日本大百科全書(ニッポニカ) 「メキシコ美術」の意味・わかりやすい解説
メキシコ美術
めきしこびじゅつ
古代美術
スペイン植民地時代の美術
独立以後の美術
メキシコ独立(1821)後の芸術は、社会革命の理想と国家主義的な意識に支えられていた。このメキシコ・ルネサンスとよばれる動向に顕著なのは、かつてこの地にあったプリミティブな表現の影響の強い具象性であり、それは結局1950年代まで主流を占めることになる。
[保坂健二朗]
メキシコ独立から1940年代まで
1950年代以降
1950年代、マニュエル・フェルゲレスManuel Felguérez(1928― )やホセ・ルイス・クエバスJosé Luis Cuevas(1934―2017)など、欧米で学んできた若手芸術家たちが、それまで支配的だった具象的で政治的な芸術を否定し同時代の美学的理念に共鳴して、ついにメキシコ美術に抽象的表現がもたらされた。その象徴ともいえるのが、ドイツ生まれの彫刻家マティアス・ゲーリッツMathías Goeritz(1915―1990)のシャープで禁欲的なデザインによる短期間の実験的美術館「エル・エコーEl Eco」(反響)であった。
1970、1980年代、商業的環境への対応から伝統的な様式が復活していった。なかでも、地域の神話や動物相に根ざし偶像破壊的な絵画を描くフランシスコ・トレドFrancisco Toledo(1940―2019)が注目される。1980年代なかばには世界的なポスト・モダニズムの隆盛に並行して、1920年代の国家主義的な図像を換骨奪胎し、より個人的な表現へと変容させたナフム・ゼニルNahum Zenil(1947― )に代表される「新メキシコ主義Neo-Mexicanism」が生まれた。
[保坂健二朗]
建築
建築では、ラテンアメリカ文化圏では最初に採用された国際様式の建築群が知られるほか、シェル構造の研究でも名高いフェリックス・キャンデラFélix Candera(1910―1997)や、シンプルな形体でありながらも水やストゥッコなどの素材感、そして色彩に富む建築で評価の高いルイス・バラガンLuis Barragán(1902―1988)がいる。
[保坂健二朗]
『石田英一郎編『世界美術大系 別巻第2 メキシコ美術』(1964・講談社)』▽『主婦の友社編・刊『エクラン世界の美術17 メキシコ・ペルー』(1982)』▽『加藤薫著『メキシコ美術紀行』(1984・新潮社)』▽『大井邦明著『ピラミッド神殿発掘記――メキシコ古代文明への誘い』(1985・朝日新聞社)』▽『『原色世界の美術16 メキシコ・ペルー』(1987・小学館)』▽『小野一郎写真・文『ウルトラバロック』(1995・新潮社)』▽『北海道立旭川美術館他編『メキシコの美術:1920―1950展カタログ』(1998・メキシコの美術:1920―1950展カタログ委員会刊)』▽『小野一郎著『Mexico:baroque』(2000・アスペクト)』