更改
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
概説
債権譲渡等との比較
更改は以下の点で、債権譲渡、代物弁済、準消費貸借と区別される。
債権譲渡
債権者の交替による更改と債権譲渡は債権者が変更される点は同じであり、債務者の交替による更改と免責的債務引受は債務者が変更される点は同じであり、目的の変更による更改は︵実務上しばしば用いられる、債権の同一性を変更する意思のない︶変更契約とは、債権の目的が変更される点は同じであるが、いずれも、更改においては新債権と旧債権の同一性がないのに対して後者においては債権の同一性がある点で区別される。
代物弁済
代物弁済とは、弁済以外の債権の消滅原因であり、かつ、債権者が何らかの対価を取得する点は同じであるが、何らかの代替的な給付がなされるわけではなく新たな債権が発生する点において、代替的な給付がなされて新たな債権が発生することのない代物弁済とは区別される。
準消費貸借
消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは、消費貸借は、これによって成立したものとみなされ︵準消費貸借︶、これも更改とは区別される。
更改の種類
当事者が変更される場合︵法域によっては主観的更改︵subjective novation︶と呼ばれる。︶と債権の目的︵内容︶のみが変更される場合︵法域によっては客観的更改︵objective novation︶と呼ばれる。︶に分類される。
以下、日本の民法における規定における分類について概説する。
債権者の交替による更改
歴史的には、ローマ法においては債権は﹁法の鎖﹂とする考え方から債権譲渡が認められなかったため、その代替手段として用いられていた。日本法においては、債権者の交替による更改は、確定日付のある証書によってしなければ、第三者に対抗することができない︵515条︶。また、債権者の交替による更改には、異議を留めない承諾︵468条1項︶が準用されるため︵516条︶、債務者が異議をとどめないで承諾をしたときは、旧債権者に対抗することができた事由があっても、これをもって新債権者に対抗することができない︵第468条1項前段︶。また、債務者がその債務を消滅させるために旧債権者に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、旧債権者に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる︵第468条1項後段︶。もっとも、債権譲渡が認められるため、実務的に用いられることはまずない。
債務者の交替による更改
日本法においては、債務者の交替による更改︵514条︶は、債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。ただし、更改前の債務者の意思に反するときは、この限りでない。免責的債務引受けが認められるため、実務的に用いられることはまずない。
目的の変更による更改
債権の目的︵内容︶のみが変更される場合もある。513条2項において、以下の行為は債務の要素の変更とされ、その債務は、更改によって消滅するものとされている。もっとも、この規定は極めて限定的に解されており、当事者が更改と明示しなかったにもかかわらず実際に適用されることは考えにくい。
●条件付債務を無条件債務にしたとき
●無条件債務に条件を付したとき
●債務の条件を変更したとき
なお、以前は﹁債務ノ履行二代ヘテ為替手形ヲ発行スル﹂場合も債務の要素の変更にあたると規定されていたが、更改の性質からも手形の性質からも理に反するものと批判され、通説では手形の発行は﹁履行のために﹂なされるもので、﹁履行に代えて﹂発行される場合は代物弁済と解されていたため、平成16年改正により削除された[2]。
更改の効果
更改によって旧債務は消滅しこれと同一性のない新債務が成立する︵513条1項︶[3]。
旧債務の消滅と新債務の成立は因果関係を有するから、旧債務がもともと存在しない場合には更改契約は無効である[3]。また、原則として新債務が成立しない場合には旧債務は消滅しないはずであるが[3]、517条は﹁更改によって生じた債務が、不法な原因のため又は当事者の知らない事由によって成立せず又は取り消されたときは、更改前の債務は、消滅しない﹂と規定しており︵517条︶、この規定から例外的に新債務が不法の原因以外の当事者の知っていた事由によって成立せず又は取り消された場合でも旧債務は消滅することになる[4]︵517条反対解釈︶。
更改により旧債務は消滅するので旧債務のために存在していた人的担保や物的担保はすべて消滅する[3]。ただし、質権及び抵当権については518条に特則があり[3]、更改の当事者は、更改前の債務の目的の限度において、その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。この場合、第三者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない︵518条︶。旧債務で存在した抗弁権も新債務には伴わない︵大判大2・10・10民録19輯764頁︶[3]。ただし、債権者の交替の場合には516条に特則があり[3]、第468条1項が準用されるため、債務者が異議をとどめないで承諾をしたときは、旧債権者に対抗することができた事由があっても、これをもって新債権者に対抗することができない︵第468条1項前段︶。また、債務者がその債務を消滅させるために旧債権者に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、旧債権者に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる︵第468条1項後段︶。
なお、更改は連帯債務の絶対的効力事由の一つである。連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する︵435条︶。90万円の連帯債務の場合、連帯債務者A・B・CのうちAが債権者Dと自動車の引渡債務に債務の目的を更改したときには、特約がない限りこれによってBとCも債務を免れる︵AはBとCのそれぞれの負担部分に応じて求償できる︶[5]。民法435条は当事者間の法律関係の決済を簡易にする趣旨あるいは当事者の意思を推測した規定であるが[5]、債権の消滅を容易にして債権の効力を弱める結果となるため、債権の効力を強めるはずの連帯債務の本来の要請に反するという批判がある[5]。なお、435条は任意規定であるから更改当事者間の特約で相対的効力とすることもできる︵通説︶[5]。
脚注
- ^ a b c d e f 我妻榮、有泉亨、清水誠、田山輝明『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権 第3版』日本評論社、2013年、947頁。
- ^ 我妻榮、有泉亨、清水誠、田山輝明『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権 第3版』日本評論社、2013年、949頁。
- ^ a b c d e f g 遠藤浩編著 『基本法コンメンタール 債権総論 平成16年民法現代語化新条文対照補訂版』 日本評論社〈別冊法学セミナー〉、2005年7月、234頁
- ^ 遠藤浩編著 『基本法コンメンタール 債権総論 平成16年民法現代語化新条文対照補訂版』 日本評論社〈別冊法学セミナー〉、2005年7月、235頁
- ^ a b c d 遠藤浩編著 『基本法コンメンタール 債権総論 平成16年民法現代語化新条文対照補訂版』 日本評論社〈別冊法学セミナー〉、2005年7月、109頁