山下洋輔の新刊エッセイ﹁ピアノ弾き即興人生﹂を読んだら、おもしろいくだりがあった。 音楽を職業としていると、どうしても音楽を普通に聴くことはできなくなる。それゆえテレビから流れるちょっとした音楽にも苛立ってしまうというお話。どんな音楽であれ、耳に入ってくると、つい批評したり、なにかをそこから学ぼうとしてしまうという。落語やNHKの﹁ラジオ深夜便﹂といった人の言葉を誘眠剤代わりに聴くときがあるけれど、音楽ではそうはいかない、眠るどころではないらしい。 たとえば、昔の歌謡曲でも、六〇年代ヒットパレードでも、モーツァルトでも、聴こえたとたんに神経がピリピリする。﹁そうか、こういう風に曲を作っていたのか﹂﹁この編曲はどうなっているのか﹂﹁この曲が作られた背景にはどういう社会的音楽的状況があったのだろう﹂などと要らぬ考えに迷い込む。そのうち、自分の知識の無さに情けなくなったりして、安らかに眠るどころ