エーゲ海の北端カルキディキ半島の北東の都市スタギラに生まれる。父は医師でマケドニア王家と親交があった。17歳のときアテネに出てプラトンの学園に入門し、師の没するまでとどまった。その後、小アジアのアッソス、レスボス島のミティレネでもっぱら研究と教授の生活を送り、マケドニア王フィリッポス2世に招かれて、後のアレクサンドロス大王の教育にあたった。紀元前335年ふたたびアテネに戻り、リケイオンに自分の学園を開いた。前323年アレクサンドロス大王が没して、アテネに反マケドニア運動が起こるに及んで、アテネから追放され、母親の生地エウボイアのカルキスに逃れて、翌前322年没した。
[加藤信朗]
(1)初め、アカデメイア滞在中、プラトン風の「対話編」、またはこれに準ずる一般向きの著作を公刊したが、今日ではこれらはすべて失われている。『エウデモス』『哲学の勧め』『哲学について』などがそれである。これらの著作の断片は、19世紀以来『アリストテレスの断片集』として収集されている。
(2)古来、『アリストテレス著作集』Corpus Aristotelicumとして伝えられるものの大部分は、第2期のアテネ滞在中に彼が自分の学園で教授する際に用いた講義のノートである。『オルガノン』『自然学』『形而上(けいじじょう)学』『霊魂論』『ニコマコス倫理学』『政治学』『詩学』など、アリストテレスの主著とみなされるものはすべてここに含まれる。なかにはアカデメイア滞在中、またはその直後のアッソス時代に執筆されたとみなされるものも含まれている。これらの著作において、彼がプラトンの強い影響下にどのように独自の思索を築いていったかを知るのは、この二人の哲学者の間に形成された「哲学」の現実を知るうえで肝要であり、今日のアリストテレス研究の主要な関心事の一つになっている。
(3)ほかに、基礎研究としての資料の集成の一部であったとみなされる著作が、19世紀末出土のパピルスのなかから発見されている。『アテネ人の国制』がそれである。
[加藤信朗]
学問的な認識は、事物のもつ必然的な関連をその原因によって認識することにある。彼はその手続を三段論法(シュロギスモス)の形式として確立し、その諸形式を枚挙して、後の形式論理学の基礎を築いた。様相論理の開拓にも力を注いだが、この方面でのアリストテレス論理学の意義が注目され始めたのは最近のことである。ついで、三段論法の適用によって成り立つ論証科学の構造を分析し、公理論を確立した。ここで彼はまず数学を範型として分析を進め、さらにこれを経験科学にも適用しうる論証科学一般の方法論としようとした。公理は、すべての論証科学に共通の公理となる固有の原理(排中律など)と個別の科学に固有の原理(定義、定立命題)に区別される。後者は個別の科学の対象となる類を限定し、その存立を措定する。こうして、論証科学とは、定義によって措定される特定の類的存在について、共有の原理を用いて、この類に必然に内属する事象を三段論法を用いて論証してゆく手続である。固有の原理(定義、定立命題)は、感覚に与えられる所与事実の内に与えられているものを理性が直観することによって得られるとした。それは、一定の所与事実を「一定のもの」として限定している、第一の根拠なのである。
[加藤信朗]
運動変化する感覚的事物の原因の研究が自然学といわれる。彼はここに4種の原因をあげた(四因論)。(1)質料因――事物が「それ」からできている素材、(2)形相因――事物が「それ」へと形づくられるもので、事物の定義となるもの、(3)始動因――「〈それに〉よって」事物が形成される因(もと)となる力、(4)目的因――この事物形成の運動が「それ」を目ざしてなされる目的、がそれである。このうち、(2)(3)(4)は自然物においては一つであるので、結局、質料と形相によって自然物はなり、質料の内に形相が自己を実現してゆく生成発展の過程として自然の存在は把握される。質料はそこで形相を受容しうる能力(デュナミス・可能態)として、終極目的に従って把握されるので、終極目的(テロス)であるエンテレケイア(完成態)、エネルゲイア(現実態)こそが、自然存在の優越する原因であるとされた(目的論的自然観)。
[加藤信朗]
必然存在にかかわる理論学と区別され、「他でありうるもの」としての「可能存在」(エンデコメノン)にかかわる「どのように〈なす〉か」の知識として実践学が成立する。さまざまな善いものがあるところにそれを目的とするさまざまな行為があり、この行為を導く「どのようになすか」の知識(=技術・テクネー)があるように、行為が終極に目ざす目的として最高善がある。最高善はさまざまな行為を終極において限定する根拠である。最高善が何であり、それをいかにして実現するかの知識が政治学であり、倫理学である。
最高善は「幸福」(エウダイモニアー)とよばれ(幸福主義)、幸福は人間の能力が完全に発揮された活動(エネルゲイア)にあるとされる。人間の能力は理性の能力であり、その完全な実現は神の自己思惟の活動を模倣する理性的観照にあるが、これはわずかの人に一時だけ許されるにすぎず、一般には、日常の行動のうちに理性的秩序を実現する活動にある。人間の行動をいつも理性的秩序にかなった「よい」ものとして発現させるための力として、魂の内に獲得される持続的状態が器量(アレテー・徳)である。器量は魂の情動的な部分においては極端に走らず中間を保つ性向であり、それは他人に対する関係においていつも理性的秩序を実現する正義の性向のうちに終極する。だが、この正しさが個々の行為において実現されるためには、個別の状況における理性的秩序の判定を要し、それには魂の理性的部分の器量である「賢慮」(プロネーシス)の働きをまたねばならない。これら、性向におけると、理性におけると、二つの器量が備わるとき、人間の器量は完成され、人間の共同体のうちには愛が実現される。ここに実質上構想されているものは、人間に許される限りで理性的な観照を楽しむ哲学者の共同体であろう。
[加藤信朗]
人間は国家的動物(ゾーオン・ポリティコン)である。公共の生活のうちに人間の善は実現される。それゆえ、倫理学は政治学の一部をなすと考えられている。中産階級を中心にして、治められるものが交代して治めるものとなるところに実現されうる最善の国制があるとした政体論は、穏健な民主主義の優れた理論づけを与えたものといえる。
[加藤信朗]
創作の本質は、模倣(ミメーシス)にある。悲劇は崇高な行為の模倣であって、崇高な人物が不幸に陥っていく過程を模倣し、観客のうちに引き起こされる哀れみと恐れの情緒を用いて、こういう情緒を浄化することを本質とする。
[加藤信朗]
アリストテレスの著述のうちでもっとも量が多いのは、自然科学にかかわる諸書である。すなわち、『自然学』『天体論』『生成消滅論』『気象論』『宇宙論』『動物誌』『動物部分論』『動物運動論』『動物発生論』などがある。その範囲は、物質界の普遍的諸条件や宇宙の構造などから、地球上の個々の動植物、その諸器官の記述などに至るまで、およそ存在するものの全体に及んでいる。彼は自ら飽きることのない自然観察家であったばかりでなく、その時代の自然知識を余すところなく収集し、詳しく検討して、自分の哲学的見地とりわけ目的論に基づいて体系化しようとした。
[秋間 実]
生物の成長はむろんのこと、位置の変化、場所の移動としての力学的運動をも、彼はやはり目的論的に考察する。たとえば、手を離れた木片が地上へ落ちるのは、彼の考えでは、空気の中では、重いこの物体が自分の本性に従って、もともとそこにあるのが当然とされる場所を目ざして(宇宙の中心である静止した地球へ向けて)運動する、ということにほかならない(もっと重い物体たとえば鉄片は、宇宙の中心へ向かう傾向がもっと強いから、木片よりも速く落下するに違いない)。逆にこの木片は、水の中では、同じくその本性に従って、もともとそこにあるのが当然である場所を目ざし(月へ向けて)上昇運動を行う。そしてどの場合にも運動は、遅かれ早かれ終わりに達する。
地上の物体の自然的運動がこのように落下または上昇という一時的な直線運動でしかありえないのに対して、天体は永遠に一様な円運動を行っており、これがその本性にかなった自然的運動であると彼は考えた。さらに天体は、地球が土、水、気、火という四つの元素でできているのとは異なって、第五の元素でできているに違いない、とも考えた。こうして彼は、自然的世界を、互いに質を異にする二つの部分に、すなわち「月上界」と「月下界」とに分けたことになる。
彼が運動をこのように(1)自然的なものと強制的なもの、(2)地上のものと天上のものに区分したことは、彼以降の物質の運動についての考え方を大きく規定し、力学の発展という点では大きな障害となった。ガリレイ、ニュートンらによって新たな知見が加えられ、この区分が除去されたとき、初めて近世力学の樹立が可能になったのである。
[秋間 実]
数学、天文学、力学などについてはアリストテレス以前に一定の発展があったから、こうした科学を彼が創始したということはできない。ところが動物学については事情が異なっている。自然発生説その他、今日からみれば奇妙な誤った意見や観察をいくつも含んでいるとはいえ、それまでまだほとんどつながりのなかった博物学上の膨大な個別の知見を初めて論理的に整え、体系的にまとめあげて「動物学」の名に値する学問を樹立したという点で、アリストテレスの功績は不朽である。とりわけその動物の自然分類法は優れており、重要なものである。
さらには、とりわけ『動物誌』や『動物部分論』などに人体の生理に関する記述がはなはだ多く含まれていることも、注目に値しよう。そのなかでとくに興味深いのは、彼が心臓の役割をきわめて重くみたということである。心臓は、血液の源泉であり、有血動物が生存するのに欠かせない体熱の起源であり、また、運動と感覚のはじめ、感情・思考の場、つまり心の座であるという。こうした認識に見合って、肺臓および脳の役目も規定されることになる。すなわち、彼は、肺臓を呼吸によって生体の過熱を防ぐ空冷装置と解したし、脳には心臓の熱を調節するという副次的役割をふりあてて、脳と感覚その他の精神現象とのかかわりは否定ないし無視したのである。
[秋間 実]
『『アリストテレス全集』全17巻(1968~1973・岩波書店)』▽『出隆著『アリストテレス哲学入門』(1972・岩波書店)』▽『D・J・アラン著、山本光雄訳『アリストテレスの哲学』(1979・以文社)』▽『井上忠著『哲学の現場――アリストテレスよ語れ』(1980・勁草書房)』▽『W. D. RossAristotle (1st ed. 1923, 3rd ed. Revised 1937, Methuen, London)』▽『J. Barnes, M. Schofield, R. Sorabji ed.Articles on Aristole, 4 vols(1975~1979,Duckworth, London)』▽『A. O. Rovty ed.Essays on Aristotle's Ethics(1980,University of California Press, Berkeley)』
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…アッバース朝カリフ,マームーンはバグダードにバイト・アルヒクマを建てて,この翻訳活動を推進した。これらの翻訳活動のうちで,とくにアリストテレスに関しては,その著作の大部分がアラビア語に訳されて研究されるようになった。しかし,こうしてアラビア語訳されたアリストテレスの作品は,テミスティオスThemistiosのような新プラトン主義者の解釈を根拠に紹介されたので,イスラム世界におけるアリストテレスの哲学は,新プラトン哲学の色彩を濃く漂わせたものになった。…
…現在の遺伝学は細胞・個体・集団の各レベルについて,遺伝物質の複製・伝達・情報発現の機構を解明し,これらの知見に基づいて変異の生成過程を理解し,さらにはその将来を予測することを目指している。
[遺伝学の確立]
遺伝の現象そのものについては,おそらく太古の人々も気づいていたに違いないし,アリストテレスも《動物発生論》において遺伝という問題を巡ってかなり深く考察している。たとえば黒人と交わった白人女の娘は黒人ではなかったが,その娘が白人と交わってできた孫が黒人であったという,今でいえば隔世遺伝の事実をあげて獲得形質の遺伝に反証している。…
…神話時代を除くとギリシア哲学に宇宙開闢説が少ない理由もそのあたりにあろう。アリストテレスの時代になると,コスモスの解釈学にはいくつかの流れが読み取れるようになる。原理的には無限の空虚な空間の中をさまざまな原子が運動するという宇宙イメージを立てたデモクリトス,ノモスnomos(法)の概念を媒介に,人間の倫理をも自然の合理的秩序の中に含ませつつ,独特の宇宙論(そしてギリシア哲学においては数少ない宇宙開闢説)を展開するプラトン,おそらくはデモクリトスを最大の論敵として仮想しつつみずからの宇宙論構築の道をたどったアリストテレスを,そうした流れの中心に見ることができる。…
…夢の中で病人は神のお告げを授かり,それを神官が判じ解くのである。既に,アリストテレスは,夢が神から送られてくるものではなく,人間の精神の機構と結びつくものとみなしているが,それでも,この夢見のための籠りは近世に至るまで一貫して世界の各地で行われ続けたのである。2世紀初頭に生まれたアルテミドロスは,ギリシア・ローマにおける夢占いの実際をもっとも詳細に記した人物であるが,その《夢判断》は,マクロビウスの《スキピオの夢》とともに,古代後期の夢占いの体系をよく伝えている。…
…もちろん,ギリシアにあっても,運動は,必ずしも,物理的な意味,つまり物体の位置運動としてのみとらえられたわけではない。アリストテレスは,一般に運動を,可能的なものから現実的なものへの〈変化〉として措定している。そこには,量的変化(増減,膨縮など),質的変化(物質の色の変化など),生成消滅(実体上の変化)が,位置運動のほかに,運動として数えあげられていた。…
…冷静さと情熱,理性と情念,合理と非合理,といった異質な要素の何らかの結合によって生み出された行為への一定の傾向性。エートスを,人間と社会の相互規定性をとらえる戦略概念として最初に用いたのはアリストテレスであり,社会認識の基軸として再びとらえたのがM.ウェーバーである。ウェーバーによれば,この行為性向は次の三つの性質をあわせもつ。…
…〈デュナミスdynamis〉(〈可能態〉〈潜勢態〉。ただし一般的な意味としては〈力〉〈能力〉)と対比して,可能性が実現していることを表す用語としてアリストテレスがはじめて用いた。その語義は〈エルゴンergon〉(仕事,活動,またはその成果,作品)から派生したもので,現に活動しているという動的な現実も,完成されてあるという静的な現実も示す。…
… ところで,舞台を見てそこで演じられていることに同化するには,まずそれが〈信じられるかどうか〉という,観客の内部の直観的・感覚的であると同時に知的でもある受容・参加の可能性が問題になるだろう。しかもそこで演じられている〈物語〉(アリストテレスはそれをミュトスmythosと呼んで悲劇の最重要の要素とした)が信じられるか否かだけではなく,それが信じられるような仕方で提示されているかどうかが問題になる。たとえばマラルメは,ワーグナー楽劇の作用は一種の宗教性を帯びるとして,ゲルマン民族の始原の謎を解きあかす〈神話〉とその〈形象〉へと,交響楽の始原回帰の作用に導かれて観客=聴衆が合体するのだと説いたが,このようにあからさまに宗教にとって代わる仕組みを作り出した場合でなくとも,演劇は一種の〈信仰の業(わざ)〉である。…
…〈道具〉〈手段〉〈器官〉を表すギリシア語であるが,現代の各国語では〈科学の方法,道具〉という意味をもつ。このような意味の特殊化は,アリストテレスの論理学書《範疇(はんちゆう)論》《命題論》《分析論前書》《分析論後書》《トピカ》(《詭弁論駁論》を含む)が後世の編集において〈オルガノン〉の名の下に総称されたという歴史的経緯による。アリストテレス自身は彼の論理学的業績が自分の学問体系の中で占める位置を明示していないが,後世のギリシア人編纂者たちがそのような論理学を自然学,動物学,数学,さらには形而上学の体系を構成するための〈道具〉と考え,この名を与えたことは明らかである。…
…彼は動物の解剖を行い視神経と耳管を発見している。ギリシア時代の最大の生物学者アリストテレスは,《動物誌》《動物部分論》《動物発生論》を著し比較解剖学を創始したが,人体解剖は行っていない。アレクサンドリアが栄えるころには多くの学者がギリシア本土から招かれた。…
…本来ギリシア語で,祭儀,医術,音楽,哲学など諸分野に広く認められる〈純化〉を意味した語。だがアリストテレスが《詩学》第6章で悲劇を定義し,〈悲劇の機能は観客に憐憫(れんびん)と恐怖とを引き起こして,この種の感情のカタルシスを達成することにある〉と明記して以来,この概念は悲劇論ばかりか芸術全般の考察における重要な概念となった。もっともアリストテレスの用語の意味については,古来さまざまな解釈があり,果てしない論争が続いてきた。…
…彼は,教える者と学ぶ者とがともに生活し,対話を重ねるなかで魂に点火し,それをみずから育てることが大事だと考えていた。これに対してアリストテレスは講義を行ったものと思われる。今日残されているその著作は,彼の講義のための覚書であり,講義に先立って彼は,学ぶ者の学習過程を想定し,それにそって周到な準備を重ねたものと推定されている。…
…原語であるギリシア語のkatēgoriaは,動詞katēgorein(kata~に対して,+agoreuein公の場で語る<agoraギリシア都市の公共広場)すなわち,糾弾する,告訴するに由来し,元来日常用語としては〈訴訟〉を意味した。個々の犯罪ないしその犯人を,たとえば殺人罪,窃盗罪など公の場で承認されうる普遍的な概念の下に包みこんで訴える,という本来の意味を生かして,アリストテレスは,この語を前述の意味の哲学の術語としてとり入れた。すなわち,彼は,カテゴリーをものの分類の最も普遍的な規定,すなわち最高類概念としてとらえ,具体的には,実体,量,性質,関係,場所,時間,位置,状態,能動,所動の10個をそれにあたるものとしてあげたのである。…
… 哲学史上では,エンペドクレスが感覚は外物から流出した微粒子が感覚器官の小孔から入って生ずるとしたのが知られる。それに対しアリストテレスは〈感覚能力〉を〈栄養能力〉と〈思考能力〉の間にある魂の能力の一つととらえ,それを〈事物の形相をその質料を捨象して受容する能力〉と考えた。一般にギリシア哲学では,感覚と知覚との区別はいまだ分明ではない。…
…虚偽とは人間の理性がおかされる病気といえるが,ちょうど生理学が人体の病気の研究である病理学から発展したのとおなじように,論理学は理性の病気の研究である虚偽論から発展してきた。それゆえ論理学の創始者といわれるアリストテレスが優れた虚偽論を書いたことは当然のことだといえる。彼はそこでいろいろな虚偽を列挙し分類しただけではなく,それがなぜ虚偽であるかをはっきりと示してみせたのである。…
…彼はまたアカデメイアという研究所をつくり,〈哲人王〉たるための哲学をきわめると同時に,イデア的考察に資するものとして純粋数学や理論天文学の研究をエウドクソスらとともに推進した。 プラトンのイデア論とイオニアの自然学とをある意味で統合したのがアリストテレスである。イデアを個物の本質としての〈形相(エイドス)〉としてとらえ,同時にイオニアの自然学がとりあげていた物質的構成要素を,素材としての〈質料(ヒュレー)〉として組み入れ,いっさいの存在をこうした〈形相〉と〈質料〉の不可分な結合において把握するのである。…
…
[〈一者〉の追求]
〈すべては水である,水こそ万物の始原(アルケーarchē)である〉というおおづかみな哲学をうち立てたタレスに始まって,煩瑣(はんさ)とも言いたくなるほどの細かい分析を得意にしたアリストテレスにいたるまでの期間はほぼ250年にすぎない。この短い期間にギリシアには多数の哲学が生まれ,多数の個性的な哲学者が輩出した。…
…しかしアテナイ文学が刻み残している道はまさにその反対である。後年アリストテレスも認めているように,アテナイの悲劇・喜劇の芸術は単純素朴な即興大衆演芸から始まり,従来の叙事詩と抒情詩の文学的伝統を総合的に吸収・集約し,ついに新しい表現様式として高度の完成に達したのである。今日伝存するのは当時上演された作品総数のおそらく数百分の一に過ぎないが,それでも作者たちの抱いた高遠な展望を十分に知らしめる。…
…もちろん,このとらえ方自体,ある程度西欧的な哲学の伝統によりかかっており,例えば日本語における〈間(ま)〉は,明らかに時間と空間の双方を含んだ概念であるが,もともと〈時間〉とか〈空間〉という日本語がそうした西欧的背景のなかで用いられる習慣がある以上,ここでもさしあたって西欧的な概念史を問題にする。
【西欧的空間概念の系譜】
古代ギリシア文化圏で注目すべき空間論はデモクリトス,それにプラトン,アリストテレスに見いだせよう。デモクリトスにおいては,空間は,完全な〈空虚mēon〉(すなわちいっさいの存在の否定)としてとらえられ,それはまた,存在としての原子(アトム)が運動するための余地であるとみなされた。…
…哲学の諸分野,諸原理の最高の統一に関する理論的自覚体系。語源的には,アリストテレスの講義草稿をローマで編集したアンドロニコスが,《自然に関する諸講義案(タ・フュシカ)》すなわち自然学の後に(メタ),全体の標題のない草案を置き,《自然学の後に置かれた諸講義案(タ・メタ・タ・フュシカ)》と呼び,これがメタフュシカmetaphysicaと称されたことに基づく。内容的には,第二哲学としての自然学に原理上先立つ存在者の一般的規定を扱う第一哲学,自然的存在者の運動の起動者としての神を扱う神学を含む。…
…エンペドクレスの4元素(現在の元素とはまったく異なる),すなわち四元は,インド哲学の四大(しだい),すなわち万物生成の根源として考えた地水火風とまったく同じであり,西域経由の通商により両文化間に思想交流があったことを示唆している。 アリストテレスは,前述の四元に物質の基本的性質を表す第五元を加え,これを熱冷乾湿の四性とし,土は第五元が冷乾,水は冷湿,火は熱乾,風は熱湿を帯びたものと考えた。現代的に考えると,第五元だけが物質の本質であって,エネルギーの出入りによって固態にも液態にも気態にもなりうるのである。…
…しかも,光学の名のもとに,反射や屈折だけではなく,視覚の問題や,場合によっては眼球の解剖学と生理学すら論じられたのである。 まず,古代には,数学者として知られるユークリッド(エウクレイデス)が光の直進性と反射を研究し,哲学者のアリストテレスも色彩の問題を論じた。さらに,天文学者のプトレマイオスも屈折についての研究を残している。…
…プラトンの諸対話編にはこの第2の型の霊魂観が典型的に表現されており,理性的な霊魂の不滅が真剣な哲学的議論の主題になっている。アリストテレスの《霊魂論》も,プラトンと同じく,心の理性的・超越的な存在性格を強調したが,それと同時に人間の心的生活が,たとえば栄養摂取や感覚‐運動の機能に関して植物的・動物的な生命活動と連続するという一面も見逃さず,総合的・調和的な心理学説をつくり上げている。 こういう古典ギリシアの哲学的霊魂観がやがて霊肉二元のユダヤ教・キリスト教的な宗教思想と結びつき,西洋の思想的中核を形成するに至る。…
…エウドクソスとカリッポスが考案した幾何学的な同心天球説はこの問題提起に対する一つのみごとな解答であった。その後アリストテレスは同心天球説に依拠しながら,階層構造的に秩序づけられたコスモスとしての宇宙論を完成させた。そしてアリストテレスの宇宙論は,古代末期にプトレマイオスの練りあげた離心円・周転円の天文学によって部分的に修正を受けながらも,その後2000年近くもの間,ローマ,アラビア,ヨーロッパへと受け継がれながら,つねに支配的な地位を確保することになる。…
…アリストテレスによってほぼその全体が与えられ,中世を通じて洗練された論理学の体系は,現代論理学に対して伝統的論理学と呼ばれているが,三段論法はその主要部門であり〈二つの前提命題から一つの結論命題を得る推論〉と要約される。伝統的論理学においては,おもに〈すべてのaはbである(Aabと略記)〉〈或るaはbである(Iabと略記)〉〈いかなるaもbでない(Eabと略記)〉〈或るaはbでない(Oabと略記)〉という4種類の命題――ここでa,bはなんらかの事物の集まり,集合を表すものとする――が取り扱われている。…
…そのような意味での今日における詩学とは,文化の,あるいは文化の創生にかかわる構造,あるいは〈内在的論理〉とでもいうべきものの解明の学になっているといってもよかろう。 ヨーロッパにはアリストテレス以来の詩学,あるいは文学上の創作論の伝統があったが,20世紀初めのロシアにおいて,それとは直接的・具体的な影響関係はもたずに,まず文学作品を一つの言語世界としてとらえ,その言語(表現)のさまざまなレベルでの〈手法〉と構造の統合的研究から作品を解明しようとする,フォルマリストたちのまったく新しい視座からの〈詩的言語〉あるいは言語の〈詩的機能〉の研究が興った。【編集部】
[アリストテレス詩学の伝統]
今日,一つの著作として伝わるアリストテレスの《詩学》(原題はperi poiētikēs(詩について))は,当時アリストテレスがギリシア悲劇(具体的には《オイディプス王》など)やギリシア叙事詩(具体的には《イーリアス》《オデュッセイア》など)を念頭において,一種の文学論あるいは創作論を学徒らに講義していたものが,その講義の覚書,あるいは聴講者の筆注が残り,26章からなる一つの著作物となったものといわれる。…
…古代ギリシアでは早くもイオニア学派が神話的解釈に満足せず,自然について独自の原理的な考察を行ったことが知られている。だが学問としての自然学を確立し,後世に巨大な影響を及ぼしたのはアリストテレスである。彼は学問全体を,それぞれ理論,実践,制作にかかわる三つの部門に分類し,自然学を形而上学および数学とともに理論的部門に位置づけた。…
…エンペドクレスは,動物の体のいろいろな部分が地中から生じて地上をさまよいながら結合し,適当な結合となったものが生存して子孫を残したとのべた。またアリストテレスとともにプラトンの弟子であったスペウシッポスも,生物が単純なものから複雑なものに進み,ついに人間を生じたとしている。これらの考えは,民間伝承と哲学が結びついたにすぎないともみられるが,また他方,造物主の観念に束縛されない自由性をもつ点で評価されることもある。…
…
[意義]
人間の行為を,正しい,正しくないというように判断するための基準が正義である。正義の古典的定義として有名なのは,ローマ法学者ウルピアヌスの〈各人に彼のものを与えんとする恒常的意思〉という定義であるが,さらにその源をたどればアリストテレスの正義概念にさかのぼる。アリストテレスは,正義とは均等的,〈価値に相応の〉ということであり,不正とは不均等的,〈過多をむさぼる〉ことであるとした。…
…すなわちシェリングは〈自然は目に見える精神,精神は目に見えない自然である〉と主張し,ロマン派の思想家はさらに民族精神や世界精神についても語った。 狭義の生気論は,自発的活動力を持つ生物にのみ生気を認める立場で,アリストテレスは植物,動物,人間にそれぞれ特有の魂(プシュケー)があるとして生物の諸機能を説明し,これが長い間生物研究の主流であったが,17世紀になってデカルトは人間にのみ魂(アニマ)を認め,植物も動物も人体も機械と同様の物体にほかならないとした。こうして生物も機械論的に説明されるようになると,これに反対して生物体についても生気論が主張された。…
…
[政治学の歴史]
政治についての体系的な研究は,紀元前5世紀のギリシアにおいてはじまった。ソクラテスにおける〈善きポリスと市民〉の問いにはじまった政治についての学問は,プラトンにおける理想のポリスの探求,アリストテレスにおける経験的なポリス国制の比較研究へと発展していった。しかし,ポリスの共同体的特質を反映して,そのいずれにおいても,政治の規範的研究と経験的研究は直接的に結合し,したがって政治学はまた〈善き市民〉としての生き方を説く倫理学でもあった。…
…そのため,デカルト以後の近代初期の哲学においては,これら異なる秩序に属する心身がどのような関係にあるのかという問題をめぐって,相互作用説,平行論,機会原因論,予定調和説など多様な仮説が提出されることになる。 一方,アリストテレスやその流れをくむ中世スコラ哲学,そして近代においてもライプニッツらは,精神を超自然的秩序に属する実体としてではなく,できるかぎり自然の内部でとらえようとし,したがって心身の関係も連続的ないし階層的に考えようとする。アリストテレスは身体を質料(ヒュレ),精神をそこに宿る形相(エイドス)と見るが,これは現代風に言いかえれば,精神を身体に宿る高次の機能と見るということになろう。…
…あらゆる科学と同じく,生物学の起源も,実用と知的好奇心との両方に求められる。採集,狩猟,農耕,原始医術などにおける実地の知識は,原始時代から積み重ねられてきたはずだが,学問として体系化した最初の代表的人物はアリストテレス(前4世紀)であった。ガレノス(2世紀)はさらに医学の面から,解剖学およびこれと表裏一体のものとしての生理学の方向を確立した。…
…
[古代,中世の生命観]
宗教や迷信,あるいは神話や伝承にもとづく生命観は別として,科学的知識を基盤とした生命観の最初は,古代ギリシアの自然哲学にもとめられる。アリストテレスはその頂点に立つものであり,しかも後世にながく影響を及ぼした。かれは生命現象を,可能態である質料(ヒュレ)が現実態である形相(エイドス)として実現される過程として理解し,それは3種類の霊魂によって営まれるとした。…
…ここでは,西洋のこの哲学知の基本的概念装置を検討し,この知の本質的性格と,それを原理に形成された西洋文化の特質を洗い出してみたい。
【自然(フュシス)と形而上学(メタフュシカ)】
ギリシアの古典時代にソクラテスやプラトン,アリストテレスらの思想のなかで生まれ形をととのえたこの〈哲学〉と呼ばれる知は,当時のギリシア人の一般的なものの考え方に対していかなる関係にあったのか。それを昇華し純化するものであったのか,それともそれとはまったく異質のものであったのか。…
…道徳的善をある独立の観念的実在とみる見解は,〈善のイデア〉を探究したプラトンに始まり,新プラトン主義を経て,最高の自体的善=最高善としての神という中世哲学の形而上学的概念において,そして近代以降にも神学的倫理学において認められ,M.シェーラーやN.ハルトマンの価値倫理学にもその影響が認められる。 総じて古代ギリシアにはさらに,幸福をいっさいの本性的活動の究極目的とみなす考え方があり,そこからアリストテレスは道徳的善を徳に即しての人間の魂の活動として把握したが,この種の見解はエピクロスの節度ある賢明な快楽主義とストア学派の厳格な道徳哲学という両方向において展開された。17~18世紀のイギリス,フランスの啓蒙思想において道徳的善を世俗的な感覚主義的人間観に基づいて功利性に還元しようとする試みがなされ,この方向は功利主義の立場に受け継がれた。…
… こうした心的能力への注目は,西洋では古代ギリシアにまでさかのぼる。例えばアリストテレスは,感覚や理性的思考と並んで,〈表象phantasia〉の存在を認めていた。〈表象〉においては対象が現前しないから,それは感覚とは異なるが,またそれはいつでも自由に思い浮かべられるという点で,思考とも異なる。…
…ギリシア語の〈在るものon〉と〈学logos〉から作られたラテン語〈オントロギアontologia〉すなわち〈存在者についての哲学philosophia de ente〉に遡(さかのぼ)り,17世紀初頭ドイツのアリストテレス主義者ゴクレニウスRudolf Gocleniusに由来する用語。同世紀半ば,ドイツのデカルト主義者クラウベルクJohann Claubergはこれを〈オントソフィアontosophia〉とも呼び,〈存在者についての形而上学metaphysica de ente〉と解した。…
…そして,真でもなければ偽でもない中間の真理値は存在しないというのが論理学の常識であろう。しかしながら,アリストテレスもすでに指摘しているように,まだ起きていない未来のことがらについては,この原理,つまり二値の原理は必ずしも成り立たないように思われる。実際,未来のことまでその真偽があらかじめ定まっているとするならば,いわゆる決定論(あるいは宿命論)を暗黙のうちに認めてしまうことになる。…
…自然現象における力として注目すべき最初の理論的発想は,擬人主義的な〈愛(引力)〉と〈憎(斥力)〉であろう。ギリシアでは古くエンペドクレスが,物質混成における支配原理としてこの2力を立て,プラトンは相異なるものどうしの間の引力を,アリストテレスは逆に相似るものどうしの間の引力を措定している。古代中国でも《周易参同契》など錬金(丹)術文献に同様の着想が登場することからもわかるように,こうした物質どうしの選択的な〈親和性〉もしくは〈親和力(引力)〉という概念は,その逆も含めて,錬金術的な自然学の中で永く生き続ける。…
… 古代ギリシアではピタゴラスが手相に関心を示したとされ,アナクサゴラスは手相術を教授している。アリストテレスも長命の人の手掌には直交する2本の線条か1本の線があるが,短命の人のは直交していないと述べる(《動物誌》第1巻)。彼の著作とされる手相の研究もあるが,信をおけない。…
…生成し消滅し流転する多様の存在からなる感性的世界を超えて,不変恒常の〈真実有(ウシアousia=実体)〉であるイデアが求められ,このイデアとしての善や美を仰ぎ見ながらわれわれの魂を善美にととのえ,またこの世を善く美しく調和あるものとすることが,プラトンにおける〈愛知(哲学)〉の究極の目標であった。アリストテレスが求めたものもまた,真実有としての〈エイドス(形相)〉の探究であった。 このようなギリシアの哲学は,やがて紀元後のローマ時代に,キリスト教がその教理を形成する際に有力な手がかりとなり,教理の中へ採り入れられた。…
…
[思考の成立条件・規則としての同一性]
何事かについて考える場合,そもそも,そのこと,ないし,ものが一定のものとして根本に置かれていなければ考えそのものが混乱におちいって成立しなくなる。このような観点から,同一性を真なる思考の成立のために欠くことのできない形式的条件とし,矛盾律とならぶ論理学の根本規則としての同一律によって要請される特性とする見方がアリストテレス以来一貫して存在している。アリストテレスその人においては,彼が矛盾律を時間的条件や広い意味での文脈に関係づけて定義していることからも明らかなように,同一律,矛盾律は,真なる思考のための形式的規則であると同時に,実在の構造そのものにもかかわるものと考えられていた。…
…これらの言葉が広く用いられるようになったのは19世紀も半ば以後のことであるが,知識をめぐる哲学的考察の起源はもちろんそれよりもはるかに古く,たとえば古典期ギリシアにおいてソフィストたちの説いた相対主義の真理観にはすでにかなり進んだ認識論的考察が含まれていたし,ソクラテスもまたその対話活動のなかで,大いに知識の本質や知識獲得の方法につき論じた。
[プラトン,アリストテレス]
こうして深められた認識論的な問題意識に体系的な表現を与え,その後の展開の方向をさだめたのがプラトンである。彼は人間の知的な営みを〈知識epistēmē〉と〈思いなし(臆見)doxa〉という二つの種類に分けて考察した。…
…発生の過程は,すべての多細胞生物において起こるから,発生は,生物のもつ普遍的な現象の一つであり,したがって,それを研究する発生学は,生物学の中で一つの大きな基本的な位置を占めている。
[歴史的な変遷]
動物学のあらゆる他の分科の例にたがわず,発生という現象を初めて体系的に記述したのはアリストテレスで,《動物発生論》という書物が残されている。しかし,メカニズムの追究を目的として発生を研究する学問が盛んになり,発生学と呼ばれる分野が確立されるようになったのは,19世紀の後半のことであった。…
…だが諸文化のなかで美についての学問的探究をいちはやく展開したのは古代ギリシアであり,以来美学的思想の主潮はやはり西欧に流れてきたとみなければならない。 美のイデアを説いて美の哲学の基を築いたプラトン,悲劇を論じた《詩学》によって芸術学の始祖となったアリストテレス,はじめて独立の美論をまとめたプロティノス,ローマにおいては修辞学上の著作をもつキケロおよびクインティリアヌス,古代末期から中世に移れば神学的美論を説くアウグスティヌスやトマス・アクイナス,ルネサンスでは各種の美術論や詩学を述べる美術家や文人たち,これらはいずれも深く沈潜して傾聴すべき人々である。近世に入るや感性に対する新たな照明と相まって17世紀から18世紀前半にわたり美学成立の機運が生じた。…
…デモクリトスの原子論では,原子は感覚的性質をもたずに,容器としての空間のなかにあって,ひたすら運動をしていると考えられている。アリストテレスでは,真空が否定されたところから容器としての空間概念が存在せず,物質は,基体に熱/冷,湿/乾という四つの性質のうちから対立2項を除く二つの性質を加えることによって,土,水,空気,火の四つの原質が生まれ,その四つの原質の配合が万物を構成する,という物質観のなかで理解されていた。そして一面では質料hylēと形相eidosとによって物質を説明する形をとった。…
…逍遥学派ともいう。プラトンが遊歩しながら講義した習慣に由来する名で,本来アカデメイア出身のアリストテレスらを指したが,以後はもっぱらアリストテレス創立のリュケイオン校の人々を総称する呼名となった。2代目学頭テオフラストス,3代目ストラトンのもとでとくに自然学研究が継承・推進され,しだいに創立者の教説から遠ざかって即物的傾向を強めていくが,前70年ころの学頭アンドロニコスAndronikos以来アリストテレス研究も復活する。…
…そこでは,仮設から出発して原理へと上昇する途と,原理から下降する途とが方法論的に区別されてもいる。アリストテレスにおいては,プラトンにおける下降の途ともいうべきもの,つまり,原理から出発する論証的推理が第1位におかれ,弁証法はエンドクサendoxa(一般的に承認されている意見)から出発して原理そのものの設定を図る学理的一手法として第2位に置かれる。しかし,第3位の争論的推理や第4位のパラロギスモスparalogismos(幾何学などのごとくその学問に固有の前提から出発するもの)よりも上位に位置づけられていることに留意を要する。…
…この概念は,自然界の個物はイデアの模像mimēma,mimēseisであるとするプラトン哲学の考え(《ティマイオス》)に由来するが,さらにさかのぼれば,数と個物の関係についてのピタゴラス学派の思想にその原型がある。アリストテレスはプラトンからこの概念をひきついだが,芸術は模倣の模倣であり現実世界よりもさらに真理から遠ざかるものであるとするプラトンの考えをしりぞけて,模倣こそ人間の本然の性情から生じるものであり,諸芸術は模倣の様式であるとした(《詩学》)。アリストテレスによれば,詩は行動の模倣で,悲劇はより善き人間の行動を,喜劇はより悪しき人間の行動を模倣することによって作られるとされ,以後,この概念は長くヨーロッパにおける芸術創作論の一つの中心となった。…
…機械的原因とその結果の連関によって事象を説明する機械論に対立する。宇宙を一つの目的論的システムとみなす考え方は,神話的思考のうちにすでに広くみとめられるが,哲学の歴史においては,とりわけアリストテレスがそれを定式化するにあたって重要な役割を果たした。すなわち,彼は,質料と形相の結合からなる個物にあって,その事物の本質規定をなし実現されるべき形相がその目的因をなすと考え,さらに,この考えを宇宙全体の構成にも及ぼして,万物は最高の純粋な形相である神を究極目的として生成展開すると考えたのである。…
…錬金術の一種の〈技術百科事典〉というべき著作を書いた彼の証言によると,すでにより古い著作家たち,いわゆる〈偽デモクリトス〉やユダヤ婦人マリアなどの錬金術師像が浮かび上がり,例えば偽デモクリトスの錬金術書が前3世紀ごろに書かれたものと考えられることからすると,いわゆる〈初期ギリシア錬金術師たち〉は,前3世紀から後7世紀にかけてギリシア語で著作した人たちだったことがわかる。 彼らの金属変成の理論は,物質変成の理論を唱えるデモクリトス(前5世紀)の原子論や,アリストテレス(前4世紀)の元素観から採られたものである。また,実際的な金属変成の職人であり神秘思想家でもあった錬金術師たちが注目したのは,金属の色の変化であった。…
…例えば,集合に含まれる〈もの〉を顧慮しないで,集合相互の関係を考察する論理学は集合算と呼ばれる。アリストテレスが樹立した無様相三段論法の体系は,集合算のなかに吸収される。〈もの〉として命題だけを考え,命題が属する2種類の集合――真な命題の集合と偽な命題の集合――を考え,その間の関係を考察する論理学は命題論理学と呼ばれる。…
※「アリストテレス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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