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世界暦︵せかいれき、World calendar または Worldsday Calendar︶は、太陽暦に属する暦法のひとつ。グレゴリオ暦の時代性を是正する改暦案のひとつとして考案された。
世界暦の原型は、1834年︵1837年説もある︶にイタリアの修道士マルコ・マストロフィニ︵英語版︶によって考案された﹁固定暦﹂である。彼はグレゴリオ暦の曜日が年ごとに変わるのを不便に思い、1月1日を日曜日に固定して、12月31日から曜日を取り除いて余日︵よじつ、付加される日のこと︶とし、さらに閏年には閏日を2月29日にするのではなく、月と曜日を取り除いた閏日を余日の翌日に付加する暦法を提案した。これによって、毎年の同じ日付が常に同じ曜日になる。また、曜日のある日は364日となって、7で割り切れる︵364=52×7︶ので、年間の各曜日の日数が等しく52日ずつになる。
この﹁曜日を取り除いた日﹂︵無曜日︶を設ける提案︵除日案=じょにちあん︶は多くの改暦案の参考となり、1884年にフランス天文学会が改暦案を懸賞募集し、また19世紀末から20世紀初頭にかけてさまざまな国際機関で改暦が議論されたときも、複数の除日案の暦法が議論の対象になった。
364日は4で割り切れ︵364=91×4︶、その商である91日も7で割り切れる︵91=13×7︶ので、各四半期を一定の日数︵91日︶にし、かつ四半期の初日の曜日をすべて同じにすることができる。91日をどのように分割するか、あるいは無曜日となる余日・閏日を1年のうちのどこに入れるかは暦法ごとによってまちまちだった。1903年にドイツのフォン・ジハルト︵Von Sichard︶が提案したものは各四半期91日を31日・30日・30日に分割し、1月1日を日曜日とし、余日︵12月31日︶と閏日︵6月31日︶を無曜日とするものであり、世界暦とほぼ同じ暦法である。
1930年10月21日にエリザベス・アケリス︵英語版︶が世界暦協会 (The World Calendar Association) を設立し、彼女によってこの暦法が﹁世界暦﹂と名づけられた[1]。世界暦協会は1月1日が日曜日となる1961年から世界暦に改暦するよう、カトリック教会を統括するバチカンの公認を受けたり、国際連盟やその後身の国際連合に何度も働きかけたりし、ついに国連の理事会で改暦が提案されることになった。しかし、1955年にアメリカ合衆国の反対によって議題が無期延期となったのをきっかけに世界暦改暦運動は下火になり、1973年に彼女が亡くなると世界暦協会も自然消滅し、世界暦は世界の表舞台から消えることになった。2016年現在も国際世界暦協会 (The World Calendar Association - International[2]) という名前の団体が存在しており、ウェブ上で世界暦改暦運動を展開している。
世界暦の特徴は以下のとおりである。
(一)毎年同じ暦表︵一般に﹁カレンダー﹂と呼ばれるもの︶が使え、刷りなおす必要がない。
(二)各四半期が常に等しい91日︵13週︶となる。
(三)各四半期は31日・30日・30日の3か月で構成され、四半期ごとに繰り返される。
(四)各月の平日︵日曜日を除く日︶はすべて26日間である。
●週休2日制が普及する前は、各月の労働日数が一定であった。
(五)毎年の始まりは常に日曜日である。労働の開始日︵1月2日︶は常に月曜日である。
●日本では三が日を労働の休日とするが、外国ではそうでないことが多い。
(六)各四半期は日曜日で始まり、土曜日で終わる。
(七)余日は年末︵12月30日の翌日︶に付加される。この日は﹁世界日﹂(Worldsday) と呼ばれ、無曜日であり、全世界共通の休日となる。﹁W﹂という文字の日付で表され、12月31日とも呼ばれる。
●2.3.4.6. において、世界日は週に属さず、四半期や月の日数にも含まれないものとする。
(八)閏日は第2四半期末︵6月30日の翌日︶に付加される。この日も﹁世界日﹂と呼ばれ、無曜日であり、全世界共通の休日となる。やはり﹁W﹂という文字の日付で表され、6月31日とも呼ばれる。
(九)グレゴリオ暦にあり、世界暦にない日付は3月31日・5月31日・8月31日であり、グレゴリオ暦になく、世界暦にある日付は︵平年の︶2月29日・2月30日・4月31日と閏世界日︵6月31日︶である。
世界暦の利点と欠点は以下のとおりである。
(一)同じ日付は常に同じ曜日となる。例えば、1月1日は常に日曜日である。
(二)﹁○月の第×△曜日﹂のように、月と週、曜日によって移動する日付を定義する必要がない。例えば、日本における成人の日︵1月第2月曜日︶は常に1月9日となるし、敬老の日︵9月第3月曜日︶は常に9月18日となる。
(三)四半期の長さがグレゴリオ暦に比べて均等である︵グレゴリオ暦は90日~92日︶。
(四)月の長さも30日と31日の2通りしかなく、グレゴリオ暦に比べて均等である︵グレゴリオ暦では28日・29日・30日・31日の4通り︶。
(五)グレゴリオ暦からの移行も、日曜日から始まる平年︵例えば2023年︶から始めれば比較的スムーズである。
(一)1年に1〜2回とは言え無曜日を設けることにより、バビロニア暦の時代から数千年の伝統を持つ﹁週﹂という7日間のサイクルが断絶してしまうこと。例えば現在ではユリウス通日を単純に7で割り、その余りによって曜日を求めることができるが、これが単純な計算ではできなくなる。
●過去には、週が7日間でないフランス革命暦やソビエト連邦暦が存在したことがあるが、いずれも短期間で廃止されている。
(二)アブラハムの宗教︵ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など︶において、7日ごとの安息日が定められている神との約束が変化する事。例えば旧約聖書の出エジプト記20章にはモーセの十戒のひとつとして﹁六日の間働いて、何であれあなたの仕事をし、七日目は、あなたの神、主の安息日であるから、いかなる仕事もしてはならない﹂という記述がある。これらの宗教は神との約束を重視しているため、7日間のサイクルの断絶には特に消極的である。
●1.2. の問題を解決するために、平年を364日、閏年を371日︵371=53×7︶として5〜6年に1度の閏年を設ける対案︵閏週案=じゅんしゅうあん、ハンキ=ヘンリー・パーマネント・カレンダーで考案されている︶があるが、今度は天文学的な現象︵たとえば春分︶と暦日とのずれが大きくなるという欠点が生じる。
(三)13日の金曜日が1年に必ず4回あること︵グレゴリオ暦では1〜3回︶。これは︵特に英語圏・フランス・ドイツの︶キリスト教徒にとっては深刻な問題である。
●これを解決するために、1月1日を日曜日ではなく月曜日として曜日を1日ずつずらし、永久に13日の金曜日をなくした対案がある。
世界暦の暦表︵カレンダー︶を以下に示す。