ブラキラエナ・フイレンシス
(ムフフから転送)
ブラキラエナ・フイレンシス[2](Brachylaena huillensis; シノニム: B. hutchinsii)はキク科の常緑高木の一種である。木材としてはムフフ(muhuhu)という名称で知られている[3]が、これはスワヒリ語における呼称である[4]。
ブラキラエナ・フイレンシス | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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![]() Brachylaena huillensis | |||||||||||||||||||||||||||||||||
保全状況評価[1] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
LOWER RISK - Near Threatened (IUCN Red List Ver.2.3 (1994)) ![]() | |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類(APG IV) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Brachylaena huillensis O. Hoffm. | |||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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英名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
silver oak, lowveld silver oak, Huilla brachylaena |
分類
編集ブラキラエナ・フイレンシスはアンゴラのウイラ州で採取された標本 Antunes 121[注 1] に基づき、ドイツの植物学者カール・アウグスト・オットー・ホフマンにより1902年[注 2]に記載が行われた。その後ケニア(当時はイギリス領東アフリカ)で採取された標本を基に1910年イギリスのジョン・ハッチンソンが Brachylaena hutchinsii の記載[注 3]を行ったが、後に B. hutchinsii はブラキラエナ・フイレンシスのシノニムとされた。
分布
編集特徴
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常緑高木であり[7]、樹高は通常10-18メートルであるが、例外的に30メートルまで伸びる場合も見られ、樹幹は幅60センチメートルにまでなる[4]。枝は急な上向きで樹冠が狭く、地上に近いところで枝分かれする[4]。鋸で切る際にすがすがしい香りがする[3]。以下は部位ごとに解説を行う。
樹皮は灰色と茶色を混ぜた色で、縦方向にひび割れが見られる[4]。
葉は狭楕円形からやや倒卵形、基部は楔形か漸先形︵英: attenuate︶で先端は短先鋭、葉縁は全縁か鋸歯状、3-12×1-4センチメートル︵ただし若木の場合は大きくなる傾向あり︶、外巻きである[7]。若枝の葉にはクリーム色の毛が見られ、成長した葉は白く下側に毛がある一方で上側には光沢が見られる[4]。
花は非常に小さく[4]白色か緑黄色で、頭状花が長さ2-3センチメートルの直立した腋生の円錐花序につく[7]。雄花と雌花は別々の木に見られる[4]。
雌に見られる種子のような見た目の果実︵痩果、英: achenes︶は円柱状か扁平で、基部に向かってある程度細くなっており、長さ2.8-4mm、5-8本の稜が走り、柔毛と顆粒を密生する[8]。
利用
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ムフフは堅く頑丈な木材として知られている[4][9]。木材の質に関しては耐衝撃性、つまり急激に衝撃が加えられた場合の抵抗力が極端に低く[3]、鋸で切断する際は木目に沿って割れやすい傾向が見られる[9]。剛性、つまり弾力性も低いが、一方で非常に重くて密度が高く、また圧縮強さ、つまり木口に加えられる荷重に耐える能力も高い[3]。曲げ強さ、つまり板材の両端に力を加えた際の割れにくさは中庸で、気乾比重は0.83から1.0まで幅があり、時間をかけてゆるやかに乾燥を行わないと干割れや木口割れを起こす恐れがあるが、一度乾燥さえさせれば安定する[3]。非常に堅いので彫刻や研磨は困難を極める一方、動物の姿を模した木彫り細工などの工芸品がムフフを用いて製作されている[3]。またホテルなど公共建築の寄木細工や工場・倉庫の床といった、人やフォークリフト等の重機が上を行き来する環境において床材として用いられる[3]。そのほかの用途としてはポールや柱、燃料としての活用が見られ[4]、ケニアのキクユ人もかつては集落の柵や、家の仕切りおよび屋根を支えるための棒として[9]、また薪として使用していた[10]。
一方、ケニアやタンザニアでムフフを用いた木彫り細工産業が盛んであることやモザンビークでムフフの切り出しが増加していることは、種の存続に対する懸念材料としてIUCNから扱われている[1]。また日本の公益財団法人地球環境戦略研究機関国際生態学センターにより2005年12月から2007年9月にかけて行われた植生調査によると、ナイロビ市中心から15メートル圏内に位置する保護林であるカルーラ・フォレスト︵英: Karura Forest︶やンゴング・ロード・フォレスト︵英: Ngong Road Forest︶はケニア森林局によって管理がなされているにもかかわらず近隣住民による木の伐採や、薪として利用する行為、放牧された家畜による食害の例が見られ、特に有用木として認知されているブラキラエナ・フイレンシスに関しては伐採が行われた痕跡が多数見られた[11]。
なお精油も得られ、主要成分はα-アモルフェン︵α-amorphene︶をはじめカラメネン︵calamenene︶などと、いずれもセスキテルペン炭化水素類である[12]。
諸言語における名称
編集ケニア:
脚注
編集注釈
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(一)^ なおこの Antunes 121 の正基準標本︵ホロタイプ︶はベルリン=ダーレム植物園に所蔵されていたが現在は失われてしまっており、副基準標本︵アイソタイプ︶がイギリスのキュー王立植物園︵K000274031(GBIF)、断片︶とアンゴラの農業研究所︵ポルトガル語: Instituto de Investigação Agronómica︶に残るのみである[5]。
(二)^ 文献全体の出版年は1903年であるが、表紙の次のページの記述により、pp. 1–208 は1902年5月2日に刊行されたということが判る。
(三)^ この記載の際、Battiscombe 27 および Battiscombe 54 の2つの標本が用いられたが、後に Beentje (2000a:15) により標本番号54番の方が選定基準標本︵レクトタイプ︶として指定された。
出典
編集- ^ a b c d e World Conservation Monitoring Centre (1998).
- ^ a b Jeffrey (2005:256).
- ^ a b c d e f g h ウォーカー (2006).
- ^ a b c d e f g h i j k l Dharani (2002).
- ^ Beentje (2000a:15).
- ^ POWO (2019). "Plants of the World Online. Facilitated by the Royal Botanic Gardens, Kew. Published on the Internet; http://www.plantsoftheworldonline.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:186094-1 Retrieved 1 June 2021."
- ^ a b c d e Beentje (1994).
- ^ Beentje (2000b).
- ^ a b c Leakey (1977).
- ^ a b Benson (1964).
- ^ 林 (2007).
- ^ a b 東アフリカオイル図鑑(日本貿易振興機構 (ジェトロ)). 2018年10月12日閲覧。
- ^ a b Quattrocchi (2000).
参考文献
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英語・ラテン語:
●“Brachylaena huillensis O. Hoffm. n. sp.”. Botanische Jahrbücher für Systematik, Pflanzengeschichte und Pflanzengeographie 32: 149. (1903).︵本種の原記載文献。︶
ドイツ語・ラテン語:
●“Brachylaena Hutchinsii, Hutchison”. Bulletin of Miscellaneous Information: 126–7. (1910).︵シノニムの一つである Brachylaena hutchinsii の原記載文献。︶
英語:
●Benson, T.G. (1964). “mũhũgũ”. Kikuyu-English dictionary. Oxford: Clarendon Press. p. 174 NCID BA19787203
●Leakey, L. S. B. (1977). The Southern Kikuyu before 1903. III. London and New York: Academic Press. p. 1312. ISBN 0-12-439903-7. NCID BA10346810
●Beentje, H.J. (1994). Kenya Trees, Shrubs and Lianas. Nairobi, Kenya: National Museum of Kenya. ISBN 9966-9861-0-3
●World Conservation Monitoring Centre (1998). Brachylaena huillensis. The IUCN Red List of Threatened Species 1998: e.T33474A9786563. doi:10.2305/IUCN.UK.1998.RLTS.T33474A9786563.en, Downloaded on 1 June 2021.
●Beentje, H.J. (2000a). The genus Brachylaena (Compositae: Mutisieae). 55. 1–41. doi:10.2307/4117759. JSTOR 4117759
●Beentje, H.J., ed (2000b). Flora of Tropical East Africa: Compositae (Part 1). Rotterdam/Brookfield: A.A.Balkema. pp. 4–6. ISBN 90 6191 395 0. NCID BA50294982
●Quattrocchi, Umberto (2000). CRC World Dictionary of Plant Names: Common Names, Scientific Names, Eponyms, Synonyms, and Etymology, Volume I A – C. Boca Raton and London and New York and Washington, D.C.: CRC Press. p. 341 NCID BA46498107
●Dharani, Najma (2002). Field Guide to Common Trees & Shrubs of East Africa, p. 61. Cape Town: Struik Publishers. Rep. 2005. ISBN 1 86872 640 1
日本語:
●Jeffrey, C. (2005). “キク科”. In V.H. ヘイウッド 編、大澤雅彦 監訳. 花の大百科事典. 朝倉書店. ISBN 4-254-17114-5︵原書: Flowering Plants of the World, Andromeda Oxford Limited, 1993︶
●エイダン・ウォーカー 編 編、乙須敏紀 訳﹃世界木材図鑑﹄産調出版、2006年、60頁。ISBN 4-88282-470-1。︵原書: The Encyclopedia of Wood, Quarto, 1989 & 2005.︶
●林寿則﹁ケニヤ植生回復プロジェクト 経過報告﹂ ﹃JISE Newsletter: Information and Newsletter on JISE Activity﹄2007-10 Vol. 58, 1-4. ISSN 1341-1888
関連文献
編集英語:
- Mbuya, L.P.; Msanga, H.P.; Ruffo, C.K.; Birnie, Ann; Tengnäs, Bo (1994). Useful Trees and Shrubs for Tanzania: Identification, Propagation and Management for Agricultural and Pastoral Communities, pp. 132–3. Nairobi, Kenya: SIDA's Regional Soil Conservation Unit, RSCU. ISBN 9966-896-16-3 Accessed online 17 April 2018 via http://www.worldagroforestry.org/usefultrees
- Maundu, Patrick and Bo Tengnäs (eds.) (2005). Useful Trees and Shrubs for Kenya, p. 129. Nairobi, Kenya: World Agroforestry Centre—Eastern and Central Africa Regional Programme (ICRAF-ECA). ISBN 9966-896-70-8 Accessed online 17 April 2018 via http://www.worldagroforestry.org/usefultrees
関連項目
編集外部リンク
編集- A Guide to the Trees in Kenya Useful for Agroforestry. 2018年4月10日閲覧。
- World Agroforesty Centre. 2018年4月10日閲覧。