デジタル大辞泉
「試薬」の意味・読み・例文・類語
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し‐やく【試薬】
(一)〘 名詞 〙 化学分析、薬品試験、薬品検査、試料調整などに用いる化学薬品の総称。無機化合物からなる無機試薬、有機化合物からなる有機試薬に大別される。試験薬。
(一)[初出の実例]﹁水中の土塩等の物は試薬を点じ﹂(出典‥舎密開宗︵1837‐47︶外)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
試薬
しやく
reagent
化学的方法による物質の検出や定量に用いられる特定の純度の薬品類をいう。試薬はJIS(ジス)︵日本工業規格︶の規定による性質、品位、試験方法の規格に従い、特級、一級および特殊の3等級に分類され、前二者は純度の程度を示し、特殊試薬とはアルカリ分析用、水素イオン濃度︵pH︶用など特定の目的にのみ用いる試薬をいう。試薬特級は一般の化学分析や精密実験などにそのまま使用できる程度の純度のもので、試薬一級は普通の化学実験に用いることのできる程度のものである。それ以下の純度のものを工業薬品という。
﹇成澤芳男﹈
試薬特級以上の純度を有し、主として容量分析の基準として用いられる標準試薬が認定されていて、使用にあたっての取扱い条件等がJISで定められている。標準試薬として用いられるものは塩化ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、スルファミン酸︵アミド硫酸︶、炭酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、亜鉛、銅、三酸化二ヒ素︵酸化ヒ素(Ⅲ)︶、二クロム酸カリウム、フタル酸水素カリウムの11種である。標準試薬にはこれらのほかpH標準用、元素分析用、熱量測定用などがあるが、普通、標準試薬という場合は前述の11種をさす。なお、1966年︵昭和41︶のJISの改訂で、フタル酸水素カリウムはpH標準試薬に入れられ、容量分析の標準試薬から外された。
﹇成澤芳男﹈
標準試薬を正確に秤量(ひょうりょう)し、水で一定容積に希釈して調製した溶液を一次標準溶液といい、標準試薬以外の試薬から調整した試薬溶液を、この一次標準溶液を用いて標定(滴定で用いる標準溶液の濃度を正確に測定すること)して二次標準溶液を得る。容量分析全般には二次標準溶液が多く用いられる。なお水に溶けない標準試薬としては金属の銅と亜鉛がある。たとえば亜鉛は、標準試薬の亜鉛を正確に秤量したのち塩酸に溶解し、過剰の塩酸を追い出したあと一定容積に希釈して一次標準溶液を得る。
[成澤芳男]
炭酸ナトリウムの一次標準溶液を用い中和滴定による標定で塩酸、硫酸の二次標準溶液が得られ、これから水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのアルカリ標準溶液が得られる。アルカリ標準溶液は一次標準試薬のスルファミン酸またはフタル酸水素カリウムを用い、標定しても得られる。酸化還元反応を利用するものとしては、シュウ酸ナトリウムの一次標準溶液を用い、酸化還元滴定により過マンガン酸カリウムの二次標準溶液が得られ、これを用いてシュウ酸や鉄(Ⅱ)の二次標準溶液を標定により得る。また、ヨウ素酸カリウムの一次標準溶液を用い、酸化還元反応によりチオ硫酸ナトリウムの二次標準溶液を得、これを用いてさらに種々の二次標準溶液を得る。沈殿反応を利用するものとしては、塩化ナトリウムの一次標準溶液を用いて硝酸銀の二次標準溶液が得られ、さらにこの硝酸銀標準溶液を用いてチオシアン酸カリウムの二次標準溶液が得られる。また、キレート生成を利用するものとして、亜鉛の一次標準溶液からキレート滴定により、EDTA︵エチレンジアミン四酢酸︶の二次標準溶液を得る。
﹇成澤芳男﹈
金属イオンの分析いわゆる無機分析に使用される有機試薬は、非常に多く種々さまざまで、比色分析に利用されるもの、沈殿反応に利用されるもの、溶媒抽出に利用されるもの、点滴分析に利用されるものなどである。よく知られている有機試薬としてジメチルグリオキシムがあり、これはニッケル(Ⅱ)、パラジウム(Ⅱ)、白金(Ⅱ)と有色キレートの沈殿を生成し、このキレートは非水溶媒に抽出されるので、ニッケル、パラジウム、白金の分離定量に対する特異試薬である。このような目的に用いられる試薬はほとんどがキレート試薬で、濃い色のキレート化合物を生成するので、比色分析とか点滴分析に利用されるものが多い。
無機分析に用いられる無機試薬は、有機試薬に比べて種類はずっと少ない。これらのうちでは沈殿反応に利用されるものが圧倒的に多く、そのほかには錯イオン生成に利用されるもの、有色の錯イオン生成により比色定量に利用されるものなどがある。表には一般用試薬、特定用途試薬、標準試薬・標準液︵標準溶液︶という観点からまとめたものを示す。表中GRはguaranteed reagentの略で保証付試薬を、EPはextra pureの略で最純を、CPはchemical pureを意味している。しかしこれらの表示のうち、あるものは試薬業者独自の基準のものもあるので、正式にはJIS規格等による品質保証された試薬を目的に応じて使用するのが望ましい。工業薬品は普通、試薬とは表示されない。
﹇成澤芳男﹈
﹃大西寛・束原巌著、日本分析化学会編﹃機器分析実技シリーズ 吸光光度法――無機編﹄︵1983・共立出版︶﹄▽﹃上野景平・今村寿明著﹃試薬便覧﹄︵1983・南江堂︶﹄▽﹃東京化成工業編﹃取り扱い注意試薬ラボガイド﹄︵1988・講談社︶﹄▽﹃大木道則他編﹃化学大辞典﹄︵1989・東京化学同人︶﹄▽﹃日本分析化学会編﹃定量分析﹄︵1994・朝倉書店︶﹄▽﹃日本化学会編﹃実験化学ガイドブック﹄︵1996・丸善︶﹄▽﹃日本分析化学会編﹃分析化学実験ハンドブック﹄︵1997・丸善︶﹄▽﹃厚生省医薬安全局薬事研究会監修、増井俊夫著﹃GMPテクニカルレポート7 医薬品等の品質保証に係わる精度管理﹄︵1998・薬業時報社︶﹄▽﹃浅田誠一・内出茂・小林基宏著﹃図解とフローチャートによる定性分析﹄第2版︵1999・技報堂出版︶﹄▽﹃日本試薬協会編﹃試薬ガイドブック﹄改訂第3版︵2003・化学工業日報社︶﹄
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試薬 (しやく)
reagent
特定の規格に合致する純度を有する,試験・研究用の化学薬品の総称。化学試薬chemical reagentともいう。保健衛生,治療などの目的に供せられる医薬品とは区別される。試薬はその形態から,固体試薬,液体試薬,気体試薬およびこれらから調製した溶液に分類される。市販の試薬は容器のラベルによって,毒薬︵黒地に白文字︶,劇薬︵白地に赤文字︶,低毒性ないし無毒試薬︵白地に黒文字︶のように識別できる。また,無機化合物,有機化合物の別によって無機試薬,有機試薬のように呼ぶこともある。20世紀後半における分析用有機試薬の研究の進歩発展はとくにめざましく,高感度,高選択性のすぐれた機能をもつ特殊有機試薬が続々と開発,使用されている。さらに使用目的に応じ,沈殿試薬,比色︵吸光光度定量︶試薬,溶媒抽出試薬,合成用試薬などの分類や,指示薬,緩衝液,乾燥剤,吸着剤,溶媒,洗浄剤などの別がある。
試薬には,特定の基準による純度規格が定められており,使用に際しては目的に最も適した純度のものを選ぶ必要がある。日本では,日本工業規格︵JIS︶による特級,1級,特殊試薬の3種の規格がある。すなわち,試薬特級はきわめて高純度で,︿分析用﹀︿保証付︵G.R.︶﹀とよばれるものに相当する。試薬1級は特級より純度が劣るが,研究実験用の試薬として十分使用でき,︿最純︵E.P.︶﹀︿化学用最純︵C.P.︶﹀とよばれるものに相当する。特殊試薬には,たとえば無ヒ素亜鉛,無リン塩化鉄︵Ⅲ︶,無ヒ素塩酸,ケイ酸塩分析用炭酸カルシウム,白金器具洗浄用海砂︵かいしや︶などがある。これらのほかに,容量分析の一次標準に用いる試薬について︿標準試薬﹀の規格があり,純度99.95~99.995%が要求されている。標準試薬には,亜鉛Zn,塩化ナトリウムNaCl,三酸化二ヒ素︵通称,亜ヒ酸As2O3︶,二クロム酸カリウムK2Cr2O7,シュウ酸ナトリウムNa2C2O4,アミノ硫酸︵通称,スルファミン酸HOSO2NH2︶,炭酸ナトリウムNa2CO3,銅Cu,フッ化ナトリウムNaF︵無水︶,ヨウ素酸カリウムKIO3,フタル酸水素カリウムKHC6H4︵COO︶2などがある。また,まだ種類は多くないが︿超高純度試薬﹀と称される一群の試薬がシュプラプールSpurapur︵西ドイツのメルクE.Merck社︶,ウルトレックスUltrex︵アメリカのベーカーJ.T.Baker社︶などの商品名で市販されているが,痕跡不純物の量においてJIS特級レベルの試薬とは格段の差があり,標準試薬よりもさらに高純度である。試薬エチルアルコール,塩化ナトリウム,火薬類安定度試験用試薬,容量分析用標準試薬などには,国家が強制官封する︿官封試薬﹀の規格がある。試薬1級以上の純度の試薬には,ラベルにその規格に合致する純度検定のデータが明記されており,最低純分含量assay minimum,不純物含量の許容上限,溶解性,灰分含量などのほか,比重,沸点,融点などの記載がある。JISのほかに,︿日本薬局方﹀︿化学用純﹀︿工業薬品﹀など種々の純度の試薬が市販されている。
そのほか,透明度限界を示す紫外部吸収端波長︵カットオフ波長︶を明記した吸収スペクトル測定用超高純度溶媒,規定液調製用原液アンプル,種々の指定濃度をもつ標準溶液,pH標準緩衝液などが市販されている。また,化学分析や各種試験の信頼性・性能のチェックに利用される成分・組成既知の︿標準試料﹀が種々提供されている。
試薬を扱う場合は,その吸湿性,潮解性,風解性,二酸化炭素・空気による変質,光・熱の影響,実験室蒸気,塵埃︵じんあい︶などの混入に注意し,密封保存,冷暗所保存など細心の配慮が必要である。低沸点液体や気体試薬では圧力の変化,リークなどへの注意がさらに要求される。
→有機試薬
執筆者‥藤本 昌利
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
試薬
シヤク
reagent
化学的な実験,試験,検査など,あるいは試料の調整などに用いられる物質に与えられる名称.化学薬品ともいわれ医薬品と区別される.それらのうち,無機化合物を無機試薬,有機化合物を有機試薬という.1951年,JIS試薬が工業標準化法に従って135種類について純度を規定した(1985年には748種類).その後,JIS K 8001試薬通則によって,試薬は3種類(特級,一級,特殊)に区別された.個々の試薬によって,それぞれ不純物の限度が異なっている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
試薬【しやく】
化学的方法による物質の検出,定量のための反応や研究・教育のための実験などに用いる,標準的な品位と純度をもった化学薬品。一般用試薬と,特殊成分の定性・定量分析などに用いられる分析試薬︵たとえばアンモニアを検出するネスラー試薬など︶がある。市販品はJIS規格によって試薬特級,試薬一級,特殊試薬が規定され,それぞれの純度が定められている。
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の試薬の言及
【薬】より
…これら化学薬品のうち,その生物活性の面で人間の疾病の治療や予防に用いられるものが医薬品=くすりであり,農業生産を阻害する害虫や微生物や雑草の激増を阻止するものが[農薬]である。その他臨床検査に使用される試薬類,化学薬品の定性試験や定量試験に用いられる試薬類も化学薬品の一つである。 一方,医薬品という点からみれば,上記のような化学薬品のほかに,動植物など天然産のものをそのまま,あるいは若干加工して用いる生薬が含まれる。…
※「試薬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」