最高速度
法令による車両の最高速度制限
概要
編集
ドライバーが車両を運転する速度は、タイヤを含めた動力性能、制動性能、操縦安定性、線形、路面状態、交通流の状況、気象・環境の影響、コスト、道路の安全性や快適さに対する知覚、移動の動機づけ、個人の性格、他のドライバー、取り締まりの程度など様々な要因から決定される[1]。
速度及び速度違反に関する概念的枠組みの決定には、物理学、工学、精神物理学、社会心理学、社会文化などの要因や寄与がある[1]。
このうち道路要因、環境要因、安全設備などハードウェア要因には次のようなものがある[1]。
道路構造
車線︵車線数、車線幅、加減速車線︶、路肩の幅員、中央帯の幅員、中央分離帯の有無、トンネル、橋梁や高架、非常駐車帯の有無など
設計速度
カーブの曲率半径や片勾配、屈曲部緩和区間の長さなど
交通環境
交通量、大型車、二輪車の混在率、交通事故の発生状況、歩行者数、交差点の状態など
安全施設
道路標識、路面標示、交通信号機など
自然環境
雪、雨、風、霧などの影響
沿道環境
人家密集地の有無やその他の沿道環境︵騒音、振動、排出ガスの影響︶
事故の件数と被害の大きさは車両の速度を増すに従い大きくなる傾向になると指摘されている[2]。また、衝突発生時の運動エネルギーは速度の2乗に比例し、高速走行ほど事故が重大になりやすい[3]。こうした中で交通安全の確保を目的として最高速度規制の必要性とされている[3]。
また、最高速度の規制によって走行速度のばらつきを小さくして交通流を均一にさせることができると考えられている[3]。更には、騒音などの交通公害を抑制し、沿道環境の保全をはかることも最高速度規制の狙いとなる[3]。
最高速度には﹁絶対最高制限速度 (absolute speed limit)﹂と﹁一応の制限速度︵英語版:prima facie speed limit︶﹂の2種類の制度がある[2][4]。﹁絶対最高制限速度﹂とは指定の速度を超過すれば理由・状況を問わず違反とされるもので、﹁一応の制限速度﹂が採用されている国では指定の速度を超過すれば法によって一応は違反ではあるが自分の走行速度が安全なものであると立証できれば違反とならないものである[4]。
速度規制の運用
編集設計速度
編集
設計速度は、晴天の日に交通量が少ない状況で、平均的な運転技量のドライバーが道路の構造条件だけに従って走行したときに、安全さ快適さを失うことなく運転できる自動車の速度をいう[1]。設計速度の規定要因には、カーブの曲率半径や片勾配、屈曲部緩和区間の長さ、視距、縦断勾配、複合勾配などがある[1]。
曲線半径、片勾配、視距などの線形要素は設計速度と直接的な関係をもつ[5]。車線や路肩等の幅員は設計速度との直接の関連付けは難しいとされるが走行速度に影響を与える要素とされる[5]。
可変速度規制システム
編集気象要因(雨天、降雪等)や路面状態(湿潤、凍結、圧雪等)に応じて規制速度を変更させるシステムで、アメリカ合衆国、ロシア連邦、フランス、フィンランド等で採用されている[5]。
85パーセンタイル速度
編集各国の最高速度
編集各国の最高速度の一覧については「各国の最高速度」を参照
日本における速度規制については「日本における速度規制」を参照
道路の最高速度は通常、国または地方政府が法令によって定めている。国際的な枠組みとして自動車基準調和世界フォーラムの﹁1958年協定﹂と﹁1998年協定﹂があり、日本とEUは両協定に、アメリカ、中国、インドなどは1998年協定に参加している[6]。
ほとんどの国で最高速度にキロメートル毎時 (km/h) が使用されているが、主にアメリカ合衆国とイギリスではマイル毎時 (mph) が使用される。
世界で最も速い最高速度は、アラブ首長国連邦の高速道路に設定されている160 km/hである[7]。
ドイツの高速道路︵アウトバーン︶は速度無制限となっているが、混雑が多い区間や勾配がある区間では、100 - 130 km/hの速度制限が設けられている。近年では速度無制限区間は減少傾向にあり、ドイツの連邦道路研究所の2017年の報告書によると、2015年現在、アウトバーン路線の70.4%は速度無制限︵推奨速度のみ存在︶、6.2%は天候や交通状況による一時的な速度制限があり、23.4%は恒久的な速度制限があると報告されている[8]。また、マン島では唯一、非市街地の一般道路での制限速度が設けられていない。
2022年6月の自動車基準調和世界フォーラム︵WP29︶では、高速道路での自動運転の上限速度を60 km/hから130 km/hに引き上げることが合意された[6]。
-
ドイツの国境にある標識。同国は市街地では50 km/h、市街地外では100 km/hの制限速度があるほか、アウトバーンでは「推奨速度」として130 km/hが指定されている。
脚注
編集注釈
編集出典
編集
(一)^ abcde国際交通安全学会﹁自動車の走行速度を規定する要因に関する調査研究報告書﹂ (PDF) 国際交通安全学会、2022年11月7日閲覧。
(二)^ abCA O'Flaherty 1997, p. 450.
(三)^ abcd岡本 1987, p. 18.
(四)^ ab廣川 1966, p. 27.
(五)^ abcde宗広一徳、秋元清寿、浅野基樹﹁諸外国における速度規制に関する事例﹂ (PDF) 国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所、2022年11月7日閲覧。
(六)^ abくるくら﹁国連が自動運転の上限速度を時速130キロに緩和。車線変更も可能に﹂ JAFメディアワークス、2022年11月7日閲覧。
(七)^ “New speed limit for Abu Dhabi's Mafraq-Ghweifat highway - ARN News Centre”. ARN News Centre. (2018年1月30日) 2018年1月31日閲覧。
(八)^ https://www.bast.de/BASt_2017/DE/Publikationen/Fachveroeffentlichungen/Verkehrstechnik/Downloads/V1-BAB-Tempolimit-2015.html
参考文献
編集
●廣川楡吉﹃交通規制﹄技術書院︿交通工学シリーズ﹀、1966年3月20日。
●岡本博之編著 著、交通工学研究会編 編﹃道路交通の管理と運用﹄技術書院︿交通工学実務双書﹀、1987年10月31日。ISBN 4-7654-6018-5。
●CA O'Flaherty (1997). Transport Planning and Traffic Engineering. ELSEVIER. ISBN 978-0-340-66279-3
●道路交通法実務研究会編﹃アイキャッチ図解道路交通法﹄東京法令出版、2017年5月10日。
●規制速度決定の在り方に関する調査研究検討委員会﹃平成18年度 規制速度決定の在り方に関する調査研究 報告書﹄︵PDF︶︵レポート︶平成19-02。オリジナルの2019年4月30日時点におけるアーカイブ。
●規制速度決定の在り方に関する調査研究検討委員会﹃平成19年度 規制速度決定の在り方に関する調査研究 報告書﹄︵PDF︶︵レポート︶平成20-03。オリジナルの2018年6月18日時点におけるアーカイブ。
●規制速度決定の在り方に関する調査研究検討委員会﹃平成20年度 規制速度決定の在り方に関する調査研究 報告書﹄︵PDF︶︵レポート︶平成21-03。オリジナルの2020年11月14日時点におけるアーカイブ。
●警察庁交通局 (2020年8月26日). “交通規制基準”. 2022年10月1日閲覧。