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八虐︵はちぎゃく︶は、日本の律令の律が始めに列挙する重大犯罪類型である。謀反・謀大逆・謀叛・悪逆・不道・大不敬・不孝・不義の8つである。
貴族の減刑特権は適用されず[1]、恩赦にあっても位階や勲位は剥奪︵除名︶されたままで[2]、扶養義務を考慮した減刑の対象からも外された[3][4]。
8つの罪は、前の3つと後の5つで大別できる。前の3つ、謀反・謀大逆・謀叛は、君主や国家に害を加える犯罪である。1つの罪名で1つの罪を指す。それぞれ最初の字に﹁謀﹂があり、これは実行に着手していない予備罪を意味する。実行した場合の罪は謀を除いた反・大逆・叛である。謀の段階でみな死刑となる。後の5つは、社会・身分・家族の秩序に反する罪である。それぞれは単独の犯罪ではなく、複数の罪をおさめる分類名である。家族内の長幼の序に反する行為、天皇や神社に対する不敬、毒物製造や呪詛などの反社会行為を含む。
このような列挙は中国の律に古くからあったもので、具体的には唐律の十悪を元にしているが、﹁不睦﹂︵家庭不和︶﹁内乱﹂︵一族を乱す犯罪、特に不倫、近親相姦など。現在の用法の内乱と意味は異なる︶2つを除いている。近親に関する禁忌意識が日本で薄かったことが理由と推測される[5]。
八虐の内容[編集]
謀反︵むへん︶
天皇殺害の罪︵未遂、予備を含む︶。
謀大逆︵むたいぎゃく︶
皇居や陵墓の損壊。
謀叛︵むほん︶
国家に対する反乱、外患誘致、外国への亡命を起こすこと。
悪逆︵あくぎゃく︶
目上の親族に対する犯罪のうち、近親の度が高く、危害が重大なもの。祖父母・父母の殺害の実行・謀議・暴行傷害、妻が夫や夫の父母を殺害する罪など。
不道︵ふどう︶
大量殺人・呪いなど反社会的・異常な犯罪。目上の親族にたいする犯罪のうち、悪逆より近親の度が遠いか、危害が重大でないもの。叔父や兄に対する暴行、傷害など。
大不敬︵だいふきょう︶
神社や天皇に対して無礼な振る舞いをする罪。
不孝︵ふこう︶
他人に対して行う分には犯罪にならないが、祖父母と父母に対して行うと孝に反するため罪とされる行為。告訴、悪口、扶養しない、喪に服さないなど。
不義︵ふぎ︶
主人・上司・師など上位者に対する殺人。妻が夫の喪に服さない罪。
(一)^ ﹃養老律﹄名例律第一、8義条から16無官犯罪条まで。﹃日本思想大系 律令﹄新装版20-25頁。
(二)^ ﹃養老律﹄名例律第一、18除名条。﹃日本思想大系 律令﹄新装版27-28頁。
(三)^ ﹃養老律﹄名例律第一、26犯死罪非八虐条。﹃日本思想大系 律令﹄新装版35-36頁
(四)^ ﹃日本思想大系 律令﹄新装版488頁補注6b。律令の上に立つ存在である天皇の意思があれば、減刑・恩赦も可能である。
(五)^ 日本思想大系新装版﹃律令﹄488頁補注6a。
参考文献[編集]
関連項目[編集]