肥料(読み)ヒリョウ

デジタル大辞泉 「肥料」の意味・読み・例文・類語

ひ‐りょう〔‐レウ〕【肥料】

作物の生育をよくするため、土壌などに施す物質。欠乏しやすく、施したときの効果の大きい窒素ちっそりんカリウムを肥料の3要素という。有機肥料と無機肥料とに大別される。
[類語]肥やし堆肥基肥もとごえ追い肥追肥寒肥かんごえ寒肥やし

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精選版 日本国語大辞典 「肥料」の意味・読み・例文・類語

ひ‐りょう‥レウ【肥料】

 

(一)   
(一)[](1881︿)
 

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「肥料」の意味・わかりやすい解説

肥料
ひりょう

今日では実に多種多様のものが肥料として農家で使用されているので、肥料を簡単に定義づけることは困難となっている。日本の肥料取締法(昭和25年法律第127号)でいう肥料とは「植物の栄養に供すること又は植物の栽培に資するため土じように化学的変化をもたらすことを目的として土地にほどこされる物及び植物の栄養に供することを目的として植物にほどこされる物」と定義づけされている。したがって、土壌に施用する養分元素ばかりではなく、直接植物に施す葉面散布剤や水耕・礫耕(れきこう)に使う培養液も肥料であり、また窒素、リンなどの一般的な肥料成分はまったく含まれていないが、土壌の化学的性質を改善して植物の生育を良好にする物質、すなわち石灰資材なども肥料として取り扱われる。ただし、肥料以外で土壌に施用して効果(土壌の物理性、生物性の改善)があるものは土壌改良資材という。指定を受けている土壌改良資材は1997年(平成9)3月から追加指定されたVA菌根菌資材を含め、2012年(平成24)時点で12種類ある。なお、2011年3月の東日本大震災に伴い発生した東京電力福島第一原子力発電所事故以降は肥料・土壌改良資材の放射性セシウムの暫定許容値として1キログラム当り400ベクレルが設けられている。

[小山雄生]

歴史

肥料は世界のどこの国においても、農業が土地に定着してしだいに発展し、農家一戸当りが所有する土地面積が狭くなり、連作や多毛作が行われるようになってから、地力の回復ならびに土地から奪い去ったものを元に戻すという考え方から経験的に開発されてきたものである。

 日本でいつごろの時代から肥料が実際に使われ始めたかはさだかではないが、ただ平安時代にはすでに使用された記録が残されている。この時代、肥料として用いられたことが史料上で明らかなのは厩肥(きゅうひ)、山野の草、草木灰で、『延喜(えんぎ)式』内膳司(ないぜんし)の園の耕作に厩肥施用の記載がある。本格的に肥料の利用が始められたのは、鎌倉、室町時代になってからとみられる。この当時に使用された肥料は山野草(草肥(くさごえ))、厩肥、草木灰などのいわゆる自給肥料であった。ただし、人糞尿(じんぷんにょう)については明確な記録がなく、いつごろから使用され始めたかはさだかではないが、肥桶(こえおけ)の使用から判断して鎌倉時代にはすでに肥料として使われていたことは確かである。なお、「肥料」は明治維新後に生まれたことばであり、それ以前には地味(ちみ)を「肥(こ)やす」を名詞化した「肥やし」が使われていた。

 一方、西欧では家畜の飼養を伴う農業が発達し、古くから動物の排泄(はいせつ)物が肥料としてよく利用された。肥料のことをさす英語のmanure, dungはいずれも家畜の排泄物を意味している。このような有機質の肥料とは別に16世紀になると無機質の硝石が肥料として有用なことがわかり、18世紀なかばころにはすでにチリ硝石が肥料として広く使用されるようになった。ドイツのリービヒの有名な「無機養分説」の発表は1840年のことであるが、このころには水に不溶性のリン鉱石を硫酸で化学処理し、植物に吸収されやすい水溶性リンに転換した代表的な化学肥料である過リン酸石灰が開発され、使用されるようにもなった。

 また当時すでに、カリ(カリウム)鉱床からのカリ、石灰岩からの石灰、骨粉からのリンなどが肥料として利用されていた。ただし、窒素肥料としてはなお家畜の排泄物が主体であった。ところが19世紀に入ると、ドイツで合成硫安の製造に成功し、大規模な空中窒素固定による合成アンモニア工場が建設され、大量の硫安が製造、輸出されるようになった。これを契機として今日のような化学肥料全盛の時代を迎えるのである。

[小山雄生]

肥料の消費

日本の単位面積当りの肥料の投下量は、すでに世界的にみてもかなり高い水準にあり、またその大部分が化学肥料で占められている。今後の日本の肥料消費量の増加はあまり期待できそうにない。むしろ1980年代以降は、化学肥料の連用による地力の低下や、硝酸態窒素による地下水汚染、肥料から流出する窒素やリンによる河川・湖沼などの富栄養化による環境悪化が問題となっており、また、資源の面でも長期的にみてリンの枯渇が心配されていることなどから、これまでの多肥多収の傾向が今後は逆に是正される趨勢(すうせい)にある。

[小山雄生]

肥料の三要素

植物の生育に必要不可欠な養分元素は16種類であるが、肥料として実際に農地に施用される養分は窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、ホウ素などの元素に限られている。このうちで窒素、リン、カリウムは土壌中に不足しやすく、また施用効果も著しく大きなことから肥料の三要素と特別によばれている。これにカルシウムを加えて四要素とよぶ場合もある。このほかの元素ではマグネシウム、マンガン、ホウ素、ケイ素が肥料取締法では主成分として取り扱われる。ただし、銅、鉄、亜鉛、モリブデンなどの微量元素は肥料への混入は認められてはいるものの主成分としては取り扱われていない。また、ケイ素はなくても植物は生育できるが、イネなどの好ケイ酸植物では多量のケイ素を含み、施用すると生育がより健全となり、増収することから有用元素とよばれ肥料の主成分として認められている。

[小山雄生]

肥料の種類とそのおもな性質

窒素質肥料

尿

(1) (NH4)2SO4NH4Cl(NH4)2HPO4使N821528

(2) NH4NO3NaNO3Ca(NO3)2

(3)尿 尿(NH2)2CO4512尿

(4) CaCN2尿使

(5) 尿IB尿

(6) 尿


リン酸質肥料

(1)(2)(3)2

(1) Ca(H2PO4)2H2O+2CaSO42H2O使()湿湿

(2) ()

(3) 使使


カリ質肥料

カリ(カリウム)を主成分とする肥料をいい、硫酸カリK2SO4、塩化カリKClなどがその代表的なものである。ともに水溶性で作物によく吸収利用される。おもに元肥として用いられるが、追肥としても用いられる。草木灰は家庭用のカリ肥料として重宝である。これらのカリ肥料はいずれも速効性であるが、現在ではケイ酸カリ肥料など難溶性の緩効性カリ肥料も開発され市販されている。

[小山雄生]

石灰質肥料

生石灰(酸化カルシウム)CaO、炭酸カルシウムCaCO3、消石灰(水酸化カルシウム)Ca(OH)2、苦土石灰などがある。主として土壌の酸性を矯正するために施されるもので施用量も普通の肥料に比べかなり多い。施用にあたってはなるべく土と均一によく混ざるようにするとよい。

[小山雄生]

苦土質肥料

硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、腐植酸苦土などが用いられる。作物が苦土欠乏をおこしやすい酸性土壌に施される。苦土石灰、溶成リン肥も苦土が含まれているので、苦土欠乏を防ぐのに効果がある。

[小山雄生]

ケイ酸質肥料

ケイ酸石灰などの鉱滓(こうさい)には薄い酸に溶けるケイ酸が含まれていて、水稲などの禾本(かほん)科(イネ科)植物でとくに有効である。畑作物の場合では、土壌のアルミニウム性を低下させる効果があるので、土壌改良剤として多量に施されることがある。

[小山雄生]

微量要素肥料

微量要素(微量養素ともいう)のうちで現在認められているものはマンガンとホウ素の2元素である。このほかでは葉面散布剤として鉄、銅、亜鉛、モリブデンなどの微量元素の混入が許されている。マンガン質肥料としては硫酸マンガン肥料、硫酸苦土マンガン肥料および鉱滓マンガン肥料の3種類がある。ホウ素質肥料にはホウ酸塩肥料およびホウ酸肥料の2種類がある。

[小山雄生]

複合肥料

作物養分を2種類以上含むもので、単肥を混合した配合肥料と、製造過程で化学反応をおこさせた化成肥料とがある。この種の肥料の消費量は近年急激に増加し、一般に使用される肥料の多くがこの複合肥料となっている。一つの養分しか含まない単肥に比べて手間が省けることが消費の伸びた原因の一つである。各製造業者から特徴をもった各種銘柄の複合肥料が製造販売されている。微量要素を含む複合肥料もあり、なかでも溶成微量要素複合肥料は普通FTEとよばれ、ホウ素5%以上、マンガン10%以上の含有が保証されている。また副成分としてケイ酸、鉄、銅、亜鉛、モリブデンなどを含み、微量元素の総合的補給に有効である。

[小山雄生]

有機質肥料

()()()42()()()尿

 使調調()122011231200


特色のある肥料

特色のある肥料としては、物理的なコーティングにより溶出を抑制した肥効調節型の被覆肥料がある。コーティング材料としてはポリオレフィン系樹脂、アルキド樹脂などが用いられる。肥料成分の作物による吸収利用が高くなるので、環境への損失が少なく環境保全的な効果がある。また、施用時の省力を図る目的で、農薬を混合した農薬入り肥料が開発されている。さらに水稲側条施肥の発展に対応して、ペースト肥料や機械施肥に適応性の高い化成肥料の改良も進んでいる。

[小山雄生]

肥料の施し方(用量)

肥料の施し方は、栽培される作物の種類や施す時期と回数、地域や土壌の違い、用いる肥料の種類またはその年の気象、農産物価格などの不確定な要因によっても違ってくる。したがって規格統一的に述べることはできないので詳細については他の専門書を参照されたい。作物の種類によって施される肥料の用量も大きく違う。これは作物の種類や収量、栽培される土壌の違いなどによって、吸収利用される養分の種類や量がそれぞれ大幅に違ってくるためである。

[小山雄生]

『塩谷正邦著『新選肥料実用便覧』(1962・養賢堂)』『高井康雄・早瀬達郎・熊沢喜久雄編『植物栄養・土壌・肥料大事典』(1976・養賢堂)』『田中明・出井嘉光・中山利彦監修『施肥のすべて』(1977・北海道協同組合通信社)』『奥田東著『肥料学概論』増訂改版(1987・養賢堂)』『伊達昇編『便覧 有機質肥料と微生物資材』(1988・農山漁村文化協会)』『高橋英一著『肥料の来た道帰る道――環境・人間問題を考える』(1991・研成社)』『山崎耕宇・杉山達夫・高橋英一・茅野充男・但野利秋・麻生昇平著『植物栄養・肥料学』(1993・朝倉書店)』『伊達昇・塩崎尚郎編著『肥料便覧』第5版(1997・農山漁村文化協会)』『藤原俊六郎・安西徹郎・小川吉雄・加藤哲郎編『土壌肥料用語事典』新版(1998・農山漁村文化協会)』『日本土壌肥料学会編『土壌・肥料・植物栄養学用語集』(2000・養賢堂)』『山根一郎・岡崎正規著『土壌肥料』(2001・全国農業改良普及協会)』『肥料用語事典編集委員会編『肥料用語事典』改訂5版(2001・肥料協会)』『植物栄養・肥料の事典編集委員会編『植物栄養・肥料の事典』(2002・朝倉書店)』『肥料協会新聞部編『肥料年鑑』各年版(肥料協会)』『農林水産省生産局生産資材課監修『ポケット肥料要覧』各年版(農林統計協会)』


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改訂新版 世界大百科事典 「肥料」の意味・わかりやすい解説

肥料 (ひりょう)
fertilizer


︿1

尿尿使200100191802A.von30使

 16191804Nicolas Théodore de Saussure1767-1845A.D.︿J.F.von︿4060Julius von Sachs1832-97201954

 J.B.1843H.HellriegelH.Wilfarth86191906=13=185661︿80


8使尿使尿尿1




 331520%

 

 1

1 a NH4NO3NO3H2CN2尿尿尿b c K

2 殿NH4KSiAlOSiOAlOSi4Al3K

3 

23湿︿

 3050%1020%4060%

 231234湿尿湿


1950234161718192223使242526簿2729303133343641


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百科事典マイペディア 「肥料」の意味・わかりやすい解説

肥料【ひりょう】

 
15OHCNSPKCaMgFeBMnCuZnMo()使使()
 

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「肥料」の意味・わかりやすい解説

肥料
ひりょう
fertilizer and manure

耕土に施す栄養物質。これによって土地の生産力を維持,増進し,植物の生長を促進する。植物の生育には,酸素,水素,炭素,窒素,カリウム,リン,カルシウム,マグネシウム,硫黄の9元素のほか,マンガン,亜鉛,鉄などの微量元素が必要とされるが,土壌中に特に欠乏しやすい窒素,リン,カリウムを補給するのが役割である。これを肥料の3要素と呼び,肥料はこのうち1種以上を含むものである。天然肥料と化学肥料に大別され,前者には,植物質 (油かす) ,動物質 (魚かす,骨粉) ,鉱物質 (石灰質,ケイ酸質,硫酸マグネシウム肥料) ,後者には窒素肥料,リン酸肥料,カリ肥料のほか,複合肥料として,化学肥料に油かす,魚かすなど有機質肥料を混ぜた配合肥料と,化学肥料を混合して化学処理した化成肥料とがある。日本は世界有数の肥料生産国で,肥料工業は化学工業の中心となっているが,カリウムとリンの資源は輸入に頼っている。

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化学辞典 第2版 「肥料」の解説

肥料
ヒリョウ
fertilizer, manure


OHCNSPKCaMgFeBMoCuZnMn153NP2O5K2OCa[]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「肥料」の解説

肥料
ひりょう

作物の生長を促すもの
こやしともいう。古代から刈草を田に踏みこむ刈敷 (かりしき) が主肥。それに平安末期より木草灰・厩肥 (きゆうひ) ・堆肥が加わり,人糞は補助的に使用された。江戸時代,都市・商品作物の発展は多量の施肥と肥料購入を可能にし,油粕や干鰯 (ほしか) などの金肥(購入肥料)が使用された。明治中期以後大豆粕,末期からは化学肥料が用いられるようになった。

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普及版 字通 「肥料」の読み・字形・画数・意味

【肥料】ひりよう

こやし。

字通「肥」の項目を見る

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栄養・生化学辞典 「肥料」の解説

肥料

 植物に栄養素を供給する物質.

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世界大百科事典(旧版)内の肥料の言及

【園芸】より

… 明治時代に入ってからは新宿御苑や小石川植物園などに温室もつくられ,ヨーロッパの花卉や熱帯植物の数々が導入され,育成されるようになった。大正・昭和時代にかけて導入された植物の種類や品種はおびただしい数量になったばかりでなく,化学工業に伴って肥料,薬剤などが発展し,経営も合理化されて大型化し,技術も向上した。また近年では,植物名もとくに和名をつくらず,属名,学名をそのままかたかな読みすることが多くなった。…

【近世社会】より

…農業に必要な資材や,生活に要する道具類はみずから生産しなければならない。農具の木製部分や肥料,生活に必要な家屋・燃料・衣類も,典型的にはみずから生産する。鍬や鎌の供給については,広く各地の初期の状態についての研究はないが,たとえば上田藩や米沢藩では領内の鍛冶屋の製品や,ときには他藩の製品も一度藩の手に集められて,百姓に供給されている。…

【ナタネ(菜種)】より

…その他,機械油や薬用,軟膏の基剤としても使われる。油を絞ったかすが油かすで,飼料および園芸用肥料として重要である。アブラナ【星川 清親】
[江戸時代のナタネ作と油]
 山城の大山崎離宮八幡宮,摂津の住吉大社の神人(じにん)や奈良興福寺大乗院の寄人(よりうど)らが行っていた中世の製油では,油料原料の第1はエゴマ(荏胡麻)であったが,17世紀大坂に展開した製油業ではすでにナタネがこれにとって代わっており,ナタネは綿実とともに近世の主たる油料原料となった。…

【農業】より

…畜力利用(耕耘,運搬など)が進んだのは第2次大戦前後,中・小型の農業機械が普及してきたのは1950~60年代以降で,それまでは基本的に手労働の農業であった。また肥料の多用も顕著な特徴で,こうして多肥多労の集約農業として展開し,土地生産性(単位面積当り収量)が高く,またそれを追求することが主要な方向とされてきた。(3)耕地の約半分を占める畑地で,多種多様な畑作物の生産がなされてきたことである。…

【村中入会】より

… 入会林野の利用の内容は村法として規定される。〈山の口明(くちあけ)〉に始まる利用期間が定められ,自給用の採草(肥料,飼料),薪炭採取に限られる。用水施設の土木用材,自家建築用の用材,屋根のための萱などとしての利用も,村を枠組みにした自給自足の生産・生活にともなう村仕事として行われる。…

※「肥料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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