日本大百科全書(ニッポニカ) 「先軍政治」の意味・わかりやすい解説
先軍政治
せんぐんせいじ
金正日(キムジョンイル)政権期の北朝鮮︵朝鮮民主主義人民共和国︶における、軍重視の政治方式。
金日成(キムイルソン)死後、朝鮮労働党の地位低下が指摘されるなか、1998年9月の憲法改正によって、国防委員会︵金正日国防委員長︶を中心とする﹁軍重視の国家政治体制﹂が誕生。北朝鮮ではもともと軍を国家の礎(いしずえ)と考えていたが、東欧社会主義体制の崩壊でそれが強まった。とりわけ1989年にルーマニア大統領のチャウシェスクが処刑された理由を、蜂起した市民側に軍がついたからであると分析。軍を取り込む重要性が認識された。﹁国家主権の最高軍事指導機関であり、全般的国防管理機関﹂である﹁国防委員会﹂が、労働党と軍隊と人民の﹁渾然(こんぜん)一体﹂を基礎に、最高指導者を擁護し、銃隊で社会主義を守るとされた。
﹁先軍﹂概念の整理は継続的に進められ、1960年8月、金日成の朝鮮人民軍の戦車師団への現地指導に同行したことで、金正日による﹁先軍革命領導﹂が始まり、金日成死後の1995年元旦の哨所(しょうしょ)視察をもって﹁先軍政治﹂を開始したとされた。2009年4月の憲法改正で﹁先軍思想﹂が﹁主体思想﹂と並ぶ国家の指導的指針とされた。金正恩(キムジョンウン)政権下では、非軍人が朝鮮人民軍総政治局長につくなど、﹁朝鮮労働党が領導する先軍政治﹂の方針が顕著なものとなり、2019年4月の憲法改正で﹁金日成・金正日主義﹂にとってかわられた。
﹇礒﨑敦仁 2020年2月17日﹈
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