竜王と賢女ワシリーサ
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﹃竜王と賢女ワシリーサ﹄︵りゅうおうとけんじょワシリーサ。露: Морской царь и Василиса Премудрая、英: The Sea king and Vasilisa the Wise[1][2]︶は、ロシアの民話である。AT番号は313[3]。
アファナーシェフによる﹃ロシア民話集﹄に類話も含めると8編が収録されている[3]︵219番から226番︶。
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鷲は家族の元へ戻る途中に王を自分の背中から3度海に落としてはすぐ に助けた。そして王に、自分が3度命を狙われた時の恐怖を知ってほしかった、と語った[4][5]。
ある王が狩りの最中に鷲を見つけて狩ろうとしたが、鷲は王に助命を請うた。王は鷲の願いを聞き入れて殺さないことにした。鷲は王に3年間飼われた後、解放が決まると王を伴って家族の元へ戻った。そして飼育してもらった礼として2つの小箱を王に渡し、帰国の船も用意した。王は帰路で立ち寄った島で、鷲との約束を破って小箱の1つを開けたところ、多数の家畜が飛び出してきた。その時海から現れた不思議な男が、﹁王の家にある物で王の知らない物を貰う﹂という条件で、家畜をまた小箱の中に片付けてくれた。帰国した王は、留守中に王子が誕生していたと知り、王子をあの男に渡さなければならないと悟って悲しんだ。しかし2つの小箱からは家畜の他に緑豊かな庭園も現れ、これらを喜んだ王は男との約束を忘れてしまった。月日が流れ、あの不思議な男、竜王 (ru) が王の前に現れて約束の履行を求めた。王は成長した王子らに事の次第を打ち明け、王子を海辺に送り届けた。
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王子はそっくりな娘達の中からワシリーサを言い当てる
旅を始めた王子は、途中で出会ったヤガーばあさんに事の一部始終を話した。王子は、ヤガーばあさんの助言に従い、12羽の鷺が変身した乙女のうちの1人の衣類を隠した。衣類がないために鷺に戻れなくなった乙女ワシリーサが﹁父の竜王の元にあなたが来たときに、私が役に立つから﹂と懇願するのを聞き入れ、王子は彼女に衣類を返した。また、これも助言に従い、旅の途中で会った﹁食いしん坊﹂﹁大酒のみ﹂﹁寒の太郎﹂の3人を供にした。竜王の宮殿に到着した王子に対し、竜王は、1日目には水晶の橋を、2日目には庭園を造るよう命じたが、ワシリーサが魔力を用いて1晩で完成させて王子を助けた。竜王は、王子が難題をこなした礼に12人の娘の1人を妻に与えると告げたが、そっくりな娘達の中から同じ娘を3度言い当て、もし間違えたら死刑にすると言った。その条件を知ったワシリーサが自分を見分ける方法を王子に教えたため、王子はワシリーサを妻にすることができた。
結婚を祝う席や入浴の際も、竜王が王子に無理難題を振ってきたが、供の﹁食いしん坊﹂﹁大酒のみ﹂﹁寒の太郎﹂が王子を助けた。ワシリーサは王子を伴って父の元から逃げ出し、父の追っ手からも魔法を用いて逃れた。そして、自ら追ってきた竜王の前に蜜の川を用意したところ、竜王は蜜を全部飲み干そうとした挙げ句に腹が破れて死んだ。ワシリーサは、自分の事を王子の家族に話してもらうために王子を帰宅させた。宮殿に帰った王子は、ワシリーサの言いつけを忘れて自分の妹に挨拶のキスをしたため、ワシリーサを忘れてしまった。
ワシリーサは王子がまた戻ってくるのを3日間待ち続けていたが、4日目にとうとう都に出向いた。そして、﹁王子と他国の王女との婚礼にあたり、国民はパイ︵ピローグ︶を持参して2人に祝辞を述べよ﹂という御触れが出ていると知り、自分もパイを作って宮殿の祝いの席に持参した。ワシリーサが作ったパイがテーブルの上で切られると、中からは彼女が入れた2羽の鳩が現れた。雄鳩が雌鳩に﹁君がくわえているそのチーズ︵凝乳︶をおくれ﹂と言うと、雌鳩が﹁嫌です。あげたら私の事を忘れるでしょう。ワシリーサの事を忘れたように﹂と答えた。この言葉を聞いた王子は、宮殿に来ているワシリーサこそが妻だったと思い出した。その後王子はワシリーサと共に仲良く暮らしたという[4][5]。
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ロシアの民話に登場する海の皇帝 (Морской царь) は このような姿で描かれることがある。︵イヴァン・ビリビン画、1911年︶
日本語訳では﹁竜王﹂や﹁海の帝王﹂、﹁湖の帝王﹂、﹁海の王﹂などもみられる海の皇帝[8][9]︵うみのこうてい。露: Морско́й царь︶は、ロシアの民話の登場人物である。彼は海底の主であり、あらゆる水の支配者であり、水中に住む者達の領主であり、無数の宝の所有者である。彼はたいてい、海底の宮殿や女王、水中の人々、水の乙女たちなどを伴い、王として描写される。海の皇帝の宮殿は、水晶、銀、金そしてさまざまな宝石でできているという。その場所は漠然としており、たとえば青い海の中、島の上、イリメニ湖の中だとされる。彼が踊って楽しい時間を過ごす時には、嵐も海で吹き荒れる。彼は、ブィリーナの一つ﹃サドコ﹄やロシアの民話だけでなく、ノルウェーの民話にもみることができる[10]。
ブィリーナのサドコの物語では、海の皇帝は商人サドコにまず富をもたらした。そしてサドコが裕福になった時、皇帝はサドコが水中の帝国に来ることを要求した。
サドコの物語に加えて、海の皇帝は前述のとおり﹃賢女ワシリーサ﹄でも重要な役割を演じている。この物語では、海の皇帝は、水の帝国の英雄となり自分の娘ワシリーサとの恋に落ちたイワン王子を留めておきたかったが、ワシリーサはイワンと共に父の元を逃げ出し、さらに父の追跡からもイワンを救った。ロシアでの海または水の王に相当する人物が登場する、このよく知られた物語の異版は、ヨーロッパだけでなく東洋の民間伝承でも普遍的にみられる[11]。
あらすじ[編集]
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類話[編集]
この民話には他にも﹃海の帝王とワシリーサ・プレムードラヤ﹄︵224番︶、﹃湖の帝王とワシリーサ・プレムードラヤ﹄(222番) といった類話がある。 ﹃海の帝王とワシリーサ・プレムードラヤ﹄においては、物語の中に登場する王は商人に、王子は商人の息子のイワンに、2つの小箱は黄金の宝石箱に、竜王は異教の王ロブに、12羽の鷺は3羽の鳩に、キスによってワシリーサを忘れる相手は妹から名付けの母になっている。与えられる難行も2つから3つに増えている。3人の勇者にあたる人物はみられない[6]。 ﹃湖の帝王とワシリーサ・プレムードラヤ﹄においては、鷲の飼育のエピソードはなく、旅先で王が湖の水で喉を潤そうとしたところ、湖の帝王から﹁王の家にある物で王の知らない物を貰う﹂という条件を示される。成長したイワン王子は、湖の帝王の元へ向かう途中で、老婆から教えられたとおりに13羽の鳩が変身した娘の1人、ワシリーサの衣類を隠し、彼女から黄金の指輪を受け取る。白蝋でできた教会を1晩で建てるなどの3つの難行はあるが、妻の選択に際してのためしはない。やがて郷愁に耐えかねて帰国した王子はワシリーサを忘れ、他国の王女との結婚を考えるが、別れの際にワシリーサが言ったとおり、宮殿の窓に2羽の鳩が体をぶつけるのを見て本当の妻を思い出す[7]。竜王︵海の皇帝︶について[編集]
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脚注[編集]
(一)^ “Морской царь и Василиса Премудрая _ The Sea King and Vasilisa the Wise - скачать книгу в разных форматах”. 2015年5月11日閲覧。にて確認した英題。
(二)^ “Морской царь и Василиса Премудрая The Sea King and Vasilisa the Wise бесплатно Не указан Улыбка”. 2015年5月11日閲覧。にて確認した英題。
(三)^ ab﹃ロシア民話集 下﹄364頁︵注︶。
(四)^ ab﹁竜王と賢女ワシリーサ﹂﹃ロシア民話集 下﹄136-153頁。
(五)^ ab﹁海の帝王とワシリーサ・プレムードラヤ﹂﹃ロシアの民話2﹄366-381頁。219番にあたる。
(六)^ ﹁海の帝王とワシリーサ・プレムードラヤ﹂﹃ロシアの民話 別巻﹄272-294頁。
(七)^ ﹁湖の帝王とワシリーサ・プレムードラヤ﹂﹃ロシアの民話2﹄391-404頁。
(八)^ ﹃ロシアの神話﹄︵ギラン, フェリックス編、小海永二訳、青土社︿シリーズ 世界の神話﹀、1993年10月、新版。ISBN 978-4-7917-5276-8︶88頁での日本語訳。
(九)^ ﹃ロシアの神話﹄︵ワーナー, エリザベス著、斎藤静代訳、丸善、2004年2月。ISBN 978-4-621-06101-5︶32-34頁での日本語訳。
(十)^ Афанасьев 1994, p. 292.
(11)^ cf. アンドルー・ラングによる論文﹁A far-travelled tale﹂︵ラングの著書﹃Custom and Myth﹄に収録︶