原生代
原生代︵げんせいだい、Proterozoic︶とは、地質時代の区分︵累代︶のひとつ。真核単細胞生物から硬い骨格を持った多細胞生物の化石が多数現れるまでの25億年前〜約5億4,100万年前を指す。元々は、先カンブリア時代以前の全ての時代を指していた。冥王代、太古代、原生代をまとめて先カンブリア時代と呼ぶこともある。太古代の次の時代で、古生代︵カンブリア紀︶の前の時代である。
シアノバクテリアの活動によって大気中に酸素の放出が始まり、オゾン層ができて紫外線が地表に届かなくなった。また、古細菌類から原始真核生物が分岐し、さらにαプロテオバクテリア︵後のミトコンドリア︶が共生することで現在の真核生物が成立した。後期には多細胞生物も出現した。
概要
編集地球表層の状況
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太古代はマントルの温度が現在よりもかなり高く、その影響でマントルが部分溶融してできたマグマに由来する火成岩の成分が現在とは大きく異なっていたが[6]、25億年前前後に現在の組成に近いものに移行した[4]。ほぼ同時期に海中に巨大な縞状鉄鉱床が堆積し、大気中の大量な二酸化炭素が減り酸素濃度が上がった。原生代を通じて陸地が増え、いくつかの大陸や超大陸が生まれた。気候が寒冷化し、氷河時代の痕跡が残るようになったが、最も寒冷化した際には地球全体が氷結したスノーボールアースも複数回起こった。
原生代初期の地表
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27億年前に非常に活発な火山活動があり、陸地が大幅に増えた[7]。増えた大陸の周辺の浅い海に、光合成をおこなうシアノバクテリアの集合体であるストロマトライトが大規模に形成された[8]。ストロマトライトから放出された酸素は海中に拡散し、当時の海中に大量に溶解していた2価の鉄イオンを酸化して沈殿させ縞状鉄鉱床を生成した。縞状鉄鉱床の生成のピークは27億年前から19億年前までであった[9]。
太古代の大気には酸素はほとんどなく、大量の二酸化炭素と窒素が大気の成分であった。原生代に入ってストロマトライトの活動で酸素が生成され始めたが、浅海に2価の鉄が十分ある間は酸素が直ちに消費されるため、大気中の酸素濃度は非常に低いレベルのままであった。しかし22億年前頃から大気に酸素が含まれていたことを示す﹁赤色土壌﹂や﹁赤色砂岩﹂が出現するようになった[10][11]。その後大気中の酸素の比率は徐々に増えてゆく。22-23億年前に地球は寒冷化し何回かの氷河時代を迎えたが、最も寒冷化したヒューロニアン氷期[12]には赤道近くまで氷結し、スノーボールアースとなった可能性があるとされる[13]。寒冷化の原因は大気中の二酸化炭素濃度が下がって温室効果が減ったためと推定される[14]。二酸化炭素濃度減少の原因は、大陸の拡大によって岩石の風化量が増え風化岩石中の金属元素が空中の二酸化炭素を消費したと考えられるが、さらに風化した塩類が海に入って大量の栄養塩類となり生物活動︵光合成︶を活発化させ、二酸化炭素を消費したことも考えられる[15]。
超大陸の形成
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プレートテクトニクスでは、プレートが動くことでその上の陸地も地表を移動する。地球の歴史では殆どの大陸が1か所に集結して巨大な超大陸を形成したことがあった。顕生代に存在したパンゲアは有名であるが、原生代後期の10億年前頃にも﹁地上のほとんどの陸地が集まった超大陸﹂が存在したとする検討結果が1990年頃から報告されている。この超大陸はロディニア大陸と呼ばれるが、約7億年前に3つに分裂した[16]。ロディニアはそれ以前にあった比較的大きなヌーナ大陸・コロンビア大陸・アトランティカ大陸の3つが合体したものである[17]。これら3大陸は約19億年前にあった活発な大陸成長のピーク期に[18]、もっと小さな陸地が集合し成長して生成した[19]。
原生代後期の氷河時代
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原生代後期に相当する地層から﹁氷河に起因する堆積物﹂が世界各地で発見されており、この時代に何度か寒冷な時期があった事が判明している。特にスターティアン氷期︵7億3,000万年-7億年前︶とマリノアン氷期︵6億6,500万-6億3,500万年前︶には当時の赤道近くの地層からも氷河に起因する堆積物が見つかっており、地球が非常に寒冷化したことが分かっている[13]。当時の地層から採取された岩石の分析結果︵炭素同位体比︶から、当時の生物圏が壊滅的な打撃を受け、地球上の全ての生物活動がほとんど停止していたことが判明した[20]。この現象を研究したカリフォルニア工科大学のカーシェビンクは、この時代に地球全体が凍結したスノーボールアース現象が起こったとしている。
原生代の生物
編集太古代の生物は、古細菌と真正細菌が主体であった。原生代に入るとより進化し複雑な組織を持つ真核生物が繁栄し、原生代の後期には多細胞生物が生まれた。原生代最後のエディアカラ紀の地層からは多数の動物の化石が見つかっている。
真核生物の誕生
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酸素を生み出したシアノバクテリアは細胞内に核を持たない細菌であるが、21億年前の縞状鉄鉱床から細胞内に核を有する真核生物の化石が1992年に発見された[21]。これはグリパニア(grypania)と呼ばれて、コイル状の管からできている。およそ17億年前ごろから球形をした化石が無数に見つかっている。精巧な細胞壁を持っているものがあり、原始的な藻類の胞子だと考えられている。これらはアクリタークと命名されている。大きさは時代が新しくなるにつれて大きくなるが直径が数分の一ミリメートル程度である。その後、2010年にガボンで行われた採掘の結果、ガボン多細胞生物が発見され、15億年前に既に多細胞生物が存在したという事が発見された[22]
多細胞生物の誕生
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植物の多細胞生物の化石で最も古いものは、カナダのサマーセット島の7億5,000年前〜12億5,000万年前のハンティング地層から見つかった紅藻類の化石である[23]。また東シベリアの10-9億年前の地層から藻類の化石が見つかっている[24]。動物では1947年に南オーストラリアのフリンダース山脈のエディアカラの丘にある原生代最末期の地層から、肉眼で見える動物の化石︵スプリッギナ︶が発見された[25]。その後エディアカラの丘やその周辺から多種多数の動物の化石が発見され、エディアカラ動物群と呼ばれている。エディアカラ動物群の化石が見つかるのは5億7千万年前から5億4千万年前という短い期間に集中しており、すべて硬い骨格を持たない生物であった。エディアカラ動物群の化石は世界の20か所以上の地域で見つかっている[26]。これらの化石が産出する時代はかつてベンド紀と呼ばれていたが、現在はエディアカラ紀と呼ばれている[27]。これらの多細胞動物が誕生する直前に著しい寒冷期だったマリノニアン氷河時代があり、環境の激変が動物の急激な進化を促したという議論がある[28]。
多細胞動物については 次の顕生代のカンブリア紀で硬い骨格を有する多種多様な動物群が一気に出現する。
区分
編集累代 | 代 | 紀 | 基底年代 Mya[* 3] |
---|---|---|---|
顕生代 | 新生代 | 66 | |
中生代 | 251.902 | ||
古生代 | 541 | ||
原生代 | 新原生代 | エディアカラン | 635 |
クライオジェニアン | 720 | ||
トニアン | 1000 | ||
中原生代 | ステニアン | 1200 | |
エクタシアン | 1400 | ||
カリミアン | 1600 | ||
古原生代 | スタテリアン | 1800 | |
オロシリアン | 2050 | ||
リィアキアン | 2300 | ||
シデリアン | 2500 | ||
太古代[* 4] | 新太古代 | 2800 | |
中太古代 | 3200 | ||
古太古代 | 3600 | ||
原太古代 | 4000 | ||
冥王代 | 4600 | ||
前期、中期、後期に分けることができる[29]。
●前期 古原生代︵Paleo proterozoic︶は、25億年前から16億年までを指す。
●中期 中原生代︵Meso proterozoic︶は、16億年前から10億年前までを指す。
●後期 新原生代︵Neo proterozoic︶は、10億年前から約5億4,100万年前までを指す。
尚、前期はシデリアン、リィアキアン、オロシリアン、スタテリアン、
中期はカリミアン、エクタシアン、ステニアン、
後期はトニアン、クライオジェニアン、エディアカラン︵エディアカラ紀︶にそれぞれ分かれる。
また、古生代カンブリア紀以前の地質時代を﹁先カンブリア時代﹂と呼ぶので、﹁先カンブリア時代地質区分﹂として研究する学者もいる。
脚注
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(一)^ ﹁要説 地質年代﹂P31
(二)^ 顕生代での時代の判定は﹁地球上の広い範囲で同時に認められる生物化石の変遷﹂を用いている。
(三)^ ﹁地殻進化学﹂p32
(四)^ ab﹁要説 地質年代﹂P30
(五)^ ﹁最新地球史がよくわかる本﹂ P255
(六)^ コマチアイト参照
(七)^ ﹁地球進化論﹂P114-P115
(八)^ ﹁最新 地球史が良くわかる本﹂p170
(九)^ ﹁最新 地球史が良くわかる本﹂p176-177
(十)^ ﹁地球環境46億年の大変動史﹂P98-99
(11)^ ﹁最新 地球史が良くわかる本﹂p177
(12)^ マクガニン氷河時代とも呼ばれる
(13)^ ab﹁地球環境46億年の大変動史﹂p146-147
(14)^ 太陽は誕生時の明るさは現在の約70%でそれ以来徐々に明るさを増してきている。それゆえ過去の地球においては現在よりも強力な温室効果がないと地球は氷結してしまう。﹁地球環境46億年の大変動史﹂p63-67
(15)^ ﹁地球進化論﹂P122
(16)^ ﹁最新 地球史が良くわかる本﹂p223-225
(17)^ ﹁地球進化論﹂P458
(18)^ ﹁地球進化論﹂P114
(19)^ ﹁地球進化論﹂P456
(20)^ ﹁地球環境46億年の大変動史﹂p155-156
(21)^ ﹁地球進化論﹂P123
(22)^ “多細胞生物、定説の15億年前にすでに出現か ガボンで新たな化石”. 2022年7月2日閲覧。
(23)^ サウスウッド (2007) pp.50-51
(24)^ ﹁生命と地球の共進化﹂p105
(25)^ ﹁生命と地球の共進化﹂p179
(26)^ ﹁最新 地球史が良くわかる本﹂p240
(27)^ ﹁最新 地球史が良くわかる本﹂p244
(28)^ ﹁生命と地球の共進化﹂p188-191
(29)^ http://www.stratigraphy.org/index.php/ics-chart-timescale
参考文献
編集- リチャード・サウスウッド著、垂水雄二訳 『生命進化の物語』 八坂書房 2007年 ISBN 978-4-89694-887-5
- 「最新地球史がよくわかる本」 川上紳一・東條文治 秀和システム 2006年
- 「地殻進化学」 堀越叡 東京大学出版会 2010年
- 「要説 地質年代」 J.G.オッグら著 鈴木寿志訳 京都大学学術出版会 2012年
- 「新装版地球惑星科学13 地球進化論」平朝彦・阿部進・川上紳一・清川昌一・有馬眞・田近英一・箕浦幸治 岩波書店 2011年
- 「生命と地球の歴史」 丸山重徳・磯崎行雄 岩波新書543 1998年
- 「地球環境46億年の大変動史」 田近英一 化学同人 2009年
関連項目
編集外部リンク
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●仲田崇志 (2009年10月29日). “地質年代表”. きまぐれ生物学. 2011年2月14日閲覧。
●“地質系統・年代の日本語記述ガイドライン 2014年1月改訂版”. 日本地質学会. 2014年3月19日閲覧。
●“INTERNATIONAL CHRONOSTRATIGRAPHIC CHART ︵国際年代層序表︶” (PDF). 日本地質学会. 2015年5月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年3月19日閲覧。