日本大百科全書(ニッポニカ) 「原始美術」の意味・わかりやすい解説
原始美術
げんしびじゅつ
プリミティブ・アートprimitive artの訳語。プリミティブという語には、初期、古風、始原という意味と、未開、素朴という意味とがある。したがって美術史上プリミティブという語は、先史時代の美術、現存の部族社会の美術、ルネサンス直前の美術、近代の素朴派絵画などに冠して用いられる。とくに限定して用いられる場合は、先史時代の美術と部族社会の美術とをさすが、二つは性格が異なっているので、前者を先史美術prehistoric artないし始原美術primaeval art、後者を部族美術tribal artと名づけて区別することがある。
[木村重信]
ヨーロッパの先史美術
アフリカの先史時代と部族社会の美術
インドの先史美術
オセアニアの部族美術
オーストラリア先住民のアボリジニーAboriginesは、古くから狩猟採集生活に基づく岩面彩画・刻画を制作し続けてきたが、現在はユーカリの樹皮絵画を描く。主題は神話的存在やトーテム動物などを主とし、ときには葬儀や狩猟などの光景を描く。ほかにチューリンガ(祭儀棒)やブーメラン、槍(やり)、盾、頭蓋骨(ずがいこつ)に呪術的な文様を描く。メラネシア、ポリネシア、ミクロネシアの部族美術のおもな主題も、祖先崇拝に基づく神話的存在である。ニューギニア島は部族美術の宝庫で、とくにヘールヒンク湾岸、センタニ湖およびフンボルト湾岸、セピク川の流域、フォン湾岸などに優れたものが多い。これらオセアニアの仮面や祖霊像は、海洋的環境と強い太陽光線のゆえに、奔放な想像力と多彩な装飾にあふれており、触覚的なアフリカ彫刻とは対照的に、非常に視覚的である。
[木村重信]