マナ
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宗教人類学 |
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マナ︵mana︶は、太平洋の島嶼で見られる原始的な宗教において、神秘的な力の源とされる概念である。人や物などに付着して特別な力を与えるとされるが、それ自体は実体性を持たない[1]。元々は、メラネシア語で﹁力﹂という意味であり[1]、漢字表記だと﹁瑪那﹂となる。
概要[編集]
マナは太平洋諸島地域で広く信仰されていた神聖な力の概念で、実体や人格性を持たないが物や人に憑いたり転移して、その所有者に超常的な影響を与えるとされる。例えば、マナが槍や漁網に憑けば所有者に戦勝や大漁をもたらし、病気・疲労などで衰弱した人に注入すれば回復治癒をもたらし、気象急変にもマナが関わっていると考えられていた。 マナの概念を西洋社会に初めて紹介したのは、イギリス帝国の宣教師で人類学者のロバート・ヘンリー・コドリントン︵1830-1922︶が著した﹃メラネシア人﹄によってである[2]。ノーフォーク諸島を中心とする東メラネシアに宣教師として着任した彼は、島の原住民が際立って早く進むカヌーを説明するとき﹁あのカヌーにはマナが宿っている﹂という言い方をすることから、マナという非人格的な力の観念が存在することを指摘した。 コドリントンは著書﹃メラネシア人﹄で、マナについて以下の説明・定義づけをしている。 ・メラネシアの人たちが信じるマナとは、﹁人間の通常の力を超越し、自然の共通法則の外側にあって、あらゆる事象に効果を及ぼすもの﹂[3]である。 ・マナは﹁物理的な力︵power︶とは全く区別される力︵force︶で、良いほうにも悪いほうにも全てに作用し、それを所有したりコントロールすることで最大限の優位性を得られるもの﹂[3]である︵二つの﹁力﹂の違いを日本語では訳せないため、それぞれpowerとforceの英語原文[注釈 1]を記した︶。 19世紀末は宗教起源に関する議論が西洋で盛んな時期でもあり、これが学会で発表されると、マナは原始宗教の本質を示すものだとして、従来のアニミズムやトーテミズムの起源説と並んで注目された。 例えば、原始宗教における呪術儀式に着目したマルセル・モースは、著作﹃呪術論﹄の中で以下のように述べている。 ●﹁マナは単に一つの力、存在であるのみならず、一つの作用[要曖昧さ回避]、資質および状態である。換言すれば、この語は、名詞であると同時に形容詞、動詞でもある﹂ ●﹁我々が妖術使いの力、ある事物の呪術的資質、呪術的事物、呪術的存在、呪術を持つ、まじないをかけられる、呪術的に作用する、といったような言葉で持って示している雑多な観念を包摂している﹂ つまりマナは資質であり、実体であり、力である。 クロード・レヴィ=ストロースによれば、﹁通常の能力・状態に宿る神秘的な付加要素﹂と規定されている[要出典]。 こうした原始宗教に関する論説は、やがて妖術・魔術研究︵学問としての︶者の目にも留まることになり、後年になってオカルト分野における魔法や超能力、霊力といった尋常ならざる特殊な力に関しても、マナの概念を流用して説明する者が現れるようになった。 有名なイースター島のモアイの建造理由について、様々な説があるが、有力な説の一つは、マナを崇拝するものであったとするものである[4]。マナが登場する作品[編集]
創作にマナの概念を用いたのは、1969年に刊行されたラリイ・ニーヴンの小説﹃魔法の国が消えていく﹄の短編﹁終末は遠くない﹂︵Not Long Before the End︶が最初とされている[5]。作中の設定ではマナは魔法の力の源とされている。 マナの憑いたり転移する特徴は﹁数値化が可能である﹂[6]ため、ファンタジー作品やSF作品、ロールプレイングゲーム等でよく用いられる。例を挙げると、聖剣伝説シリーズではストーリーの根幹にマナが据え置かれ、世界の全てを司る力として作中の様々な場面で言及される。原典訳書[編集]
- コドリントン『メラネシア人――その人類学的・民俗学的研究』抄版、マレット『宗教への閾』
他にロバートソン・スミス、ジェームズ・フレイザーの「ブリタニカ百科事典」項目など
- コドリントン『メラネシア人――その人類学的・民俗学的研究』抄版、マレット『宗教への閾』
脚注[編集]
注釈
(一)^ 一般的に使用される力のpowerと違って、﹁force﹂に関しては﹁強引に従わせる﹂というニュアンスがあり、この文脈では強制力・支配力・影響力といった概念の﹁力﹂を指す︵ほかに、軍隊や暴力も英訳するとforce︶。
出典
(一)^ abブリタニカ国際大百科事典 小項目事典﹃マナ﹄ - コトバンク。2018年8月16日閲覧。
(二)^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典﹃コドリントン﹄ - コトバンク。2018年8月16日閲覧。
(三)^ abR.H.Codrington"The Melanesians: Studies in their Anthropology and Folk-Lore",Oxford: Clarendon Press,1891年, pp.118-120。インターネットアーカイブより、2018年8月16日閲覧。
(四)^ David Bressan (2019年3月2日). “イースター島のモアイ像は﹁水の守り神﹂だった可能性”. Forbes 2019年10月12日閲覧。
(五)^ サイドランチ ﹃ゲームシナリオのためのファンタジー解剖図鑑﹄ 誠文堂新光社、2016年7月5日、65-66頁。
(六)^ 山北篤監修 ﹃魔法事典﹄ 新紀元社