デジタル大辞泉
「演繹」の意味・読み・例文・類語
えん‐えき【演×繹】
[名](スル)
1 一つの事柄から他の事柄へ押しひろめて述べること。「身近な事象からすべてを演繹する」
2 与えられた命題から、論理的形式に頼って推論を重ね、結論を導き出すこと。一般的な理論によって、特殊なものを推論し、説明すること。「三角形の定理から演繹する」⇔帰納。
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
えん‐えき【演繹】
(一)〘 名詞 〙
(二)① 一つの事から他の事に押しひろめて述べること。
(一)[初出の実例]﹁良人の肉食論を演繹した訳でもあるまいが、着物などは垢つかぬものを着て居れば木綿で沢山、食物は成る可くよくせねば、万事の原の健康を全ふすることが出来ぬと云ふのが鈴江君の主義で﹂(出典‥思出の記︵1900‐01︶︿徳富蘆花﹀一〇)
(二)[その他の文献]︹朱熹‐中庸章句序︺
(三)② ( [英語] deduction の訳語 ) 前提から、論理的に正しい推論を重ねて結論をひき出すこと。⇔帰納。
(一)[初出の実例]﹁先づ以前の deduction 演繹の法 なるものを知らざるべからず。演繹とは猶字義の如く、演はのぶる意、繹は糸口より糸を引き出すの意にして﹂(出典‥百学連環︵1870‐71頃︶︿西周﹀総論)
演繹の語誌
もともと動詞で、意義を敷衍して述べることの意。それを西周が﹁百学連環﹂で論理学の方法論の一つ “deduction” の訳語に当てた。さらに﹁致知啓蒙﹂では、induction ︵帰納︶と対比して使った。その後、﹁演繹法﹂が﹁哲学字彙﹂に採用され普及したが、同方法の運用という意味の﹁演繹﹂は、﹁演繹法﹂という語が定着した後に、一般化した。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
演繹 (えんえき)
deduction
より一般的な事態からより特殊的な事態へと推論するところの︿演繹的推理︵推論︶deductive inference︵reasoning︶﹀の略称。自然科学において一般的な法則から当面の特殊な事象に関する結論を導き出す過程は,この演繹的推理の代表的な例である。たとえば,真空中の物体の自由落下の法則は,重力の定数をg,物体の落下距離をx,落下時間をtとするとき,
x=1/2gt2
と表せるが,tに一定の時間を与えて,落下距離を求めること,あるいは,一定の距離を指定してその時間を求めることなどは,演繹の例である。この場合,法則は,どの距離,どの時間に対しても成立する一般的関係を表し,その法則から特定の距離と特定の時間に関する特殊的な関係を導き出しているからである。いっそう日常的な例としては,︿毎日太陽は東から昇り,西に沈む﹀ということから,今日も,また明日もそうだ,と結論することも,演繹的推理の例である。演繹的推理は,それゆえ,より一般的な事態を表明する命題を前提として,それからより特殊的な事態を表明する命題を結論として導き出す推理ということになるが,その基本的特徴としてはつぎの点があげられる。
われわれは,前提命題Aから結論命題Bを演繹的推理によって導く--これを︿AからBを演繹する﹀という--場合,Aを前提として認めるならば,かならず,結論Bも認めなければならない,と思っている。いいかえれば,前提Aを認めているにもかかわらず,Bを認めない,ということは不可能なのである。もし前提Aを認め,しかも結論Bを認めないのであれば,そのような結論Bは前提Aからは出てこない,つまり,そのような演繹的推理は誤っている,とわれわれはいう。このように,前提Aから結論Bが正しく演繹されるときには,前提Aからはかならず結論Bが出てくるという必然性--とくに論理的必然性--がある,という点は,演繹的推理のもっとも重要な特徴であるが,この必然性はつぎの意味で仮定的性格をもつことにも十分注意しなければならない。︿癌はすべてウイルスである﹀ことを前提とすれば,特定の患者の癌はウイルスであると演繹的に推理できて,前提と結論のあいだには必然性がある。しかし,︿癌はすべてウイルスでない﹀ことを前提とすれば,特定の患者の癌はウイルスでないことが演繹的に推理できて,そこにも必然性がある。それゆえ,演繹における必然性とは,前提が何であるかに依存しているのではなくて,仮にある前提を認めるとすれば,その認めた前提とそれから得られる結論との関係は必然的であるという形で現れるのであって,その意味で仮定的なのである。演繹に見られるこの必然性をできるかぎり広範にとり出し,広い領域に適用できる演繹的推理の体系を構成するのが,アリストテレス以来の演繹論理学の課題である。
→帰納
執筆者‥大出 晁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
演繹
えんえき
deduction
一般から特殊をその形式のみに基づいて推論すること。いいかえると、演繹においては、前提が真であれば、結論も必然的に真とならなければならない。これが、特殊から一般を推論する帰納(きのう)との相違である。そして、論理学のおもな任務は、演繹の具体的構造を解明することにほかならない。たとえば、﹁すべてのアジア人は人間である﹂︵大前提︶、﹁すべての日本人はアジア人である﹂︵小前提︶という二つの前提から、﹁すべての日本人は人間である﹂という結論を導き出すのは典型的な三段論法であるが、この推論、すなわち演繹が正しいのは、前提や結論の意味内容によってではなく、その形式による。﹁日本人﹂のかわりに﹁アメリカ人﹂としても、正しい演繹なのである。
西洋では、演繹、すなわち論理学をこのようにとらえ、三段論法という限られた枠内においてではあったが、それをいちおうまとめあげたのは、いうまでもなくギリシアのアリストテレスであった。その後、西洋ではアリストテレス式三段論法が論理学の主流であったが、19世紀末になると、数学、とくに集合論の発達と相まって新しい論理学が生まれ、現在では三段論法の範囲をはるかに超えるいろいろの形式の演繹が、数理論理学として、数学と結び付いて盛んに研究されている。
﹇石本 新﹈
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
普及版 字通
「演繹」の読み・字形・画数・意味
【演繹】えんえき
意義をのべ明らかにする。宋・朱熹︹中庸章句の序︺是(ここ)に於て、堯
以來相ひ傳ふるの
を推本し、質(ただ)すに
日聞く
の
師の言を以てし、
互に演繹して、此の書を作爲す。
字通﹁演﹂の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
演繹【えんえき】
英語deductionなどの訳で,演繹的推理︵推論︶の略。帰納に対する。前提になる命題から,経験にたよらず,論理法則のみによって必然的に新しい命題︵帰結︶を導きだす操作。前提が一つのときは直接推理,二つ以上のときは間接推理︵三段論法はその一種︶という。演繹にあっては論理的必然性が最も重要な特徴であるが,それは前提そのものに依存するのではなく,前提と帰結の関係が必然的であることに注意すべきである。
→関連項目数学的帰納法|定理|論理学
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
演繹
えんえき
deduction
論理学における帰納に対立する手続。1つまたはそれ以上の命題から論理法則に基づいて結論を導出する思考の手続で,演繹的推理ともいう。三段論法はその代表的な場合。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の演繹の言及
【科学哲学】より
…しかし,現在︿帰納の正当化﹀はひじょうに困難であると見られている。さらに,現代諸科学は単に帰納法によって構築されると見ることは不可能であり,たとえば,物理諸科学に見られるように数学を含む演繹的方法の役割が大きく介入し,︿仮説演繹法﹀が科学方法論の基本的形態であると一般に評価されるようになった。これに関連して,ポッパーの︿反証可能性理論﹀による帰納の否定の議論は注目に値する。…
【論理学】より
…これは陰に陽に,すべての論理学者によって承認されてきた事実なのであった。
﹇帰納的推論と演繹的推論﹈
ところで,世界についての事実認識を基礎に置いて,これまた世界についての認識にいたる推論がある場合,われわれは前提と結論の関係に応じて推論を2種類に区別することができる。一つは,より個別的で単純な事例の集りから,より一般的な法則を導くところの,帰納的推論(帰納)と呼ばれるものである。…
※「演繹」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」