カルメン (オペラ)

1875年にジョルジュ・ビゼーが作曲したフランス語によるオペラ

カルメン』(Carmen)は、ジョルジュ・ビゼーが作曲したフランス語によるオペラである。世界でもっとも人気のあるオペラの一つとされる[1]。声楽抜きでオーケストラのみによる組曲もコンサートや録音で頻繁に演奏されている。

メディア外部リンク
カルメン(全曲を試聴)
音楽・音声
アルコア版の録音 - テレサ・ベルガンサ(カルメン)、プラシド・ドミンゴ(ドン・ホセ)、シェリル・ミルンズ(エスカミーリョ)ほか、クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団Universal Music Group提供YouTubeアートトラック
ギロー版の録音 - レオンティン・プライス(カルメン)、フランコ・コレッリ(ドン・ホセ)、ロバート・メリル(エスカミーリョ)ほか、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団Sony Classical提供YouTubeアートトラック
映像
アルコア版の映像 - Irena Parlov(カルメン)、Javier Agulló(ドン・ホセ)、Vicente Antequera(エスカミーリョ)ほか、Ricardo Casero指揮Orquesta Reino de Aragón、Halidon Music公式YouTube

本項ではオペラの他に、バレエやミュージカルといった舞台作品についても記載する。

概説

編集
 
ジョルジュ・ビゼー

4[1]

187533[1][2]調64José

1964Alkor-Edition[]使

2000de:Michael RotA:

登場人物

編集
  • カルメン(メゾソプラノまたはソプラノ)- タバコ工場で働くジプシーの女
  • ドン・ホセ(テノール)- 竜騎兵長
  • ミカエラ(ソプラノ)- ドン・ホセの婚約者
  • エスカミーリョ(バリトン)- 闘牛士
  • スニガ(バス)- 衛兵隊長、ドン・ホセの上官
  • モラレス(バリトンまたはテノール)- 士官
  • ダンカイロ(バリトンまたはテノール) - 密輸商人
  • フラスキータ(ソプラノ)- カルメンの友人
  • メルセデス(メゾソプラノ、ただしソプラノとする楽譜もある)- カルメンの友人
  • レメンダード(テノール)- ダンカイロの仲間

以降は版によって増減される。

  • リリャス・パスティア(台詞役)- 居酒屋の主人
  • 山のガイド(台詞役)
  • 中尉(バス)
  • アンドレス(テノール)
  • オレンジ売りの女(メゾソプラノ)
  • ジプシー男(バリトン)
  • 合唱

楽器編成

編集

フルート2(2本ともピッコロ持ち替え)、オーボエ2(2番はコーラングレ持ち替え)、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、コルネット2、トロンボーン3、ティンパニトライアングルタンブリン大太鼓シンバル小太鼓ハープ弦五部(14型)

  • なお、オーケストラ内のコルネットは舞台上のバンダとしても使用される(第2幕・第4幕)。

上演時間

編集

約2時間40分(カットなしで各55分、45分、40分、20分)

あらすじ

編集
 
セビリアの旧タバコ工場、現在は大学になっている。

第1幕

編集

1820年ごろのセビリヤ。昼休みに広場に現れたタバコ工場の女工たちに、男たちが言い寄るが、カルメンは全く相手にしない。カルメンは、女工たちに興味を示さない衛兵の伍長ドン・ホセに花を投げつけ、気を引こうとする。ホセの婚約者であるミカエラが現れ、ホセに故郷の彼の母親からの便りを届ける。セビリアの煙草工場でジプシーの女工カルメンはけんか騒ぎを起こし、牢に送られることになった。しかし護送を命じられた竜騎兵伍長のドン・ホセは、カルメンに誘惑されて彼女を逃がす。パスティアの酒場で落ち合おうと言い残してカルメンは去る。

第2幕

編集

1ヶ月後、カルメンを逃がした罪で牢に入れられていたホセが、釈放される。カルメンが、友人二人(メルセデスとフラスキータ)、衛兵隊長スニガと酒場で歌い踊っていると、花形闘牛士エスカミーリョが現れ、カルメンの気を引く。釈放されたホセが酒場に着くと、カルメンはホセのために歌って踊り、密輸団の仲間になるよう誘う。カルメンの色香に迷ったドン・ホセは、婚約者ミカエラを振り切ってカルメンの元に行き、上司とのいさかいのため密輸をするジプシーの群れに身を投じる。しかし、そのときすでにカルメンの心は闘牛士エスカミーリョに移っていた。

第3幕

編集

冒頭で、ジプシーの女たちがカードで占いをする。カルメンが占いをすると、不吉な占いが出て結末を暗示する。密輸の見張りをするドン・ホセを、婚約者ミカエラが説得しに来る。闘牛士エスカミーリョもやってきて、ドン・ホセと決闘になる。騒ぎが収まったあと、思い直すように勧めるミカエラを無視するドン・ホセに、ミカエラは切ない気持ちを一人独白する。カルメンの心をつなぎとめようとするドン・ホセだが、カルメンの心は完全に離れていた。ミカエラから母の危篤を聞き、ドン・ホセはカルメンに心を残しつつ、盗賊団を去る。

第4幕

編集

ホセが盗賊団を去って1ヶ月後、エスカミーリョとその恋人になっているカルメンが闘牛場の前に現れる。エスカミーリョが闘牛場に入ったあと、一人でいるカルメンの前にドン・ホセが現れ、復縁を迫る。復縁しなければ殺すと脅すドン・ホセに対して、カルメンはそれならば殺すがいいと言い放つ。そんなホセの執拗な言動にカルメンは業を煮やし、以前彼からもらった指輪を外して投げつける。逆上したドン・ホセがカルメンを刺し殺し、その場で呆然と立ちつくす。

  • 一般的には上述の全4幕とされるが、3幕4場とすることもある。この場合は山中の密輸団のシーンが第3幕第1場、最後の闘牛場のシーンが第3幕第2場となる。

主要曲

編集
 
音楽・音声外部リンク
  齋藤秀雄指揮、新交響楽団演奏(日本コロムビア社発売)
カルメン第3幕への間奏曲 - 歴史的音源(国立国会図書館デジタルコレクション
  • 第3幕への間奏曲
    • フルートソロの長い旋律が特徴である。最高音のB♭6は「カルメンB♭」と呼ばれ、通常よりわずかにピッチの異なる特殊な指遣いで演奏される。
  • カルタの歌
  • ミカエラのアリア
  • 第4幕への間奏曲「アラゴネーズ」

など

抜粋・編曲作品

編集
 
カルメンの石板画

第1幕への前奏曲が独立した管弦楽曲として演奏される機会が多いほか、それを含む前奏曲、間奏曲、アリアなどを抜粋編曲した組曲や独奏曲も演奏される。

ホフマン版組曲

編集

一般的に『カルメン』組曲として知られているのは、ギローの手による編曲でシューダンス社から刊行された、またオーストリアの音楽学者フリッツ・ホフマンがギローの補作をもとにほぼ同じ選曲をしてブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から刊行された「第1組曲」と「第2組曲」である。

第1組曲
前奏曲と間奏曲を中心に構成される。「セギディーリャ」のみカルメンの歌をオーケストラ単独用に編曲したもの。
  • 前奏曲〜アラゴネーズ(第1幕への前奏曲の後半部分、第4幕への間奏曲)
  • 間奏曲(第3幕への間奏曲)
  • セギディーリャ
  • アルカラの竜騎兵(第2幕への間奏曲)
  • 終曲(闘牛士)(第1幕への前奏曲の前半部分)
第2組曲
アリアや合唱入りの曲をオーケストラ単独用に編曲した6曲で構成される。
  • 密輸入者の行進
  • ハバネラ
  • 夜想曲(ミカエラのアリア)
  • 闘牛士の歌
  • 衛兵の交代(子どもたちの合唱)
  • ジプシーの踊り

ビゼー自身によるものでないこともあり、指揮者によっては演奏順を変えたり、第1・第2組曲を1つの組曲として演奏したり、2つの組曲から適宜選曲してオリジナルの組曲を編むことも自由に行われている。入手しやすいCDで上述の曲順通りに演奏しているものは、シャルル・デュトワ指揮・モントリオール交響楽団だけである。レナード・バーンスタイン指揮・ニューヨーク・フィルハーモニックの演奏は上述の全曲を収録しながら、第1組曲にて一部の曲順を入れ替えている(第1組曲を締めくくるはずの「闘牛士」=第1幕への前奏曲の前半部分を、組曲の冒頭へ持ってきている。そのためバーンスタイン盤の第1組曲は「アルカラの竜騎兵」にて締めくくられる)。

シチェドリン版『カルメン組曲』

編集

196713使3

ppppp調

編曲の経緯

編集

1967年に『カルメン』をモチーフにしたバレエが上演されることになり、主演のプリマドンナだったマイヤ・プリセツカヤは最初ショスタコーヴィチに、次いでハチャトゥリアンに編曲を依頼したが、両者とも「ビゼーの祟りが怖い」という理由で断り、仕方なくプリセツカヤの夫であったシチェドリンが編曲することになった。肝心のバレエの初演はブレジネフらの横槍もあって大失敗したが、のちに国外で評価されるようになった。

構成

編集

シチェドリン版と原曲とでは名前に差異がある。英語がシチェドリン版での曲名で、日本語が原曲の該当する部分である。

  • Introduction:ハバネラ
  • Dance:アラゴネーズ
  • First Intermezzo:カルメンの登場の待ち望む男たちの場(第1幕)
  • Changing of the Guard:アルカラの竜騎兵
  • Carmen's Entrance And Habanera:カルメンが登場した場面とハバネラ
  • Scene:第2幕の幕切れの一部(スニガが密輸業者に捕えられる場面)→タバコ工場から女性工員が出てくる場面→セキディーリャ
  • Second Intermezzo:第3幕への間奏曲
  • Bolero:ファランドール(『アルルの女』より)の一部
  • Torero:闘牛士の歌
  • Torero and Carmen:ジプシーの踊り(『美しきパースの娘』より)
  • Adagio:第1幕前奏曲後半と「花の歌」
  • Fortune-telling:カルタ占いの場
  • Finale:行進曲と合唱→ドン・ホセとカルメンの二重唱の手前の場面→第2幕フィナーレより→ドン・ホセとカルメンの二重唱→運命のテーマ→カルメンの最初のセリフの場面→Introduction

演奏時間

編集
  • 約45分(スコアの表記による)

楽器編成

編集

翻案

編集

マシュー・ボーンによるバレエ作品『ザ・カーマン』はこの編曲に基づいているが、物語は『カルメン』とは異なる[3]

グールド版『カルメン』

編集

モートン・グールドが全曲から20曲の名旋律を取り出し、自身による編曲を施した演奏時間50分弱の抜粋版を作っている。グールド版は組曲ではなく「オペラの短縮版」と位置づけられており、声楽部分はコルネットバリトン(バリトン・ホルン)各2に割り当てられている。

構成

編集
  • 前奏曲
  • プロローグ
  • 街の子供たち
  • タバコ工場の女たち
  • ハバネラ
  • 手紙の場
  • セギディーリャ
  • アルカラの竜騎兵
  • ジプシーの踊り
  • 闘牛士の歌
  • タンブリンの歌
  • 花の歌
  • 第3幕への間奏曲
  • 密輸入業者の行進
  • カルタ占いの場
  • ミカエラのアリア
  • アラゴネーズ
  • 行進曲と合唱
  • 二重唱(ドン・ホセとカルメン)
  • フィナーレ

セレブリエール版『カルメン交響曲』

編集

ホセ・セレブリエールが全曲から12の場面を選んで管弦楽のために再構成した。

構成

編集
  • 前奏曲
  • 騎兵隊
  • ハバネラ
  • セギディーリャ
  • フガート
  • 間奏曲1
  • 闘牛士
  • 間奏曲2
  • アンダンテ・カンタービレ
  • 間奏曲3
  • 結婚式
  • ジプシーの踊り

その他

編集

『カルメン』の名旋律を使った『カルメン幻想曲』と呼ばれる作品がいくつかある。

また、ヨハン・シュトラウス2世の弟エドゥアルト・シュトラウス1世が名旋律をたばねたカドリールを作曲している。『カルメン』の上演が初めて成功したのは1879年ウィーンでの上演だとされており、その人気にあやかったものと言われている。

ほかに、ピアニストのウラディミール・ホロヴィッツが『カルメンの主題による変奏曲英語版』を作曲している(正確には、モーリッツ・モシュコフスキによる『ジプシーの歌』の編曲を基にしている)。

メリメ原作『カルメン』からの改変について

編集











調姿











使



演出について

編集
  • モブ(群集)シーンが多いことが特徴として挙げられる。
    • 第1幕 タバコ工場の女工達&それに群がる男たち
    • 第2幕 酒場の客
    • 第3幕 密輸団
    • 第4幕 闘牛士の一団と観客たち
  • 劇中にフラメンコ舞踏を挿入する演出が頻繁に行われる。2幕冒頭や4幕前の間奏曲にあわせて踊ることが多く、また、オリジナルにはないフラメンコ用の曲を挿入して見せ場とする場合もある。
  • 4幕の闘牛士一団の行進のシーンは劇中でもっとも盛り上がる場面のひとつであり、メトロポリタン歌劇場などの大劇場では、豪華絢爛な衣装を身に着けた多数の闘牛士と、本物の馬をも多数動員した、大がかりな演出が行われる。一方、予算の限られた小公演では、このシーンを低コストでどのように作り上げるのかが大きな課題となる。

旧作や既成楽曲からの転用・流用

編集
  • 「第3幕への間奏曲」は劇付随音楽『アルルの女』から転用された。
  • 「ミカエラのアリア」は未完のオペラ『グリゼリディス』のためのアリアから転用された。
  • 現行版の「ハバネラ」は、初演のカルメンを演じたセレスティーヌ・ガッリ=マリエ英語版(1840年 - 1905年)の要請で急遽書かれたものである。彼女が一番の見せ場にしてはあまりに淡白なビゼーの原曲に難色を示したためである。結局、ビゼーは13回もの書き直しを余儀なくされた。しかし慣れないビゼーは急場の仕事と相まって、ガッリ=マリエが勧めるままに、スペインの作曲家セバスティアン・イラディエル(1809年 - 1865年)の "El Arreglito" を、キューバの曲と知らぬまま流用してしまった。

日本におけるカルメン劇

編集

19198[4][5]8119187319198122[6]

1922113[7][5]


備考

編集
 
ガッリ=マリエが扮するカルメン

バレエ

編集

プティ版

編集

ビゼーの音楽を使用し、ローラン・プティによる振り付けによるものが1949年にロンドンのプリンス劇場 (Shaftesbury Theatreで初演されている[1]

アロンソ版

編集

アルベルト・アロンソ英語版の振付、ロディオン・シチェドリンの編曲による『カルメン組曲』が1967年、モスクワのボリショイ劇場で初演されている[1]。カルメン役はマイヤ・プリセツカヤが演じた。

エック版

編集

マッツ・エックの振り付けで、シチェドリン編曲の「カルメン組曲」を用いたものが1992年にクルベリ・バレエ団 (Cullberg Balletで初演されている[8][9]

ミュージカル

編集

カルメン・ジョーンズ

編集

1943[10][10]

1954:Carmen Jones

東宝ミュージカル

編集

19891999[11]

ワイルドホーン版

編集

200810

2014613 - 629 [12]JKim寿

Calli(カリィ)〜炎の女カルメン〜

編集

TS2008[13]

Romale(ロマーレ)〜ロマを生き抜いた女 カルメン〜

編集

Calli2018KENTARO[14]

宝塚歌劇

編集

ドン・ホセの一生

編集

[15][16] [15][15][16]1971227324[15]20[15]



[15]

[15][15][15]

[15]

[15][15]

[15]

[15]

[15]

[15]

[15]

[15]

[15]

[15]



[17]

[17]

[17]

[17]

[17]

[17]

[17][17]

[17]

19711091018[16]

1971313[15][15][15][15][15]

激情-ホセとカルメン-

編集

1999年初演、メリメの小説「カルメン」をモチーフとし、脚本は柴田侑宏 演出・振付は謝珠栄による[18]

FREEDOM ミスター・カルメン

編集

2000[19][20]

日本舞踊

編集

20182018寿[21]19872003 2003[21]

脚注

編集


(一)^ abcde"".  . 2023108

(二)^  NHK201116ISBN 978-4-14-088350-1 

(三)^ Sulcas, Roslyn (2015723). Review: Suspense and Charisma in The Car Man in London (). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2015/07/24/arts/international/review-suspense-and-charisma-in-the-car-man-in-london.html 2020323 

(四)^ . "".  (). 2023103

(五)^ ab 1990, p. 160.

(六)^  1990, p. 159.

(七)^  1990, p. 159-160.

(八)^ " ". 2016. 2023103

(九)^ . . 2023103

(十)^ ab"". . 2023103

(11)^ 

(12)^ .  . 2023103

(13)^ Calli() .  . 2023105

(14)^ Romale.  (2018323). 2023105

(15)^ abcdefghijklmnopqrstuvwxy60 1974, p. 105.

(16)^ abc90 2004, p. 297.

(17)^ abcdefghi60 1974, p. 104.

(18)^ . . 2023105

(19)^ FREEDOM . . 2023105

(20)^ FREEDOM . . 2023105

(21)^ abW.  (2018622). 2023105

参考文献

編集

 60 101974 

 90 2004ISBN 4-484-04601-6 

 :  :  :  10(2)2004 NAID 110004670703 

 :  :  11(1)2005 NAID 110004500184 

 1990510ISBN 4874630952 

外部リンク

編集