デジタル大辞泉
「細雪」の意味・読み・例文・類語
ささめゆき︻細雪︼﹇書名﹈
大阪船場の旧家の美貌の四人姉妹を主人公に、それぞれの生活と運命とを絵巻物風に描く。
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ささめ‐ゆき【細雪】
(一)[1] 〘 名詞 〙 こまかに降る雪。︽ 季語・冬 ︾
(一)[初出の実例]﹁ささめ雪ふりしく宿の庭の面に見るに心もあへずざりけり﹂(出典‥古今打聞︵1438頃︶上)
(二)[2] 小説。谷崎潤一郎作。昭和一八~二三年︵一九四三‐四八︶発表。戦中から戦後にわたって執筆された。大阪船場の没落商家蒔岡(まきおか)家の美貌の四人姉妹を、四季おりおりの風流事を背景に風俗絵巻風に描きわけた長編。
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細雪
ささめゆき
谷崎潤一郎(じゅんいちろう)の長編小説。1943年︵昭和18︶1、3月﹃中央公論﹄に一部発表。1944年﹃細雪 上巻﹄私家版刊。1947年︵昭和22︶3月から翌年10月まで﹃婦人公論﹄に下巻連載。上巻46年、中巻47年、下巻48年、中央公論社刊。
大阪の船場(せんば)の旧家蒔岡(まきおか)家の四姉妹を描いた谷崎の最大長編で、3番目の、美人なのに縁遠い雪子の5回に及ぶ見合いを中軸に、1937年から1941年に至る阪神地区の富裕階層の生活や年中行事が、絵巻物風に展開してゆく。婿をとって本家の蒔岡家を継いだ長姉鶴子(つるこ)は、夫の転勤で東京へ移り、かわって次姉の幸子(さちこ)とその夫貞之助(さだのすけ)が、2人の妹のめんどうをみている。この小説の描写は、ほとんど谷崎の夫人松子がモデルの幸子に密着して進められ、﹁時代おくれ、因循姑息(いんじゅんこそく)﹂とみえるが﹁女らしさ、奥ゆかしさ﹂という天然の美質をもつ雪子と、その妹で、独立心が強く性的にも奔放な末娘の妙子(たえこ)が対位法的構成で描かれる。最後に、某公卿(くぎょう)華族の庶子という御牧実(みまきみのる)が現れ、ようやくこの人物と結ばれるところで﹁雪子物語﹂の﹃細雪﹄は終止符を打つが、戦争末期から敗戦直後という多難な時期に書かれたこの小説の執筆動機に、古きよき時代への懐旧の念が根強くあったことは疑えない。美人の四姉妹が中心となる華やかな顔合わせが可能なため、劇化、映画化も多い。映画化は阿部豊監督︵1950・新東宝︶、島耕二監督︵1959・大映︶、市川崑(こん)監督︵1983・東宝︶の3回。
﹇大久保典夫﹈
日本映画。谷崎潤一郎原作。戦前の大阪の船場の没落してゆく旧家、蒔岡家の四人姉妹を中心に、その夫や恋人、見合い相手などが絡みつつ展開する一大絵巻で、﹁源氏物語﹂にも比肩される。3度映画化されており、蒔岡家の四姉妹はその当時のスター女優が務め、1作目は破格の製作費の大作だった。1950年︵昭和25︶、初めての映画化は新東宝の阿部豊(あべゆたか)︵1895―1977︶監督で、1925年にハリウッドでの俳優修行から戻ると、監督に専心し、たちまち一流になった人。セットにまんべんなく人物を配して効率よく描き出す手腕は見事である。白黒の新東宝版は、四女の妙子役の高峰秀子と二人の恋人、宝石商のぼんぼん奥畑︵田中春男(たなかはるお)、1912―1992︶、生真面目なカメラマン板倉︵田崎潤(たざきじゅん)、1913―1985︶などの挿話に重きが置かれる。1959年、カラーで時代設定が戦後になった島耕二(しまこうじ)︵1901―1986︶監督の大映版では、妙子役の叶順子(かのうじゅんこ)︵1936― ︶の恋愛に光があてられるが、三女の雪子役の山本富士子も華やかに描かれる。1983年、市川崑監督の東宝版では、妙子役をはかなげでありながら芯の強い女性として演じる吉永小百合の見合い話を中心に、女性的な受身の姿勢の貞之助︵石坂浩二(いしざかこうじ)、1941― ︶の視点にも時間が割かれる。豪華絢爛(けんらん)たる着物の競演も見どころだが、それ以上に冒頭の京都嵯峨(さが)の桜吹雪をはじめとする四季折々の風景を織り交ぜて描かれる四姉妹の姿に魅了される。2作目まで、脚色は八住利雄(やすみとしお)︵1903―1991︶を踏襲し、3作目は市川崑、日高真也(ひだかしんや)︵1921―2002︶。ヘンデル作曲の﹁オンブラ・マイ・フ﹂がテーマ曲として随所で荘重に響いている。
﹇坂尻昌平﹈
﹃﹃細雪﹄上中下︵旺文社文庫・角川文庫・講談社文庫・新潮文庫︶﹄
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細雪 (ささめゆき)
谷崎潤一郎の長編小説。1943年(昭和18)の《中央公論》誌上に最初の2回分が掲載されたが,軍部の圧力によって中断。第2次世界大戦中の時局性と戦後の困難を越えて執筆が続けられ,戦後の46年から48年にかけて,上・中・下3巻が刊行された。作者の3人目の妻松子夫人の生家森田家をモデルにした作品といわれ,大阪船場(せんば)の旧家蒔岡(まきおか)家の4人姉妹の生活を,作者自身を思わせる主人公貞之助の視点を主として描いてゆく。一編の中心になるのは,なぜか縁遠い同家の三女雪子をめぐるいくつかの縁談の物語であり,この古風な女性のかたわらに,自力で次々と恋人を見つける型破りな四女妙子の物語が配される。昭和11年にはじまり,昭和16年,雪子の結婚で終わるこの小説には,折口信夫がかつて《源氏物語》〈芦屋の巻〉と評したように,日本の四季の風物と女性たちの運命とがたくみにあやどられ,みごとな昭和の風俗絵巻が織り上げられている。
執筆者:野口 武彦
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細雪〔小説〕
①谷崎潤一郎の長編小説。大阪船場の旧家に生まれた4人姉妹を主人公に、それぞれの生活を絵巻物風に描いたもの。1943年~1948年発表。1947年、全3巻のうち上・中巻が第1回毎日出版文化賞を受賞。
②1950年公開の日本映画。①を原作とする。監督‥阿部豊、脚本‥八住利雄、撮影‥山中晋。出演‥花井蘭子、轟夕起子、山根寿子、高峰秀子、田崎潤ほか。
③1959年公開の日本映画。①を原作とする。監督‥島耕二、脚色‥八住利雄、撮影‥小原譲治。出演‥轟夕起子、京マチ子、山本富士子、叶順子、信欣三、山茶花究、志摩多佳子ほか。
④1983年公開の日本映画。①を原作とする。監督・脚本‥市川崑、脚本‥日高真也、撮影‥長谷川清、美術‥村木忍。出演‥岸恵子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子、伊丹十三、石坂浩二、岸部一徳ほか。第38回毎日映画コンクール美術賞受賞。
細雪〔曲名〕
日本のポピュラー音楽。歌は男性演歌歌手、五木ひろし。1983年発売。作詞:吉岡治、作曲:市川昭介。
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細雪【ささめゆき】
谷崎潤一郎の長編小説。1943年︽中央公論︾に連載を始めたが,軍・情報局の圧力で中断,戦後の1948年に完結。大阪船場(せんば)の旧家蒔岡(まきおか)家の4人姉妹を主人公に,花見,ホタル狩,月見などの伝統的行事や上方文化の美をあわただしい世相と対照的に描く。古典の物語性と近代の写実性をあわせもつ円熟した作品で英・仏訳もある。
→関連項目高峰秀子
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細雪
ささめゆき
谷崎潤一郎の長編小説。 1943~48年作。 36年から 41年までの,大阪船場の格式ある旧家を舞台に,4人姉妹のそれぞれの命運をたどりながら,天災や戦争の影響で次第に変ってゆく生活のなかでなお続けられる花見,蛍狩り,月見など伝統的な風俗を描き,上方文化の洗練美を彷彿させる。作者の耽美主義の到達点を示す作品で,第2次世界大戦中に発禁処分を受け,完成は戦後に持越された。
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普及版 字通
「細雪」の読み・字形・画数・意味
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世界大百科事典(旧版)内の細雪の言及
【轟夕起子】より
… 吉川英治原作の《宮本武蔵》の最初の映画化(1937)がデビュー作で,片岡千恵蔵の武蔵を相手にかれんなお通の役を演じ,トルコに代わってお通さんの愛称でたちまち人気スターになった。しがない老サラリーマン(小杉勇)のやさしく明るい娘を演じた《限りなき前進》(1937)から《キャラコさん》(1939),《暢気眼鏡》(1940)などをへて,杉浦幸雄が轟夕起子その人をモデルにして描いたというホームコメディ的な人気連載漫画の映画化《ハナ子さん》(1943,主題歌《お使ひは自転車に乗って》も歌って大ヒットした)に至るまで,〈天性の明るさ〉を持ち味にした明朗ではつらつとした娘役が専門の彼女であったが,のち,40年に結婚(1950年離婚)したマキノ正博監督による,田村泰次郎の〈肉体文学〉の映画化で主題歌《あんな女と誰が言う》も歌って大ヒットした《肉体の門》(1948)の娼婦関東小政や,谷崎潤一郎のベストセラー小説の映画化《細雪》(1950)の次女幸子といった異色のキャラクターを演じた。53年,島耕二監督と再婚(1965年離婚),その後は一転して《青春怪談》(1955)から《陽のあたる坂道》(1958),《男の紋章》(1963)に至る〈ふとったお母さん〉のイメージが強い。…
※「細雪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」