デジタル大辞泉
「下痢」の意味・読み・例文・類語
げ‐り【下痢】
[名](スル)大便が液状もしくはそれに近い状態で排泄されること。腹下し。
[類語]腹下り・腹下し
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げ‐り【下痢】
(一)〘 名詞 〙 液状または液状に近い糞便を排泄(はいせつ)すること。細菌や寄生虫の毒素、消化機能の低下、腸内の異常発酵などの原因による。はらくだり。はらくだし。
(一)[初出の実例]﹁右以今月七日、忽得下痢、不参期限、仍具事状申送、以解﹂(出典‥正倉院文書‐天平宝字二年︵758︶九月一〇日・写経生等請暇并不参解・辛広浜解)
(二)﹁多く獲て多食ふ。毎日、十分飽了す。却て是れ下利を患ふ﹂(出典‥江戸繁昌記︵1832‐36︶五)
(三)[その他の文献]︹斉民要術‐五・馨果蓏菜茹非中国物産者・橘︺
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
下痢 (げり)
diarrhea
小腸,大腸における水と電解質の吸収不良または分泌亢進により糞便の腸内通過が早く,水分の多い液状便を頻繁に排便する状態をいう。したがって便通の回数増加のみで直ちに下痢とはいえない。
下痢は発生要因によって,次のように分類される。まず,腸管内に異常に水分が貯留され,その水分が消化管壁から消化管内へ押し出される場合︵分泌性下痢︶と引き出される場合︵浸透圧性下痢︶とがある。
分泌性下痢とは,消化管の炎症充血などによって消化管からの分泌が促進され,腸管からの水分吸収能力を上回った場合である。壁内の常水圧が上昇し,滲出性の病変を起こした場合︵腸炎︶,種々の陰イオンの過剰分泌によって,これに付随して水分が分泌される場合︵コレラ︶,膵臓のランゲルハンス島に生じた腫瘍が消化管ホルモンVIP︵vasoactive intestinal polypeptide︶を分泌し,腸液分泌を促進させる場合などがある。一方,浸透圧性下痢とは,腸管内の浸透圧を上昇させるような物質が腸管内に存在し,それを希釈するような形で壁から水分が引き出されるもので,塩類下剤などがその代表的なものである。このほか乳糖不耐症︵牛乳を飲むと下痢をする例︶の下痢もこれに属するものと考えられる。この種の下痢は腸内容が排出されれば下痢は消失する。
次に腸管運動機能異常による下痢がある︵過敏性大腸症候群など︶。これには,腸管の運動が亢進し腸内容の通過が早く水分が十分吸収されないために腸内水分が増加して起こるものや,腸運動が低下し腸内容が鬱滞︵うつたい︶し異常発酵によって腸管が刺激されて下痢を起こすものがある︵蓄便性下痢︶。さらに水分の吸収が十分に行われないために下痢が発生する場合があり,腸の広範切除や絨毛︵じゆうもう︶萎縮により水吸収障害をひき起こすもの︵セリアック症候群︶などでみられる。これら下痢の分類については,下痢の持続期間の違いから急性下痢と慢性下痢とに分けることができる。この分類法は,単に持続期間の違いだけではなく,その原因をなしている疾患の性質の違いをも反映しているので,いかなる疾患かを知るうえで有用である。
急性下痢
腸管の感染症として,細菌性︵細菌性赤痢,腸チフス,パラチフス,コレラ︶,ウイルス性︵伝染性下痢症,ポリオウイルス,アデノウイルス,エコーウイルス︶,原虫性︵アメーバ赤痢︶,寄生虫性︵急性の日本住血吸虫症,鉤虫症,回虫症︶などがあげられる。次いで中毒であるが,食品中毒として細菌性︵サルモネラ,腸炎ビブリオ,病原大腸菌︶,毒素性︵ブドウ球菌,ボツリヌス菌,毒キノコ,アルコール等の食品毒物︶があり,そのほか薬物下剤︵マグネシウム剤︶,重金属中毒︵水銀剤,鉛,ヒ素剤︶があげられる。そのほか,食物,飲料水などの過食過飲,または不消化物の摂取による機械的刺激,含有する酸あるいは発生するガスによる腸蠕動︵ぜんどう︶亢進にもとづく消化不良性下痢も多い。抗生物質使用に起因する下痢も急性の下痢をひき起こす。これは,抗生物質投与により正常腸内細菌叢が破綻︵はたん︶し,耐性菌の異常増殖により産生される毒素によりひき起こされるものと考えられている。アレルギー性下痢として,一定の食品摂取後下痢をひき起こす特異体質のものがある。そのほか,虫垂炎,傍直腸膿瘍に起因する下痢,腸間膜動脈血栓症,虚血性大腸炎,腸重積症などによる下痢もある。またストレスなどによる機能的障害にもとづく寒冷性下痢,神経性下痢があるが,多くは慢性的にたびたび繰り返されることが多い。
慢性下痢
潰瘍性大腸炎,クローン病,結核性腸炎,慢性腸感染症︵細菌性赤痢,ウイルス性腸炎,アメーバ赤痢,鉤虫症,日本住血吸虫症,条虫症など︶,腹部手術後遺症︵胃切除,腹部迷走神経切断術,腸切除,消化管吻合︵ふんごう︶術,腸癒着︶,腫瘍︵大腸癌,大腸ポリポーシス︶,放射線大腸炎,吸収不良症候群,栄養欠乏状態︵ビタミン欠乏症,ペラグラ︶,結腸性子宮内膜症,膵臓疾患︵慢性膵炎,非β細胞性膵島腫瘍︶,内分泌・代謝異常︵アジソン病,甲状腺機能亢進症,尿毒症,糖尿病︶などがあげられる。
こうした慢性下痢のなかで最も頻度の高いものは過敏性大腸症候群である。大腸の緊張,運動,分泌亢進などの機能異常により下痢,腹痛,下痢便秘交替,粘液便などを長期にわたってひき起こすもので,下痢を主訴とするタイプ︵神経性下痢︶が多い。慢性の経過をとるにもかかわらず,一般状態が悪化することなく,とくに食事の摂取後や冷たい飲料水を飲んだ後に下痢がみられることが多い。下痢は心理的な緊張や動揺に一致してあらわれ,種々の自律神経系の失調症状︵倦怠感,肩こり,頭重,不眠︶を伴っている。慢性下痢のうち,その原因が胃の機能的・器質的障害にもとづくと考えられるものに胃性下痢がある。胃液酸度の減少によりタンパク質の消化が不十分となり腐敗性下痢の原因となると考えられている。しかし老人に多い萎縮性胃炎,無酸症患者が必ずしも下痢を示していない事実から,胃性下痢の概念はややあいまいなものと考えられる。膵液,胆汁,消化管ホルモン分泌の異常,それに伴う運動機能の低下等,胃以外の要因がさらに合併したときにみられるものと考えられる。
診断と治療
下痢の性状で大量の水様便の場合は,小腸または上部大腸の疾患で分泌性下痢のことが多いが,少量ずつ頻繁に排便がある場合は,直腸またはS状結腸など下部大腸に病変がある場合が多い。直腸に強度な炎症︵赤痢等︶がある際に疼痛を伴った便意が頻繁に起こり,しかも肛門筋肉の痙攣︵けいれん︶により排出が困難になることがある。これを︿しぶり﹀,裏急後重といっている。急性の下痢で発熱を伴うものは細菌感染が考えられる。細菌性下痢では,発熱,頻繁な粘血便,腹痛などが特徴である。また細菌性食中毒では,発熱,下痢,腹痛,悪心,嘔吐を訴え,血便を伴うこともある。これらは,食事と発症との時間的関係,集団発生の有無,糞便および食品からの起炎菌の検出が必要である。糞便検査は,細菌培養,寄生虫検査,潜血反応の検査,糞便中の脂肪滴検査等,下痢の原因を検索するうえでたいせつである。
慢性下痢の原因として最も多いものは機能性下痢︵過敏性大腸症候群︶であるが,この疾患と大腸癌,潰瘍性大腸炎,クローン病,腸結核などとの鑑別をするためには逆行性大腸レントゲン検査,大腸内視鏡検査が必要で,疑わしい病変があれば内視鏡で組織を採取する︵生検︶ことによって診断が下される。血液検査で低タンパク血症,血清コレステロールの低下がみられ,栄養状態の低下が考えられる場合は,上記の検査に加えて消化吸収試験などが行われる。また膵臓疾患が疑われる場合は膵臓外分泌検査,逆行性膵管造影,超音波検査,CT検査などが行われ,また上部消化管病変の有無に関してはレントゲン検査,内視鏡検査によって検索される。これらの検査によって器質的疾患の有無を診断することができる。
治療としては,脱水,電解質失調があれば輸液を行い,栄養障害があれば高カロリー静脈栄養を行い,是正する必要がある。心身の安静,食事療法︵急性期には絶食し,症状が緩和した後に繊維の多いもの,脂肪食品,香辛料,冷たい飲物,アルコールをさけ,栄養価に富みビタミンの豊富な消化しやすいものを与える︶を行う。薬物療法としては,止瀉︵ししや︶薬のほか,制酸剤,乳酸菌製剤︵商品名ビオフェルミン︶,消化酵素剤,抗生物質,精神安定剤などが使用される。このほか,病因の明確なものにはそれぞれの治療剤として,感染症には抗生物質,寄生虫には駆虫薬,乳糖不耐症にはラクターゼ製剤,潰瘍性大腸炎にはサラゾピリン,プレドニンなどが用いられる。以上のような内科的治療で効果のない劇症型の潰瘍性大腸炎,クローン病,腫瘍に対しては,外科的治療が行われる。また過敏性大腸症候群の場合は,薬物療法以外に心理療法︵面接による疾患の理解と自律訓練法︶も行われる。
執筆者‥福富 久之
止瀉薬antidiarrhoics
下痢を止める薬物をいい,俗に︿下痢止め﹀ともいう。下痢が腸内の毒物や刺激物によって起こっているときには,むしろ下剤を用いて排出を促進させるほうがよい。しかし下痢が非常に強い場合は,水分や無機質の損失によって痙攣を起こしたり,中枢神経の興奮を起こして危険である。また持続性の慢性下痢は栄養障害を起こす。したがって,このような下痢については,止瀉薬を用いて止める必要がある。止瀉薬には次のようなものがある。
︵1︶腸運動抑制薬 アヘンアルカロイド,副交感神経遮断薬,交感神経刺激性整腸薬などがある。アヘンアルカロイドのうち,モルヒネは消化管の緊張を高めて,腸内容物が肛門方向へ移動するのを抑えるとともに,分泌物を減少させる。アヘンは,モルヒネのほか平滑筋弛緩作用をもつパパベリンを含むので強い止瀉作用があり,ゴム質や粘液などの成分が腸管吸収を抑制するため作用時間も長い。アヘン末,アヘンチンキとして用いる。副交感神経遮断薬としては,アトロピン製剤が用いられる。消化管平滑筋の弛緩作用と分泌抑制作用により下痢を止める。ロートエキス,ベラドンナエキスなどがある。交感神経刺激性整腸薬にはゲンノショウコなどがある。
︵2︶収斂︵しゆうれん︶薬 腸粘膜の炎症部での血管収縮,タンパク凝固作用によって被膜を形成し,腸分泌液の抑制と粘膜の感受性を低下させ,蠕動運動を抑制する。タンニン酸,次没食子酸ビスマス,次硝酸ビスマスなどがある。
︵3︶粘漿薬 粘膜や潰瘍部の表面に吸着され薄い膜をつくり,刺激から消化管を保護して運動を抑制させる。トラガント,アラビアゴムなどがある。
︵4︶吸着薬 腸管内に発生した毒素やガス,異常分解産物,粘液などを吸着し,排出させることによって,刺激を緩和する。薬用炭︵活性炭︶,ケイ酸マグネシウムなどがある。
→乳児下痢症
執筆者‥福富 久之+高柳 一成
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
げり【下痢】
下痢︵Diarrhea︶は、医学的には、1日の便に含まれる水分量が200mℓ以上であることと定義されていますが、一般的には、量に関係なく、水または泥状の便をさしています。
人間の胃腸には、1日平均9ℓの水分、食事、消化液が流れ込みます。このうち胃液、腸液、胆汁︵たんじゅう︶、膵液︵すいえき︶など、自分のからだから出る消化液だけで約7ℓになりますが、そのほとんどは小腸︵しょうちょう︶から大腸︵だいちょう︶で再び吸収され、便に残る水分量は200mℓ以下に調節されています。
◎下痢の原因
下痢の原因はつぎの5つに分類されます。
①腸管内に吸収されにくい物質が多量に流入するため
牛乳を飲むと下痢をするのがその例で、乳糖不耐症︵にゅうとうふたいしょう︶と呼ばれます。牛乳に含まれる乳糖を消化する酵素は小腸から分泌︵ぶんぴつ︶されますが、乳糖不耐症の人ではこれが欠乏しているため、消化されない乳糖が多量に小腸に流れ込むことになります。そうすると、腸管内の浸透圧が高くなり、腸壁の水分が腸管内にどんどん出てきて下痢便になるのです。
肝臓病や膵臓病などで脂肪の吸収が障害されている場合も、同様の作用で脂肪を多く含む下痢便となります。
なお、下剤の多くは、この作用を利用して便をやわらかくしています。
②炎症などで腸壁から浸出液が出るため
たとえば、急性腸炎など、ウイルスや細菌による下痢、抗生物質などの薬剤による下痢、および潰瘍性大腸炎︵かいようせいだいちょうえん︶などの腸に慢性の炎症が続く疾患もこれに含まれます。
なお、炎症による浸出液だけでなく、栄養の吸収不良が加わると、慢性疾患では栄養不良状態になることもあります。
③腸粘膜︵ちょうねんまく︶をおおう上皮細胞︵じょうひさいぼう︶に毒素やホルモンが作用し、細胞から水や塩分が腸管内に分泌されるため
細菌が出す毒素や、ある種の腫瘍︵しゅよう︶が分泌するホルモンのなかに、腸の上皮細胞から水や塩分の分泌をおこさせるものがあります。大腸菌やコレラ菌の毒素などがよく知られていますが、同じ大腸菌でもO‐157などが出すベロ毒素は②で述べた炎症によって下痢をおこすため、すべての細菌毒素がこの範疇︵はんちゅう︶に入るわけではありません。
④腸管運動が亢進︵こうしん︶するため
ストレスや緊張などですぐに下痢をする人︵過敏性腸症候群︵かびんせいちょうしょうこうぐん︶︶などがこの例です。腸の運動は自律神経︵じりつしんけい︶によって調節されていますから、これは一種の自律神経失調状態であるといえます。患者さんにとっては厄介︵やっかい︶な症状ですが、生命の危険はありません。
⑤先天的に小腸の塩分の吸収機構が障害されているため
これは非常にまれな病気によるもので、乳児期からひどい下痢が始まり、持続します。
医学的には以上の原因がよく知られていますが、これだけですべての下痢症の病態が説明できるわけではありません。また①~④は互いに関連があり、病気による下痢はこれらが複合しておこることが多いのです。
◎自己診断のポイント
自分の便を、まずよく観察しましょう。泥状か、完全に水のようか、薄い黄色か、黒っぽい色か、血がついていないか、脂ぎっていないか、悪臭がひどいかなどをよくみます。
腹痛や発熱があるかも重要です。腹痛は排便前には少しはあるもので、腹痛が軽く、発熱もない下痢は2~3日以内に治ることが多いため、ようすをみてもよいでしょう。
激しいさしこむような腹痛や38℃以上の発熱をともなうときは、すぐに受診しましょう。また、便が黒っぽかったり血がまじっている場合は、腸から出血している可能性があるため、すぐに検査を受けましょう。最近、腸管出血性大腸菌︵O‐157など︶による食中毒で、血性下痢に続いて脳炎や腎不全︵じんふぜん︶をおこして死亡する子どもがたくさん出たため、社会問題にもなりました。
脂がまじる下痢や悪臭がひどい場合は吸収不良の可能性があります。これもすぐに病院で原因を調べてもらいましょう。
◎下痢症の検査
急に始まる下痢の原因でいちばん多いのは急性腸炎で、原因はウイルスや細菌です。そのため、まず便の細菌培養が行なわれます。
ウイルスは培養できませんが、ウイルスによる下痢症であれば、ふつう数日で回復します。ただし、乳幼児やエイズなど免疫不全状態の人はウイルスによる重症腸炎をおこすことがありますが、これは例外です。
血液検査では、炎症の程度や栄養状態の評価が行なわれます。また、貧血、肝臓や腎臓の障害が合併していないかも調べられます。
腎臓の障害は腸管出血性大腸菌の重大な合併症で、尿を検査して尿たんぱくや血尿の有無をみることも行なわれます。
便の潜血反応は、肉眼では見えないようなわずかな血液が便にまじっていることを見つける検査で、大腸の潰瘍、ポリープ、がんなどを疑うきっかけになります。
注腸X線検査や大腸内視鏡検査は、診断を確実にするうえで不可欠です。慢性的に下痢をくり返すのは過敏性腸症候群であることが多いのですが、これは大腸がんや炎症性腸疾患でもみられる症状ですから、これらの検査で鑑別することが重要です。大腸内視鏡検査では、病変部から直接組織をとれますから、顕微鏡で観察して診断したり、遺伝子の異常を調べることができます。
◎治療の原則
●薬物療法
下痢は軽くても不快な症状です。排便回数が増加すると日常生活にも支障をきたすため、まず対症療法によって下痢を改善させることが重要になります。この目的で用いられるのは、乳酸菌製剤や便をかためる収斂剤︵しゅうれんざい︶などの薬です。急性腸炎などで細菌感染が疑われるときは抗生物質も使われます。
腹痛が強くて持続するときは、腸の動きを緩和する鎮痙薬︵ちんけいやく︶が処方されます。細菌感染による腸炎では、鎮痙薬が病状をかえって悪化させるのでは、といわれていますが、腹痛がひどいときに使うのはやむをえません。
●食事療法
薬物治療とともに、下痢の治療で重要なのは食事療法です。重症の下痢では一時食事をまったく禁止して、点滴で栄養や水分を補給します。軽症の場合は、低脂肪でやわらかく調理されたものなら食べられます。
下痢が続くと、水分や塩分を失い脱水︵だっすい︶状態になりやすいので、お粥︵かゆ︶に梅干しや、冷やしすぎていないスポーツドリンクなども推奨できます。繊維の多いもの、香辛料︵こうしんりょう︶、濃い味つけをした食品は避けましょう。また、カフェイン、アルコール、たばこの禁止はいうまでもありません。
慢性の炎症性腸疾患では腸の炎症が長く続くため、栄養素の消化吸収障害がおこります。そのため、成分栄養剤といわれる特別に吸収されやすい食事をとることもあります。しかし、過剰な食事制限はかえって栄養状態の悪化をまねくことにもなりますから、医師によく相談しましょう。
出典 小学館家庭医学館について 情報
下痢(症候学)
下痢は人類史の大部分を通じて外傷と並んで最も重要な症候だった.癌や動脈硬化が問題になる前に感染症で命を落とすことがほとんどで,病気の中では腸炎︵赤痢,コレラ,チフスなど︶が最大の死因だった.ここ数十年の人類社会の発展に伴い感染症の脅威は大幅に減り,いまでは下痢といっても数ある症候の1つにすぎなくなった.下痢は便が形をなさず液状~泥状であることで,1日の便の量,排便回数も増加していることが多い.その機序を知るには経口摂取された水分の正常の動態を理解するのが早い︵図2-12-1︶.経口摂取される水分は1日約2 Lで,糞便として排出されるのは約0.1~0.2 Lである.数字の上では90~95%が吸収されたことになるが,実際には単純なものではない.すなわち,経口摂取された水分は消化管内に入ると直ちに粘膜から吸収されて細胞外液に移行しはじめるとともに,消化管粘膜からの内腔への分泌もさかんに行われる.この水分吸収は1日に約9 Lに及び,分泌も1日約7 Lに及ぶ.水分は細胞外液と消化管内の間を何度も循環するのである.水分の排出は正常では大部分が腎臓,不感蒸泄によっており,摂取量が多くても吸収力には余裕があって腎臓の系が対応して下痢にはならない.消化管からの水分の吸収が十分でないか︵吸収不良性下痢,浸透圧性下痢︶,消化管粘膜からの分泌・浸出が多くなれば︵分泌性下痢︶便の量が増えて下痢となる.
病態生理
腸管内容物の浸透圧が上がると腸粘膜から水が分泌されて等張に近づけようとするが,溶質が非吸収性だと腸管内に多量の水分を引き込むことになる.そのようなとき浸透圧性下痢となる.あるいは短腸症候群,腸管のバイパス,腸管蠕動運動の亢進などで十分な吸収ができない場合も下痢となる.粘膜病変︵Crohn病,アミロイドーシスなど︶のため吸収が十分できなくても浸透圧性下痢が起きうるが,これらの疾患では分泌性下痢の側面もある.大腸検査前処置のポリエチレングリコールやマグネシウム塩などは浸透圧性下痢を利用したものであり,ソルビトールも下剤として使われる.胆汁酸製剤もこの機序で下痢を起こし,腸管内細菌異常増殖では胆汁酸の脱抱合で下痢を起こす.乳糖不耐症では非吸収性の乳糖が分解されないため,膵機能不全では脂肪などの分解ができないために下痢となる.
分泌性下痢には上皮細胞からの分泌の亢進によるもの︵狭義の分泌性下痢︶と炎症などにより粘膜が傷害されて浸出液が分泌されることによるもの︵浸出性下痢︶がある.分泌性下痢の最たるものはコレラで,コレラ毒素はG蛋白の異常活性化を介して多量のcAMPを誘導し,炎症はないのにおびただしい腸液の分泌を起こす.血性下痢がみられるのは粘膜障害を伴うとき,すなわち浸出性下痢の場合である.実際には浸透圧性下痢と分泌性下痢の混在した病態も多い︵感染性腸炎,Crohn病など︶.
鑑別診断
下痢の鑑別は,実践的には急性か慢性︵ないし反復性︶かが大きな鍵となる.また,病変部位については問診,診察で大体の見当がつく︵表2-12-1︶.
1︶急性下痢︵表2-12-2︶‥
急性下痢で発熱,腹痛,血性下痢,周囲に同様の症状を呈する例がみられるなど腸管感染症や食中毒が疑わしいときは,検便︵培養,毒素︶を行う.数の上ではノロウイルス,ロタウイルス,アデノウイルスなどのウイルス性腸炎が多く,流行状況が参考になる.ウイルス性では血性下痢はまれ.細菌性腸炎の中では,腸管出血性大腸菌︵enterohemorrhagic E. Coli, EHEC.O157‥H7など︶は病態の重篤さと感染性の高さの点で赤痢と同様の注意が必要であり,これが疑われる場合はベロ毒素や便培養で早急に診断をつける必要がある.抗菌薬投与後の下痢では偽膜性腸炎や抗菌薬による出血性腸炎を念頭におく.特に偽膜性腸炎は体力のない者に発生して重篤化しやすいので,早期にCDトキシンなどを調べる.クリプトスポリジウム症では急性の激しい下痢,腹痛が特徴で,発展途上国からの帰国直後では注意が必要であり,便中の原虫を検出して診断する.薬剤︵下剤,胆汁酸製剤,コルヒチン,抗癌薬など︶や刺激物︵冷水,多量の酒など︶についても問診が重要.虚血性腸疾患では血性下痢であること,発症が突然で腹痛を伴うこと,高齢,便秘歴などが参考になる.AIDS,坦癌患者,免疫抑制薬投与中や臓器移植後などの免疫能低下の状況下では,サイトメガロウイルス,単純ヘルペスウイルス,カンジダなどによる腸炎も起こりうる.また,手術後,特に胃切除後では重篤なMRSA腸炎に注意が必要.血液悪性腫瘍などで抗癌薬により高度の白血球減少がある場合に,細菌感染による急激な全身状態の悪化を伴う好中球減少性腸炎︵neutropenic enterocolitis︶が発症することがある.また,骨髄移植後では腸のGVHD︵graft-versus-host disease, 移植片対宿主病︶による下痢も感染との鑑別が必要である.
2︶慢性︵反復性︶下痢︵表2-12-3︶‥
慢性︵反復性︶下痢では過敏性腸症候群が多く,問診でだいたい見当がつくし,体重減少や発熱などの全身症状を欠く.血性下痢が慢性的に続くのは潰瘍性大腸炎などが考えられ,若年者で体重減少を伴う下痢が続くときはCrohn病などを考える.免疫不全状態や潰瘍性大腸炎患者ではサイトメガロウイルスやClostridium difficileによる腸炎の合併も少なくない.中年以降で腹痛,体重減少などを伴う場合は大腸癌の可能性を念頭におく.これらの場合は大腸,小腸の検査︵内視鏡,生検,造影,CT︶が有用.肝不全,低栄養状態,食物アレルギー,乳糖不耐症,甲状腺機能亢進症などはおのおの問診,理学所見,一般検査などで見当をつける.実践的には,慢性下痢で典型的な過敏性腸症候群でなく,原因が明らかでない場合は,腸の内視鏡ないし造影検査を行うのが一般的である.Crohn病が疑われる場合は大腸検査だけでなく小腸検査も必要.AIDSでは諸種の感染性腸炎のほか,非感染性の下痢もみられる.最近話題になることが多いのが高齢女性に多いmicroscopic colitis︵collagenous colitisとlymphocytic colitisを含む︶で,慢性の水様の下痢をきたす.NSAIDsやランソプラゾールによる薬剤誘起性のものが多い.内視鏡的には非常に長い縦走潰瘍が特徴的だが無所見のことも多い.collagenous colitisでは生検で被蓋上皮直下の肥厚したcollagen bandを特徴とし,下部大腸より右側大腸により顕著なことが多い.lymphocytic colitisでは上皮層への上皮内リンパ球浸潤が高度である.このmicroscopic colitisの機序は未解明だが,原因薬剤がはっきりしている場合はそれを中止するのが治療になる.﹇松橋信行﹈
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
げり【下痢】
︽どんな病気か?︾
︿発熱や嘔吐をともなう下痢には要注意﹀
下痢(げり)とは、便に含まれる水分量が多くなった状態をいいます。腸の吸収力が弱まっていたり、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)が活発になりすぎて、食べものが腸を通過する時間が短くなると、下痢になってしまいます。
下痢を起こす原因のうち、いちばん多いのは消化の悪いものの食べすぎですが、腸炎など腸に病変があるときや、ストレスによって腸の活動をコントロールしている自律神経(じりつしんけい)のバランスが乱れることでも下痢は起こります。
子ども、とくに乳幼児の胃腸の粘膜(ねんまく)はまだ抵抗力が弱く、ちょっとした刺激にもすぐ反応して下痢をしてしまいます。
下痢のほかに病気らしい症状がなければ、ほとんどの場合心配ありませんが、発熱や嘔吐(おうと)などの症状をともなう下痢の場合は、小児科を受診する必要があります。
︽関連する食品︾
︿脱水症状予防に水分を十分にとる﹀
○栄養成分としての働きから
乳酸菌には整腸作用があり、下痢をしやすい子どもの体質改善に効果があります。
また、O(オー)―157のような細菌感染による下痢の予防にも有効です。私たちの腸内に住みついている乳酸菌、ビフィズス菌には、腸に入ってきた病原菌が増殖するのを抑制する働きがあるのです。乳酸菌飲料やヨーグルトなどのかたちで乳酸菌、ビフィズス菌をとることで、腸内にいるこれらの菌の働きを活性化することができます。
ただし、外からとった乳酸菌は短期間で排泄(はいせつ)されてしまうので、継続してとるようにしてください。
お茶の渋み成分に含まれているカテキンにも抗菌作用があり、感染性の下痢予防に効果的です。カテキンは腸のけいれんを止めて下痢の症状を改善する効果もあり、寿司や刺身など生食する場合は、いっしょにとりたいものです。
︿消化吸収を妨げる食物繊維はひかえめに﹀
また、ダイコンやカブ、ヤマノイモに含まれているアミラーゼは、胃腸を丈夫にして消化吸収をよくする働きがあります。
下痢になると体内の水分が急速に失われます。脱水症状にならないよう、冷たくないスポーツドリンクやあたためたコンソメスープなどで十分に水分補給を行ってください。
○注意すべきこと
ミカンなどの柑橘類(かんきつるい)に含まれているクエン酸は腸を刺激するので、避けたほうが賢明です。
腸炎などの病変が認められるときは、お茶に含まれるカフェインが刺激になるので避けます。
消化吸収の妨げになる食物繊維を多く含むバナナやゴボウなどは、下痢のときにはひかえめにしたほうがいいでしょう。
なお、牛乳を飲むと下痢をするときは、乳糖不耐性下痢(にゅうとうふたいせいげり)の可能性もあります。
この場合は、乳糖を含まない牛乳を選ぶようにしましょう。
げり︻下痢︼
︽どんな病気か?︾
冷たいものや消化の悪いもの、たんぱく質や脂肪分の多いものを一度にたくさん食べたり飲んだりしたあとに起こる下痢(げり)は、消化性下痢と呼ばれ、それほど神経質に考える必要はありません。
ただし、下痢をすると体の水分が大量に失われ、脱水症を起こしやすいので、しっかりと水分を補給することがたいせつ。腸を刺激する冷たい水は避け、スポーツドリンクやあたたかいお茶を飲むようにします。
︽関連する食品︾
︿ふだんからビフィズス菌入りのヨーグルトを﹀
○栄養成分としての働きから
緑茶や番茶、紅茶などに含まれるタンニンには、腸のけいれんをとめたり、便をかためる作用があるのでおすすめです。番茶に整腸作用のあるウメ干しを入れたり、紅茶にエネルギー源となるはちみつを入れたりして飲むのもいいでしょう。レンコンにもタンニンがたくさん含まれていますから、すりおろし、スープなどにして食べると効果的です。
症状がおさまってきたら、消化がよく栄養のあるものを少しずつとります。おかゆや半熟たまご、とうふ、煮るか蒸(む)した白身魚、ヤマノイモなどをあたたかく調理して食べます。
下痢をしやすい人は、ふだんからビフィズス菌入りのヨーグルトなどを食べておくと、腸内細菌の善玉菌と悪玉菌とのバランスがよくなり、調子がととのってきます。ビフィズス菌をふやす作用のあるオリゴ糖をいっしょにとると、より効果的です。
○漢方的な働きから
漢方では、ニラを加えたおかゆ、シソの葉、インゲンマメの葉を煎(せん)じたものなどに、下痢止め効果があるとされています。
出典 小学館食の医学館について 情報
下痢
げり
液状︵水様︶、泥状、軟便など、水分量の多い糞便(ふんべん)を排泄(はいせつ)することをいう。正常な糞便は円柱状の有形便である。排便回数は、下痢の多くは1日数回で、十数回から数十回に及ぶこともあるが、1日1回あるいは数日に1回の下痢のこともある。下痢は、腸の蠕動(ぜんどう)運動亢進(こうしん)、水分吸収の低下、腸粘膜からの分泌過多などによっておこる。
下痢は便宜上、その持続期間によって2、3日から2週間程度の急性下痢と、1か月以上数年間に及ぶ慢性下痢に分けられる。急性下痢の原因には、細菌感染︵赤痢、サルモネラ腸炎、コレラ︶、細菌毒素によるもの︵ブドウ球菌食中毒︶、ウイルス感染︵感冒腸炎、旅行者下痢︶、原虫症︵アメーバ赤痢︶などのほか、消化吸収障害︵暴飲暴食︶、物理的原因︵寒冷下痢、放射線照射による下痢︶、神経性または情緒性下痢︵神経緊張による下痢︶などがある。慢性下痢の原因には、細菌感染︵腸結核︶、原虫症︵アメーバ赤痢、ランブリア症︶、原因不明の腸炎︵潰瘍(かいよう)性大腸炎、クローン病︶、消化吸収障害︵胃性下痢、吸収不良症候群に属する各種の病気、便秘の一型である蓄便性下痢、過敏性大腸症候群︶などがある。
下痢のうちで、1日6回以上の水様下痢の場合には、水分・電解質の喪失を輸液で補充する必要があり、またこのような頻回の下痢は腸感染症によることが多いので、とくに注意を要する。発熱、嘔吐(おうと)、頭痛などを伴う場合にも感染症のことが多いが、反対に感染性下痢においても無熱性の場合もある。下痢に伴う腹痛は排便前に強いことが多いが、排便後にも痛みが残ったり増強する場合や、しぶる︵排便感はあるのに排便しない︶場合には、より重症の下痢と考えられる。下痢便に血液を混じる場合は、急性感染症では細菌性赤痢、抗生物質使用時の出血性腸炎、腸間膜血栓症、慢性下痢では潰瘍性大腸炎、クローン病、腸結核、アメーバ赤痢のほか、大腸癌(がん)や平滑筋腫(しゅ)など腸の良性腫瘍、大腸ポリープ、大腸憩室などが考えられる。
下痢の治療法は、食べすぎ、寝冷えなどの場合にはその原因をなくし、身心を安静にし、保温に心がける。腸を安静にするために短期間の絶食もよいが、水分はとるようにする。下痢には、有害な腸内容を排出するという自己防衛反応の意味もあるから、みだりに下痢止め薬を用いてはならない。感染性下痢の疑いのある場合をはじめ、血液、膿(のう)汁の混じる下痢や、1、2日で治まらない下痢、1日6回以上の下痢はかならず医師の診察を受け、その指示に従うべきである。
﹇細田四郎﹈
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下痢【げり】
糞便(ふんべん)中の水分量が多くなり,かゆ状ないし液状の便を反復排出する状態。腸の蠕動(ぜんどう)亢進,腸内の分泌の亢進,消化吸収障害が関与する。単純な消化不良性下痢,蓄便性下痢,神経性下痢などの場合はあまり問題はない。しかし炎症や細菌・毒素などによる下痢は症状が重く,粘液や血液を混じ,発熱や下腹部激痛などを伴う。急性・慢性腸炎,各種腸内寄生虫病,赤痢,コレラ等に認められる。原疾患の治療のほか,特に体液喪失のはなはだしい場合は輸液を必要とする。
→関連項目大便|断食療法
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下痢
げり
diarrhea
液状または液状に近い糞便を,反復する便意とともに排出することをいう。腸管の炎症のほか,食品の内容による消化不良,胃液過少による腸のぜん動亢進,腸管系感染症や寄生虫の寄生,薬品中毒,食品中毒による急激な体液変化などによって起るが,過敏性腸症候群によるものや神経性下痢も多い。また,寒冷など物理的刺激に対する生体反応の場合もあるので,対策には病因を考慮する必要がある。
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普及版 字通
「下痢」の読み・字形・画数・意味
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出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の下痢の言及
【消化不良】より
…また小腸切除,短絡,手術によって生ずる盲管(細菌の異常発生),消化管粘膜の分解酵素の欠乏(乳糖不耐症等),炎症性腸疾患,内分泌疾患,放射線障害,過食,ストレス環境下における胃腸の分泌,運動機能低下なども,消化,吸収の障害をひき起こす。これらの症状の多くは下痢,腹痛として表れる。原疾患の治療とともに消化酵素製剤,下痢止めが用いられる。…
【大腸】より
…むろん水分のほかに小腸で吸収されずに残った残渣もこれに加わるが,最後に便として排出される量は日本人の場合200~250g程度であり,その80%が水分としてもせいぜい200ml程度の排出量となり,大腸に流入する水分の約90%が吸収されることになる。この水分吸収能が低下すると,水分の含量の多い便が排出されることになり,[下痢]となる。また便が長く大腸に停滞する([便秘])と,水分が過剰に吸収されて固い便となる。…
【大便】より
…通常は,胆汁中の[ビリルビン]が腸内細菌の作用で還元されて生じたステルコビリンstercobilinにより,黄褐色を呈する。高度の下痢の場合は,ビリルビン還元の時間が不足するため,ビリルビン本来の色である黄色に近づく。肉食が多いと,ヘマチン,硫化鉄などのために黒褐色になる。…
※「下痢」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」