逆数
逆数︵ぎゃくすう、英: reciprocal︶とは、ある数に掛け算した結果が 1となる数である。すなわち、数 xの逆数 yとは次のような関係を満たす。
通常、x の逆数は分数の記法を用いて 1/x のように表されるか、冪の記法を用いて x−1 のように表される。
1 を乗法に関する単位元と見れば、逆数とは乗法逆元︵じょうほうぎゃくげん、英: multiplicative inverse︶の一種であり、乗法逆元とは一般化された逆数である。
上述の式から明らかなように、x と yの役割を入れ替えれば、x は yの逆数であると言える。従って、x の逆数が yであるとき yの逆数は xである。
x が 0 である場合、任意の数との積は 0 になるため、︵0 ≠ 1 であれば︶0 に対する逆数は存在しない。
また、任意の xについて必ずしもその逆数が存在するとは限らない。たとえば、自然数の範囲では上述の関係を満たす数は x= y= 1 以外には存在しない。0 を除く任意の数 xについて逆数が常に存在するようなものには、有理数や実数、複素数がある。これらのように四則演算が自由にできる集合を体と呼ぶ。
逆数は乗法における逆元であるが、加法における逆元として反数がある。
1つの二項演算を持つ集合であって左右の逆元が常に存在するもの︵代数的構造︶はループと呼ばれる。
例[編集]
以下に具体例をいくつか挙げる。ここで eはネイピア数、i は虚数単位、r は複素数の絶対値、θ は複素数の偏角を表す。また、z は複素数 zの共役複素数、|a| は数 aの絶対値を表す。
●9 の逆数は 1/9。同様に 1/9 の逆数は 9。
●2/3 の逆数は 3/2。同様に 3/2 の逆数は 2/3。
●0.3 の逆数は 1/0.3 = 10/3。同様に 10/3 の逆数は 3/10 = 0.3。
●−5 の逆数は 1/−5 = −1/5 = −0.2。
●−|a| の逆数は 1/−|a| = −1/|a|。
●i の逆数は 1/i = i−1 = −i。
●3 + 4i の逆数は 1/3 + 4i = 3 − 4i/25。
●x + yi の逆数は 1/ x + yi = x − yi/x2 + y 2。
●reiθ の逆数は (reiθ)−1 = 1/re−iθ。
●複素数 zの逆数は 1/z = 1/|z|2z。
合同式での逆数[編集]
詳細は「モジュラ逆数」を参照
合同式において逆数を考えることができる。a × bを mで割ると 1余るとき、b を aの mを法とする逆数と呼ぶ。合同式で表すと以下のようになる。
例えば、4 × 2 ≡ 1 (mod 7) となるので、法 7において 2は 4の逆数である。通常の逆数と同様、逆数の逆数は同じ数であり、0 の逆数は存在せず、1 や −1 の逆数はそれ自身である。合同式の性質から、m の倍数の逆数は存在せず、(km ±1) の逆数はそれ自身になる。
定義上、a は mと互いに素である必要がある。つまり、一般に合同式での逆数は存在するとは限らない。例えば、7 × b≡ 1 (mod 42) や 12 × b≡ 1 (mod 4) を満たす bは存在しない。
素数 pを法とする場合、0 以外の全ての元が逆数を持つ。法 17を例とすると次のようになる。
元 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
逆数 | なし | 1 | 9 | 6 | 13 | 7 | 3 | 5 | 15 | 2 | 12 | 14 | 10 | 4 | 11 | 8 | 16 |
合同式での逆数はオイラーの定理によって計算できる。a に逆数 bが存在するならば
なので、
︵ここで φ はオイラーのφ関数︶であり、逆に aと mが互いに素であれば、この式によって逆数が与えられる。特に、m が素数の場合以下のようになる︵フェルマーの小定理から直接導かれる︶。
また、ユークリッドの互除法によっても効率的に求めることができる。定義式は、以下のベズーの等式︵ディオファントス方程式の一種︶が bと nについて整数解を持つことと同値である。
この式の解は、a と mが互いに素である場合、かつその場合に限り存在する。