太古代
(原太古代から転送)
概要
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地球上に地質学的証拠が見つからないために冥王代と呼ばれている累代に次ぐ時代。この時代から地殻を構成する岩石が見つかりはじめる。まとまった岩石として最も古いのはカナダのスレーブクラトンのアカスタ片麻岩で約40億年前に形成されたものだが、この岩体は形成後に激しい変成作用を受けているため、当時の地球表層の環境を解読するのは困難である[4]。当時の地表の状況が判明できる最古の地層はグリーンランド西部、イスア地域のイスア緑色岩帯で、約38億年前のものである[5]。グリーンランド、カナダ楯状地、バルト楯状地︵フェノスカンジア︶、スコットランド、インド、ブラジル、オーストラリア、南部アフリカなどに残っている岩石のほとんどは変成作用を受けている。太古代の岩石は、現在の大陸地殻表面[注釈1]の約4.5 %を占めているが、地表に出ていない分まで含めると現在の約10 %とされる[6]。この時代の陸地面積は現在より大幅に少なかった可能性が高いが、現在の大陸地殻を構成する岩石︵花崗岩類︶の大部分は当時すでに地表に存在し、その後再溶解してリサイクルされたものであるという説もある[7]。
太古代の終わりの年代は、顕生代のような明瞭な地質学的事項がないため[注釈2]、1981年に提唱された﹁25億年﹂が使われている[6]。
地球表層の状況
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地球は45-46億年前に誕生した[8]とされるが、当時は微惑星の衝突で解放されたエネルギーで地球内部は現在よりも高温となっていた。その後地球は徐々に冷却されている[9]。上述したように最初の岩石は約40億年前のものであるが、まとまった地層が世界各地で見つかるのは38億年前からである。38億年より前の地層が残っていないのは、現在よりも高温で活発なマントル対流のため、当時形成された地殻はすべてマントル内部にリサイクルされてしまったことが原因とされているが、39億年前頃に地球と月が同時に大規模な隕石衝突を受けたため︵後期隕石重爆撃期︶当時の地殻が破壊されてしまったという説もある[10]。
形成直後の地球は周期4時間という高速な自転をしていたと考えられているが、潮汐作用により自転角運動量が月の公転角運動量に移転することにより地球の自転はその歴史を通じ減速を続けている。南アフリカのムーディーズグループ地層の潮汐堆積物の分析によれば、32億年前の太古代の地球は13時間周期で自転しており1年の長さはおよそ700太陽日、月と地球の距離は現在の70%ほどだったと考えられている[11]。 なお堆積岩の分析結果から、30億年より前の海水温度は60-120℃という高温であったと推定されているが、29億年前以後は氷河堆積物が見つかるようになった[12]。太古代を通じて大気中には酸素はなく窒素と二酸化炭素が主体であった。30億年前頃には、酸素発生型の光合成を行うシアノバクテリアが出現していた可能性があり[13]、シアノバクテリアが形成したとおぼしき大規模なストロマトライトが広く分布していた。ただし、放出された酸素は縞状鉄鉱床の形成などに消費されていたと推測され、大気中酸素濃度の上昇にはつながらなかった[14]。全地球規模での酸素濃度の上昇は次の原生代まで待つこととなる︵Great Oxidation Event︶。
形成直後の地球は周期4時間という高速な自転をしていたと考えられているが、潮汐作用により自転角運動量が月の公転角運動量に移転することにより地球の自転はその歴史を通じ減速を続けている。南アフリカのムーディーズグループ地層の潮汐堆積物の分析によれば、32億年前の太古代の地球は13時間周期で自転しており1年の長さはおよそ700太陽日、月と地球の距離は現在の70%ほどだったと考えられている[11]。 なお堆積岩の分析結果から、30億年より前の海水温度は60-120℃という高温であったと推定されているが、29億年前以後は氷河堆積物が見つかるようになった[12]。太古代を通じて大気中には酸素はなく窒素と二酸化炭素が主体であった。30億年前頃には、酸素発生型の光合成を行うシアノバクテリアが出現していた可能性があり[13]、シアノバクテリアが形成したとおぼしき大規模なストロマトライトが広く分布していた。ただし、放出された酸素は縞状鉄鉱床の形成などに消費されていたと推測され、大気中酸素濃度の上昇にはつながらなかった[14]。全地球規模での酸素濃度の上昇は次の原生代まで待つこととなる︵Great Oxidation Event︶。
35-38億年前の地表の状況
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上記の38億年前のイスア地域の地層から、縞状鉄鉱床・炭酸塩岩・枕状溶岩・礫岩層が見られるが、前3者は当時海が存在したこと、礫岩層は陸地があったことを示している[15]。またイスア地域の地質構造は付加体としての特徴を示しており、当時既にプレートテクトニクスが機能していたと推定される[16]。35億年前の地層はアフリカ南部やオーストラリアのピルバラで見つかっている。ピルバラ地域のノースポールからは35億年前の枕状溶岩の上に載ったチャートの層から最古の生物痕跡と思われる化石が見つかっている[17]
27億年前の大陸生成
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大陸の地殻を構成する花崗岩の組成は、その下のマントルの組成と大幅に異なっている。海洋地殻を形成する玄武岩はマントルの一部が溶解してできたものであるが、花崗岩は玄武岩が水の存在下で再度部分溶解して生まれる[18]。そのため、地球誕生当初の地表には大陸地殻は無く、その後年代が下がるにしたがって大陸が増えてきたとされる[19]。陸地の生成は一定のペースでコンスタントに進んだのではなく、段階的に起こったというデータがある。すなわち 世界各地の花崗岩の中のジルコン結晶の生成年代を分析した結果、27億年前と19億年前にジルコン生成のピークが認められ、この時期に集中的に陸地が生まれたとされる[20]。27億年前には大陸の周辺の浅い海に大規模なストロマトライトが形成されたと考えられている[21]。
なお太古代はマントルの温度が現在よりも高かったため、マントルが部分溶解してできるマグマの成分も現在と異なっており、マグネシウム分が非常に多いコマチアイトなど現在のマグマでは見られない成分の火成岩が存在した[22]。また花崗岩も後世にみられない組成をもち、ナトリウム成分に富んだトーナル岩(tonalite)・トロニエム岩(trondhjemite)・花崗閃緑岩(granodiorite)からなり頭文字からTTGと呼ばれる。マントルの温度が高かったため、沈み込みプレート自体が比較的浅い地下で融解して大陸地殻に貫入したためと考えられている[23]。
生物
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系統樹による推計では、冥王代またはこの時代の初期に全生物の共通祖先が現れ、太古代には多様化が進んで古細菌と真正細菌の門の多くが出そろったと考えられている[3]。35億年前の地層からは古細菌と真正細菌の活動の痕跡が発見されている[24]。上記の最古の生命化石が見つかったノースポールの地層は、35億年前の熱水活動が活発で温度の高い中央海嶺であったと推察されている。これは地球の初期生命が、現生の一部の古細菌や細菌に見られるような高温適性を有していた可能性を示唆する[25]。30億年前までにはシアノバクテリアが出現し、局所的な酸素スポット内において酸素を利用した代謝活動が進化し始めたと推測され[13][26]、原生代における真核生物を含む好気性生物の出現と多様化への前駆段階となった。
分類
編集累代 | 代 | 紀 | 基底年代 Mya[* 3] |
---|---|---|---|
顕生代 | 新生代 | 66 | |
中生代 | 251.902 | ||
古生代 | 541 | ||
原生代 | 新原生代 | エディアカラン | 635 |
クライオジェニアン | 720 | ||
トニアン | 1000 | ||
中原生代 | ステニアン | 1200 | |
エクタシアン | 1400 | ||
カリミアン | 1600 | ||
古原生代 | スタテリアン | 1800 | |
オロシリアン | 2050 | ||
リィアキアン | 2300 | ||
シデリアン | 2500 | ||
太古代[* 4] | 新太古代 | 2800 | |
中太古代 | 3200 | ||
古太古代 | 3600 | ||
原太古代 | 4000 | ||
冥王代 | 4600 | ||
太古代はさらに4つに分類される[27]。
冥王代との境界の年代値は公式には決まっておらず、暫定的な値として40億年前が使われている。この時代は放射年代測定による年代値ではなく、国際標準層序年代 (Global Standard Stratigraphic Age) による数値年代で定義されているため、年代数値に誤差は生じない[28]。
原太古代 (Eoarchean)
太古代初期。40億年前︵または38億年前︶から36億年前。
古太古代 (Paleoarchean)
太古代前期。36億年前から32億年前。
中太古代 (Mesoarchean)
太古代中期。32億年前から28億年前。
新太古代 (Neoarchean)
太古代後期。28億年前から25億年前。
脚注
編集注釈
編集出典
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(一)^ ﹁地殻進化学﹂p33-34
(二)^ ab“地質系統・年代の日本語記述ガイドライン 2018年7月改訂版”. 地質系統・年代の日本語記述ガイドライン. 日本地質学会 (2018年8月7日). 2018年9月30日閲覧。
(三)^ abBattistuzzi FU, Hedges SB (February 2009). "A major clade of prokaryotes with ancient adaptations to life on land". Mol. Biol. Evol. 26 (2): 335–43.
(四)^ ﹁地球進化論﹂p108
(五)^ 川上・東條 (2009) p142
(六)^ ab﹁地殻進化学﹂p32
(七)^ ﹁地殻進化学﹂ p30-31
(八)^ ﹁地球進化概論﹂小嶋稔ら 岩波書店 2013年 p42
(九)^ ﹁最新 地球史が良くわかる本﹂p136
(十)^ ﹁最新 地球史が良くわかる本﹂p132-136
(11)^ Eulenfeld & Heubeck (14 July 2022). "Constraints on Moon's orbit 3.2 billion years ago from tidal bundle data". arXiv:2207.05464。
(12)^ ﹁地球環境46億年の大変動史﹂p78
(13)^ abFournier, G. P.; Moore, K. R.; Rangel, L. T.; Payette, J. G.; Momper, L.; Bosak, T. (2021-09-29). “The Archean origin of oxygenic photosynthesis and extant cyanobacterial lineages” (英語). Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 288 (1959). doi:10.1098/rspb.2021.0675. ISSN 0962-8452. PMC PMC8479356. PMID 34583585.
(14)^ ﹁最新 地球史が良くわかる本﹂p176-179
(15)^ ﹁最新 地球史が良くわかる本﹂p142
(16)^ ﹁地球進化論﹂ p111
(17)^ ﹁生命と地球の歴史﹂ p70-73
(18)^ ﹁地球環境46億年の大変動史﹂p76
(19)^ ﹁地殻進化学﹂p31
(20)^ ﹁地球進化論﹂p114-115
(21)^ ﹁最新 地球史が良くわかる本﹂p170
(22)^ ﹁最新 地球史が良くわかる本﹂p139
(23)^ ﹁地殻進化学﹂p36
(24)^ Ueno Y, Yamada K, Yoshida N, Maruyama S & Isozaki Y (2006). “Evidence from fluid inclusions for microbial methanogenesis in the early Archaean era”. Nature 440 (7083): 516–519.
(25)^ ﹁生命と地球の歴史﹂p67-80
(26)^ Jabłońska, Jagoda; Tawfik, Dan S. (2021-02-25). “The evolution of oxygen-utilizing enzymes suggests early biosphere oxygenation” (英語). Nature Ecology & Evolution 5(4): 442–448. doi:10.1038/s41559-020-01386-9. ISSN 2397-334X.
(27)^ “International Stratigraphic Chart (ICS)”. 2011年11月20日閲覧。
(28)^ “地質年代表における年代数値 - その意味すること”. 日本地質学会. 2011年11月20日閲覧。
参考文献
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●川上紳一、東條文治﹃最新地球史がよくわかる本﹄︵第2版︶秀和システム︿図解入門 -How-nual- Visual Guide Book﹀、2009年11月。ISBN 978-4-7980-2435-6。
●池谷仙之、北里洋﹃地球生物学 - 地球と生命の進化 -﹄東京大学出版会、2004年2月。ISBN 978-4-13-062711-5。
●国土交通省地質・土質調査成果電子納品要領︵案︶付属資料
●﹁地殻進化学﹂ 堀越叡 東京大学出版会 2010年
●﹁新装版地球惑星科学13 地球進化論﹂平朝彦・阿部進・川上紳一・清川昌一・有馬眞・田近英一・箕浦幸治 岩波書店 2011年
●﹁生命と地球の歴史﹂ 丸山重徳・磯崎行雄 岩波新書543 1998年
●﹁地球環境46億年の大変動史﹂ 田近英一 化学同人 2009年
関連項目
編集外部リンク
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●仲田崇志 (2009年10月29日). “地質年代表”. きまぐれ生物学. 2011年2月14日閲覧。
●“地質系統・年代の日本語記述ガイドライン 2014年1月改訂版”. 日本地質学会. 2014年3月19日閲覧。
●“INTERNATIONAL CHRONOSTRATIGRAPHIC CHART ︵国際年代層序表︶” (PDF). 日本地質学会. 2015年5月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年3月19日閲覧。