 に 抄 造 さ れ 名 前 の つ い て い る も の と し て 、 ル ー フ ィ ン グ ペ ー パ ー 、 コ ン ク リ ー ト 養 生 紙 、 石 膏 ( せ っ こ う ) ボ ー ド 原 紙 な ど が あ る 。
ル ー フ ィ ン グ ペ ー パ ー は 屋 根 葺 ( ふ ) き 材 の 下 地 に 用 い ら れ る 。 コ ン ク リ ー ト 養 生 紙 は コ ン ク リ ー ト を 打 っ た の ち 固 ま る ま で の 間 、 乾 燥 を 防 ぐ た め に コ ン ク リ ー ト の 上 に 張 っ て お く 加 工 紙 で あ る 。 ク ラ フ ト 紙 の ほ か ア ス フ ァ ル ト 加 工 紙 、 ポ リ エ チ レ ン 加 工 紙 な ど が 使 わ れ る 。
ル ー フ ィ ン グ ペ ー パ ー 、 コ ン ク リ ー ト 養 生 紙 な ど の う ち ア ス フ ァ ル ト や タ ー ル を 含 浸 さ せ て 使 わ れ る 板 紙 は 、 と く に 防 水 原 紙 と よ ば れ る 。
石 膏 ボ ー ド は 、 お が く ず そ の 他 軽 量 混 和 物 と 石 膏 と を 練 り あ わ せ た も の を 2 枚 の 石 膏 ボ ー ド 原 紙 の 間 に 挟 ん で 成 形 し た も の で 、 家 屋 の 内 壁 、 天 井 な ど に 仕 上 げ 材 の 下 地 と し て 使 う が 、 同 原 紙 は 古 紙 の 再 生 パ ル プ を 用 い て 坪 量 ( つ ぼ り ょ う ) 1 平 方 メ ー ト ル 当 り 3 0 0 グ ラ ム 程 度 の 厚 い 板 紙 と し て 抄 紙 さ れ る ︵ 坪 量 は 紙 の 単 位 当 り の 重 量 を 表 す 。 代 表 的 な も の と し て メ ー ト ル 坪 量 g / m 2 が あ る ︶ 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
明治政府は欧米の文化と技術の導入に努めたが、ミツマタなどの靭皮(じんぴ)(木の皮)の長繊維パルプを原料とした和紙を、紙幣用紙として抄紙機を用いて製造することに成功した。この技術はそれ以来民間にも広がり、アサなどの長繊維パルプを原料とし、短網ヤンキーマシンなどを用いて和紙が抄紙されるようになった。その後抄紙技術が進み、木材パルプのうちでも比較的繊維長の長い、針葉樹の晒パルプを混ぜて機械抄き和紙が抄造された。現在、製造コストを下げるために、機械抄き和紙の抄紙機と抄造技術を使って、木材パルプのみを原料とした安価な和紙風の書道半紙、便箋用紙等の製造が多く行われている。なお長繊維パルプを原料として用い、ごく薄くて抄きむらのない紙を機械で抄造する和紙の技術は、優れた絶縁紙、コンデンサーペーパーなどの製造に生かされ、製品はハイテクの分野に優れた素材として提供され世界的な評価を受けている。
[御田昭雄 2016年6月20日]
1995年時点の世界の非木材パルプ生産量は2530万トンであり、このうち中国は2221万トンで、当時の世界の非木材パルプ生産量の実に87.8%の実績を誇っていた。しかし、20世紀の末期には非木材パルプの生産に伴う深刻な公害問題を放置できなくなり、中国政府はついに規制を強化し、多数の非木材パルプ工場が閉鎖せざるを得なくなった。日本においても、1971年の田子ノ浦事件の前までは、板紙工場が日本各地にあった稲藁を原料として自家用に藁パルプを生産したり、零細な非木材パルプ工場が特殊紙用のアバカ(マニラアサ)パルプなどを生産していた。しかし公害問題が厳しくなると、適切な公害処理技術がなかったために、いくつかの藁パルプ工場は木材パルプ工場に変換し、アバカパルプは公害規制のゆるい海外の工場に生産をまかせ、残りの工場は閉鎖を余儀なくされたのであった。その後、公害処理技術を開発せずに非木材パルプの世界一を誇る生産をしてきた中国も、かつての日本と同じように工場閉鎖の止むなきに至ったことに世界の注目が集まった。
非木材パルプの大半は、森林資源に乏しく、木材パルプがつくれない開発途上国によって、公害処理設備も十分でない零細工場で、竹、藁、バガス(サトウキビの絞りかす)などから粗悪な短繊維パルプが生産されてきた。それに比べ、ほとんどの先進国の非木材パルプ工場では、アバカなどのアサ類やコウゾ、ミツマタおよびガンピなどを用い、紙幣その他特殊高級紙の原料となる高価な長繊維パルプが製造されている。日本においても、国産の非木材パルプはコウゾやアサなど高価な原料を用い、割高な加工賃をかけ、製品の非木材パルプの価格も木材パルプの5~50倍ときわめて高く、和紙をはじめ紙幣用紙など特殊高級紙の原料として使われてきた。輸入される非木材パルプにはケナフやバガスなどが用いられているが、これらの原料は原産地では安いが、輸入に伴う諸経費をかけると木材パルプよりかなり高くつくため、木材パルプに10%前後混合して非木材紙とするしか方法がない状況にある。
[御田昭雄 2016年6月20日]
か つ て は パ ソ コ ン や ソ フ ト ウ ェ ア の 新 型 が 発 表 さ れ る た び に 、 ペ ー パ ー レ ス 時 代 到 来 と い う 予 測 が な さ れ 、 紙 パ ル プ メ ー カ ー が 増 設 ・ 増 産 を 控 え た 時 期 が あ っ た 。 し か し 、 実 際 に は こ れ ら の 製 品 に は 紙 に 印 刷 さ れ た 膨 大 な 量 の 取 扱 説 明 書 が つ い て く る な ど 、 予 期 せ ぬ 紙 の 消 費 が 紙 パ ル プ の 在 庫 を 一 掃 さ せ 、 市 場 価 格 を つ り 上 げ 、 紙 パ ル プ メ ー カ ー の 増 設 ・ 増 産 の 動 機 づ け に な っ た 。 こ の よ う な 紙 パ ル プ の 減 産 ・ 増 産 の 繰 り 返 し は 環 境 対 策 に 大 き な 進 歩 を 促 し 、 国 家 ・ 社 会 も 紙 お よ び そ の 原 料 と な る 木 材 資 源 の 節 約 と ご み の 削 減 を 支 援 す る よ う に な っ た 。 い ま や 新 型 の パ ソ コ ン や ソ フ ト ウ ェ ア に は 取 扱 説 明 書 が つ い て お ら ず 、 消 費 者 は パ ソ コ ン 画 面 か ら マ ニ ュ ア ル を 探 し 出 し て 学 ぶ よ う に な る な ど 、 紙 の 消 費 と 紙 く ず の 発 生 は 徐 々 に 減 少 し て い っ た 。
紙 の 最 大 の 役 割 で あ っ た 情 報 の 伝 達 や 保 存 も 、 パ ソ コ ン の 急 速 な 発 達 と 普 及 に よ り 、 そ の 多 く は と っ て か わ ら れ る よ う に な っ た 。 新 聞 や 雑 誌 の 発 行 部 数 は 減 り 続 け 廃 刊 す る も の も あ り 、 さ ら に パ ソ コ ン の な か に 大 き な 百 科 事 典 や 学 協 会 の 出 す 便 覧 等 の 膨 大 な 情 報 が 収 録 保 存 さ れ 、 そ の な か か ら 必 要 な と き に 必 要 な 情 報 が 検 索 で き る 体 制 も 進 み つ つ あ る 。
こ の よ う な 状 況 の な か 、 近 い 将 来 、 紙 に 対 す る 常 識 が 大 き く 変 動 し 、 紙 の な い 社 会 が く る の で は な い か と 感 じ る 人 々 も 増 え て い る 。 確 か に 情 報 の 伝 達 と 保 存 に つ い て は 、 急 速 な 勢 い で パ ソ コ ン と 新 し い 記 録 媒 体 に 移 っ て い る の は 事 実 で あ る 。 し か し 記 録 に は 、 永 久 に 保 存 し た い 、 た い せ つ な も の も 少 な く な い 。 日 本 で は 1 0 0 0 年 以 上 も 前 に 和 紙 に 墨 書 し た 多 数 の 資 料 が 、 高 温 多 湿 の 環 境 に も 耐 え 、 古 文 書 と し て き わ め て 良 好 な 状 態 で 保 存 さ れ て い る 。 こ れ は 、 紙 と 墨 が 情 報 保 存 の 媒 体 と し て き わ め て 優 れ て い る こ と の 証 明 に な ろ う 。
ま た 今 日 で も 、 紙 に 印 刷 し た 本 を 好 み 、 そ れ を 書 店 の 書 棚 の な か か ら 選 ん で 買 う こ と を 楽 し み に し て い る 人 や 、 筆 記 用 紙 に メ モ を と り な が ら 覚 え 、 そ の 記 憶 を 整 理 し な け れ ば 勉 強 や 仕 事 が 進 め ら れ な い と い う 人 は い る だ ろ う 。 そ の よ う な 人 々 の 求 め に 支 え ら れ て 、 印 刷 用 紙 も 筆 記 用 紙 も 減 る こ と は あ っ て も な く な る こ と は な い と 思 わ れ る 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
パ ル プ 廃 液 に は 大 量 の 有 機 物 や 硫 黄 化 合 物 が 含 ま れ て い る が 、 か つ て は 莫 大 ( ば く だ い ) な 量 の 水 で 希 釈 し 、 軽 度 の 公 害 処 理 を す れ ば 川 に 放 流 す る こ と が で き た 。 し か し パ ル プ 工 場 が 巨 大 化 す る に 伴 っ て 、 希 釈 に 用 い る 水 は 川 の 水 で は 足 り な く な っ た 。 希 釈 の 足 り な い 高 濃 度 の パ ル プ 廃 液 は 夏 季 に は メ タ ン 発 酵 を お こ し 、 メ タ ン ガ ス と と も に 猛 毒 性 の 硫 化 水 素 が 発 生 し た た め 死 亡 事 故 ま で お き 、 1 9 7 0 年 代 に は 紙 パ ル プ 産 業 の 存 亡 に か か わ る 大 き な 公 害 問 題 に さ ら さ れ た 。 し か し 当 時 、 こ れ ら の 問 題 を 抜 本 的 に 解 決 で き る 技 術 は 欧 米 の 先 進 諸 国 に も な か っ た 。 そ の た め 日 本 は 思 い き っ た 発 想 の 転 換 を 求 め ら れ 、 産 官 学 の 協 力 に よ り 研 究 開 発 を 進 め て 、 日 本 独 自 の 公 害 の 測 定 技 術 、 処 理 技 術 な ら び に 法 規 制 の 三 位 ( さ ん み ) 一 体 の 体 制 を 確 立 す る に 至 っ た 。 パ ル プ 廃 液 は 薄 め ず 、 捨 て ず に 集 め て 濃 縮 ・ 燃 焼 す る こ と に よ り 水 の 使 用 量 の 節 約 を 可 能 と す る と と も に 、 蒸 解 薬 品 と 蒸 気 ・ 電 力 の エ ネ ル ギ ー を 同 時 に 回 収 で き る よ う に な り 、 コ ス ト ダ ウ ン に も 成 功 し た 。
さ ら に 日 本 で は 都 市 ご み の な か に 20 ~ 30 % も の 紙 類 が 存 在 す る こ と を 突 き 止 め 、 本 や 紙 く ず 等 の 紙 類 を 分 別 し て 製 紙 工 場 に 送 り 再 生 パ ル プ を 得 、 こ の 再 生 パ ル プ を 使 っ て 板 紙 を 製 造 す る 技 術 を 開 発 す る こ と で 都 市 の 一 般 ご み の 発 生 量 を 激 減 さ せ る と と も に 、 木 材 資 源 の 節 約 に も 成 功 し た 。 板 紙 は 商 品 の 梱 包 、 貯 蔵 、 在 庫 管 理 な ら び に 輸 送 に 世 界 規 模 で 広 く 使 わ れ 、 今 後 と も そ の 需 要 と 供 給 は さ ら に 拡 大 し 続 け る も の と 期 待 さ れ て い る 。 ま た 製 紙 工 場 で は 再 生 パ ル プ を さ ら に 精 選 除 塵 、 脱 墨 お よ び 漂 白 な ど を 行 う こ と で 良 質 で 高 白 色 度 の 再 生 パ ル プ を 得 、 こ れ を 主 原 料 と し て 中 ・ 下 級 の 印 刷 用 紙 ま で 製 造 し 、 排 煙 、 悪 臭 、 廃 液 、 排 水 お よ び ス ラ ッ ジ な ど の い っ さ い を 処 理 処 分 で き る 技 術 を あ わ せ て 完 成 し た 。 こ れ に よ り 日 本 は 世 界 に 先 駆 け て 、 紙 パ ル プ 産 業 を 極 低 公 害 型 の 持 続 可 能 な 基 幹 産 業 と し て 再 構 築 す る こ と に 成 功 し た 。 ま た 周 辺 諸 国 へ の 技 術 の 指 導 普 及 に も つ と め 、 今 後 と も そ の 進 化 が 期 待 さ れ て い る 。
﹇ 御 田 昭 雄 2 0 1 6 年 6 月 20 日 ﹈
﹃ 紙 パ ル プ 技 術 協 会 編 ﹃ 紙 パ ル プ 事 典 ﹄ ︵ 1 9 9 0 ・ 金 原 出 版 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 紙 パ ル プ 技 術 協 会 編 ・ 刊 ﹃ 紙 パ ル プ 技 術 便 覧 ﹄ ︵ 1 9 9 2 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 小 沢 普 照 著 ﹃ ザ ・ 森 林 塾 ﹄ ︵ 1 9 9 6 ・ 森 林 塾 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 紙 パ ル プ 技 術 協 会 編 ・ 刊 ﹃ 紙 パ ル プ 製 造 技 術 シ リ ー ズ 6 紙 の 抄 造 ﹄ ︵ 1 9 9 8 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 森 本 正 和 著 ﹃ 環 境 の 21 世 紀 に 生 き る 非 木 材 資 源 ﹄ ︵ 1 9 9 9 ・ ユ ニ 出 版 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 日 本 製 紙 連 合 会 編 ・ 刊 ﹃ ケ ナ フ が 森 を 救 う と い う の は 本 当 で す か ? ﹄ ﹃ 森 林 は パ ー ト ナ ー ﹄ ﹃ 紙 パ ル プ 産 業 の 現 状 ﹄ ︵ い ず れ も 2 0 0 0 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 古 紙 再 生 促 進 セ ン タ ー 編 ・ 刊 ﹃ 古 紙 ハ ン ド ブ ッ ク 2 0 0 0 ﹄ ︵ 2 0 0 1 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 日 本 製 紙 連 合 会 編 ・ 刊 ﹃ 紙 ・ パ ル プ 産 業 の 現 状 ﹄ ︵ 月 刊 ﹃ 紙 ・ パ ル プ ﹄ 2 0 0 1 年 特 集 号 ・ 2 0 0 1 ︶ ﹄ ▽ ﹃ ピ エ ー ル ・ マ ル ク ・ ド ゥ ・ ビ ア シ 著 、 丸 尾 敏 雄 監 修 、 山 田 美 明 訳 ﹃ 紙 の 歴 史 ― ― 文 明 の 礎 の 二 千 年 ﹄ ︵ 2 0 0 6 ・ 創 元 社 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 山 内 龍 男 著 ﹃ 紙 と パ ル プ の 科 学 ﹄ ︵ 2 0 0 6 ・ 京 都 大 学 学 術 出 版 会 ︶ ﹄ ▽ ﹃ 紙 業 タ イ ム ス 社 編 ﹃ 紙 パ ル プ 日 本 と ア ジ ア ﹄ 各 年 版 ︵ テ ッ ク タ イ ム ス ︶ ﹄
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ) 日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
紙 (かみ) paper
目次 紙の歴史 紙以前の書写材料 蔡倫は改良者 需要の拡大 良質紙の登場 《天工開物》に見える製紙技法 朝鮮・日本への伝播 西方への伝播 近代的洋紙の製造 製紙 紙の生産量 紙の役割 紙の種類 新聞巻取紙 印刷・筆記・図画用紙 包装用紙 薄葉(うすよう)紙 家庭用薄葉紙 雑種紙 板紙 紙の規格 紙の性質
植 物 繊 維 を 水 で 分 散 さ せ , 無 機 ま た は 有 機 添 加 物 を 加 え て シ ー ト 状 に 作 り , 脱 水 乾 燥 さ せ , 印 刷 , 筆 記 , 包 装 な ど の 用 途 に あ て る も の を 紙 と い う 。 こ の 定 義 に よ れ ば , ヨ ー ロ ッ パ 各 国 の 紙 の 語 源 と な っ て い る 古 代 エ ジ プ ト の パ ピ ル ス 紙 は 厳 密 に い え ば 紙 で は な い 。 パ ピ ル ス 紙 は パ ピ ル ス p a p y r u s の 茎 を 薄 く は ぎ 縦 横 に 並 べ て 強 く 圧 縮 し て シ ー ト に し た も の で , 繊 維 分 散 液 か ら 作 っ た も の で は な い か ら で あ る 。 化 学 繊 維 や フ ィ ル ム か ら 作 っ た 紙 も 定 義 か ら 外 れ る が , 紙 と 同 じ 用 途 に あ て る 紙 に 類 似 し た も の は 合 成 紙 と 呼 ば れ て い る 。 製 紙 工 業 で は 紙 を 紙 ︵ 洋 紙 お よ び 和 紙 ︶ と 板 紙 に 分 け て 規 定 し て お り , 日 本 に お け る 両 者 の 生 産 割 合 は ほ ぼ 5 5 : 4 5 で あ る 。 紙 と 板 紙 の 区 別 は 厳 密 で は な い が , 紙 は 薄 く 柔 ら か く , 板 紙 は 厚 く 硬 い も の で 通 常 1 2 0 ~ 1 3 0 g / m 2 以 上 の 紙 を い い , ア メ リ カ で は 厚 さ 0 . 3 m m 以 上 , ド イ ツ で は 4 0 0 g / m 2 以 上 の 紙 を 板 紙 に 分 類 し て い る 。 こ の 項 目 で は 洋 紙 , 板 紙 を 中 心 に 述 べ る 。 和 紙 お よ び 合 成 紙 に つ い て は 各 項 目 を 参 照 さ れ た い 。
執 筆 者 ‥ 臼 田 誠 人
紙 の 歴 史
紙 が 現 代 社 会 に 果 た し て い る 役 割 の 重 要 性 は い ま さ ら 説 く 必 要 も な い 。 紙 の な い 生 活 は ま っ た く 考 え ら れ な い こ と で あ る が , と く に 印 刷 術 と 結 び つ き 書 籍 , 雑 誌 , 新 聞 な ど に 使 用 さ れ , 人 類 の 知 的 水 準 を 高 め る う え に 役 立 っ て い る こ と が 指 摘 さ れ よ う 。
紙 以 前 の 書 写 材 料
紙 は 英 語 で p a p e r と い う が , そ の 語 源 は ギ リ シ ア 語 の p a p y r o s , ラ テ ン 語 の p a p y r u s で あ る 。 し か し こ れ ら の 言 葉 は 現 在 の 紙 と は 関 係 が な い 。 パ ピ ル ス は 古 代 エ ジ プ ト で 使 用 さ れ た 書 写 の 材 料 で あ る が , 水 辺 に 生 え る ア シ に 似 た 水 草 で あ る 。 こ の 水 草 の 茎 の 芯 を 薄 く ひ ろ げ , そ れ を 適 当 に 重 ね あ わ せ て 接 着 し た 。 パ ピ ル ス の 使 用 は 古 代 エ ジ プ ト に 始 ま り , 初 期 の ギ リ シ ア や ロ ー マ で も 用 い ら れ た 。 と こ ろ が プ ト レ マ イ オ ス 王 朝 の 時 代 に な っ て エ ジ プ ト は パ ピ ル ス の 輸 出 を 禁 止 し た た め , 小 ア ジ ア を 中 心 に 羊 皮 紙 が 考 案 さ れ , こ の 羊 皮 紙 が ロ ー マ に 伝 え ら れ , ヨ ー ロ ッ パ 中 世 を 通 じ て 唯 一 の 書 写 の 材 料 と な っ た 。 こ れ は 羊 皮 を な め し た も の で , 現 在 の 紙 と は ま っ た く ち が う 。
周 知 の よ う に 紙 は 中 国 人 の 発 明 で あ る 。 中 国 で は 殷 の 時 代 に 亀 甲 や 牛 羊 骨 を 焼 い て 未 来 の 吉 凶 を 占 っ た が , 占 っ た 事 項 や そ の 結 果 を し る す 文 章 を 甲 骨 に 刻 ん だ 。 こ れ が ︿ 甲 骨 文 ﹀ で あ る が , し か し 甲 骨 が 書 写 の 材 料 と な っ た わ け で は な い 。 殷 ・ 周 時 代 に は 銅 器 に 銘 文 を 鋳 造 し た が , こ の 場 合 も 同 様 で あ る 。 と こ ろ が 周 代 末 期 ご ろ か ら 竹 や 木 を 短 冊 型 に 切 り そ ろ え た も の を 書 写 の 材 料 と し て 使 用 す る よ う に な っ た 。 こ れ が ︿ 竹 簡 ﹀ で あ り ︿ 木 簡 ﹀ で あ る 。 現 在 , 漢 代 の 竹 簡 , 木 簡 が 中 国 本 土 は も と よ り 新 疆 ウ イ グ ル 自 治 区 な ど の 辺 境 で 多 数 発 見 さ れ て い る が , 漢 代 に な る と 白 絹 を 書 写 の 材 料 と す る こ と が 盛 行 し た 。 白 絹 に 文 字 や 絵 を 書 い た も の を ︿ 帛 書 ﹀ ︿ 帛 画 ﹀ と 呼 ん で い る 。 竹 簡 , 木 簡 類 は 1 片 に 狭 い も の で は 1 行 , 広 い も の で も 数 行 し か 書 け ず , 1 冊 の 書 物 を 写 す こ と に な る と 多 数 の 簡 を 皮 紐 で し ば っ た が , 重 く て 携 帯 に 不 便 で あ り , 披 閲 も 容 易 で な か っ た 。 一 方 ま た 白 絹 は 高 価 で あ り , 庶 民 が 自 由 に 使 用 す る こ と は で き な い 。 こ う し た 不 便 を 取 り 除 い た の が 紙 の 発 明 で あ る 。
蔡 倫 は 改 良 者
植 物 繊 維 を 細 か く く だ い た も の を 漉 ︵ す ︶ い て で き る 紙 は , 通 説 に よ る と , 後 漢 の 蔡 倫 の 発 明 と さ れ て き た 。 蔡 倫 は 宦 官 と し て 宮 廷 に 仕 え た が , 宮 中 の 調 度 品 を 製 作 す る 役 所 の 長 官 ︵ 尚 方 令 ︶ と な っ た 。 彼 は 樹 皮 , 麻 , ぼ ろ ぎ れ , 漁 網 な ど を 原 料 と し て 紙 を 造 り , 1 0 5 年 ︵ 元 興 1 ︶ に 和 帝 に 献 上 し た こ と が ︽ 後 漢 書 ︾ 巻 百 八 宦 者 列 伝 に 記 述 さ れ て い る 。 蔡 倫 は の ち に 竜 亭 侯 に 封 ぜ ら れ た の で , 彼 が 造 っ た 紙 は ま た ︿ 蔡 侯 紙 ﹀ と 呼 ば れ た 。 し か し 蔡 倫 は 紙 の 発 明 者 で は な か っ た 。 ︽ 後 漢 書 ︾ 巻 十 上 の 鄧 皇 后 伝 に よ る と , 皇 后 に な っ た 1 0 2 年 ︵ 永 元 14 ︶ か ら 地 方 か ら の 献 上 品 が ︿ 紙 墨 の み ﹀ に な っ た こ と が 記 さ れ て い る 。 こ の 記 事 か ら す る と , 蔡 倫 が 紙 を 献 上 し た 年 よ り 以 前 に , す で に 各 地 で 紙 の 製 造 が か な り 広 く 行 わ れ て い た こ と に な る 。 ま た 遺 物 の 面 か ら も 前 漢 時 代 の 紙 が 発 掘 さ れ て お り , 中 国 の 製 紙 術 は 蔡 倫 以 前 に 始 ま り , 彼 は む し ろ す ぐ れ た 改 良 者 と い う べ き で あ ろ う 。
20 世 紀 に 入 っ て イ ギ リ ス の オ ー レ ル ・ ス タ イ ン や ス ウ ェ ー デ ン の ス ウ ェ ン ・ ヘ デ ィ ン な ど が 新 疆 ウ イ グ ル 自 治 区 で い く つ か の 古 い 紙 を 発 見 し た 。 1 9 3 3 年 に は 中 国 の 考 古 学 者 黄 文 弼 ︵ こ う ぶ ん ひ つ ︶ が ロ ブ ・ ノ ー ル の 堡 塁 で 発 見 し た 1 枚 の 紙 が 注 意 さ れ る 。 4 c m × 1 0 c m の 小 さ な 粗 末 な 紙 で あ る が , 同 じ 場 所 で 黄 竜 1 年 ︵ 前 49 ︶ の 年 紀 の あ る 木 簡 が 併 出 し て お り , 紙 は ほ ぼ 同 時 代 の も の と 推 定 さ れ た 。 ま た 1 9 5 7 年 に 西 安 市 の 東 郊 に 位 置 す る 灞 橋 ︵ は き よ う ︶ の ほ と り で 漢 墓 が 発 掘 さ れ , 銅 剣 , 銅 鏡 , 半 両 銭 な ど と と も に 紙 の 断 片 が 出 土 し た 。 こ の 墓 は , 埋 葬 品 か ら み て 武 帝 ︵ 在 位 , 前 1 4 0 - 前 87 ︶ の 時 代 を 下 ら な い も の で あ っ た 。 紙 の 大 き さ は 1 0 c m 四 方 ほ ど の 小 片 で あ る 。 紙 の 研 究 者 と し て 有 名 な 潘 吉 星 に よ る と , 1 9 6 5 年 に 四 川 大 学 の 協 力 を 得 て 行 っ た 顕 微 鏡 検 査 の 結 果 , 原 料 は 大 麻 を 主 と し て 少 量 の 苧 麻 ︵ ち よ ま ︶ ︵ カ ラ ム シ ︶ が 含 ま れ て い る こ と が 明 ら か に さ れ た 。 こ の ︿ 灞 橋 紙 ﹀ に つ い て , そ れ が 紙 で な く て 布 で は な い か と 疑 う 学 者 も 皆 無 で は な い が , 潘 吉 星 の 主 張 を 信 ず れ ば , 前 2 世 紀 に す で に 製 紙 が 行 わ れ て い た こ と に な る 。
初 期 の 製 紙 に は 麻 が 主 要 な 原 料 で あ っ た が , 蔡 倫 の 改 良 に よ っ て 多 く の 植 物 繊 維 が 使 用 さ れ る よ う に な っ た 。 唐 の 欧 陽 詢 の ︽ 芸 文 類 聚 ︾ 巻 五 十 八 に 三 国 魏 の 董 巴 の 文 章 を 引 用 し , ︿ 東 京 ︵ 洛 陽 ︶ に 蔡 侯 紙 あ り , 故 麻 を 用 い る も の を 麻 紙 と い い , 木 皮 を 榖 紙 と 名 づ け , 故 漁 網 を 網 紙 と 名 づ け る ﹀ と あ る 。 こ の う ち , 原 料 と な っ た 木 皮 は 榖 す な わ ち 楮 で あ っ た 。 日 本 で は 楮 に コ ウ ゾ を あ て る こ と が あ る が , 中 国 の 楮 は こ れ と は 別 な カ ジ ノ キ を 指 し て い る 。 と も に ク ワ 科 の 植 物 で あ る が , ︿ コ ウ ゾ ﹀ は 日 本 原 産 の 植 物 で あ る 。 ︿ カ ジ ノ キ ﹀ は ︿ コ ウ ゾ ﹀ よ り も 丈 が 高 く , 樹 皮 は 紡 い で 衣 服 の 材 料 に も な っ た 。 楮 紙 は ま た 皮 紙 と 呼 ぶ こ と が あ る 。
需 要 の 拡 大
後 漢 か ら 三 国 魏 に か け 蔡 侯 紙 の 名 は 有 名 で あ る が , 後 漢 末 に は 製 紙 の 名 手 と し て 左 伯 が 知 ら れ る 。 後 漢 末 の 趙 岐 の ︽ 三 輔 決 録 ︾ に 韋 誕 ︵ 1 7 9 - 2 5 3 ︶ の 上 奏 文 を 引 い て い る が , す ぐ れ た 書 家 で あ る 以 上 , 張 芝 の 筆 , 左 伯 の 紙 , そ れ に 韋 誕 の 墨 を 使 用 し て は じ め て 立 派 な 字 が 書 け る と 述 べ て い る 。 左 伯 の 紙 は よ ほ ど 優 秀 な も の で あ っ た と み え る 。 こ れ ま で 後 漢 時 代 の 紙 は 新 疆 ウ イ グ ル 自 治 区 や 内 モ ン ゴ ル 自 治 区 な ど の 乾 燥 地 帯 で 発 見 さ れ て き た が , 1 9 7 4 年 に は 甘 粛 省 の 武 威 県 旱 灘 坡 か ら も 出 土 し た 。 や は り 麻 を 原 料 と し , す ぐ れ た 紙 質 の も の で あ っ た 。
六 朝 時 代 に な る と 一 段 と 製 紙 術 は 進 歩 し , 紙 の 普 及 が 進 ん だ 。 文 人 た ち が 紙 を 珍 重 し た こ と は , 晋 の 傅 咸 ︵ ふ か ん ︶ の ︿ 紙 譜 ﹀ や 南 朝 梁 の 蕭 繹 の ︿ 咏 紙 ﹀ な ど に よ っ て う か が う こ と が で き る 。 王 羲 之 や 王 献 之 な ど の 書 家 が 生 ま れ た の も す ぐ れ た 紙 の 生 産 と 結 び つ く の で あ ろ う 。 こ う し た 紙 の 流 行 に も か か わ ら ず , 晋 の 時 代 に は ま だ 簡 牘 ︵ か ん と く ︶ の 使 用 が 続 い た 。 東 晋 末 に 安 帝 を 廃 し て 楚 国 を 建 て た 桓 玄 ︵ か ん げ ん ︶ は , 公 式 の 文 書 に 簡 牘 を 使 用 す る こ と を や め , ︿ 黄 紙 ﹀ を 採 用 す る こ と を 命 令 し た 。 黄 紙 は 虫 害 を 避 け る た め , 紙 の 黄 蘗 ︵ キ ハ ダ ︶ で 染 め た も の で あ る 。 紙 の 普 及 に よ り 書 物 の 抄 写 が 年 と と も に 盛 ん に な っ た が , こ の こ と は ︽ 隋 書 ︾ 経 籍 志 に よ っ て も 知 ら れ る 。 そ れ に よ る と , 三 国 魏 の 荀 勗 ︵ じ ゆ ん き よ く ︶ が 編 集 し た 官 府 の 蔵 書 目 録 に は 2 万 9 9 4 5 巻 を 数 え , 劉 宋 の 秘 書 監 謝 霊 運 の 目 録 で は 6 万 4 5 8 2 巻 に 増 え て い る 。 当 時 の 書 物 は 紙 を 長 く 張 り 合 わ せ , 中 に 芯 を 入 れ て 巻 い た ︿ 巻 子 本 ﹀ で あ っ た 。 書 物 は は じ め 儒 教 経 典 を 中 心 と し た も の で あ っ た が , 仏 教 が 盛 ん に な る に つ れ , 仏 教 経 典 の 抄 写 も 盛 ん に な り , 抄 写 を 職 業 と す る ︿ 経 生 ﹀ が 生 ま れ た 。 紙 の 生 産 が 進 む に つ れ , 紙 の 値 段 は し だ い に 安 く な っ た 。 ︽ 梁 書 ︾ 巻 四 十 九 文 学 伝 上 の 袁 峻 伝 に よ る と , 袁 峻 の 家 は 貧 し く て 書 物 が な か っ た た め , 人 か ら 借 り た 書 物 は 必 ず 抄 写 し , 50 枚 抄 写 す る の を 日 課 と し , こ の 数 を こ な す ま で や め な か っ た と い う 。 も ち ろ ん 紙 は 抄 写 だ け で な く , 各 種 の 用 途 に 使 用 さ れ た 。 中 国 の 民 芸 品 と し て 有 名 な ︿ 剪 紙 ﹀ ︵ 切 紙 ︶ は ま た 六 朝 時 代 か ら 行 わ れ て い た 。
良 質 紙 の 登 場
六 朝 時 代 の 故 紙 は か な り 多 数 発 見 さ れ て い る が , そ の 原 料 の 9 0 % は 麻 で あ り , し か も 苧 麻 が 多 い 。 し か し 原 料 に は 楮 皮 , 桑 皮 , 藤 皮 が あ り , 前 2 者 は 古 い が , 藤 皮 紙 は お そ ら く 晋 代 に な っ て 造 ら れ た 。 3 世 紀 の 西 晋 時 代 に 書 か れ た 張 華 の ︽ 博 物 志 ︾ に よ る と , 浙 江 省 の 剡 渓 ︵ せ ん け い ︶ に は 藤 の 古 木 が 多 く , そ れ で 作 っ た 紙 は ︿ 剡 紙 ﹀ と 呼 ば れ た 。 こ の 紙 は 良 質 で 唐 代 の 文 人 に 推 称 さ れ た 。
粗 末 な 紙 の 材 料 に は 麦 や 稲 の 茎 を 使 用 し た が , こ れ ら は ︿ 土 紙 ﹀ と か ︿ 火 紙 ﹀ な ど と 呼 ば れ た 。 中 国 で は 後 世 ︿ 竹 紙 ﹀ が か な り 広 く 使 用 さ れ た が , こ の 製 法 が い つ ご ろ 始 ま っ た か に は か な り 問 題 が あ る 。 南 宋 の 趙 希 鵠 ︵ ち よ う き こ く ︶ の ︽ 洞 天 清 録 集 ︾ に は , 二 王 ︵ 王 羲 之 , 王 献 之 ︶ の 真 跡 は 多 く 会 稽 の 竪 紋 竹 紙 に 書 か れ て い る が , こ れ は 東 晋 の 南 渡 後 に は 北 方 の 紙 が 得 が た く , ま た 2 人 は 会 稽 に い る こ と が 多 か っ た か ら だ と い う 。 し か し 唐 以 前 の 文 献 に 竹 紙 に 言 及 し た も の は な く , 趙 希 鵠 が み た 二 王 の 真 跡 の 真 偽 を 疑 う 学 者 も あ る 。 潘 吉 星 は 竹 紙 の 起 源 は 唐 ・ 五 代 の こ ろ で , 浙 江 を 中 心 に 造 ら れ , 宋 代 に な っ て 盛 ん に な っ た と 述 べ て い る 。 こ の ほ か 水 苔 で 造 っ た ︿ 側 理 紙 ﹀ な る も の が あ っ た 。 宋 の 蘇 易 簡 の ︽ 文 房 四 譜 ︾ に 後 秦 王 嘉 の ︽ 拾 遺 記 ︾ を 引 用 し た 文 が あ る が , そ の 中 に 西 晋 の 張 華 が ︽ 博 物 志 ︾ を 書 く に あ た っ て 武 帝 が 側 理 紙 を 与 え た と み え る 。 こ の 紙 は 南 方 で 造 ら れ , 青 緑 色 で , 縦 横 斜 側 の 紋 理 が あ っ た と い う 。 し か し 潘 吉 星 は こ う し た 紙 の 存 在 を 否 定 し て お り , お そ ら く ふ つ う の 紙 の 材 料 に 少 量 の 水 苔 を 混 入 し た の で あ ろ う と 論 じ て い る 。
六 朝 時 代 に 考 案 さ れ た 方 法 に ︿ サ イ ズ ﹀ が あ る 。 サ イ ズ と は セ ッ コ ウ の 類 を 紙 面 に 塗 布 し , 紙 質 を 変 え 吸 墨 性 を よ く す る 方 法 で あ る 。 新 疆 出 土 の 前 涼 建 興 36 年 ︵ 3 4 8 ︶ の 紙 に す で に こ の 方 法 が 施 さ れ て い る 。 こ の 方 法 は ヨ ー ロ ッ パ で は 18 世 紀 に な っ て 始 ま っ た 。 ま た 上 述 し た よ う に 黄 蘗 で 紙 を 染 め 公 文 書 に 使 用 す る こ と が 東 晋 末 に 行 わ れ た が , こ う し た 染 紙 は す で に 後 漢 時 代 に 行 わ れ て い た 。 2 世 紀 に 書 か れ た 劉 熙 の ︽ 釈 名 ︾ に , ︿ 潢 ﹀ 字 を 染 紙 の 意 に 解 し て い る 。 北 魏 の 賈 思 勰 ︵ か し き よ う ︶ の ︽ 斉 民 要 術 ︾ に は , 黄 蘗 で 紙 を 染 め る 方 法 が 説 か れ て い る 。 六 朝 の 書 家 は 黄 紙 を 愛 好 し た が , ま た 仏 教 や 道 教 の 経 典 の 抄 写 に 広 く 使 用 さ れ た 。 こ の 風 習 は 隋 ・ 唐 時 代 に も 盛 ん で あ っ た 。 黄 紙 が 愛 好 さ れ た の は , 第 一 に 虫 害 を 除 き 紙 の 寿 命 を 長 く し た こ と で あ り , ま た 黄 色 は 中 央 土 に 対 応 し て 中 国 人 の 好 む 色 で あ り , さ ら に 目 を 刺 激 し な い こ と で あ っ た 。 ま た 筆 字 の 誤 り が あ る と , そ の 上 に 雌 黄 を 塗 っ て 誤 字 を 消 し , 容 易 に 誤 り を 正 す こ と が で き た 。 こ う し た 黄 紙 の ほ か , 各 種 の 色 に 染 め た 紙 が 造 ら れ た 。
隋 ・ 唐 時 代 に な る と 製 紙 は 一 段 と 盛 ん と な り , こ の 時 代 の 故 紙 が 多 数 知 ら れ て い る 。 そ れ に は 楮 皮 や 桑 皮 で 造 ら れ た も の が 多 い 。 唐 の 陸 羽 の ︽ 茶 経 ︾ に は 藤 皮 紙 で 茶 を 包 ん だ と い う 記 事 が あ り , 藤 紙 が 唐 代 に 盛 ん に 使 用 さ れ た こ と を 物 語 っ て い る 。 唐 代 に 造 ら れ た 美 し い 紙 に ︿ 薛 濤 牋 ︵ せ つ と う せ ん ︶ ﹀ が 有 名 で あ る 。 役 人 を し て い た 父 が 四 川 で 亡 く な っ た た め , 娘 の 薛 濤 は 妓 女 と な っ た が , す ぐ れ た 文 才 に め ぐ ま れ , 白 居 易 や 杜 牧 な ど の 詩 人 と 詩 文 の 応 酬 を し た 。 彼 女 が 造 ら せ た 便 牋 は 芙 蓉 の 皮 を 原 料 と し , そ れ に 芙 蓉 の 花 汁 を 混 入 し , 美 し い 桃 花 色 の も の で あ っ た と い う 。
9 世 紀 の 唐 代 に 李 肇 ︵ り ち よ う ︶ が 書 い た ︽ 国 史 補 ︾ 巻 下 に ︿ 韶 の 竹 牋 ﹀ と い う 句 が あ り , 当 時 広 東 省 韶 州 の 竹 紙 が 有 名 で あ っ た 。 す で に 述 べ た よ う に , や が て 竹 紙 は 浙 江 で 盛 ん に 造 ら れ た 。 ま た ︽ 国 史 補 ︾ に よ る と , 紙 の 生 産 地 は 9 省 18 州 邑 に 及 ん だ と い う こ と で , 各 地 で 良 質 の 紙 が 造 ら れ た 。 と く に 安 徽 省 は 造 紙 の 中 心 で あ り , 宣 州 か ら 産 出 し た ︿ 宣 紙 ﹀ は 現 在 も 書 画 用 と し て 珍 重 さ れ る 。 用 途 は 多 方 面 に わ た り , 窓 紙 な ど の 室 内 装 飾 に 使 用 さ れ , 紙 衣 , 紙 帽 な ど 布 帛 ︵ ふ は く ︶ の 代 用 品 に も な っ た 。 中 国 で は 葬 式 に 紙 銭 を 焼 い た が , こ う し た 風 習 も 唐 代 に は じ ま っ た 。 こ う し た 用 途 の 広 が り と と も に , 紙 の 加 工 技 術 も 進 ん だ 。 す き 起 こ し た ま ま の 紙 を ︿ 生 紙 ﹀ と い う の に 対 し , そ れ に 各 種 の 加 工 を 施 し た 紙 を ︿ 熟 紙 ﹀ と 呼 ん だ 。 紙 に 透 し を 入 れ る 手 法 も ま た 唐 代 に 考 案 さ れ た も の で , 一 般 に ︿ 水 紋 紙 ﹀ と 呼 ば れ , ま た ︿ 花 簾 紙 ﹀ ︿ 砑 花 紙 ︵ が か し ︶ ﹀ と い う 。 こ の 透 し を 造 る 方 法 に は 2 法 が あ っ て , 一 法 は 紙 す き 用 の す だ れ ︵ ま た は す の こ ︶ に 模 様 が 突 出 し て お り , こ の 部 分 が 薄 く な っ て 透 し が で き る 。 い ま 一 つ は 別 に 模 様 を 彫 っ た 木 板 を で き た ば か り の 紙 に 強 く 押 し つ け る の で あ る 。
す ぐ れ た 紙 に は 特 有 の 名 称 が あ っ た が , 唐 に 次 ぐ ︿ 五 代 ﹀ の 時 代 に 造 ら れ た ︿ 澄 心 堂 紙 ﹀ に つ い て 述 べ て お こ う 。 南 唐 の 初 代 皇 帝 と な っ た 李 昪 ︵ り べ ん ︶ が 金 陵 ︵ 南 京 ︶ の 節 度 使 で あ っ た と き に , そ の 私 室 の 名 を ︿ 澄 心 堂 ﹀ と 呼 ん だ 。 第 3 代 の 後 主 李 煜 ︵ り い く ︶ ︵ 在 位 9 6 1 - 9 7 5 ︶ の と き に 製 紙 工 場 が 設 け ら れ 剡 道 ︵ え ん ど う ︶ な る 人 物 に 命 じ て 紙 を 造 ら せ , 宮 中 の 御 用 に 供 し た 。 こ れ が 初 代 皇 帝 の 私 室 の 名 に よ っ て 呼 ば れ た ︿ 澄 心 堂 紙 ﹀ で あ る 。 北 宋 の 蘇 易 学 の ︽ 文 房 四 譜 ︾ に よ る と , 澄 心 堂 紙 は ︿ 細 薄 光 潤 ﹀ で あ る と い う 。 こ の 紙 は 北 宋 時 代 に 文 人 の 関 心 を 引 い た 。 宋 代 に な っ て 書 籍 の 出 版 が 盛 ん と な り , 時 と と も に 紙 の 生 産 が 増 大 し た こ と と 思 わ れ る 。
︽ 天 工 開 物 ︾ に 見 え る 製 紙 技 法
中 国 の 製 紙 術 に つ い て , 明 末 に 宋 応 星 が 書 い た ︽ 天 工 開 物 ︾ よ り 少 し く 引 用 し よ う 。 こ れ に は 主 と し て 竹 紙 と 皮 紙 を と り あ げ て い る 。 竹 紙 に つ い て 述 べ る と , ま ず 夏 の こ ろ に 竹 を 短 く 切 っ て 1 0 0 日 以 上 も 水 に 漬 け て お き , そ の あ と つ ち で 打 っ て 粗 い 表 皮 を 洗 い 去 る と 苧 麻 の 繊 維 の よ う な ︿ 竹 麻 ﹀ が で き る 。 こ れ に 石 灰 の 液 を ま ぜ 8 昼 夜 の あ い だ 煮 立 て , 清 水 で よ く そ そ ぎ , 再 び 灰 汁 と と も に 煮 立 て て 10 日 あ ま り 経 つ と 繊 維 が ふ や け て く る 。 こ れ を 臼 で つ く と , ど ろ ど ろ の 穀 粉 の よ う に な る 。 水 を 張 っ た 抄 紙 槽 に 入 れ , ︿ 紙 薬 ﹀ を ま ぜ て 抄 紙 簾 ︵ す き 桁 ︶ で す き 起 こ し , 簾 よ り は が し て 乾 燥 さ せ る 。 こ こ に い う 紙 薬 が 何 で あ る か の 明 記 は な い が , 黄 蜀 葵 ︵ ト ロ ロ ア オ イ ︶ な ど の 粘 剤 を 指 す も の と 思 わ れ る 。 抄 紙 に あ た っ て 黄 蜀 葵 を 使 用 す る こ と は , 明 末 に 方 以 智 が 書 い た ︽ 通 雅 ︾ に み え て い る 。 ト ロ ロ ア オ イ は 夏 に は 使 用 不 能 と な る の で , 製 紙 は 多 く 冬 の 仕 事 で あ っ た 。 楮 皮 を 主 原 料 と す る 皮 紙 に つ い て も , 竹 紙 と 同 じ 方 法 が 用 い ら れ た と み え , そ の 詳 細 は 省 か れ て い る 。 楮 皮 は 貴 重 な も の で あ っ た と み え , ふ つ う 楮 皮 60 斤 に 竹 麻 40 斤 を 加 え て 使 用 し た と い う 。 さ ら に 材 料 を 節 約 す る 場 合 は , 楮 皮 と 竹 麻 を 7 割 と し , 稲 藁 3 割 を ま ぜ た と 書 か れ て い る 。 楮 皮 で 造 っ た 紙 は 良 質 な も の で , ︿ 縦 に さ く と 木 綿 糸 の よ う で あ り , そ れ で ︿ 綿 紙 ﹀ と い う ﹀ と み え る 。 以 上 の 方 法 は 現 在 の 和 紙 の 製 法 に 類 似 し て い る 。 和 紙 を 造 る に は 古 く ︿ 溜 漉 ︵ た め す き ︶ ﹀ が あ り , 後 に ︿ 流 漉 ︵ な が し す き ︶ ﹀ が 行 わ れ , 現 在 に 至 っ て い る 。 ︽ 天 工 開 物 ︾ に 黄 蜀 葵 を 使 用 す る こ と , さ ら に で き 上 が っ た 紙 を 裂 く と 木 綿 紙 の よ う だ と い う 記 載 が あ る こ と か ら み て , お そ ら く ︿ 流 漉 ﹀ の 手 法 に よ っ た も の で あ ろ う 。
朝 鮮 ・ 日 本 へ の 伝 播
中 国 で 発 明 さ れ た 製 紙 術 は 早 く 中 国 文 化 圏 の 国 に 伝 わ っ た 。 朝 鮮 に 伝 わ っ た 年 次 は 明 白 で な い が , 4 世 紀 ご ろ に 始 ま る と い う 説 が あ る 。 日 本 に は 早 く か ら 朝 鮮 の 写 本 が 伝 わ り , 紙 の 存 在 を 知 っ て い た 。 製 紙 術 の 伝 来 に つ い て の 注 目 す べ き 記 事 は , ︽ 日 本 書 紀 ︾ に み え る 推 古 18 年 ︵ 6 1 0 ︶ の 文 で あ る 。 こ の 年 3 月 に 来 朝 し た 高 句 麗 の 僧 曇 徴 ︵ ど ん ち よ う ︶ は ︿ 五 経 を 知 り , ま た よ く 彩 色 及 び 紙 墨 を 作 り , そ の う え 碾 磑 ︵ て ん が い ︶ を 造 る ﹀ と い う 。 製 粉 用 の 碾 磑 に つ い て は , と く に ︿ 碾 磑 を 造 る こ と , こ こ に 始 ま る ﹀ と 書 か れ て い る が , 紙 な ど に つ い て は こ う し た 記 載 は な い 。 こ の 点 か ら み て 曇 徴 が 製 紙 術 を 最 初 に 伝 え た 人 物 で あ っ た か ど う か は 疑 わ し く , あ る い は そ れ 以 前 に 製 紙 術 は 伝 わ っ て い た の か も し れ な い 。
お そ ら く 最 初 は 朝 鮮 を 通 じ て 中 国 の 製 紙 術 が 伝 わ っ た の で あ ろ う が , 日 本 の 製 紙 術 は , そ の 製 品 を ︿ 和 紙 ﹀ と 呼 ぶ よ う に , 長 い 歴 史 の あ い だ に 独 特 の 発 展 を 遂 げ た 。 和 紙 の 研 究 家 と し て 有 名 な 寿 岳 文 章 は ︿ 世 界 の 製 紙 に お い て 日 本 が 誇 っ て よ い の は , 流 漉 の 発 明 だ と 考 え る ﹀ と 論 じ て お り , そ の う え こ の ︿ 流 漉 法 は 日 本 か ら 中 国 に 伝 わ っ た も の と 断 言 で き な い が , そ の 可 能 性 は 大 い に あ る ﹀ と も 述 べ て い る 。 上 述 の よ う に ︽ 天 工 開 物 ︾ の 方 法 は 流 漉 に よ る も の で あ ろ う が , こ れ が は た し て 日 本 か ら 伝 わ っ た 方 法 か ど う か は な お 検 討 を 要 す る 問 題 で あ ろ う 。 い ず れ に し て も 日 本 で は 早 く か ら 良 質 の 和 紙 が 生 産 さ れ た こ と は 事 実 で あ る 。 特 別 な 紙 の 原 料 と し て ガ ン ピ , ミ ツ マ タ が あ り , 比 較 的 広 く 使 用 さ れ る も の に 日 本 固 有 の コ ウ ゾ が あ る 。 和 紙 は 紙 幣 な ど 特 別 な 用 途 に 使 用 さ れ , ま た 民 芸 品 と し て 多 く の 人 々 に 愛 用 さ れ て い る 。
→ 和 紙
西 方 へ の 伝 播
製 紙 術 の 東 方 へ の 伝 播 に 比 べ , 西 方 へ の 伝 播 は や や お く れ た 。 も ち ろ ん 紙 自 体 は 早 く か ら シ ル ク ロ ー ド 沿 い に 新 疆 の 各 地 や 西 ト ル キ ス タ ン に 伝 わ っ て い た こ と は , 発 掘 品 に よ っ て 知 ら れ る 。 西 ト ル キ ス タ ン に は 8 世 紀 の こ ろ イ ス ラ ム の ア ッ バ ー ス 王 朝 の 勢 力 が 及 ん で い た 。 こ の 地 に 割 拠 し て い た ト ル コ 系 の 2 諸 侯 の あ い だ に 戦 争 が 起 こ り , 一 方 は イ ス ラ ム に 他 方 は 中 国 に 援 助 を 求 め た 。 こ う し て イ ス ラ ム の 軍 隊 と 中 国 が 争 う よ う に な っ た が , 7 5 1 年 に 高 仙 芝 の 率 い る 中 国 の 軍 隊 は タ ラ ス 河 畔 の 戦 争 で イ ス ラ ム 軍 に 大 敗 し , 多 く の 兵 士 が 捕 虜 と な っ た 。 こ の 捕 虜 の 中 に 各 種 の 技 術 者 が お り , の ち に イ ス ラ ム の 技 術 に 影 響 を 与 え た が , 製 紙 術 が 伝 わ っ た の も 捕 虜 と な っ た 中 国 人 紙 漉 工 に 負 う の で あ る 。 ま ず サ マ ル カ ン ド に 製 紙 工 場 が 設 け ら れ , こ こ が イ ス ラ ム に お け る 製 紙 の 一 中 心 と な っ た 。 11 世 紀 の イ ス ラ ム の 著 述 家 サ ア ー リ ビ ー a l - T h a ` ā l i b ī の ︽ 知 識 の 冗 言 ︾ に は , サ マ ル カ ン ド の 特 産 物 と し て 紙 が 挙 げ ら れ て い る 。 し か し か な り 以 前 か ら バ グ ダ ー ド に も 製 紙 工 場 が で き て い た 。 ア ッ バ ー ス 朝 カ リ フ , ハ ー ル ー ン ・ ア ッ ラ シ ー ド は 8 世 紀 末 に サ マ ル カ ン ド か ら 中 国 人 紙 漉 工 を 呼 び よ せ て 紙 を 造 ら せ た と い う が , サ マ ル カ ン ド の 紙 に 匹 敵 す る も の は で き な か っ た ら し い 。 や が て ま た シ リ ア の ダ マ ス ク ス に 製 紙 工 場 が 設 け ら れ た が , こ こ は 数 世 紀 に わ た り ヨ ー ロ ッ パ に 紙 を 輸 出 し , ヨ ー ロ ッ パ で は ︿ ダ マ ス ク ス 紙 ﹀ は 有 名 で あ っ た 。
イ ス ラ ム の 勢 力 は エ ジ プ ト か ら 北 ア フ リ カ を 経 て ス ペ イ ン 南 部 に 及 ん で お り , こ の ル ー ト を 通 っ て 製 紙 術 は 徐 々 に ヨ ー ロ ッ パ に 伝 わ っ た 。 エ ジ プ ト は パ ピ ル ス の 生 産 地 で あ る が , 9 世 紀 ご ろ か ら し だ い に 紙 が 使 用 さ れ , 10 世 紀 に も な る と 圧 倒 的 に 紙 が 多 く 使 用 さ れ た 。 1 0 4 0 年 ご ろ の ペ ル シ ア の 旅 行 家 の 記 録 に よ る と , エ ジ プ ト で は 野 菜 や ス パ イ ス 商 人 が 商 品 を 紙 に 包 ん だ と い う 。 モ ロ ッ コ を 経 て 南 部 ス ペ イ ン で 紙 が 造 ら れ る よ う に な っ た の は 12 世 紀 半 ば で あ り , こ の こ ろ に は ま た 北 部 ス ペ イ ン で ヨ ー ロ ッ パ 人 が 製 紙 を 行 う よ う に な っ た 。 し か し ま だ こ の こ ろ は ︿ ダ マ ス ク ス 紙 ﹀ が 盛 ん に 輸 入 さ れ て い た 。 13 世 紀 に 入 る と 南 フ ラ ン ス や イ タ リ ア で 製 紙 が 行 わ れ た 。 イ タ リ ア の シ チ リ ア に は 早 く か ら イ ス ラ ム の 勢 力 が 及 ん で お り , イ タ リ ア の 製 紙 術 は こ の 地 か ら 伝 わ っ た の で あ る 。 14 世 紀 に も な る と イ タ リ ア は ヨ ー ロ ッ パ へ の 紙 の 供 給 地 と し て ス ペ イ ン や ダ マ ス ク ス と 競 争 す る よ う に な っ た 。 14 世 紀 末 に は ド イ ツ の ニ ュ ル ン ベ ル ク に は じ め て 製 紙 工 場 が 設 け ら れ た が , や が て ヨ ー ロ ッ パ 全 土 に 広 が っ た 。
執 筆 者 ‥ 藪 内 清
近 代 的 洋 紙 の 製 造
紙 の 製 法 は 中 国 か ら 世 界 各 地 に 広 ま っ た が , 原 料 の 面 で ヨ ー ロ ッ パ と 日 本 は 違 っ て い た 。 日 本 で は コ ウ ゾ , ミ ツ マ タ な ど 靱 皮 繊 維 を 使 っ た が , ヨ ー ロ ッ パ で は 麻 く ず が 主 体 で , の ち に 綿 ぼ ろ , わ ら , エ ス パ ル ト な ど も 使 わ れ た 。 こ れ ら の 原 料 を 粥 ︵ か ゆ ︶ 状 に と き ほ ぐ す 叩 解 ︵ こ う か い ︶ b e a t i n g の 操 作 は , 製 紙 上 た い せ つ な 工 程 で あ る が , 17 世 紀 半 ば に オ ラ ン ダ で ホ ラ ン ダ ー h o l l a n d e r が 発 明 さ れ ︵ 発 明 者 は 不 明 で , 国 名 に ち な ん で 名 付 け ら れ た ︶ , 以 後 2 0 0 年 ば か り 形 式 は 変 わ っ て も 同 じ 原 理 の 叩 解 機 ︵ ビ ー タ ー b e a t e r ︶ が 使 わ れ た 。 現 在 で は パ ル プ の 離 解 , 叩 解 , 精 製 な ど を 行 う リ フ ァ イ ナ ー r e f i n e r が 一 般 紙 の 製 造 に 使 わ れ て い る 。 一 方 , 紙 を す く の は 手 で 行 っ て い た が , 1 7 9 8 年 フ ラ ン ス の ロ ベ ー ル N i c o l a s - L o u i s R o b e r t は 継 目 の な い 布 製 の 網 を 使 っ て 連 続 的 に 紙 を す く 機 械 を 発 明 し た 。 こ れ が 今 日 の 長 網 抄 紙 機 の 原 型 で , さ ら に イ ギ リ ス の ド ン キ ン B . D o n k i n が 改 良 し , つ い で フ ア ド リ ニ ア ー 兄 弟 H e n r y F o u r d r i n i e r , S e a l y F . が 特 許 を 買 っ て 改 良 し , 1 8 0 7 年 現 在 の 形 に 近 い 抄 紙 機 を 作 っ た 。 そ の た め 今 日 で も 長 網 抄 紙 機 は フ ア ド リ ニ ア ー マ シ ン と も 呼 ば れ て い る 。 09 年 に は イ ギ リ ス の デ ィ ッ キ ン ソ ン J o h n D i c k i n s o n が 丸 網 抄 紙 機 を 発 明 し , こ れ は 厚 紙 , 板 紙 を す く の に 主 と し て 使 わ れ て い る 。 抄 紙 機 は 1 8 2 7 年 に ア メ リ カ へ 初 輸 入 さ れ , 日 本 へ は 1 8 7 0 年 代 に な っ て 輸 入 さ れ た 。 ま た 抄 紙 機 の 発 明 に よ っ て 洋 紙 の 大 量 生 産 が 始 ま る と 原 料 の 麻 く ず , 綿 ぼ ろ が 不 足 し , 安 価 で 大 量 に 入 手 で き る 原 料 が 求 め ら れ , 1 8 4 4 年 に 砕 木 パ ル プ , 62 年 に 亜 硫 酸 パ ル プ , 84 年 に ク ラ フ ト パ ル プ の 製 法 に 対 し 特 許 が 成 立 し , 大 量 生 産 の 体 制 が 整 っ た 。
製 紙
洋 紙 は 機 械 的 処 理 を 行 っ た パ ル プ に 種 々 の 薬 品 を 添 加 し て 薄 い 懸 濁 液 と し , 抄 紙 機 を 用 い て シ ー ト 化 し , 脱 水 乾 燥 し て 作 る 。 こ の よ う な 紙 料 調 成 工 程 , 抄 紙 工 程 の ほ か に 加 工 工 程 が 加 わ る 場 合 が あ る 。 日 本 で は パ ル プ の 原 料 は ほ と ん ど 木 材 パ ル プ で あ る が , 麻 や 綿 も 少 量 使 用 さ れ て い る 。 紙 料 調 成 工 程 の 初 め は 叩 解 で あ る 。 機 械 パ ル プ は 製 造 時 に 磨 砕 さ れ て い る が , 化 学 パ ル プ の 繊 維 は 長 さ 1 ~ 4 m m で , 剛 直 で あ る の で , 叩 解 し な い 化 学 パ ル プ で 紙 を 作 る と 吸 取 紙 の よ う に 空 隙 の 多 い 表 面 も 粗 い 嵩 高 ︵ か さ だ か ︶ な 紙 と な る 。 リ フ ァ イ ナ ー で パ ル プ を 叩 解 す る と 圧 縮 , せ ん 断 , 引 っ 張 り な ど の 力 に よ り 繊 維 は 切 断 し た り 表 面 が は げ た り 押 し つ ぶ さ れ た り し て 柔 軟 性 が 増 す 。 紙 は 密 に な り 平 滑 さ は 増 し 強 度 も 増 加 す る が , 透 明 度 も 上 が る 。 叩 解 を 終 え た 半 成 紙 料 は 紙 の 用 途 に 応 じ て 種 々 の 添 加 物 を 加 え る 。 紙 の 不 透 明 性 , 白 色 度 , 印 刷 適 性 を 向 上 さ せ た り 風 合 い を 改 善 す る な ど の 目 的 で 塡 料 ︵ て ん り よ う ︶ と 呼 ば れ る 白 色 顔 料 を 5 ~ 2 0 % く ら い 加 え る 。 塡 料 に は ク レ ー ︵ 白 土 ︶ , カ オ リ ン , 酸 化 チ タ ン , タ ル ク な ど が 用 い ら れ る が , タ バ コ の 巻 紙 に は 炭 酸 カ ル シ ウ ム が 3 0 % 近 く 加 え ら れ る 。 さ ら に 紙 へ の 液 体 の 浸 透 を 調 節 す る た め 紙 の 表 面 や 内 部 の 穴 を サ イ ズ と 呼 ば れ る 耐 水 性 膠 質 物 ︵ こ う し つ ぶ つ ︶ で ふ さ ぐ 操 作 ︵ サ イ ジ ン グ ︶ を 行 う 。 に か わ , デ ン プ ン な ど を 表 面 に 塗 布 す る 表 面 サ イ ズ と , 松 や に な ど か ら 作 る ロ ジ ン サ イ ズ を 少 量 加 え る 内 面 サ イ ズ が あ る が , 内 面 サ イ ズ の 方 が 簡 単 で 安 価 な た め 一 般 に 広 く 行 わ れ て い る 。 た だ し 新 聞 紙 に は 普 通 は 添 加 物 は 加 え な い 。 ロ ジ ン サ イ ズ は セ ル ロ ー ス と 反 発 し 合 う の で そ の ま ま で は 紙 層 中 に と ど ま ら ず に 抄 紙 排 水 中 に 溶 出 し て し ま う 。 ロ ジ ン サ イ ズ や 塡 料 を パ ル プ に 付 着 さ せ る た め に 礬 土 ︵ ば ん ど ︶ ︵ ま た は ア ラ ム ︶ と 呼 ば れ る 硫 酸 ア ル ミ ニ ウ ム Al 2 ︵ SO 4 ︶ 3 を 加 え る 。 洋 紙 が 永 年 の 間 に 変 色 し た り 劣 化 し た り す る の は こ の 礬 土 が 分 解 し て 酸 性 化 し , 炭 水 化 物 を 崩 壊 す る か ら で あ る 。 和 紙 は 礬 土 を 使 用 し て い な い の で 劣 化 が 少 な く , 正 倉 院 の 紙 の よ う に 1 2 0 0 年 以 上 も 保 存 で き る 。 礬 土 無 し に は ロ ジ ン サ イ ズ は 使 用 で き な い の で セ ル ロ ー ス と 反 応 す る 性 質 を も っ た 中 性 サ イ ズ を 用 い , 陽 イ オ ン 性 ポ リ マ ー と 組 み 合 わ せ た 紙 ︵ 中 性 紙 ︶ も 製 造 さ れ て い る 。 そ の 他 , 染 料 や 紙 力 増 強 剤 を 加 え る と 完 成 紙 料 に な り 抄 紙 工 程 へ 送 ら れ る 。 抄 紙 機 は マ シ ン と 呼 ば れ , ウ ェ ッ ト パ ー ト , プ レ ス パ ー ト , ド ラ イ パ ー ト に 分 か れ る 。 均 一 に 混 合 し た 紙 料 を 金 網 上 に 流 し て シ ー ト を 作 る 長 網 抄 紙 機 と 紙 料 槽 の 中 で 金 網 を 張 っ た ロ ー ル が 回 転 し て パ ル プ を 吸 い つ け て シ ー ト を 作 る 丸 網 抄 紙 機 が あ り , 厚 い 板 紙 を 作 る た め に 何 台 も の 抄 紙 機 を 組 み 合 わ せ た も の も あ る 。 こ こ で 脱 水 し て で き た シ ー ト は プ レ ス パ ー ト で ロ ー ル の 間 で 十 分 に 脱 水 し て 水 分 が 5 0 % を 切 る よ う に す る 。 次 い で シ ー ト は ド ラ イ パ ー ト に 入 り 加 熱 し た ロ ー ル に 押 し つ け ら れ て 乾 燥 す る 。 乾 燥 す る に 従 っ て 紙 は 収 縮 す る が , 紙 は 進 行 方 向 に 引 っ 張 ら れ る た め , 縦 方 向 に は 縮 ま ず 横 方 向 だ け が 収 縮 す る 。 金 網 の 進 行 に つ れ て 繊 維 が そ の 方 向 に 並 ぶ こ と と , 乾 燥 時 の 力 の か か り 方 の 差 が あ る こ と か ら 紙 は 縦 と 横 で 性 質 が 異 な る 。 テ ィ ッ シ ュ ペ ー パ ー が 一 方 向 に 破 れ 易 い の は こ の 例 で あ る 。 高 級 印 刷 を す る ア ー ト 紙 は 紙 の 上 に 粒 度 の 細 か い 顔 料 を 結 合 剤 と 混 ぜ て 塗 っ て 高 い 光 沢 と 平 滑 性 を 持 た せ て い る 。
紙 の 生 産 量
森 林 資 源 に 恵 ま れ た 北 欧 , 北 ア メ リ カ , ロ シ ア 連 邦 , そ れ に 日 本 , 中 国 , ド イ ツ , フ ラ ン ス が 世 界 の 主 要 な 紙 類 の 生 産 国 で あ り , な か で も ア メ リ カ は 他 を 引 き 離 し て 多 い 生 産 量 お よ び 消 費 量 を 有 し 世 界 総 生 産 量 の ほ ぼ 1 / 3 を 生 産 し て い る 。 1 人 当 り の 紙 類 消 費 量 は 文 化 の バ ロ メ ー タ ー と も い わ れ , ア メ リ カ , ヨ ー ロ ッ パ 諸 国 が 多 く , 日 本 , オ ー ス ト ラ リ ア を 含 ん で 上 位 20 ヵ 国 は す べ て こ れ ら の 国 々 が 占 め て い る 。
紙 の 役 割
紙 は 発 明 さ れ た と き か ら 主 要 目 的 は 記 録 お よ び 情 報 の 伝 達 で あ っ た し , 現 在 も そ の 重 要 性 に 変 り は な い 。 紙 は 軽 く て 適 当 な 剛 直 性 も 有 し て い る こ と か ら 生 産 量 の 増 加 と と も に 種 々 の 用 途 が ひ ら か れ た 。 包 装 の 目 的 に 使 う 紙 は 包 み 紙 ば か り で な く , 袋 用 紙 や 紙 器 用 の 板 紙 ま で 含 め れ ば 紙 製 品 の 半 分 近 く が こ れ に 向 け ら れ る 。 包 装 は 内 容 物 を 外 界 か ら 遮 断 す る こ と で あ り , 障 子 紙 , ふ す ま 紙 , 壁 紙 も 広 い 意 味 で 包 装 の 役 割 を 果 た し て い る 。 紙 の も つ 重 要 な 機 能 の 一 つ は 吸 液 性 が あ る こ と で , こ れ は セ ル ロ ー ス 繊 維 自 体 が 水 に 対 し 高 い 親 和 力 を も つ こ と と , 紙 が 多 孔 性 構 造 で あ る こ と に よ っ て い る 。 そ の 機 能 を 生 か し て テ ィ ッ シ ュ ペ ー パ ー , ト イ レ ッ ト ペ ー パ ー , 紙 タ オ ル な ど 各 種 加 工 原 紙 が 製 造 さ れ て い る が , こ の 場 合 に は 紙 の 柔 ら か さ が 利 用 さ れ て い る 。 孔 あ き テ ー プ や 板 紙 の 打 抜 き が で き る の は 紙 の 剛 直 性 を 利 用 し た も の で あ り , こ れ ら の 性 質 は 原 料 パ ル プ の 性 質 の ほ か に 製 造 条 件 に よ っ て か な り 広 範 に 変 化 さ せ る こ と が で き る 。 ま た 紙 は 誘 電 性 物 質 で あ る こ と を 利 用 し て コ ピ ー 用 紙 と し て 用 い ら れ , 高 い 絶 縁 性 と 薄 く て し か も 均 一 な 厚 さ に で き る こ と か ら 絶 縁 紙 と し て 使 用 さ れ て き た 。
紙 の 種 類
紙 は 日 常 生 活 の あ ら ゆ る 分 野 で 用 い ら れ て お り , 用 途 に 応 じ て 特 性 の 異 な る 紙 が 作 ら れ る の で 紙 の 種 類 は き わ め て 多 い 。 こ れ ら の 分 類 は 細 か に 規 定 す れ ば 数 え 切 れ な い ほ ど に な る が , 日 本 で は 通 産 省 の 紙 パ ル プ 統 計 に よ る 分 類 が 一 般 に 用 い ら れ て い る ︵ 表 1 参 照 ︶ 。
新 聞 巻 取 紙
新 聞 用 紙 と し て 使 用 す る 紙 で , 使 用 期 間 が 短 い こ と , 低 価 格 が 要 求 さ れ る こ と の た め に , 機 械 パ ル プ が 用 い ら れ , 少 量 ︵ 約 2 3 % ︶ の 化 学 パ ル プ を 加 え て 高 速 輪 転 機 に 耐 え う る 強 度 に 補 強 し て い る 。 最 近 で は 新 聞 巻 取 紙 に 脱 イ ン キ 古 紙 が 多 量 に 用 い ら れ る よ う に な り , そ の 割 合 も 4 0 % に 達 し て い る 。 さ ら に 新 聞 紙 の 1 m 2 当 り の 重 量 ︵ 坪 量 ︶ は 以 前 は 5 0 g 以 上 で あ っ た が , 木 材 資 源 の 節 減 と 印 刷 工 程 の 合 理 化 を 目 的 と し て 世 界 的 に 坪 量 減 少 の 傾 向 が あ り , 日 本 で も 現 在 4 8 g / m 2 か ら 4 6 g / m 2 の 超 軽 量 紙 に 移 行 し つ つ あ る 。 新 聞 巻 取 紙 は 単 一 品 種 と し て 作 る 紙 で は も っ と も 量 が 多 い の で 抄 紙 機 も 大 型 で , 幅 8 . 5 8 m の 紙 を 毎 分 1 0 0 0 m の 速 度 で 生 産 す る こ と が で き る 。
印 刷 ・ 筆 記 ・ 図 画 用 紙
書 籍 , 雑 誌 な ど の 印 刷 用 と し て 作 っ た 紙 で , 表 面 に 塗 料 を 塗 っ て い な い 非 塗 工 紙 と 塗 布 し た 塗 工 紙 に 分 か れ る 。 前 者 に は 印 刷 用 紙 , グ ラ ビ ア 用 紙 そ の 他 と , 筆 記 ・ 図 画 用 紙 が あ る 。 印 刷 用 紙 は 化 学 パ ル プ の 使 用 量 で 分 類 し , 1 0 0 % , 7 0 % 以 上 , 4 0 % 以 上 , お よ び そ れ 未 満 の 紙 を A , B , C , D と 格 づ け し て い る 。 化 学 パ ル プ の 使 用 量 が 少 な い ほ ど 白 色 度 や 耐 久 性 が 低 く , 低 級 紙 と な る 。 グ ラ ビ ア 用 紙 は 雑 誌 の カ ラ ー 印 刷 用 の 紙 で , 塡 料 を 比 較 的 多 量 に 使 用 し , ス ー パ ー カ レ ン ダ ー が け し て 表 面 を 平 滑 に 仕 上 げ て あ り , 塗 工 紙 に 近 い 印 刷 適 性 を も っ た 紙 で あ る 。 筆 記 ・ 図 画 用 紙 は サ イ ズ が よ く き い た 筆 記 性 の よ い 紙 の 総 称 で , ボ ン ド 紙 , 小 切 手 用 紙 , フ ー ル ス キ ャ ッ プ , ノ ー ト 用 紙 , ケ ン ト 紙 , 図 画 用 紙 が こ れ に 含 ま れ る 。 塗 工 印 刷 用 紙 は ク レ ー と か 炭 酸 カ ル シ ウ ム な ど の 鉱 物 性 顔 料 と 接 着 剤 を 含 む 塗 工 液 ま た は 合 成 樹 脂 を 原 紙 の 片 面 ま た は 両 面 に 塗 っ て 紙 表 面 の 平 滑 性 を 改 善 し 印 刷 効 果 を 高 め た 高 級 紙 で あ る 。 塗 る 量 の 多 寡 に よ り 品 質 に 相 違 が あ り , ア ー ト 紙 は 片 面 の 1 m 2 当 り 2 0 g 前 後 の 塗 工 液 を 塗 り 乾 燥 し た の ち ス ー パ ー カ レ ン ダ ー が け し て 強 い 光 沢 を つ け た 最 高 級 の 印 刷 用 紙 で あ り , 写 真 版 や 原 色 版 な ど の 高 級 網 版 印 刷 に 使 用 す る 。 コ ー ト 紙 は 日 本 の 特 殊 品 名 で あ り , 塗 布 量 は 1 0 g / m 2 前 後 と 少 な く , 原 紙 の 表 面 の 凹 凸 も 完 全 に は な く な ら ず , 品 質 的 に ア ー ト 紙 に 劣 る 。 軽 量 コ ー ト 紙 は さ ら に 塗 布 量 が 5 g / m 2 前 後 と 少 な く , 塗 工 紙 の 中 で も っ と も 低 品 質 の 紙 で あ る 。
包 装 用 紙
印 刷 用 紙 が 印 刷 を 目 的 と し て 表 面 平 滑 性 を 重 視 す る の に 対 し , 包 装 用 紙 は 強 度 に 重 点 を 置 き , 包 装 に 使 う 紙 の 総 称 で あ る 。 重 袋 ︵ じ ゆ う た い ︶ 用 両 更 ︵ り よ う ざ ら ︶ ク ラ フ ト 紙 は セ メ ン ト や 飼 料 , 農 産 物 な ど の 重 量 物 の 包 装 袋 に 用 い る 紙 で , 未 さ ら し ク ラ フ ト パ ル プ を 原 料 と し た じ ょ う ぶ な 紙 で あ る 。 厚 さ は 0 . 1 m m 以 下 で あ る が 1 5 c m の 幅 が あ れ ば 大 人 1 人 の 体 重 を 支 え る こ と が で き る 。 湿 っ た と き に も 強 度 が 保 た れ る よ う に メ ラ ミ ン や 尿 素 樹 脂 を 添 加 し て 作 る も の も あ る 。 未 さ ら し ク ラ フ ト 紙 が 茶 色 で あ る の に 対 し , さ ら し ク ラ フ ト 紙 は 白 色 で あ り 印 刷 効 果 が あ る の で デ パ ー ト , 商 店 の 包 装 紙 , 手 さ げ 袋 な ど に 用 い ら れ る 。 茶 封 筒 や 片 面 だ け つ や を 出 し た ハ ト ロ ン 紙 な ど も ク ラ フ ト 紙 で あ る 。
薄 葉 ︵ う す よ う ︶ 紙
薄 葉 紙 は , 坪 量 が 4 0 g / m 2 以 下 , 和 紙 で は 2 0 g / m 2 以 下 の 薄 い 紙 を い う 。 グ ラ シ ン 紙 は , 化 学 パ ル プ を 長 時 間 叩 解 後 カ レ ン ダ ー が け し , 圧 縮 し て 作 っ た 紙 で , 通 気 性 が 低 い 半 透 明 の 性 質 を も っ て い る 。 菓 子 や 食 品 の 包 装 , 容 器 の 内 張 り な ど に 用 い る 。 ラ イ ス ペ ー パ ー , イ ン デ ィ ア ペ ー パ ー は 化 学 パ ル プ の ほ か に 綿 や 麻 も 使 用 し , 多 量 の 塡 料 を 加 え て 不 透 明 度 を 高 く し た 薄 紙 で , ラ イ ス ペ ー パ ー は 巻 タ バ コ の 巻 紙 と し て 用 い , 2 0 g / m 2 前 後 の 軽 い 紙 で あ る 。 タ バ コ の 葉 と 燃 焼 速 度 が 同 じ に な る よ う に 作 ら れ て い る 。 イ ン デ ィ ア ペ ー パ ー は 辞 典 や 聖 書 な ど に 用 い る 印 刷 用 薄 葉 紙 で , 薄 く て し な や か で あ る が 丈 夫 な 紙 で あ る 。 そ の 他 , カ ー ボ ン 原 紙 , コ ピ ー 用 紙 , タ イ プ ラ イ タ ー 用 紙 な ど 薄 く て 丈 夫 な 紙 に は 麻 が 5 0 % か ら 1 0 0 % 用 い ら れ て い る 。
家 庭 用 薄 葉 紙
家 庭 で 一 般 に 使 用 す る 1 0 g / m 2 程 度 の 薄 い 紙 で , 化 学 パ ル プ ま た は 古 紙 を 原 料 と し 柔 ら か な 肌 ざ わ り の 良 い 性 質 を も っ た 紙 で あ る 。 日 本 で は 1 9 6 0 年 ま で は ち り 紙 が 家 庭 用 薄 葉 紙 の 3 / 4 以 上 を 占 め て い た が , 生 活 様 式 の 変 化 に と も な っ て 現 在 で は テ ィ ッ シ ュ ペ ー パ ー , ト イ レ ッ ト ペ ー パ ー が そ の 位 置 を 占 め て い る 。 こ れ ら の 紙 は 薄 く て も 強 度 を 出 す た め に パ ル プ 繊 維 が 一 方 向 に 並 ぶ 傾 向 の あ る 丸 網 抄 紙 機 で 作 り , 乾 燥 中 に 紙 に 細 か い し わ を つ け て 柔 軟 性 を も た せ て い る 。 し た が っ て テ ィ ッ シ ュ ペ ー パ ー は 縦 方 向 と 横 方 向 の 強 度 差 が 3 倍 以 上 あ る も の が 多 い 。 そ の 他 生 理 用 紙 , タ オ ル 用 紙 , 紙 お む つ , ワ イ パ ー 用 紙 は 紙 の 吸 水 性 を 利 用 し て い る 。
雑 種 紙
以 上 の 紙 は 比 較 的 大 量 に 同 一 用 途 に 用 い ら れ る も の で あ る が , そ の 他 多 種 多 様 の 用 途 に 用 い ら れ る 紙 の 種 類 は 枚 挙 に い と ま な く , 雑 種 紙 A , B に 分 類 さ れ て い る 。 A に は 樹 脂 加 工 な ど の 紙 加 工 の 原 紙 と な る も の で , 壁 紙 や 写 真 原 紙 な ど は こ れ に 属 す る 。 こ れ ら の 紙 は 体 積 の 4 0 % 以 上 が 空 孔 で あ る こ と を 利 用 し て , 樹 脂 な ど で そ れ を 満 た し 紙 の 性 質 を 変 え た も の で あ る 。 逆 に 電 気 絶 縁 紙 は 密 度 が 1 . 2 g / m 3 以 上 も あ り , 空 孔 が な い 構 造 の ち 密 な 紙 質 で あ る 。 A は 長 網 抄 紙 機 で 作 ら れ る が , 紙 ひ も 用 紙 , 書 道 用 紙 , 障 子 紙 , 紙 テ ー プ 用 紙 な ど は 丸 網 抄 紙 機 で 作 ら れ , B に 分 類 さ れ て い る 。
板 紙
段 ボ ー ル 原 紙 と 白 板 紙 で そ の 8 0 % を 占 め て お り , 日 本 で は 古 紙 パ ル プ の 7 0 % を 原 料 と し て 使 用 し て い る 。
紙 の 規 格
新 聞 巻 取 紙 , 印 刷 用 紙 , 筆 記 用 紙 , ク ラ フ ト 紙 な ど 三 十 数 種 の 紙 は , J I S ︵ 日 本 工 業 規 格 ︶ に よ っ て 原 料 , 寸 法 , 強 度 な ど が 規 格 化 さ れ て い る 。 そ の 他 の 紙 に つ い て も そ れ ぞ れ の 用 途 に 応 じ て 規 定 が あ る 場 合 が 多 い 。 取 引 単 位 は , 一 般 洋 紙 の 場 合 は 大 口 取 引 で は 連 ︵ 1 連 = 1 0 0 0 枚 ︶ , 小 口 取 引 で は 連 , 枚 を , 板 紙 の 場 合 は 大 口 取 引 で は 重 量 単 位 ( t ) , 小 口 取 引 で は 束 ︵ 1 束 = 2 5 k g ︶ , 枚 を 用 い る 。 紙 の 大 き さ に は 紙 全 紙 の 寸 法 と , 書 籍 , 雑 誌 , 事 務 用 紙 な ど に 仕 上 げ た 場 合 の 寸 法 と が あ り , 前 者 を 原 紙 寸 法 ︵ ま た は 全 紙 寸 法 ︶ , 後 者 を 紙 加 工 仕 上 寸 法 と い う ︵ 表 2 , 3 ︶ 。
紙 の 性 質
紙 は 製 造 原 理 に 起 因 し て 縦 と 横 で 性 質 が 異 な り , 裏 と 表 で も 異 な る も の が 多 い 。 水 に 濡 れ る と 弱 く な る の も 欠 点 で あ り , 長 所 で も あ る 。 和 紙 は 植 物 繊 維 と 植 物 粘 質 だ け で 作 っ た も の で 中 性 で あ る が , 近 代 的 製 紙 技 術 で で き た 現 在 の 洋 紙 の 大 部 分 は ロ ジ ン サ イ ズ を 定 着 さ せ る 際 に 硫 酸 ア ル ミ ニ ウ ム を 使 用 し て い る 結 果 酸 性 を 示 す 。 中 性 な い し 弱 ア ル カ リ 性 の 紙 に 比 較 し て 酸 性 の 紙 は 劣 化 し や す い 。 正 倉 院 の 御 物 の 紙 が 1 0 0 0 年 以 上 経 過 し て 保 存 さ れ て い る 一 方 で , 1 0 0 年 も た た な い う ち に 崩 壊 を は じ め る 紙 も 出 て き た 。 長 期 保 存 の た め に は 紙 は 低 温 で 乾 燥 し た 状 態 に お く こ と が 必 要 で あ る が , 中 性 の サ イ ズ 剤 を 使 い 炭 酸 カ ル シ ウ ム を 塡 料 に 用 い た 中 性 紙 の 製 造 も 行 わ れ て い る 。
→ 印 刷 → 紙 ・ パ ル プ 工 業
執 筆 者 ‥ 臼 田 誠 人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」 改訂新版 世界大百科事典について 情報
紙
主 に 植 物 繊 維 を 材 料 と し , 樹 脂 な ど を 加 え た 溶 液 中 に 分 散 さ せ て 密 に 絡 ま せ , 漉 い て シ ー ト 状 に し 乾 燥 さ せ た も の . し た が っ て 厳 密 に い え ば パ ピ ル ス や 羊 皮 紙 は 紙 で は な い . さ ま ざ ま な 用 途 に 用 い ら れ る が , 最 良 の 書 写 材 料 と し て の 地 位 は 現 在 で も 揺 る が し 難 い . 中 国 , 後 漢 の 蔡 倫 の 改 良 を 契 機 と し て 徐 々 に 世 界 へ 広 ま っ た . 日 本 で は 和 紙 と 洋 紙 に 大 別 さ れ る . 和 紙 は 楮 , 三 椏 , 雁 皮 な ど の 靭 皮 を 原 料 と し , 手 漉 き で 造 ら れ て い た が , 現 在 は 機 械 漉 き の も の も あ る . 洋 紙 は か つ て は ぼ ろ 布 を 原 料 に 手 漉 き さ れ , 近 代 以 降 は 木 材 パ ル プ を 原 料 と し , サ イ ズ 剤 , 填 剤 , 色 素 な ど を 加 え 機 械 漉 き さ れ る . 現 在 は 合 成 繊 維 を 原 料 と す る も の も あ る .
出典 図書館情報学用語辞典 第4版 図書館情報学用語辞典 第5版について 情報
紙 カミ paper
植 物 繊 維 を 水 中 に 分 散 さ せ た 状 態 か ら す き あ げ る こ と で , 繊 維 を 互 い に か ら み あ わ せ , 乾 燥 工 程 で 繊 維 間 結 合 を 生 成 さ せ て つ く っ た シ ー ト 状 の も の . 洋 紙 で は 木 材 繊 維 を 原 料 と す る の に 対 し , 和 紙 で は 靭 皮 繊 維 を 使 用 す る . こ こ で は 洋 紙 に つ い て 述 べ る . 紙 の 一 般 的 な 製 造 に は ,
( 1 ) こ う 解 ,
( 2 ) サ イ ジ ン グ ,
( 3 ) 填 充 ,
( 4 ) 抄 造 ,
の 各 工 程 が あ る . サ イ ジ ン グ は 紙 の も つ 吸 水 性 を 適 当 に お さ え る た め に , 紙 に 疎 水 性 コ ロ イ ド 物 質 ( サ イ ズ 剤 ) を 加 え る 工 程 で , こ れ に よ っ て , に じ み を 防 止 す る と と も に , 油 性 イ ン キ の 定 着 が よ く な る . ロ ジ ン 系 サ イ ズ 剤 を 使 用 す る 酸 性 サ イ ズ に 対 し , 合 成 サ イ ズ 剤 を 使 用 す る 中 性 サ イ ズ が あ り , こ れ を 用 い た 抄 紙 を 中 性 抄 紙 と い う . 填 充 は カ オ リ ン , タ ル ク , 白 土 , 炭 酸 石 灰 , 硫 酸 バ リ ウ ム な ど の 填 料 を 添 加 し て , 紙 の 不 透 明 性 , 平 滑 性 , 印 刷 適 性 , 白 色 度 な ど を 改 善 す る 工 程 . 抄 造 は , サ イ ズ 剤 , 填 料 を 添 加 し た の ち , 水 で 希 釈 し た 紙 原 料 を 金 網 上 に す き あ げ て 湿 紙 と し た の ち , 圧 締 , 熱 圧 乾 燥 , カ レ ン ダ ー ( ロ ー ル 間 を 通 し て 表 面 を 圧 密 化 す る 装 置 ) に よ る 平 滑 性 を 付 与 す る ま で の 工 程 . 紙 に は 原 料 パ ル プ の 種 類 に よ っ て , ク ラ フ ト 紙 , サ ル フ ァ イ ト 紙 な ど が , ま た 塗 工 方 法 に よ っ て , ア ー ト 紙 , コ ー ト 紙 , 軽 量 コ ー ト 紙 , 微 塗 工 紙 な ど が , 用 途 に よ っ て , 印 刷 用 紙 , 筆 記 用 紙 , 図 画 用 紙 , 包 装 用 紙 , 衛 生 紙 , 絶 縁 紙 , ラ イ ス ペ ー パ ー , グ ラ シ ン ペ ー パ ー な ど が あ る . ラ イ ス ペ ー パ ー は 紙 巻 き タ バ コ 用 の 紙 で , シ ガ レ ッ ト ペ ー パ ー と も い い , 麻 な ど の 靭 皮 繊 維 ま た は こ れ に 化 学 パ ル プ を ま ぜ て 抄 紙 し た 薄 葉 紙 を さ す が , 欧 米 で は ツ ウ ソ ウ A r a l i a p a p i f e r a の 髄 を 原 料 に し た 紙 を ラ イ ス ペ ー パ ー と い う . ま た , 厚 さ の あ る も の を 板 紙 と い う . 紙 の 製 造 に は , 木 材 か ら あ ら た に つ く っ た パ ル プ と と も に , 古 紙 か ら つ く っ た 古 紙 パ ル プ が 多 く 使 用 さ れ て い る . な お , 最 近 で は 合 成 繊 維 を 原 料 と し て 使 用 す る も の や , プ ラ ス チ ッ ク フ ィ ル ム を 素 材 と す る 合 成 紙 も 含 め て 紙 と よ ん で い る .
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」 化学辞典 第2版について 情報
紙【かみ】
植 物 繊 維 を 水 中 で 薄 く 平 ら に か ら み 合 わ せ , 乾 燥 し た も の 。 最 近 で は 化 学 繊 維 紙 や ポ リ ス チ レ ン ペ ー パ ー も あ る 。 古 代 エ ジ プ ト の パ ピ ル ス や 小 ア ジ ア の 羊 皮 紙 が 古 く か ら 記 録 材 料 と し て 用 い ら れ て い た が , 今 日 の 紙 の 製 法 は 1 0 5 年 , 中 国 の 蔡 倫 ( さ い り ん ) の 大 成 と い わ れ , 8 世 紀 中 ご ろ に イ ス ラ ム 圏 に 伝 わ り , 12 世 紀 に は ヨ ー ロ ッ パ 各 地 に 普 及 。 日 本 に は 7 世 紀 初 め に 伝 来 。 そ の 後 ビ ー タ ー の 発 明 ︵ 17 世 紀 中 ご ろ ︶ , 抄 紙 機 の 発 明 ︵ 1 7 9 8 年 長 網 抄 紙 機 , 1 8 0 8 年 丸 網 抄 紙 機 ︶ , 木 材 パ ル プ の 使 用 ︵ 19 世 紀 中 ご ろ ︶ な ど を 契 機 に 大 工 業 と し て 発 展 。 紙 は 原 料 や 製 法 の 相 違 か ら 洋 紙 と 和 紙 に 大 別 さ れ る が , 両 者 の 区 別 は 必 ず し も 明 瞭 で は な い 。 種 類 は き わ め て 多 く , 用 途 に よ り 印 刷 用 紙 , 包 装 用 紙 , 障 子 紙 な ど , 原 料 に よ り ク ラ フ ト 紙 , 雁 皮 ( が ん ぴ ) 紙 な ど , 製 法 に よ り 硫 酸 紙 , パ ラ フ ィ ン 紙 な ど , 厚 さ ︵ 坪 量 ︶ に よ り 薄 葉 ( う す よ う ) 紙 , 厚 紙 , 板 紙 な ど , 紙 質 に よ り 上 質 紙 , 中 質 紙 な ど , 外 観 に よ り 擬 革 紙 , 布 目 紙 な ど , 産 地 に よ り 美 濃 紙 , ケ ン ト 紙 な ど , 人 名 に よ り 泉 貨 ( せ ん か ) 紙 , ワ ッ ト マ ン 紙 な ど の 名 称 が あ る 。 → 紙 ・ パ ル プ 工 業 / 製 紙
→ 関 連 項 目 化 学 繊 維 紙 | 雁 皮 紙 | 蔡 倫
出典 株式会社平凡社 百科事典マイペディアについて 情報
紙(かみ)
1 0 5 年 頃 に 後 漢 の 蔡 倫 ( さ い り ん ) が 発 明 し た と さ れ る が , 実 際 の 使 用 は 前 漢 以 前 に ま で さ か の ぼ る 。 原 料 に は , 樹 皮 , 竹 , 麻 く ず , ぼ ろ , 漁 網 な ど が 用 い ら れ た 。 4 世 紀 頃 か ら 中 国 全 土 に 普 及 し 始 め , 宋 代 以 後 印 刷 術 の 発 達 と と も に 大 量 生 産 さ れ , 官 僚 機 構 の な か で 文 書 行 政 の 一 環 と し て 広 く 利 用 さ れ た 。 中 国 の 製 紙 法 は , タ ラ ス 河 畔 の 戦 い ( 7 5 1 年 ) で ア ラ ブ 軍 の 捕 虜 と さ れ た 製 紙 工 に よ っ て イ ス ラ ー ム 世 界 に 伝 え ら れ た 。 サ マ ル カ ン ド , バ グ ダ ー ド , カ イ ロ な ど の 製 紙 工 場 で は , 亜 麻 ( あ ま ) の ぼ ろ を 用 い て 各 種 の 紙 が 生 産 さ れ , パ ピ ル ス や 羊 皮 紙 ( よ う ひ し ) に 代 わ る 紙 の 普 及 は イ ス ラ ー ム 文 化 の 発 展 に 大 き く 貢 献 し た 。 こ の 製 紙 法 は , 12 世 紀 以 後 イ ベ リ ア 半 島 を へ て ヨ ー ロ ッ パ に 伝 え ら れ た 。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」 山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
紙 かみ paper
カ セ イ ソ ー ダ あ る い は 石 灰 を 加 え て 煮 沸 し た 植 物 の 繊 維 を 水 中 に 懸 濁 さ せ , す き 網 で こ し , 乾 燥 し て 製 品 と し た も の 。 洋 紙 , 板 紙 , 加 工 紙 , 和 紙 に 大 別 さ れ る 。 製 法 は , 後 漢 の 官 吏 で あ っ た 蔡 倫 が 発 明 し た と 伝 え ら れ る が , 製 紙 技 術 が 中 国 か ら 他 の 国 々 へ 伝 え ら れ た の は 5 ~ 6 世 紀 以 降 の こ と で あ る 。 タ ラ ス 川 の 戦 い で 捕 虜 に な っ た 中 国 人 の な か に 製 紙 技 術 に 通 じ た 者 が い て , そ の 技 術 が ア ラ ビ ア に 伝 わ り , 隊 商 の 道 を た ど っ て バ グ ダ ー ド , ダ マ ス カ ス を 経 て 地 中 海 沿 岸 に 広 ま り , ヨ ー ロ ッ パ へ 伝 え ら れ た の は 12 世 紀 な か ば の こ と と さ れ る 。 日 本 へ は 7 世 紀 初 頭 , 桑 の 樹 皮 か ら つ く ら れ た 紙 を 用 い た 写 本 が 仏 僧 た ち に よ っ て も た ら さ れ , 紙 の 知 識 が 広 ま っ た 。 現 在 , そ の 用 途 は 筆 記 用 , 印 刷 用 , 包 装 用 , 建 材 用 な ど 多 岐 に わ た り , 紙 ほ ど 広 く 用 い ら れ て い る 工 業 製 品 は ほ か に な い と い わ れ て い る 。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
紙 かみ
書写・印刷などのための主材料 世界史的には,後漢の蔡倫 (さいりん) が織物のくずなどを用いてつくったのが最初とされるが,日本には610年高句麗の僧曇徴 (どんちよう) が製紙法を伝えたといわれる。古代においては生産量は少なく,ほとんどが写経の料紙に用いられ,一部が貴族の筆写あるいは戸籍簿の用に供せられたようである。中世では,播磨(兵庫県)の杉原紙,越前(福井県)の鳥の子紙をはじめ美濃紙・奈良紙などが知られ,生産販売の座が結成された例もある。近世になると需要が高まり,奉書・檀紙・鳥の子・美濃紙・塵紙・障子紙などが多くつくられ,越前と土佐(高知県)が最大の産地であった。諸藩も殖産興業の一環として奨励したので,全国的に楮 (こうぞ) ・三椏 (みつまた) が栽培され,冬から春にかけて農閑期の作業として紙すきが行われた。1874(明治7)年に始まる洋紙の製造に押されて従来の手すきによる和紙は衰えたが,伝統的文化財として見直されている。
出典 旺文社日本史事典 三訂版 旺文社日本史事典 三訂版について 情報
紙 かみ
植 物 性 繊 維 を 水 中 で ほ ぐ し , た が い に か ら み 合 わ せ て 乾 燥 ・ 固 化 さ せ た 薄 片 。 図 書 に 使 わ れ , 文 化 の 発 展 を 助 け た
中 国 で は 前 漢 末 か ら す き 紙 が 行 わ れ , 後 漢 ( ご か ん ) 半 ば の 1 0 5 年 に , 蔡 倫 ( さ い り ん ) が 樹 皮 ・ 麻 ・ ぼ ろ 屑 な ど を 原 料 に し て 紙 の 製 法 を 改 良 し た と い わ れ る 。 こ の 製 法 は , 7 5 1 年 唐 軍 が タ ラ ス 河 畔 の 戦 い で 敗 れ た と き に , 捕 虜 の 工 人 に よ っ て ア ラ ブ 人 に 伝 わ り , 7 5 7 年 サ マ ル カ ン ド に , 7 9 3 年 ご ろ に バ グ ダ ー ド に , 9 0 0 年 ご ろ に は エ ジ プ ト に , 11 世 紀 に は ア フ リ カ 北 岸 一 帯 に , 12 世 紀 に は ス ペ イ ン の ハ チ バ に 工 場 が 建 て ら れ , ヨ ー ロ ッ パ に 伝 え ら れ た と い う 。 こ れ と は 別 に , 十 字 軍 兵 士 が 小 ア ジ ア か ら 伝 え た 技 術 で イ タ リ ア ・ フ ラ ン ス に も 工 場 が 建 て ら れ た 。 そ の 後 , 18 世 紀 に オ ラ ン ダ の ホ レ ン デ ル の 改 良 で 良 質 洋 紙 が 発 達 し た 。
出典 旺文社世界史事典 三訂版 旺文社世界史事典 三訂版について 情報
出典 朝倉書店 栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の 紙の言及
【紙・パルプ工業】より
…新聞用紙や印刷用紙,ティッシュペーパーといった生活関連需要を満たす[洋紙]と,段ボール箱などの産業用包装資材の原紙となる[板紙],および両者の原料である[パルプ]を供給する工業をいう。パルプを原料として各種紙類を生産する産業を製紙業ないし製紙工業という。…
【長安】より
…苑内には鉄農具の窖蔵(こうぞう)もあった。長安県洪慶村出土の鉄歯車,西安東郊灞橋前漢墓発見の世界最古の紙などは前漢代科学技術の様子を示している。南北朝時代,長安はたびたび北朝の都となったが,その間の資料はわずかに夏の真興6年(424)銘の石馬と石仏像のみである。…
【版画】より
… p r i n t ( 英 語 ) , e s t a m p e ( フ ラ ン ス 語 ) , D r u c k ( ド イ ツ 語 ) が ほ ぼ こ れ に 当 た る 。 ふ つ う は イ ン キ ( 墨 , 顔 料 な ど ) を つ け た 木 版 , 銅 版 , 石 版 な ど に よ っ て 紙 な ど に 印 刷 さ れ た も の を い う 。 し た が っ て , ま っ た く 同 一 の も の が 複 数 あ る と い う こ と は 版 画 の 第 1 の 特 徴 で あ る 。 …
【本】より
…本は書物,図書とも呼ばれ,最も歴史が長い情報伝達の媒体である。形態的には,自然のままの(たとえば木の葉や竹),または加工した物質的材料(たとえば羊の皮,紙)を選び,その上へ文字や図を筆写または印刷したものを有機的に配列し,保存・運搬に適するよう,その材料の性質が要求する方法でひとまとめにしたものをいう。内容的には,思想または感情の伝達を目的とするもののすべてが含まれる。…
※「紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」